'14弘前市長選 検証葛西市政

 

2014/3/2 日曜日

 

 任期満了に伴う弘前市長選が4月6日に告示される。市政運営に新たな手法を持ち込んだ葛西市政。繰り返される独特のキーワードから1期目4年間を検証する。

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経営型=1

 

2012年7月に開設された市民課総合窓口。待ち時間の短縮やトラブルの減少など効果が見られ、他の自治体からも注目されている

 弘前市役所を訪れると、職員から「きょうはどうされましたか」と声が掛かる。常時2人はフロアに配置されている総合案内コンシェルジュ。市民課窓口への用事なら番号札を渡され、1人の職員が用件を聞き取って必要な書類の交付申請書を作成する。来庁者は内容を確認し、書類にサインをするだけだ。
 孫の住民票を取りに来たという同市内の女性(75)は「(必要な書類が)スムーズに取れた。職員が笑顔で対応してくれるので、気持ちがいい」と窓口での対応を評価した。
 「しっかりした計画や目標を立ててそれを共有し、戦略的体系的に仕事を進めていく、まさに経営的な手法による行政運営が引き続き必要だ」。昨年12月に行った次期市長選への出馬表明で、葛西憲之市長はそう語った。
 4年間の市政の根幹にあるのは「管理型」から「経営型」へという考え方。市長選での約束を行政計画化し、計画、実行、確認、改善を繰り返すPDCAサイクルを確立。前述の窓口改革は「市役所の仕事力を高めます」という約束の実現に向けた施策の一つで、市民らの評価は高い。
 総合窓口ができるまで、来庁者は総合案内カウンターに並んで申請書を書き、少し離れた窓口で申請の手続きをし、さらに順番を待って支払いをしていた。4月の繁忙期は1時間待ち。複数の職員が対応するため再確認などで無駄な時間がかかったり、必要な書類が分からずに来る人も多く、請求通りに交付しても「これではなかった」という苦情も少なくなかったという。
 現場では改善を求める声が以前からあったが「仕事に絶対必要というより市民サービス拡充の部分。予算は付かなかった」(市民課)。トップがマニフェストに掲げたことで、現場は市長就任から5カ月後に窓口改革検討チームを設置。案内係の配置や市民課での税証明関係の取り扱い開始など段階を踏み、2012年7月に総合窓口を開設した。
 現在は番号札を発券して窓口の進捗(しんちょく)をモニター表示することで待ち時間に関する苦情が減り、職員が書類を作るため「書類が違った」というトラブルもない。市民課の葛西正樹係長は「重視したのは手間を省くというより、お客さまが求めるものをスムーズに取れるようサポートすること」とし、松岡美也子課長補佐は「市民課は市の玄関。お客さまにとって良いサービスをしたい。今はそれができている」と胸を張る。
 このほか大手商社元社員や弁護士など外部人材を登用。旅行業や広告会社への職員派遣など、民間のノウハウや専門知識を職員に根付かせようという取り組みにも積極的だ。
 評価、改善の仕組みもできている。市の行動計画「アクションプラン」の施策は市の自己評価、市民評価アンケート、市民による評価会議で評価される。
 評価する側の市民は真剣だ。市民評価会議は今年度、市が自己評価で「おおむね順調」とした子育て関連施策について、市民の満足度に絡む項目が目標に達していないことを重視し「(自己評価は)妥当とは言い難い」とした。市長のマニフェストの全項目を評価した青年団体ユースサミットは市民の達成実感として全体の満足度を72%と算出。チャレンジ66の施策は「チャレンジすることが約束」として評価対象外としたが、他の項目と同様に評価すると達成実感は46%まで下がる。
 辛口の評価とも言えるが、メンバーは「期待を込めた」と口をそろえる。メンバーの一人の西谷雷佐さんは「似たような施策で、整理統合できそうなものもある。文章表現も統一し読みやすくした方がいい。でも十分及第点だと思う。自分たちも市の一部だし、自分の評価として受け止めている」と話した。

