地元に愛されて100年間、津軽そばの味を守り続ける弘前市内のある大衆食堂を舞台にした小説「津軽百年食堂」が3月3日、小学館から発売される。フィクションだが、作者森沢明夫さんが津軽の「百年食堂」10店の取材で得たエピソードを盛り込んだことで、市民にはなじみ深く、県外の読者には津軽の温かさを感じさせる。映画化の構想もあり、東北新幹線新青森駅開業を控えた本県にとって、観光振興の追い風としても期待される。

 県が行っている観光資源の掘り起こしで、戦前から続く大衆食堂が多く残っていることが分かり、その魅力を発信しようと「3世代、70年以上続く大衆食堂」を「百年食堂」と名付けた。地域文化に触れる旅を演出する観光資源として、首都圏の出版社や文筆家らに“売り込み”を展開し、これに賛同した作家椎名誠さんは、全国の百年食堂を調べて雑誌「自遊人」に連載している。
 「ラストサムライ 片目のチャンピオン武田幸三」(角川書店)などの著書がある千葉県出身の森沢さんは、ゲーム桃太郎電鉄の作者さくまあきらさんを通じて話を聞き共感。「津軽という響き、100年のロマン、食堂は生きることを感じる」と即答。取材を重ねて小説を完成させた。
 「100年も食堂を続けるのは大変なこと。そして何で続くのかというところに、人の幸せの本質が隠されている」と森沢さん。現在と明治時代の恋物語をベースに、温かい人間模様を軽快なタッチでつづった。また30カ所の伏線・リンクを埋め込み、読み返して楽しめるよう工夫。県外在住者の目に映った“弘前像”も興味深い。
 「読者が風景を頭に描けるように書いた」と、街の風景などは実在の雰囲気を感じさせる表現で、映画化しやすくもなっている。県は映画化が地域経済に好影響を与えるとし、実現を後押しするような地元の盛り上がりに期待している。
【写真説明】小説「津軽百年食堂」の表紙