毎年5月15、16日に弘前市の久渡寺では、家の守り神「オシラ様」を持参する人々が参拝する「オシラ講」が開かれる。古くから東北地方で信仰されてきたが、受け継ぐ人が減少傾向にあるオシラ様。実際に家に祭っている人を訪ねると、少し不思議で心温まる、津軽のオシラ様の話を聞くことができた。
 オシラ様の特徴は地方により異なるが、木彫りの男女一対という基本は同じだ。いわれは複数あり、代表的な話は娘と馬が恋仲となり、怒った父親が馬を殺したところ、馬と娘が天に昇った―という悲恋。祭っている家を守る神様とされる。
 五所川原市の長尾家で3代にわたり守られてきたオシラ様は、身の丈約1メートル。金襴緞子(きんらんどんす)の衣装に包まれた顔を普段見ることはないが、桑の木で作られた人の顔だという。同家は親しみを込め、「シラカミ様」と呼ぶ。
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 同家に嫁ぎ、当時の姑から世話を任されたヌエさん(91)はオシラ様について、不思議な話を語ってくれた。
 息子の孝紀さんが2歳の頃、熱を出した。病院へ連れて行き、帰宅して少し眠ったところ、枕元に立った「シラカミ様」の首がぽろりと落ちる夢を見た。これはいけないと慌てたヌエさんは、別の病院に孝紀さんを連れて行った。
 孝紀さんは肺炎を起こしていたらしく「連れて来るのが遅かったら危険だった」と医師に言われたという。
 また、ヌエさんの夫豊三郎さんが出征してシベリアに抑留され、3年ほど生死不明だった頃のこと。豊三郎さんの帰郷を告げる電報が届く前日、「シラカミ様」の鈴が鳴ったという。
 「家族を見守り、助けてくれる神様。わが家に来てくれて、本当にありがたいことと思っている」
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 今、同家のオシラ様を主に世話しているのは、孝紀さんと結婚した敦子さんだ。オシラ様は外に出るのが好きな神様とされ、以前はヌエさんが背負って四国八十八カ所を巡ったことも。
 敦子さんは津軽各地の寺にオシラ様を連れて行くほか、岩木山神社の「お山参詣」に赴き、登山囃子(ばやし)に合わせてオシラ様を動かし「遊ばせ」ることもあるが、ここ数年は他のオシラ様を見ることが少なくなった。
 「守る人が年齢を重ね、外に連れ歩くことが難しくなっているのかも」と敦子さん。
 オシラ様については「神様だが、人の形をしているからか、世話をするほどかわいらしく、家族のよう」と笑顔を見せ、「できれば今後も、家の守り神として末永く大切にしたい」と話した。
【写真説明】オシラ様を背負って岩木山神社を訪れるヌエさん(写真上)、「家族のようにかわいい」とオシラ様を正装させる敦子さん