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アクションプラン・上=2

2014/3/3 月曜日

 

弘前ねぷたまつりのラストを飾るなぬかびおくり。新たなイベントとして評価は高い(写真は2012年8月)

 最新の弘前市の行動計画「アクションプラン2013」には138施策、263事業を掲げ、既に全事業に着手している。市の現状と課題を分析した上で、市民との約束として並べたのは市民主権システムの実現から農業、観光、商工業振興、子育て、人づくり、近隣市町村との連携強化まで市政全般にわたる12項目。これらの取り組みを通じて「子ども達の笑顔あふれる弘前づくり」を実現する構えだ。
 葛西憲之市長は今年1月、弘前市内で開いた地域経営フォーラムで「弘前市にはこれだけの課題がある。だが課題を一つ一つ解決していくとチャンスにつながる。それだけ伸びしろがある」と前向きに、果敢に取り組んできたことを強調した。

 一例を挙げると、観光振興では交流人口の増加による観光関連産業の活性化と雇用の拡大を目指す姿に掲げている。観光はアクションプラン策定時に東北新幹線全線開業や弘前城築城400年祭など節目が目前だったこともあり、緊急事業にも掲げた重点分野だ。
 葛西市長は2011年、東日本大震災で自粛ムードが広がる中、弘前さくらまつり開催を決断、全国に弘前を強くアピールした。弘前ねぷたまつりで最後にねぷたを燃やし、夏の夜空を彩る「なぬかびおくり」など新たな魅力も次々と創出、イベント数の増加は市民の目にも明らかだ。
 市観光政策課によると、宿泊者数は11年の50万6000人から12年は52万5000人、観光客入り込み数は11年の413万8000人から12年は450万8000人に改善しており、市側は震災後の入り込み客数の落ち込みが震災前の水準まで「V字回復」したと成果を誇る。
 だが現場からは「正直、市が何をやっているかよく分からない」という声も。市内のある観光関係者は東北新幹線全線開業後、県をはじめ、自治体の取り組みはトーンダウンしてきたと指摘する。
 この関係者は11、12年の観光客入り込み数の回復について「震災の年以上に下がることはないし、震災後は国を挙げて大手旅行会社らが被災地となった東北に送客してきた」と分析。むしろ大切なのはこれから―とする。
 今冬は豪雪だった昨年や一昨年に比べても国内の観光客が少ないという。「なぬかびおくりなど市の取り組みはすごくいいと思う。だがそれをどれだけの観光客が知っているのか。行政は予算を取り、企画や宣伝は民間がやるなど、役割分担を明確にした方がいいのでは」と提言する。

 アクションプランが着実な進捗(しんちょく)を示し、新事業が次々と発表される中、市民の間には「これほどの事業をやって財政は大丈夫なのか」と懸念する声が少なからずある。
 08年度に669億円だった同市の総予算額は12年度には765億円に拡大。一方で、10年度からの3年間で市の借金に当たる市債残高は121億円減り、貯金に当たる基金残高は15億円増やした。市財務部は「自治体の財政改革は職員削減や物品費節約など細かく削るイメージがあるが、葛西市長は大きく改革する」と説明する。
 例えばし尿や浄化槽汚泥を県の流域下水道処理施設「岩木川浄化センター」で共同処理する方式に切り替えることで、老朽化した現し尿処理施設の更新経費29億円が不要となり、年間処理費用も2億円削減。アップルロード整備に当たって県と協議したり、消防を広域化するなどでいずれも億単位の経費削減を実現している。合併特例債などの有利な財源も厳選してうまく活用しているという。
 だが複合商業施設ヒロロ(旧ジョッパル)のフロア購入や岩木川市民ゴルフ場を運営する弘前ウォーターフロント開発への指定管理料の支出などには市民団体や市議などの間に反対意見が根強い。

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アクションプラン・下=3

2014/3/4 火曜日

 

