あすへの夢 震災を越えて ― 第1部 試練の農業県

 

2012/1/1 日曜日

 

 昨年3月の東日本大震災と福島第1原子力発電所事故以降、食料供給基地であるとともに原子力施設を多数抱える本県を取り巻く環境は大きく変わった。より一層の安全確保が求められる食と農業、国のエネルギー政策見直しによって在り方が問われる関係施設をよそに、脚光を浴びることになった新エネルギーへの取り組みなどを取り上げ、震災を機に新たな道を模索する県内の動きを追う。

 

  

∆ページの先頭へ

持続に向けて=1

 

 
 
東日本大震災と福島第1原発事故を契機に、食や農業を取り巻く環境は全国的に大きく変化。さらにはTPP問題も浮上し、状況は厳しさを増す。本県が食料供給基地として持続・発展できるのか、その力が試される

 国の統計によると、本県の食料自給率は121%(カロリーベース、2009年度概算値)、農業産出額は全国8位の約2664億円(09年)。農業産出額は04年以降、東北で首位を保っている。生産品目を見ると、リンゴ、コメ、野菜、畜産が産出額全体のほぼ4分の1ずつを占め、バランスの取れた構造が強みの一つに挙げられる。
 震災は国産農産物が比較的乏しい冬季に発生したが、本県からは相当量のリンゴが被災地に送られた。リンゴの貯蔵性の高さや周年販売の体制が功を奏した形で、本県の被災地支援の代表例になった。
 昨年12月に県復興ビジョンをまとめた策定懇話会の議論でも「農林水産業を本県の強みとして捉え直し、創造的復興の原動力にしてほしい」といった意見が目立った。ただ、その農業産出額も年々減少傾向にあるほか、農業者の高齢化、担い手不足への対応は全く見通せないのが現状だ。本県の“潜在力”を発揮するためにクリアすべき課題は山積している。
 また、かつての農政は奨励品目を掲げ、補助金で普及を図るなど画一的なものだったが、消費者ニーズの多様化に伴い販売がより重視される今、特徴的で付加価値の高い産物・加工品が求められている。6次産業化の推進が盛んに叫ばれるのはそのためで、本県農業の競争力強化には不可欠だ。
 さらに国内の農業を揺るがす大きな課題が浮上している。環太平洋連携協定(TPP)だ。野田佳彦首相は昨年11月、交渉参加に向けた関係国との協議入りを表明し、参加・不参加の判断はこれからとなる。
 TPPは関税撤廃を原則とするため、参加すれば国産の農林水産物が海外産との激しい競争にさらされる。このことから、国内農業のぜい弱な構造と競争力の欠如がクローズアップされ、国は農業者の経営規模拡大などを打ち出している。食料供給県を自負する本県も、その役割を持続・発展させるためには険しい道のりが予想される。
 このような状況下、「攻めの農林水産業」を掲げる県だが、関係者はじくじたる思いを打ち明ける。「昨今は自治体財政が厳しく、公助で賄うのは難しい状況。また、公助は往々にして画一的となる。各地域の実態に合わない部分がどうしても出てくる」
 県農林水産部の渋谷義仁部長は「TPPやFTA(自由貿易協定)がなければ、国内・県内の農業が安泰なのかというと、そうではない。外圧を受けたから考えるのではなく、農村自体が地域の実情に合った手だてを自主的に考え、必要な施策を行政に提言してほしい」と呼び掛ける。
 「食の安全や農産物の安定供給について、もう一度深く考えるべき時ではないか」
 食と農業を取り巻く環境が大きく揺れ動く中、弘前大学の神田健策副学長(農学生命科学部教授、農業経済学)は、本県の特異性として農業とエネルギーは切り離せない分野になっていることを指摘する。
 震災から間もなく10カ月を迎えるが、福島県の一部地域のコメに暫定規制値を超える放射性セシウムが検出されるなど出荷停止の品目が依然としてみられ、全国的に消費者の不安は払拭(ふっしょく)されていない。このような状況を踏まえ、国は昨年12月、放射性物質に対する食品の安全基準を厳格化する方針を打ち出し、4月に施行する。
 県産農林水産物に限れば、国の検査で一部の魚種から規制値を大幅に下回るセシウムが検出されたものの、その他からは検出されていない。ただ、県は今後も県産農林水産物の安全性を担保し、消費者にアピールする必要があるとして、昨年から行っている主要産物の放射性物質モニタリング調査と牛肉の検査を2012年度も継続する方針だ。
 一方、原発事故を受けた国のエネルギー・原子力政策見直しの議論が先行き不透明な中、三村申吾知事は昨年末、県内原子力事業者の緊急安全対策を了承し、六ケ所再処理工場は今月中にも試験再開に向けて動きだす。
 国民世論は原子力への依存度を低減していく方向にあるが、電力の安定供給を考えると、当面は原子力に頼らざるを得ないのが実状だ。とりわけ、本県は食料供給基地であるとともに原子力施設を多数抱える。このため、食の安全とエネルギー安定のはざまで複雑な心境を明かす農業者も少なくない。
 弘前市のリンゴ農家清野俊博さん(60)は「原発の安全神話は福島の事故で崩れた。本県にも原子力施設が多数あり、いつ何が起こるか分からない。万が一、事故が発生すれば農業への打撃は大きく、正直言って怖い」と不安な表情を見せる。また、「電力の安定供給は必要であり、それで生計を立てている人がいることも事実。(原発を)すぐにやめろとは言えない。それでも、国、県には新エネルギーの開発にもっと目を向けてほしい」と訴える。
 神田副学長は、地場産業が振るわない地域が原発誘致に走ってきた歴史に改めて言及しながら、「本県も国の原子力政策に大きく加担してきた。しかし、『それだけでいいのか』ということを原発事故で見せつけられた」と問題を提起する。
 その上で「自然資源が豊富な本県では、第1次産業(の振興)と新エネルギーの研究が結び付くことを期待したい。次世代のことを考えて発想しなければ。『3・11』後に問われているのは地域社会の在り方なのだから」と強調する。

∆ページの先頭へ

Page: 1 2 3

第29回 県下小・中学生あおもり版画まつり 特別展 ちびっこ手踊り王座決定戦 グラフ特集

当サイトでは一部、Adobe Flash・PDFファイルを使用しております。閲覧にはAdobe Flash Player・Adobe Acrobat Readerが必要です。最新のプラグインはアドビ社のサイトより無料でダウンロード可能です。

  • Adobe Flash Player ダウンロードセンター
  • Adobe - Adobe Reader ダウンロード