日曜随想

 

気ままな旅「東京・深川で芭蕉を想う」

2018/12/23 日曜日

 

 「月日は百代(はくたい)の過客(くわかく)にして、行きかふ年もまた旅人なり」―松尾芭(ば)蕉(しょう)『おくのほそ道』冒頭の一文である。人生を旅に見立て、俳諧(はいかい)一筋に生き抜いた芭蕉の理想の生き方がここに示されている。
 『おくのほそ道』は、元禄(げんろく)2(1689)年3月27日、江戸・深川を出発し、東北・北陸を巡り、9月6日、美濃国(みのくに)(岐阜)・大垣を出発するまでを書いた150日間の紀行文である。旅の出来事や折々に詠んだ句をもとに後日、創作した。歩いた総距離は2400キロに及んだ。
 学生時代、古文にさほど興味がなかった筆者も、この『おくのほそ道』だけは、心を惹(ひ)かれた。他の文学作品に比べて、断然わかりやすかったからだ。何よりも芭蕉の訪ねた場所が時系列で現れ、エピソードを詠んだ句がそれに融合し、情景が浮かび上がってくるのがいい。
 本紙連載中の「気ままな旅」は、この紀行文を淵源(えげん)とする。大学卒業後も『おくのほそ道』に惹かれ、今もって名所巡りを続けるのはその証しである。
 たとえば、深川、千住、日光、白河の関、塩竈(しおがま)神社、松島、石巻、平泉、天童、立石寺(りゅうしゃくじ)、最上川、酒田、象潟(きさがた)、金沢、永平寺、大垣など。同じ場所を数回訪れたことも珍しくない。特に深川は『おくのほそ道』出発の地である。さらに芭蕉という俳号も深川に移り住んでから使用している。もともとの俳号は、中国の詩人李白に由来する「桃青」(李に対する桃、白に対する青)である。門人の李下(りか)に贈られたバショウの株が家の周りに生い茂ったことで、その家が芭蕉庵(あん)と呼ばれるようになり、やがて「芭蕉」と号した。
 筆者は時々芭蕉に惹かれて、(東京都)江東区芭蕉記念館を訪れる。都営大江戸線森下駅から徒歩5分。「記念館」前のバショウが目印。館内は『おくのほそ道』をはじめ、芭蕉関係の資料が閲覧できる。また館外の庭園は芭蕉の句に詠まれた草木が植えられ、築山には芭蕉庵を模した祠(ほこら)や句碑が点在する。深川芭蕉庵で詠んだ次の3句が当時を彷彿(ほうふつ)させる。
  草の戸も住み替る代ぞひなの家
  ふる池や蛙(かわず)飛こむ水の音
  川上とこの川下や月の友
 「記念館」の裏口を出ると、目の前に隅田川、右横に新大橋が現れる。堤防沿いの小道を左へ3分程歩いて間もなく、芭蕉庵史跡展望庭園に行き着く。ここは隅田川と小名木(おなぎ)川に挟まれた一角で、二つの川が一望できる。芭蕉の原風景であり、創作のモチーフになっている。芭蕉はこの深川に約14年間住み続けた。芭蕉庵は俳諧の活動拠点であり、人生のクライマックスを演出した聖地である。
 元禄7(1694)年5月11日、芭蕉は旅の途中で亡くなる。享年51歳。
  旅に病んで夢は枯れ野をかけ廻(めぐ)る
 「庭園」に鎮座する芭蕉像は、隅田川を眺めて何を想っているのだろう――。
(東北女子大学家政学部教授 船水周)

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これからの日本語「多様化する地域社会」

2018/12/16 日曜日

 

 来年4月から大幅に外国人労働者を受け入れる法案が可決した。これまで日本は外国人材の受け入れについて、日系人を中心とした定住者や日本人の配偶者、特別な能力(大学教授や芸能人など、平成29年からは介護士も含む)を持つ人材や、開発途上国への国際協力を目的とした技能実習、留学生のアルバイトなどといった厳しい制約を保ってきた。自国民の雇用を守ってきたと言い換えてもよいだろう。
 外国人看護師・介護福祉士候補者を受け入れてきたEPA(経済連携協定)においても、平成20年のインドネシアにはじまり、その後、フィリピン、ベトナムと続いて次々と受け入れてきたが、その説明はあくまで「労働力不足への対応ではなく、2国間の経済活動の連携の強化の観点から」「特例的に行う」という説明を繰り返してきた。しかし、ここにきて急に人手不足と言い出したので、みなが感じていた現実味とは別に、説明が唐突な感じは否めないだろう。
 実態として、今、私たちの暮らす社会はさまざまな人々と共に暮らす社会である。地域社会で暮らすには、ごみの出し方、挨拶の仕方、雪の片付け方など実に細々としたきまりや暗黙のルールに従わなければならないこともたくさんある。地域の人間にはあまりにあたりまえと思われているから明文化されずにいることも多い。そういう細々したことは、日本に暮らすことになった外国の人々が、仕事をするために必要かどうかということ以前に、地域で暮らしていくために必要なことだ。その知識やルールの共有は、外国人だけでなく、たとえ日本人であっても他地域から来た人間には難しいのだ。
 また、この先の私たちのコミュニケーションを考えるとき、気になることの一つは敬語の運用だ。敬語は他の言語にないわけではないが、日本語の特徴と言える。先日、参加した沖縄県の宮古島で行われた消滅の危機にある言語・方言サミットでも、話題になったことの一つは、若い人に方言を継承していくには、方言の敬語を間違えても、とがめないことが大切だということだった。人間関係を円滑に保つ一方で、間違えると人間関係を壊す要因ともなるため、若い世代ほど敬語が苦手という意識がある。
 ますます多様化することが予想されている地域生活の中で、地域を一緒に作っていく仲間である外国人留学生や労働者に、私たちはどんなコミュニケーションを望ましいと考えるのだろうか。ですやますを中心としたもっと簡単な敬語に私たちも一緒に切り替えるのか、彼らには日本人のような敬語を求めないのか、私たちの人間関係維持機能である敬語は、付き合い方のバロメーターと言える。
(弘前学院大学文学部教授 今村かほる)

