前弘前保健所長で全国保健所長会会長も務めた山中朋子氏(65)。12年間の所長在任期間には、感染症などに対応する健康危機管理や精神障害、難病にも対応した包括ケアの充実を図るなど、地域の保健、公衆衛生、生活環境といったさまざまな分野に尽力してきた。3月で県を退職した山中氏に在任期間を振り返ってもらい、本県でも感染拡大が懸念されている新型コロナウイルスへの考え方などを聞いた。
 ―新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される中、大切なことは。
 医師不足の本県では、いかに患者を増やさないようにするかが大切。他の疾患の重症患者もいる中で、医療従事者が役割分担していかなければ、医療崩壊につながりかねない。
 対策としては手洗いが基本で、密接、密室、密集―という「三つの密」を避けるべき。今は我慢の時なので行動変容を。
 ―12年の在任期間中、最も印象に残ったことは。
 東日本大震災の支援で訪問した福島県での経験は忘れられない。1週間ほど滞在したが、被災者からは、原発事故で先が見えないことに対する不安や、慣れない避難所での生活苦など、さまざまな声を聞いた。必要なものが手に入らない状況で、できることは寄り添うことだけだった。
 この震災をきっかけに、DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)ができた。行政を支える体制の大きな変化だと思う。
 ―2004年から県の医師確保対策監を務めてきたが。
 05年に医師確保のため「良医を育むグランドデザイン」を策定し、これに基づいた取り組みが進められている。医師確保だけでなく、本県で医師として育つための環境づくり、キャリアを積んでいくためにどうしたらいいかを考えた。
 弘前大学に医師の県内定着を目指す入学制度「地域枠」や、本県出身者向けの医師修学資金制度などを設け、地道に取り組んできた。県内に残る医師は確実に増えている。
 ―退職に当たり。
 本県は課題はあるが、関係する人たちが一生懸命、一丸となって取り組んでいる。誰もが安心して安全に暮らせる行政を目指し、やるべきことをやってきた。医師の中で公衆衛生の道に進む人はとても少ないのが現状だが、公衆衛生や保健所の仕事に興味を持ち、この道を目指す人が一人でも増えてほしい。少しでも本県の未来が明るくなることを願う。
【写真説明】所長在任期間を振り返り、本県の明るい未来を願う山中氏