健康増進へ向けて -岩木プロジェクトから見えたもの-

 

目からウロコの成果ぞろい=1

2013/10/6 日曜日

 

 青森県民の平均寿命が日本一短いことは長い間指摘されてきました。この対策として青森県もいち早く“寿命アップ会議”を立ち上げました。しかし、なかなか前に進みませんでした。そして、今年2月厚生労働省から発表された2010年の都道府県別平均寿命ランキングです。青森県はまたしても男女とも最下位(最短)でした=表参照=。
 なぜ、青森県民は短命なんだろう? どうして解決できないんだろう? これは恥ずかしながら私自身が20年以上前から持っていた疑問でした。弘前大学で、平均寿命の担当であるべき社会医学講座に属している、この私がです。

 青森県民の短命の理由の一部が、高い喫煙率・多量飲酒者率・肥満者率であるのは知っていました。一方、長寿県長野県では、これらの数字がいずれも青森県より低いことが分かっています。この他、健診受診率、スポーツする人の割合、保健師さんの数、などなど“ほぼことごとく”長野県の健康指標が青森県を上回っています。
それでは、この両県の“ほぼことごとく”の差は一体どこから出てくるのか? これが分からなかったのです。そこが分からないと有効な対策はたてられません。読者のみなさんもぜひこの“なぜ?”を考えてみてください。
 「あれこれ考えるよりどこかで平均寿命対策をやってみよう。見て、やりながら考えてみよう」。こうして、岩木健康増進プロジェクトが始まりました。05年のことです。
 本プロジェクトには大きく三つの活動の柱があります。
(1)成人向けの健康調査(“プロジェクト健診”、毎年6月初旬に約10日間連続で行う)
(2)岩木地区内の四つの小中学校の児童生徒の健康調査(毎年秋に行う)
(3)運動教室(毎年冬から春に行う)
 プロジェクト開始から9年、我々(われわれ)の仲間も毎年増え続けてきました。今では医学部だけでも精神科、整形外科、消化器血液内科、泌尿器科、産婦人科、耳鼻咽喉科、歯科口腔外科、看護学、理学療法学、作業療法学、検査技術科学、それに教育学部の保健体育科も参加しています。学生も先生もです。
 本連載では、岩木健康増進プロジェクトで得られた成果を、各分野の専門家が毎回一つずつ紹介させていただきます。医学の専門家である私たちが見ても“おもしろいな”という成果ばかりです。読者のみなさんも“なるほどそうなのか”“目からウロコだ!”と感じると思います。次回からの連載を楽しみにしてください。
(弘前大学医学研究科長 中路重之)
※毎週日曜日掲載

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旧岩木町の短命とその理由=2

2013/10/13 日曜日

 

プロジェクト健診の様子(体の脂肪や筋肉の量を測定している)

