山のホテルの名物「マタギ飯」
「支援に添えられた多くのメッセージに励まされている」と話す香織さん(右)と静香さん

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、「マタギ飯」で知られる岩木山麓の嶽温泉山のホテルが経営難に陥り、存続を目指しクラウドファンディング(CF)を開始した。16日の開始以降、「幼い頃に食べた思い出の味。守ってほしい」と県内外から支援が集まり始め、「誰もが苦しい中、改めて人の優しさに感激している。一層、この温泉、味を守っていかなければと感じる」と創業約350年の老舗は“コロナ禍”を乗り越えようと奮闘している。
 同ホテルは、新型ウイルスの感染拡大を受け4月13日から休業。従業員の健康リスクなども考え、6月30日までは宿泊営業を行わないことも決めている。
 創業家・赤石家の長女で常務の赤石香織さん(45)と、次女で従業員の三輪静香さん(42)によると、弘前さくらまつりや岩木山麓のオオヤマザクラを目当てに観光客が大勢やってくる春の収入は、年間の経営の基盤となるもので、今年の休業は大きな打撃。例年お願いしていた季節従業員の雇用を断り、スタッフを最小限に。また一部は知り合いの農家に頼んでリンゴの作業の手伝いで雇用してもらっている状況だ。
 現在は、マタギ飯のテークアウトやデリバリー、通販の強化などをしているが、赤字営業が続く日々。全国的な感染拡大の収束も見通せず「果たしてこのまま続けるべきなんだろうか」との思いもよぎった―と香織さん。それでも「やれるだけやろう。駄目ならその時はその時」と、ためらいもあったが、周囲の協力も得てクラウドファンディングへの挑戦を決めた。
 すると、開始直後から、知り合いをはじめ宿に来たことがない人からも支援が集まり始めた。「小額だけれど」「自分もつらいが何とか頑張ってほしい」「以前台風でキャンセルしたのが心苦しかった。また絶対行きたい」。支援とともに送られてくるメッセージにも心打たれた。
 中には「マタギ飯は青森県の文化の一つ」という言葉があった。マタギ飯は、先代の父勝美さんが、山のホテルの前身・岩木旅館時代、「宿に遅くやってくるお客さまに温かい料理をお出ししたい」と、弟の料理長文男さんと試行錯誤。代々の当主がマタギだったことや、宿は多くの仲間たちが集まる場でもあったことから、マタギたちが愛した山菜入りの混ぜご飯を基に、マイタケや竹の子、鶏肉などを入れて炊き上げる釜飯をオリジナルで考案し、今では本県の山菜入り炊き込みご飯の代名詞にまでなった。
 勝美さんは弘前市議や地元の町会長なども務め、岩木山と嶽温泉をこよなく愛した人物。「この地を盛り上げるためなら何でもした人。観光客が来れば、うちのお客さまでなくとも勝手に案内してどこかへ行ってしまうこともしょっちゅうだった」と静香さんは振り返る。その勝美さんは2018年3月に急逝。残された家族・従業員で再びホテルを盛り上げようとしていた矢先のコロナ禍だったが「クラウドファンディングで支援してくださっているのは、父がまいた種が芽吹いているのではないかと感じる」と2人は話す。
 「コロナの状況になって、クラウドファンディングだけではなく、多くの人が手を差し伸べてくれて、人の優しさやありがたみ、人の輪をより強く感じている」と香織さん。「このホテルを残すべきなのか正直迷っていたこともあったが、皆さんの言葉で、改めて愛されている宿であることを認識した。祖先や父が残したホテル、そしてこの味を残したい」。今はそう感じている。
 ホテルは新型ウイルスの収束までに時間がかかることを見越し、今後2年間は休館日を増やすなど、規模縮小しながら乗り越えたい考え。クラウドファンディングで集まった支援は、老朽化し、休館日にも停止することができず経費がかさむボイラーの交換や資金繰りに充てたい考えだ。
 目標金額は1000万円。支援は6月27日までクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で募集している。山のホテルホームページからもリンクできる。