増野敦信
准教授

 弘前大学大学院理工学研究科の増野敦信准教授(44)が参加する宇宙航空研究開発機構(JAXA)の国際共同研究チームが2日、ガラスの原理を解明する研究の一環で、酸化エルビウムの液体の原子配列と電子状態の測定に世界で初めて成功したと発表した。酸化エルビウムの液体が、液体にもかかわらず結晶に近い原子の並びを持つことも発見。ガラスの原理の解明が進むことで、将来的にはスマートフォン用の超高屈折率ガラスの開発や鉱物の形成過程の解明にもつながると期待される。
 研究は2016年からJAXAや琉球大学、ノルウェー化学技術大学、弘大などの国際共同研究チームによって行われ、成果は2日付で英科学誌「NPG Asia Materials」のオンライン版に掲載。増野准教授は固体化学の専門家として研究材料の選定や論文の執筆などに携わった。
 ガラスは原料を加熱して液体にした後、冷却して製造する。原料にはガラスになる液体とならない液体があり、ガラスになる液体を対象とする従来の研究では両者の原子構造を解明できなかったため、ガラスにならない液体の研究も求められていた。しかし酸化物などのガラスにならない液体は2000度以上に熱して液体化することが難しく、超高温の液体を入れる測定用の容器もないため、構造解析に必要な密度の測定ができないなどの課題があった。
 今回の研究は国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」に設置する静電浮遊炉(ELF)を活用したプロジェクトにおける初の実験で、静電気の力を利用して液体を浮遊させることができるELFによって課題を克服。研究材料には酸化物の中でも融点が2413度と高い酸化エルビウムを選び、世界で初めて同物質の液体の密度を測定することに成功した。
 このほか構造解析に要するX線回折データは理化学研究所の大型放射光施設「SPring―8」(兵庫県)の実験で取得。琉球大学のコンピューターシミュレーションや先端数学による大規模理論計算や解析を行った結果、液体は構造周期性(規則的な原子の並び)がランダムであるという定説を覆し、酸化エルビウムでは液体の構造周期性が同物質の結晶に近い構造を持つことを発見。電子が存在できない領域が非常に狭く、半導体に近い電子状態であることも突き止めた。
 増野准教授は今回の研究成果について「『ガラスはなぜできるか』という根本的な問いに対する答えが前進した」と強調。将来的には、スマートフォンなどに使用する超高屈折率ガラスや超高温耐熱セラミックスの開発促進、マグマから鉱物が生成される過程の解明につながることが期待されるという。
 2006年度に博士研究員としてJAXAに勤務経験のある増野准教授は、今回の研究でプロジェクトリーダーを務めたJAXAの石川毅彦教授の元同僚。当時を思い返し「『きぼう』の打ち上げ前から話していた実験だけに、実際に研究成果が出て喜びもひとしお。今後は粘度などのデータも測定してガラスができる原理を解明していきたい」と話した。