テレビ離れが叫ばれてから久しい。理由はいろいろ考えられるが、番組編成の在り方にあるのも明らかだろう。参考までに新聞のテレビ番組欄をチェックしてみたが、まずは「韓国ドラマ」が多いのにはびっくりした。現代ドラマもあれば、時代劇もあり、これまでも幾度か放映されたものも含まれている。さらに、いわゆる「お笑いタレント」が突拍子もないことをやっては皆でゲラゲラ笑っている低俗な番組も多い。経費を抑えようとするためにやむを得ない手段であるかもしれないが、余りにも安易な気がしてならず、これではテレビ離れはさらに進むとしか思えないのは私一人であろうか。
私が見るテレビ番組はニュースやドキュメンタリー、時には「映画」などが主なものだが、毎週楽しみに見ている番組がある。民放のBSで放映されている「子供たちに残したい美しい日本の歌」で、私がテレビで見る唯一の「歌番組」である。この番組については、ご存知の方も多いだろうが、われわれの世代なら必ず口ずさんことがある歌唱、さらには半世紀ほど前に歌われスタンダード化した歌を、プロの声楽家が本格的に歌ってくれるものだ。詩(歌詞)の作者、作詞された動機や背景なども紹介される。プロの美しい歌声を聞きながら、歌詞が意味する情景や情緒などを思い浮かべることができ、何かしらの余韻を残してくれる。
先週この番組を見ている時、ある俳優が、昨年の「紅白歌合戦」に出演した歌手の歌について「だらだらと長く、どこが一番でどこからが2番なのか分からず、印象に残る歌がない」とブログでコメントしたことを思い出した。私も「年越しの恒例行事」として、この番組を「聞き流し」ていたが、若い歌手・グループが踊ったり飛び跳ねたりしながら、正直、「内容のない」歌詞を長々と歌っていたのを覚えていたので、全く同感だった。
こんなことを言うと、「お前は年寄りだから」という声が聞こえてこよう。この俳優のブログも批判意見で「炎上」したそうだ。昔は「歌詞」に重きが置かれていたが、今の歌は、人の心を捉えるリズム、メロディー、ハーモニーから成る「音楽」であり、「歌詞」は問題ではないとの意見も聞かれそうだ。聞く方の責任であり、「音楽」を理解できない者は「聞かないでくれ」ということだ。しかし、昔聞いた歌、歌った歌は、時々の情景や感情に合わせてふっと口をついて出てくるが、今の「音楽」にはあるのだろうか。「昔の歌詞」は、心に余韻を残す力を持っており、だからこそ、ふと口ずさむのだ。この余韻こそが、過去を振り返り、未来を想像する大切なものであることは言うまでもない。だから、この番組が続くことを期待しているし、そこで紹介される歌を子どもたちに伝えていきたいものだ。
(青森大学名誉教授 末永洋一)