戦略的な重要物資のサプライチェーン(供給網)強化などを図る経済安全保障推進法が成立した。岸田文雄首相の看板政策として、政権にとっては参院選へのアピール材料にもなろう。ただ、推進法には企業にとって明確な方針が示されておらず、自由な経済活動への介入を懸念する声がある。2023年度以降の段階的な施行へ、政府の関与についてのルール作りが必要だ。
 米中のハイテク分野の覇権争いに端を発した国際競争は、グローバル経済の在り方を変えた。さらにロシアのウクライナ侵攻により、地政学的リスクの回避も懸案に加わった。友好・協力関係で形成された国際的な陣営が出来上がり、半導体やレアアース(希土類)など戦略的物資の調達は、「特定の国」への依存度を下げる必要に迫られている。
 このような背景で成立したのが推進法だ。供給網強化のほか、「基幹インフラの事前審査」「先端技術の官民協力」「軍事転用可能な技術の特許非公開」の4分野が柱だ。重要物資の生産や先端技術の育成には資金を支援する「アメ」がある一方、違反には2年以下の懲役や100万円以下の罰金といった「ムチ」も設け、経済活動への政府の関与を明確にした。
 懸念されるのは、推進法に政府の恣意(しい)的な運用の余地が残されていることだ。供給網強化で対象となる「特定重要物資」には半導体や医薬品、先端電池、レアアースなどの重要鉱物などが想定されているが、正式な決定ではない。基幹インフラの事前審査は電気、航空、金融など14分野が対象となるが、具体的な事業者や機器類は未定だ。
 これらは政省令で今後指定されるが、定める項目は138に上る。政省令は国会審議が不要なことから、政府の裁量次第では規制範囲が好き勝手に拡大する恐れがある。事前審査の対象になった企業は負担が増すことになり、経済界から「経済安保政策が今後、どこまで拡充されるのか見えてこない」との不安の声が漏れるのも当然だろう。
 政省令の指定に当たっては、まず政府の恣意的な選定防止へルール作りが必要だ。規制対象を明確にし、決定過程を透明化することも求められる。政府の過度な介入は経済活動に支障を来す恐れがある一方、規制なしでは供給網の停滞を招くケースも考えられる。バランスの考慮なしに、実効性の確保は難しい。そのためには官民の十分な意思疎通が不可欠だ。
 国会審議では政権の肝煎り政策として、論戦が期待されたが、立憲民主党や日本維新の会などの野党が賛成に回ったことで、議論が尽くされたとは言い難かった。政省令の指定は国会審議が不要とはいえ、今後に監視を緩めるようなことがあれば、与党だけでなく野党も責任を問われよう。