新型コロナウイルス感染拡大防止のため、15日に発表された弘前ねぷたまつりの中止。各運行団体は一定の理解を示しつつも、暗いムードを払拭(ふっしょく)するため祭りを待望していた面もあっただけに、代表者たちは「やはり寂しい」「残念」と口をそろえた。「ねぷたのない夏」にやり切れなさを抱きながら、次の祭りに情熱を傾けようとしている。
 全運行団体で組織する弘前ねぷたまつり合同運行安全会議の松山憲一会長は「各団体へのアンケートでは、気持ちとしてはやりたいが現実的に無理というのが過半数だった」とし、「ウイルス禍でめいった気持ちを奮い立たせる意味では祭りは必要。しかし何かが起きてからでは遅い」と述べた。その上で「囃子(はやし)や太鼓の音が聞こえない夏になる。祭り風情すらなくなるのは残念。8月になれば、この寂しさが現実になってしまう」と嘆いた。
 毎年、組ねぷたを運行している富田清水町会青年部ねぷた実行委員会は1月に制作を開始。松岡昭浩代表は「順調にここまで作業してきたが、中止は確実だろうと覚悟していた」と話す。発表のタイミングについては「ぎりぎりの時期。5月初めに小屋掛けする予定だったのでその前で良かった」とした。
 制作中のねぷたは来季に持ち越す。「これまで経験がない、ねぷたのない生活。どうしようという思いもあるが、来年に向けてより密な準備ができる。頑張りたい」と前向きに語った。
 津軽衆の花和司代表は感染拡大防止のための中止に理解を示しながらも「ねぷたは青少年育成の一環でもある。子どもたちと自分たちにとって、ねぷたを準備する楽しみがすべて失われてしまうのは悲しい。批判されるだろうが、夏までに終息していれば小さいねぷたでも出したいという思いはある」と複雑な心境を吐露した。
 弘前ねぷた参加団体協議会の大中実会長は「現時点で一括して町会にも自粛を求めるのはさすがに乱暴ではないか」と異議を唱えた。運行規模の縮小や制作したねぷたの展示といった方法もあると指摘し、「感染リスクを考慮したねぷたの在り方を模索する可能性すらすべてつぶすのはやり過ぎ。無病息災を願う行事をこの状況下でまったく行わないのは矛盾している」とした。「『自粛』という名で押さえ付けるのではなく、どの程度の取り組みなら可能かを示すことが必要。協議会として各町会・団体に配慮した対応を求めていきたい」と述べた。
 今季は6団体を手掛ける予定だったねぷた絵師で津軽錦絵作家協会長の三浦呑龍さん(67)は「ねぷた絵師にとって気力、体力、技術がそろうピークの時期は長くない。その意味で貴重な1年だと思っていたが、はしごを外され断腸の思い」と肩を落とした。「次の祭りまで2年の制作時間があるとポジティブに考えるしかない。次のねぷたに向かう気持ちだけは切らさないように、各団体がより結束して盛り上げていかなくては」と語った。
 2019年の祭りで弘前大学の本ねぷた鏡絵に疫病や厄よけの神とされる「鍾馗(しょうき)」を、病魔を断ち切るとされる朱色で描き上げた聖龍院龍仙さん(73)は「病気で最も恐ろしいものを探し、結果的に疫病を題材にした。当時はまさかこのような騒ぎになるとは思ってもいなかった。やむを得ないとはいえ、ウイルスに負けてしまったような気持ち」とため息交じりに語った。「本当に大変な状況だが、今年は祭りに関わることができないからこそ来年に力を入れたい。鉢巻きを締め直して頑張らねば」と前を向いた。
【写真説明】祭りの中止を受けて制作中の組ねぷたを梱包(こんぽう)する富田清水町会青年部ねぷた実行委員会のメンバー