傷が付くなど生果では売れない果物を生かしてジャムやドライフルーツを作っている佐藤さん

 全日本スキー技術選手権4連覇など「基礎スキー」の世界で“絶対女王”と呼ばれた、弘前市の佐藤麻子さん(38)。現在、冬は県内外でスキーのインストラクターをしつつ、オフシーズンは地元の岩木山麓でリンゴ農園と地元素材のジャムやドライフルーツなどを作る「菜色工房あさのこ」を営む。「岩木山の写真を見せると、スキー仲間がたくさんこちらへ来てくれた。今度は、地元のもののおいしさを知ってもらい、こちらへと足を運んでもらう、その歯車の一つになれれば」と話す。
 佐藤さんは、眼前に岩木山が迫る弘前市弥生地区で生まれ育った。「気付いたらスキーを履いてストックを握っていた」というほど、スキーは当たり前のもの。強豪・東奥義塾高校スキー部では初の女子部員となり、その後日本女子体育大学に進学。そこで出合った基礎スキーに衝撃を受けた。「技術要素を見せつつも自分の好きに滑れる。とにかく面白かった」。アルペン競技から転向し、派遣社員やスキーのインストラクターとして働きながらスキルを磨き、2013年から4年間、全国トップを守り続けた。17年には長男を出産、その後大会に復帰し、19年シーズンを終えた後、選手としては第一戦を退いた。
 農園を始めたのは、今から5年ほど前。現在岩木山のガイドで、スノーボードのインストラクターでもある群馬県出身の夫慶弘さん(37)と共に、山形県・月山の麓から地元へUターンした後のことだ。
 佐藤さんの実家は農家ではなく、近くに園地を買い、新たにリンゴづくりをスタートさせた。農園を始めて気付いたのは、廃棄される農産物の多さ。「自分たちで作るリンゴもそうだけれど、ほかの果物でもそう」。ほんのちょっと傷が付いただけで、売り物にならず捨てられてしまう果物たち「おいしいのにもったいない」その思いだけで、自分の家で食べるために加工したのが始まりだった。
 現在3歳の長男の出産を控えていたことも大きかった。「自分がイチジクのドライフルーツが好きで買っていたけれど、添加物が入っていたり、砂糖をたくさん使っていたり。『子どもがなんぼ食べてもいいお菓子』を作りたかった」
 ジャムも、各農家が手作りできるものだが、販売のため瓶詰め加工するには許可が必要。佐藤さんもどこかへ委託しようと思ったが大口のものが多く、「いっそ自分でやってしまおう」と、許可を取って工房を立ち上げ、買い付けた地元の果物で、無添加・低糖のジャム作りを開始し、ブランド「HALO JAM(ハロジャム)」を作った。
 加工の受託もしており、個人の農家の手かご一つの依頼にも対応。近年は津軽一円から徐々に依頼も増えている。自分たちのリンゴを佐藤さんの工房でジャムにしてもらって販売する農家もいる。「これまでジュース一辺倒だったのが、ジャムも作れてよかった」との声も聞かれるという。
 「酸っぱいものは酸っぱく、甘いものは甘く」。その時々の季節の果物を、添加物を使わず、素材の味を生かした商品づくり。これからの季節は、イチゴやブルーベリー、モモなどの果物を使う。
 季節を通し、山と、その恵みと生きる暮らし。「やりがいがある。スキーもそうだったけれど、何かに集中すると没頭してしまう。今はここでこうやってジャムが作れて、最高」と笑う。
 工房のほか、市内でスキーのインストラクターを務める農家の仲間と共に、農業女子スキーヤーユニット「SAM Agriculture」を立ち上げ、さまざまな企画も行っている。「とにかく捨てられるものを減らしながら、地元のものの良さを知ってもらいたい」。
 商品については、「HALO JAM」ホームページで紹介されている。