夏次郎商店の作品が並ぶ「CASAICO」
自作のこぎんを身に着けた長橋さん(山形市内で)

 黒や赤の布に浮かぶ金や青の色鮮やかな幾何学模様。こぎん刺しだと一見して分かるが、色の組み合わせが個性的だ。制作者は「夏次郎商店」。伝統の紺地に白の綿糸、あるいは柔らかな配色が主流のこぎんの世界にあって、夏次郎商店は異彩を放っている。
 若手作家の美術工芸品を展示販売する弘前市城東のセレクトショップ「CASAICO(カサイコ)」は、昨年秋から夏次郎商店の取り扱いを始めた。こぎんの作家を探していたとき、ツイッターで夏次郎商店の存在を知った。カサイコ代表で漆芸家の葛西彩子さん(32)は「こぎん刺しでは見たことがない色使い。男性向けのアイテムを作っている点も異色でした」と振り返る。
 くるみボタン、コースター、名刺入れ、マフラー…。夏次郎商店の商品は動きがよく、カサイコの人気商品となっている。手に取る人は男女半々で、年齢層も幅広い。「『これからはこういう感性が必要だね』と言って購入される方もいます」と葛西さん。
 夏次郎商店は、青森市出身で山形市在住の長橋ナツキさん(28)のウェブサイト名だ。長橋さんは模様を刺すことから加工まで一人で手掛ける。「男子の日常に溶け込むかっこいいこぎん刺しを目指している」と言い、インターネット上などで「伝統工芸のこぎん刺しを、地元の土産屋などでは到底見掛けないイパダダ(津軽弁で奇抜)デザインで作製しております」と自己紹介している。
 長橋さんがこぎんを始めたきっかけは、一つにはホームシックがあった。結婚を機に、生まれ育った青森を離れて6年。以来、古里の伝統工芸に独学で取り組んでいる。「こぎん刺しは、青森の匂いがする」と。
 日常生活では津軽塗の椀(わん)と箸を愛用し、青森ねぶた祭には必ず帰省する自称「ねぶたバカ」。「離れてみると、余計恋しい」。郷土愛から生まれた作品は、古里の夏の夜を焦がすねぶたの極彩色と似ていることに気付いた。

 

 待ち合わせたJR山形駅に長橋ナツキさん(28)は少年のようなショートヘアーに、どくろ型のハイヒールと人目を引く姿で現れた。少し前まで坊主頭で、金髪だったこともあるという。
 「青森の祖母がよく、私の格好を見て『わいは、いぱだだだぁ』と言ってました」。青森なまりを隠さず、淡々とした語り口。自身のウェブサイトで「青森生まれ、青森育ち。青森愛してます」と深い郷土愛を発信している。手にした風呂敷包みに「いぱだだ」作品が詰まっていた。
 サヤ型と呼ばれるこぎんの伝統模様を刺した小幅の帯は、流行のカンカン帽に巻いてアクセントに。布製のベルトにはブルーの菱(ひし)形が刺してある。鮮やかな刺し糸は毛糸を用いることが多い。「もともとが派手好き。意識したことはありませんが、ねぶたは大好きなので影響を受けているかもしれない」
 鮮烈な色彩感覚とファッションセンスから生まれる独創的な作品は、長橋さんが「かっこいいこぎん」を追求し、現代のアイテムとして考案した。手仕事ブームでこぎん刺しの裾野が広がる中、「若い女性受けするかわいいデザインが多い。自分好みを追求したらメンズ寄りになった」と話す。ネットショップでは男性からの注文が多く、一月に5~6件受けることもある。
 長橋さんは転勤族の男性と結婚、県外へ転居してから本格的に始めた。「こぎんは青森の匂いがするし、ひたすら刺すという単一作業が自分に合っていた」。青森工業高校の授業で学習した経験はあるものの、ほとんど独学。こぎんの図案集を見てひたすら刺した。
 「我流だから地元の方には怒られるかもしれない」と思うのには、こんなエピソードがある。数年前、自作を店頭に置いてもらいたいと青森市内の土産店を数カ所回ったが、受け入れてくれたのは1件だけだったという。
 ただ、夏次郎商店の名はツイッターやフェイスブックで知られるようになり、地元に人脈もできた。「こぎんを始めて出会った人や物がたくさんある。自分の作品を『いいね』と言ってくれる人がいて、これほど幸せなことはない」と長橋さん。おしゃれ心をこぎんに込めて、きょうも布目を拾っている。