 どうして、岩木健康増進プロジェクトは旧岩木町で始まったの? 読者のみなさんはそう思われるでしょう。そこには、旧岩木町が弘前大学に近く、人口規模も1万人くらいで“多くもなく少なくもない町”だったからという理由もありました。しかし、なんといっても最大の理由は“短命”でした。
 厚生労働省の発表です。2000年当時、全国には3067の市区町村がありました。そのなかで、旧岩木町は、平均寿命の短い方から男性が11番目、女性が46番目だったのです。その憂うべき現状に正直絶句しました。いや誰よりも岩木の皆さんが驚かれたでしょう。
 旧岩木町。だれが考えても“図抜けた”町です。秀峰岩木山を有し、百沢や嶽などの温泉地、スキー場、岩木山神社、そしてお山参詣です。超美味のりんご、山菜、つけもの、いまや日本のブランド“だけきみ”、三味線、ねぷた絵、アケビづる細工、こぎん刺し、陶芸など文化の香りも高く、そこに住むみなさんには笑顔が絶えません。優しく楽しい方が多いのも岩木の特徴です。
 一見短命とは無縁に見えるこの旧岩木町に一体何があるというのか…?
 意気込んで始めた最初の年のプロジェクトで以下のことがわかりました。
(1)男性20歳代、女性30歳代の肥満者が多かった。
(2)男女とも60歳未満の体力が劣っていた。
(3)男女とも50歳未満で喫煙率が高かった。
(4)男性で3合以上(日本酒換算)飲酒する人の割合が高かった。
(5)男女とも運動習慣を持つ者の割合が低かった。
(6)男女とも食習慣に問題があった(朝食抜きの割合が高い、塩分の多い食事を取る)。
(7)男女とも50歳以上で歯の数が少なかった。
(8)岩木地区小中学生の体格は全国を上回っていたが、体力的には劣っていた。
 このほとんどは“青森県民の短命の理由”とも重なっていました。「短命解決のためにはもっと掘り下げる必要がある」私たちはさらに意気込みました。
 岩木健康増進プロジェクトでは、これらの項目以外にもたくさんの項目を調査しています。項目数だけなら世界一だと自負しているくらいです。たとえば、動脈硬化、体脂肪・筋肉量、骨密度、肺機能、体力・運動能力、血液検査(約40項目)、聴力、口の中の状態(歯数、歯周病、だ液量)、腸内細菌、ピロリ菌、認知症、アレルギー、心理テストなどなどです。これらの詳細な調査からわかった驚くべき成果を次回から紹介します。
(弘前大学医学研究科長 中路重之)

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難聴の実態とその予防対策=3

2013/10/20 日曜日

 

聴力の検査風景

 人は誰しも加齢とともに“きこえ”が悪く(難聴)なります。しかし、その難聴の程度や進行には大きな個人差があります。ところが、その個人差の理由はまだよくわかっていないのです。それを明らかにするためにプロジェクト健診で聴力検査をしました。
 聴力の検査では「年齢とともに聴力が落ちる」「男性の聴力が女性より悪い」ということがわかりました。
 アンケートから「仕事や趣味で大きな音を聞き続けた人の聴力が悪い」ということがわかりました。いわゆる騒音性難聴です。
 さらに、分かったことがあります。それは「動脈硬化」が進んだ人ほど、聴力が悪いということでした。このことを数字で明らかにしたのは今回が初めてです。動脈硬化性難聴と言うことにします。
 動脈硬化とは、動脈(心臓から手足に向かって走る血管で、酸素を多く含んだ血液が流れる)が、コレステロールが溜まったりすることで、厚く、固く、(中が)細く、そしてもろくなる状態のことです。その結果、血圧が上がったり、動脈がつまったり(梗塞)、破れたり(出血)します。プロジェクト健診では最初からこの動脈硬化を測定していました。覚えていますか? あの両腕、両脚の4カ所で同時に血圧を測定した、あの検査です。
 現在の医療でも難聴を治療することはむずかしく、まだ補聴器に頼っているのが現状です。ですから大切なのは予防です。予防とは、“きこえ”が良い時期からの対策ということです。
 難聴の予防には大きく二つがあります。
 騒音性難聴の予防は、騒音を避けることにつきます。岩木の場合、リンゴ農家のスプレイヤーや箱詰め時の騒音も原因になっているようです。騒音の多い場所では耳栓をつけることが大事です。また、音楽をイヤホンで聴く若者が多くなっているようですが、これも将来きこえが悪くなる原因になります。ボリュームを低くする、聴く時間を短くするなどの対策が必要です。
 動脈硬化性難聴の予防は、動脈硬化の予防(進行を遅くする)です。まず、良い生活習慣が大切です。肥満、多量飲酒、喫煙などの生活習慣に気をつけましょう。また、悪い生活習慣の蓄積によって起こる生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症〈コレステロールや中性脂肪が高くなる〉など)は動脈硬化につながります。つまり、動脈硬化性難聴の予防は、生活習慣病の予防とほぼ同じなのです。
(弘前大学医学部耳鼻咽喉科 佐々木亮)

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