「共謀罪」の構成要件を改めた「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が15日朝の参院本会議で可決、成立した。14日から夜通し続いた与野党の攻防。政府・与党が選んだのは、野党が「異常な禁じ手」と表現した、参院法務委員会採決を省略して「中間報告」で本会議採決に踏み切るという手法。重要法案であったにもかかわらず、徹底した議論を尽くされぬままでの強行採決である。国民の理解が得られるというのか。
 法案成立をめぐって野党は内閣不信任決議案を提出するなど反発したが、野党にできる抵抗はこれらが精いっぱい。与党と日本維新の会などの反対多数で否決されている。一方、国会議事堂前では数千人が集まり、プラカードを掲げて「強行採決、絶対反対」「説明責任果たせ」と声を上げ続けた。
 確かに世界中で発生するテロは脅威であり、未然に防ぐための策は必要だ。2020年東京五輪・パラリンピック開催を控えているのだからなおさらである。これだけなら、必要な法改正と思うかもしれない。しかし問題は他にある。刑法では「既遂処罰」を原則としているが、改正法では計画・準備段階で処罰できるため、原則転換との指摘がある。加えて当初「組織的犯罪集団に限定」としていた処罰対象は、その後に「組織的犯罪集団の構成員と周辺者に限定」と、事実上の対象拡大に変わった。
 さらに、捜査範囲などについては明確に示されておらず、現時点では運用に委ねる格好であるため、拡大解釈による行き過ぎた捜査などが行われかねない懸念は残ったまま。つまり内容が不明瞭で“不完全”な改正法が7月にも施行されるのだ。このままでは国民の不安は膨らむ一方であり、捜査当局に混乱を来さないとも言い切れない。
 また、今国会会期内の強行採決・成立に持ち込んだ背景に、参院法務委員会で予想される混乱が東京都議選(23日告示)にもたらす影響の回避や、学校法人「加計学園」獣医学部新設問題に対する追及の場を野党に与えない思惑があるとされる。国会議員は国民の代表のはずだが、こうした理由で重要法案を力ずくで成立させる国会に、一票を投じた国民は不在のようだ。
 与党自民党、公明党とも国民の理解を得るため、丁寧に説明する努力を続ける考えを示した。曖昧な答弁を繰り返した上、委員会採決を飛び越える“奇策”を実行し、都議選などへのダメージの大小をてんびんに掛けたような印象を国民に持たせたのだから当然のことである。しかし、国会で明瞭な答弁ができなかったのに、「内心の自由が脅かされる」「一般市民が捜査対象になる」といった国民の不安を払拭(ふっしょく)できる丁寧な説明ができるかは疑問だ。名前だけの改正法なら施行を急ぐべきではない。