豊穣の祈り 五所川原の虫送り

 

歴史ある祭り後世に=上

2014/6/19 木曜日

 

 五穀豊穣と無病息災を願い、かつて津軽一円で見られたという「虫送り」。今月21日に五所川原市で実施される「奥津軽虫と火まつり」にも由来する。少子化や農業形態の変化などから実施する集落は減少しているが、稲作がもたらす恵みと生きてきた、日本人の祈りの原型とも言える祭りだ。虫送りがいまだ残る五所川原市内では、この祭りを後世に伝えようとする取り組みが続けられている。
   ◆  ◆
 虫送りは田植えが終わった頃、稲の害虫を払うために各集落ごとに実施されていた祭り。わらで作った「虫」と「荒馬」などの役割を持った地域住民の行列が、集落内を回るスタイルが一般的だ。

住宅地の中を進んでいく相内の虫。ヘビのような形とされる

 五所川原市市浦地区では毎年6月、地域の子どもから大人までが参加する「相内の虫送り」が実施される。相内青年団が主体となって続けているもので、「昔に比べると子どもの数が減った」(佐藤洋二団長)ものの、虫送りが「地域の祭り」という意識はいまだ色濃く残っている。
 虫送りで参加者がかぶる花笠など、さまざまな小道具は青年団が準備。また飾りの付いた木製の棒を振って踊る「太刀振り」の所作も、青年団が小学生らに事前に指導する。仕事が終わってから市浦小学校近くの一角に集まり、当日まで作業を続けている。
 450年もの歴史を持つとされる相内の虫送りについて、佐藤団長は「自分たちの代で絶やしたら、あまりにみっともない」と笑う。「これが自分たちの祭りなのだと子どもたちに教え、伝えていく。大人になったら続けてもらうために」。

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観客も参加者も笑顔=中

2014/6/20 金曜日

 

虫送りの一行。左右に暴れ、時には倒れ込む荒馬(右手前)を引っ張りながら進んでいく

 今年の相内の虫送りが実施された14日。前日まで雨が続いていたものの、この日は晴れとなった。地域住民は「不思議だが、虫送りの日に雨が降ったことはない」と笑う。
 相内の虫はヘビのヤマカガシがモチーフとされる。胴の太さなど形は、製作を指揮するお年寄りのこだわりや好みで、毎年微妙に異なるという。
 この日は午後1時、子どもから大人まで約150人による虫送りが始まった。台車に乗せた虫を先頭に、行列が続く。かつて農作業のパートナーだった馬を表現する「荒馬」役は、左右に動いたり道に横倒しになったりと激しく動くため、新品の足袋にたちまち穴が開くという。
 荒馬に続く太刀振り役は、リズミカルな囃子(はやし)に合わせて「バダラバダラ」と歌い踊る。縁起の良い餅を参加者や通行人の顔に塗る恒例行事もあり、沿道ではにぎやかな笑い声が起きる。
 地区内の各住宅は玄関前に酒やお菓子、料理を出して一行をもてなす。振る舞いを受けるのも礼儀として一行は必ず口を付ける。興が乗ると、玄関先で太刀振りが始まったり、一行が分裂して別の道に行ったりと、運行形態は実におおらかだ。
 写真が趣味で、相内の虫送りを何度か撮りに来ているという八戸市の女性は、「アットホームで本当に幸せな祭り。観光化されていない祭りの良さが残っている」と笑顔で魅力を語った。
 当初は2時間程度と予想された運行は、参加者の一部を田んぼに落とす恒例行事も含め午後5時すぎまでかかり、虫を集落の外れに祭って終了した。
 見る人、参加する人全てが笑顔の祭りだった。

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先人の思い引き継ぐ=下・完

2014/6/21 土曜日

 

「奥津軽虫と火まつり」で使用する虫を作る五所川原青年会議所のメンバー

 1964年、常陸宮正仁さまと津軽家出身の津軽華子さまがご結婚の報告のため五所川原市を訪れた際、各集落ごとに実施されていた虫送りを中心市街地に集め、お2人を祝うために盛大に練り歩いたことをきっかけに、虫送りが市の祭りとして実施されるようになった。
 五所川原青年会議所は73年、この虫送りに火祭りの要素を取り入れ、現在の「奥津軽虫と火まつり」へと至っている。ただ、参加団体が減少するなど、衰退の傾向にあることは否めない。
 青年会議所は今年、5月連休明けから祭りの準備作業に着手。仕事後に毎日10人程度が作業場へ集まり、カヤを束ねて1本70~80キロ以上にもなる大型たいまつを作成したり、祭りのクライマックスに火を放つ大虫を作ったりしていた。
 虫を作る作業は昨年から、青年会議所メンバーが担当するようになった。虫を作ることができる地域の人々が高齢化していることから、技術を引き継ぐために作り方を教わったという。
 一方で祭りの意義を若年層に伝えようと、地元の高校生や専門学校生を祭りの「親善大使」に任命。たいまつ作りのほか、祭りを紙芝居に仕立てて小学生に紹介したりする取り組みに協力してもらっている。
 まつり進展委員会の島村豊次委員長は「五所川原はかつて、稲作という産業で切り開かれてきた。農業の位置付けが時代とともに移り変わっても、先人の思いを自分たちが引き継ぐことは重要」と語る。
 豊穣を願う祭りを続けることで、ふるさとを思う気持ちを次世代に伝え、地域を守っていく―。虫送りにはそのような願いが込められているのだ。

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