岩木川市民ゴルフ場。新年度の指定管理者がまだ決まっておらず、4月から当面は市が直接管理運営する

 2013年7月、弘前市駅前地区にオープンした「ヒロロ」(旧ジョッパル)。ファッションを中心に服飾雑貨や食料品、家電などのテナントと、市の総合行政窓口や子育て支援機能などを配した公共スペースで構成される複合商業施設だ。
 09年秋に閉鎖され、長く空きビル状態だった旧ジョッパルの再生は葛西憲之市長の市長選時の目玉の公約の一つ。選挙戦では「再生には多額の経費が掛かる」「空手形だ」と批判されたが、市長就任後は市の行動計画「アクションプラン」の緊急事業に位置付け、最終的にビル全体を運営する事業者から1フロアを買い取るという手法で再生を支援した。
 公共スペースには親子で楽しめる無料の遊び場や土日も開庁する行政窓口など市民ニーズの高いサービスを貼り付け、商業部分との相乗効果でにぎわいを創出しようと工夫。オープン日は開店前から長蛇の列ができ「今まで近くになかった店が入ってうれしい」「冬も子どもを安心して遊ばせられる」など、歓迎の声があふれた。

 ただ再生に至る過程では議論もあった。特に3階の1フロアをビル全体の取得額よりも高い約6億1000万円で購入するという発表は市民を仰天させ、一部の反発を招いた。
 市は公共事業で不動産を購入する場合と同様、不動産鑑定評価を基に算出した適正価格と説明したが、市議会などでは「本当に妥当な金額か」「事業者の救済では」などと議論が白熱。合併特例債を活用し、有利な返済計画になるとはいえ、年間2000万円超の維持管理経費も掛かる。議員からは「この場所に行政機能が本当に必要なのか」という指摘もあり、議論が尽くされたとは言い難い。
 またアクションプラン達成にまい進する現市政だが、プラン以外の業務に課題が浮上した。岩木川市民ゴルフ場と長年ゴルフ場を管理してきた第三セクター弘前ウォーターフロント開発の問題だ。
 1994年に開業した同ゴルフ場は造成後に市に寄贈されたため、債務超過状態でスタート。利用料金で赤字を解消できるという見込みも甘く、利用者数は当初想定した年間2万1000人には一度も届かず、12年度は約4200人まで落ち込んだ。
 市は長年この状態を把握しながら対策を講じず、葛西市政になって11年度から指定管理料を支出。13年7月末には経営改善が見込めず、会員からの長期預かり金約2億2000万円の返済も難しいとして、会社解散の方針を導き出した。
 だが会社側が想定している「特別清算」の手続きには同社が所有する管理棟などの資産売却が不可欠。これらの資産はゴルフ場の存続にも必要で、市側は購入者が現れない場合は「新たな決断をする必要が出てくる」(市長)と購入も選択肢の一つとする発言をしているが、結論は出ていない。ゴルフ場関係者からは「これではシーズン中に会社解散を発表する必要はなかった」という恨み節も。
 市は会社が解散に至った事態について一貫して「会社側の責任」という姿勢を貫いており、市民団体などの反発を招いている。

 市政のさまざまな問題で情報公開請求を繰り返している弘前市民オンブズパーソンの松昌利事務局長は「説明責任を全く果たしていない」とこれまでの市の対応を振り返る。
 旧ジョッパル関係では事業者が国へ出した補助金申請書を開示請求しており、事業計画概要の部分まで黒塗りで開示された。他都市の例では個人情報や細かい金額は伏せられても事業概要は示されることが多いとし「客観的な検証ができない。市の姿勢には問題がある」として今後も市の責任を追及する構え。
 ヒロロや弘前ウォーターフロント開発の処遇は過去の市政が積み残してきた課題で、いずれも現市政になって解決の方向性を見た。だが市民の間にはいまだに賛否両論があり、方針の決定や公金の投入にはより丁寧なプロセスが求められる。

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