こぎんと共に エピソード2013

 

2013/12/14 土曜日

 

 連載「こぎんと共に」は昨年スタートしました。ハンドメードブームを背景に再び脚光を浴びているこぎん刺しをめぐる話題を随時掲載します。

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新入社員=上

 

三浦さん(左)と成田社長(弘前こぎん研究所で)
三浦さんがサマースクールで製作し、愛用している長財布(左)など

 頭にキリリと締めた手拭いがトレードマーク。真剣なまなざしの先にあるのは製作中のこぎん刺しだ。弘前工業高校インテリア科を今年3月に卒業した三浦裕基さん(18)。津軽地方の民芸こぎん刺しを再興し、継承の中心的役割を担っている弘前市在府町の有限会社弘前こぎん研究所(成田貞治社長)に今春入社した。7人いる社員で2人目の男性。「こんなに魅力のあるものを男もやらなきゃもったいない」と、向き合う毎日を送っている。
 研究所は主にこぎん刺しを身の回り品に仕立て、販売する民間企業。商品の受注から会計業務の他、見学にやって来る観光客らの応対も必要で、三浦さんはその合間を縫って針を動かす。成田社長は「彼は(こぎん刺しの)基本ができているからね」と温かく見守っている。
 入社のきっかけは、県の中南地域県民局が高校、大学生を対象に実施した「津軽伝統工芸・クラフトサマースクール」(2012年度で終了)。学校の夏休みを利用し、集中して伝統工芸士らに学ぶ事業で、三浦さんは1年時から3年間、自ら希望して研究所で教わった。「市販のものと比べて布目が細かく、大変だと思ったが、刺し終えた時の達成感が何とも言えず、2年、3年と当然のようにお世話になりました」と三浦さんは振り返る。
 こぎん刺しとの出合いは小学5年の時。学校の近所に住む高齢の女性と知り合い、「こぎんを刺しているから見においで」と自宅に招かれた。初めて聞くこぎんに興味を引かれて訪ねると、「大胆なデザインなのに(運針は)緻密。色の配置も心に響き、『おおっ』と衝撃を受けました」。小学校の体験学習、中学校の家庭科とこぎん刺しに触れ、高校が受講を勧めたサマースクールで迷うことなく選んだ。研究所で本格的に教わり、気に入っている模様「梅の花」の図案作りにも取り組んだ。
 寺院、仏像好きが高じて僧侶になる夢を抱いていたが、家庭の経済状況を思い断念。改めて自分自身について考えた時、「こぎんとねぷたが離れなかった」。高校に入って始めたねぷた絵は続ける一方、和やかな社風に親しみを覚えた研究所に職を求め、採用が決まった。
 「友人には『古くさいところに就職するんだな』と言われたが、古くない、新しいものなんだと覆してやりたい」と三浦さん。「男のこぎん作家はいるのに、なぜか女性のものと思われている。そういうイメージも払拭(ふっしょく)したい」と話す。
 「家でスマホばかり見るんじゃなく、こぎんを刺す人が男でも女でも増えてほしい。こぎんの魅力を伝えるため、研究所の一員として頑張ります」。そう意気込む“こぎん男子”から、爽やかな笑みがこぼれた。

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星野リゾート 界 津軽=中

2013/12/15 日曜日

 

