「憲法空語論」。たまたまのぞいた哲学者内田樹さんのブログで見慣れない言葉を目にした。広辞苑によると「空語」は「内容の伴わないことば」。それが「憲法」に付くとは、いかなる了見か▼「憲法というのは『そこに書かれていることが実現するように現実を変成してゆく』ための手引き」「目の前にある現実をそのまま転写したものではない」と内田さん。米国の独立宣言を例に挙げる▼宣言が「万人は生まれながらにして平等」の理想を掲げてから奴隷制度が約80年続き、公民権法の施行に188年を要した現実を示す一方、「独立時点での『現実』をそのまま受け入れてそう宣言に書き込んでいたら、アメリカ合衆国は今のような国にはなっていなかっただろう」と喝破する▼ロシアのウクライナ侵攻に揺れる世界情勢。バイデン米大統領は、中国との対決姿勢を鮮明にする▼わが国の平和憲法に対し、軍事的脅威から「現実に合わせ憲法を変える」ことがどんな未来をもたらすか。内田さんは「憲法が空語で何が悪い」と開き直る。