街なかが展示会場に―。美術家を招き、滞在を通じて作品制作に取り組んでもらう「アーティスト・イン・レジデンス(AIR)」の成果展示が弘前市中心街で行われている。店舗や施設の外壁やショーウインドーなどに作品を掲示。当初は屋内ギャラリーで開催される予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて方針を転換。見慣れた景色の中に作品が溶け込む面白さが生まれている。
 弘前でAIRなど、アートを通じた地域活性化に取り組む「HIROSAKI_AIR」による「劇場のともだち」と題した展示。市のひろさきローカルベンチャー育成事業「ネクストコモンズラボ(NCL)弘前」によるプロジェクトの一つで、メンバーの樽澤武秀さん(41)、優香さん(31)夫妻が中心となって活動。今年2月には芸術家の酒井一樹さん(32)=東京都=を招き、1カ月の滞在を通じて作品を制作してもらった。
 百石町にあるNCLの拠点施設「弘前オランド」が今月に改装され、新設したギャラリーで成果展を行う予定だったが、新型ウイルスの感染拡大に伴い「展示会を街なかで開催する」という発想が生まれた。土手町などでゲリラ的に作品を掲示。当初は展示室を「劇場」に見立てるという理念だったが、会場を弘前の街に広げて作品を「上演」することで、酒井さんが制作の切り口にしていた作家・寺山修司が唱えた「市街劇」にもつながった。
 作品は一度、酒井さんが弘前で撮影した写真に、寺山と太宰治、2人に影響を与えた劇作家アントン・チェーホフから引用した言葉を添えて作られた。しかし、展示の形が変わり、酒井さんは3人の作家の目線に立って「演じる」ことで弘前の街を見詰め直し、浮かび上がったという自身の言葉に替えた。
 酒井さんは「こうして生まれた作品たちが弘前という場所でどのような意味を持つのか、作り手である僕にもまだ分かりません。街角にさりげなく現れるそれらの言葉とイメージを、心の片隅にとどめていただけたなら、これに勝る喜びはありません」とコメントしている。
 樽澤さんは「あくまで必要な外出をした人の目に触れてもらえれば。作品自体はウェブサイト(https://www.hirosakiair.com/)で公開しており、家にいながらでも展示を楽しんでもらえるような取り組みを準備している」と話している。
 展示期間は5月30日まで。
【写真説明】土手町など弘前市中心街で作品を展示している「劇場のともだち」