山端さん(右)考案のこぎん模様の照明と、界津軽の西岡総支配人=8日
山端さん(左)と客室づくりを話し合う界津軽のスタッフら

 宿泊客を客室へと導く照明器具。点灯するとこぎん刺しの模様が浮かび上がった。「照明は(客室棟などに)42ありますが、模様は一つ一つ違うんですよ」。大鰐町の温泉旅館「星野リゾート界 津軽」(以下、界津軽)の総支配人、西岡孝さん(35)=神奈川県出身=が案内する。閑静な高級旅館を演出するオリジナルの照明は、こぎん模様を切り抜いた紙を照明カバーにはめ込んだだけという、こぎん刺しの既成概念を打ち破るアイデアから生まれた。掛かった費用は至って低額という。
 考案したのは、おいらせ町出身で東京都在住のグラフィックデザイナー山端家昌さん(30)。界津軽は今、山端さんと一緒に「ご当地部屋」プロジェクトを進めている。数寄屋造りの離れ(特別室)1室を「津軽こぎんの間」としてリニューアルし、来年3月から受け入れる予定だ。
 星野リゾート(長野県)は全国の旅館、ホテルの再生を手掛けることで知られる。2010年に錦永(同町)から「南津軽錦水」の運営業務を受託し、翌年10月に界津軽へ改称。「敷居が高いという錦水のイメージを払拭(ふっしょく)するとともに、差別化を図る必要があった」と西岡総支配人。
 星野リゾートは全国10カ所の「界」でご当地部屋を展開。石川県山代温泉の加賀友禅、神奈川県箱根温泉の箱根寄せ木細工など、土地に根差した伝統文化とのコラボレーションに力を入れている。界津軽では津軽塗やびいどろ(ガラス)といった「オール津軽」の路線も浮上したが、インターネットサイト「kogin・net(こぎんネット)」を主宰する山端さんを知り、こぎんに特化することに。西岡総支配人は「伝統を踏襲しながらも、布物に刺すという枠を超えた可能性に挑戦する山端さんの姿勢が、界のブランドコンセプトとマッチした」と話す。
 今月8日、特別室に山端さんを囲んでプロジェクトのスタッフらが集まった。山端さんは「こぎんの伝統を知るためのさまざまなアプローチを用意し、津軽らしい場所にしたい」と構想を披露した
 照明カバーのアイデアをはじめ、山端さんの作品は多くが針と布を必要としない。アクリル樹脂など異素材でこぎん模様のオブジェを創ったり、プリントした服飾小物をネット販売したりするなど柔軟な発想で活用の幅を広げている。今回のプロジェクトでは特別室の全面ガラス張りの縁側に注目し、障子を使ったユニークで大掛かりな演出を提案。厄介者とされる雪が待ち遠しくなるようなアイデアも飛び出した。
 西岡総支配人は「早速具現化したい」とうなずきながら、「数寄屋造りの離れの(一般的な)イメージで来られるお客さまは驚くかもしれません。が、批判を恐れずに津軽の風土、気候、文化が表現できる部屋づくりを目指したい」と意気込んだ。

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長内レイさん=下

2013/12/16 月曜日

 

長内さんと全国手工芸コンクール受賞作(右)
長内さんの刺し子作品のごく一部

 「昨年の冬は寒くて雪解けも遅かったでしょう。それで雪をこぎんで表現したいと作ったものなんですよ」。弘前市の長内レイさん(70)は「津軽の雪解け」と名付けたこぎん刺しの自作に込めた思いを語り始めた。雪の結晶のような模様が見事なその作品は、兵庫県などが主催し今年10月に開かれた「第25回全国手工芸コンクール」で兵庫県議会議長賞を受賞。文部科学大臣賞、兵庫県知事賞に次ぐ賞で、全国から集まった約250点の中からベスト3に選ばれた。
 こぎん刺しは東北各地に伝わる刺し子の中で三大技法の一つに数えられる。長内さんは昨年のコンクールに刺し子を出品したが入選にとどまり、こぎん刺しで再チャレンジ。審査員を引き付けるにはネーミングも凝る必要があると考え、そこからデザインを始めた。
 少女時代から培った洋裁技術を生かし、紺色のウール地で女性用のベストと巻きスカート、手提げかばんの組み合わせにした。全体の印象を決定付ける模様の配置は、仮縫いの後に決める。縫い合わせたり、ボタンを留めた際に模様がちぐはぐにならないよう細かな計算も要する。ベストには白の糸を全面に刺した総刺しで降り積もった雪を表現、巻きスカートは雪解けのイメージで単一模様を散らした。
 コンクールの審査員は関西地方の美術工芸の関係者らが中心。長内さんは「津軽のこぎん刺しも現代風にアレンジできることをお伝えしたかった」と受賞を喜ぶ。
 長内さんのこぎん歴は半世紀に及ぶ。鯵ケ沢高校に通っていた頃、家庭科の先生が持っていた小物の刺しゅうに目が留まり、こぎん刺しと知った。もともと針仕事が好きだったため見よう見まねで覚え、製作を頼まれるまでに上達した。五所川原市の洋裁学校に進み、その学校に就職。26歳で結婚、婚家の協力で自宅別棟に洋裁教室を一時構えたが、夫の転勤に伴って東北各地に移り住みながら刺し子も覚えた。
 洋裁と刺し子・こぎん刺しの高い技術で、これまで生み出した作品は数知れない。これまで3度個展を開催し、2010年にファッション雑誌「レディブティック」のリフォーム大賞を受賞した。古布に刺し子をすることで印象を変え、リフォームする技に高い評価を得た。県展では10、11年の2度優秀賞を獲得している。
 「目標があれば張り合いもある」。そう話す長内さんは、家で過ごす時も外出の時も常に刺し子と一緒だ。再訪した日も、黒地に映えるグリーンの刺し子が胸元を華やかにしたエプロンを着けていた。刺し子と共に生き、「針は分身」という。
 裁縫のし過ぎで肩凝りがひどく、腰を痛めることもある。目を酷使するこぎん刺しは難しくなりつつあるが、「体調が悪くても仕事場(アトリエ)にいれば難なく過ごせる。手だけは休めないつもり」と、柔らかなほほ笑みを浮かべた。

 

 

 こぎんと共に エピソード2013・完

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