厚生労働省の毎月勤労統計調査が不適切な手法で行われていた。統計に基づき算定する雇用保険や労災保険の過少給付額が総額567億円余、対象者は延べ約2000万人に上り、不足分支払いのため、政府が新年度予算案を修正する異例の事態に至った。各政策の基礎となるべき統計の信頼性が大きく揺らいだ。
 問題は単純だ。本来、従業員500人以上の事業所はすべて調査対象だが、東京都内については2004年から3分の1を抽出して実施。このため、大企業の調査数が減って賃金水準が低くなったことから、給付額が少なくなった。
 この問題について一部職員は認識しており、18年からは東京都分の企業数を本来と同等にする補正処理をしたところ、賃金が上振れ。この点を総務省から指摘されたことで問題が明らかになった。企業の抽出、補正処理は一切公表されずに行われていた。
 加えて、厚労省は昨年12月に問題を根本匠厚労相に報告していたにもかかわらず、同21日には問題を明らかにしないまま10月の確報値を発表していた。これでは「問題を隠蔽(いんぺい)していた」と見なされても仕方がない。
 言うまでもないが、国や地方公共団体が作成する公的統計は単なるデータではない。統計法では「行政利用だけではなく、社会全体で利用される情報基盤として位置付けられる」としている。中でも勤労統計を含む「基幹統計」は特に重要とされており、政府は全56の基幹統計を中心に調査手法を点検する方針だ。
 基幹統計は9府省庁が行っており、人口推計、人口動態統計、生命表などをはじめ、産業や教育など幅広い分野におけるわが国の姿を映している。これらは政策を立案する上で重要な基礎となるもので、国民生活に大きな影響を及ぼす。手法が恣意(しい)的にゆがめられることは決してあってはならない。
 勤労統計の不適切な調査によって過少給付が生じたものの中には、失業給付や労災保険の年金給付などが含まれる。受給者にとっては生活に不可欠なもので、過少給付によって生活を圧迫された人も少なくないだろう。
 驚くことに、不適切な手法で調査が行われていた当時の関連文書には「全数調査をしなくても精度を確保できる」との記載があり、昨年6月には神奈川、愛知両県、大阪府にも抽出調査を行うと連絡していたという。規範意識の低さがうかがわれ、問題が発覚しなかった場合、「ルール破り」が拡大し続けたことは容易に想像できる。怒りを禁じ得ない。
 これほど大きな影響を及ぼす不適切な調査がなぜ行われるようになったのか。動機を徹底的に解明し、再発防止につなげてもらわなければならない。われわれも今回の問題を機に、統計調査の重要性をいま一度しっかり確認したい。