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頑張らない勧め「師走はなぜ忙しいのだろう」

2018/12/9 日曜日

 

 テレビや新聞の記事で「師走に入り、街はいっそう慌ただしさを増しています」という類いのフレーズを、よく見聞きするようになりました。師走は、12月を指す言葉で「しわす」または「しはす」と読みます。由来は「僧侶が仏事のために走り回る」「参詣者の世話をする御師が一年で一番忙しい」「教師も慌ただしく走り回る」等、諸説あるようです。
 確かに、12月は忙しく、あっという間に過ぎてしまうように感じるのですが、いったい私たちの生活の中で、何がそうさせているのでしょう。ちょっと整理をしてみました。
 1 師走はイベントが多い
 クリスマスとお正月という二大イベントがやってきます。どちらも楽しい行事ですが、行事の準備が二つ重なるとなると準備が大変になりがちです。さらに忘年会もあります。最近は、職場だけでなく、趣味のサークルや同窓会等、いろいろ集まりも増えて、1回では済みません。毎週末の飲み会に、飲み疲れしている方もいますね。
 2 師走は雑事が増える
 大掃除はもちろんですが、お歳暮の手配(場合によっては持参)、新年に向けた年賀状作成など、他の月にはない作業がどんどん増えていきます。
 3 師走は仕事が増える
 年末年始休みになる役所、医療機関、金融機関に絡む用事は、前倒ししておく必要があります。年末年始の休みを利用して田舎に帰省しようと思っている人は、それまでに、仕事を片付けることを求められる場合もあるようです。また、個人事業主となると、年末までの収支を報告しなければいけなかったり、年末調整やボーナスに伴う給与計算が必要だったり、仕事が増えます。
 4 師走は買い物が増える
 イベントの準備や、新年をあらたまった気持ちで迎えたいということから、買い換えたいものもいろいろ浮かんできます。そのため買い物量が桁違いに増えます。1回の買い物で全部揃えるのは無理がありますから、実質的に買い物の回数が増えるということにもなるわけです。さらに、ボーナスを機に家電製品や車など高額な物を買い換えるとなると、品物の検討の時間も必要になります。
 考えただけで疲れてきます。でも、避けては通れませんし、日本の伝統も大事にしたいですから、できるだけ楽しんで取り組めたらいいですね。そのためには頑張りすぎないことが大事です。優先順位を決めて、手抜きすることも大事です。「大掃除はこのエリアしかやらない」「年賀状は明けてから書く」など、「ねばならない」をやめて、何か一つでもいいので、手抜きをすることを決めてみましょう。気持ちが軽くなって、少し楽しめるかもしれません。
(弘前医療福祉大学教授 小玉有子)

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幻に終わった首相「苫米地義三氏のこと」

2018/12/2 日曜日

 

 先日、中曽根元首相が蔵書を国立公文書館に寄贈するという記事が出ていたが、その中に雑誌「改進」も含まれていた。「改進」は、戦後間もない昭和27年2月に結成され、同29年11月、日本民主党に吸収された保守中道政党の改進党の機関誌である。昭和22年に政治家に転身した中曽根氏は、民主党、国民民主党を経て改進党に所属したので、この時に入手されたのであろう。当時の出版状況はよくなく、さらに70年以上も経過している今日、「改進」は、戦後混乱期の政治の一端を示す貴重な資料である。
 ところで、中曽根氏と「改進」の文字を見た時、私の脳裏をよぎったのは苫米地義三氏のことである。氏については、以前この欄で、安倍政権による衆議院解散を「大儀なきものと評した際、昭和27年の吉田首相による衆議院解散(「抜き打ち解散」)を憲法違反として訴訟を起こした人物で、この訴訟は現在に至るまで、衆議院の解散を考える際に重要な視点を提供するものだとして紹介した。この苫米地氏こそが、中曽根氏が所属した民主党や改進党を、後に首相となる三木武夫氏らと結成し指導した政治家ある。
 苫米地氏は明治13年、青森県上北郡藤坂村(現十和田市)に生まれ、昭和21年4月の戦後初の衆議院選で当選し、衆議院議員3期、参議院議員1期を務め、片山内閣で運輸大臣、芦田内閣で国務大臣兼内閣官房長官に就任するが、昭和23年10月、芦田内閣が昭和電工疑獄事件で総辞職した政治的混乱の中で、首相候補として上ったことを知る人は殆どいないだろう。
 当時の日本は連合国の占領下にあり、首相の選出も、占領軍総司令部(GHQ)の意向が大きく働いていたが、GHQも民生局(GS)と参謀第2部(G2)では考え方が違っていた。そうした中で、芦田内閣の総辞職後の首相候補として、G2は強力に吉田茂氏を推し、GSはワンポイントリリーフとして山崎喜久一郎氏、その後は速やかに苫米地氏に禅譲するというシナリオを持っていた。吉田氏も山崎氏も自由党であり、芦田氏や苫米地氏の民主党より少数派であるが、疑獄事件で不評を買った民主党ではなく自由党に一時的に首相の座を譲り、その後、多数派の民主党の最高実力者である苫米地氏が首相に就くというものである。
 最近は余り聞かないし、決して正しい評価とは言い難いが、以前はよく、岩手県と青森県を比較し、インフラ整備などで青森県が遅れをとっている理由として首相を輩出していないことを上げる向きもあった。「苫米地首相誕生」のシナリオは、マッカーサー最高司令官により挫折させられ、幻と消え去った。歴史に「イフ」はないが、もし(「イフ」)、苫米地首相が誕生していれば、青森県はどうなったのであろうか。
(青森大学名誉教授 末永洋一)

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コトのデザイン「お寺さんたちの取り組み」

2018/11/25 日曜日

 

 先ごろ、今年度のグッドデザイン賞の各賞が発表された。5000近くの応募の中から最高賞のグッドデザイン大賞に輝いたのは、なんとデザインとは無縁のお寺さんたちの取り組みだった。
 その名は「おてらおやつクラブ」。お寺にあがった「おそなえ」のお菓子などを仏様からの「おさがり」として、経済的に困っている家庭の子供らに届けるための仕組みである。いわば「コトのデザイン」。具体的には、寺と貧困家庭を支援する地域の団体を積極的にマッチングすること。さらには全国のお寺や支援団体に参加を呼びかけるとともに、檀信徒や市民に向けてウェブや会報などで取り組みを広くアピールするというものだ。全国から約1000ものお寺が参加し、約400の支援団体との連携が生まれている。
 今般のグッドデザイン賞は、単に外観美や機能性の秀逸さを顕彰する制度ではない。昨年私たちの取り組みである「バル街」も地域づくり特別賞を受賞したように、近年の審査は「コトのデザイン」にも大いに注目し、出来上がるまでの過程や思想、意義などが重要視される。社会のなかでの「発見・共有・創造」というサイクルを創出することがこの顕彰の使命だという。従来型の「モノのデザイン」ではなく「コトのデザイン」が大賞に選出されたことは、モノの溢れる高度成長の時代はすでに過ぎ、経済的貧困を含め、数々の課題に直面している時代であることを示したものともいえよう。
 困っている人に寄り添うことは、宗教活動の本質的役割だ。こうした「おすそわけ」もそれぞれのお寺ではずっと人知れずやってきているに違いない。「お寺の『ある』と社会の『ない』を繋ぐ」と当事者たちは簡潔に表現しているが、現在の国内における貧困問題の深刻さが取り組みのきっかけだったそうだ。どこかの宗派の総本山による号令一下のものではない。伝統的規範が根強いとされる仏教界のなかでは、かなり斬新なものだ。一度は実家の寺を飛び出し、民間企業で経験を積んだ若きお寺さんの発想が、ひとたび芽吹くと、たちまち宗派を超えて賛同の輪が拡がったという。
 仏様の存在を介した檀信徒のお供えや心付けが原資ゆえに、その取り組みは数十年あるいはそれ以上も持続可能(サステイナブル)なものだろう。政府や自治体からの補助金に頼る支援とは根本的に異なるのだ。結果的に政権や国家とは一定の距離を置いた、まさにお寺ならではの取り組みともいえよう。
 今般、政府で検討されている消費増税に際しての貧困対策の複雑さや場当たり的な対応に比べれば、この「おてらおやつクラブ」は実にシンプルでサステイナブルだ。なんと頼もしく、美しい「コトのデザイン」であることは間違いない。
(オフィス「オリゾンテ」代表 田村昌弘)

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