日曜随想

 

「あれから3年」新幹線駅がある小さな町の今

2019/3/31 日曜日

 

 先ごろ発表された旅行雑誌の読者投票「道の駅満足度ランキング」で、「みそぎの郷きこない」が2年連続の北海道ナンバーワンに輝いた。北海道内には122もの道の駅があり、強豪がひしめくなかで、この受賞は快挙だ。
 函館に程近い木古内町は、北海道新幹線の木古内駅があり、青森県でも多くの方がご存じのことだろう。人口4000人ほどの小さな町で、道の駅は新幹線開業を機に木古内駅前にオープンした施設である。この喜ばしい受賞を、新幹線開業による効果なのかを考えると、数値理論的にそうと答えるのはなかなか難しいだろう。木古内駅は利用規模では停車便数、乗降客数ともに、奥津軽いまべつ駅に次ぎ、新幹線駅の全国ワースト2。ゆえに、道の駅では新幹線のお客さんはわずかで、周辺地域からわざわざ立ち寄る人やリピート客が圧倒的に多いのだ。
 しかもこの評価は、開設から2年目と3年目のものなのだ。施設の新しさはあろうが、イベントを多く展開しているわけではない。清潔感という指標がダントツのトップでもあり、来館者を迎え入れようとする緊張感のなか、あたりまえのサービスを維持できていることの証左である。すなわち、新幹線開業をきっかけに、住民やそこに関わる多くの人たちの意識に変化がおきたのかもしれない。人のチカラがこの結果を生んだのだ。
 この道の駅に「観光コンシェルジュ」として常駐し案内役を務めてきたのは、浅見尚資さんと津山睦さんだ。2012年に、町の地域おこし協力隊として首都圏から移り住んだ2人は、新幹線開業に向けた準備に奔走してきた。彼らが研修に赴き、観光のいろはを学んだのは、他でもない弘前市だった。観光案内所の運営や街あるき、観光資源の発掘などの手ほどきを受け、その経験を持ち帰った。
 木古内町のみならず周辺の町々のガイドもできるよう、各地を訪ね歩いて開業に備えたという。自分の町をしっかりとガイドできるのはあたりまえ。次の目的地への的確なアドバイスができることこそがプロのガイドというわけだ。
 弘前と木古内にはそんな縁もあってなのか、新幹線開業日の木古内駅前では、弘前市の関係者が観光誘客キャンペーンを行っていた。
 あの日から3年。津山さんは道の駅のみならず「津軽海峡マグロ女子会」のメンバーとして、海峡を跨いで活躍中である。一方、浅見さんはこの春から活躍の舞台を近隣の江差町に移し、新たな地域の観光振興に取り組むそうだ。
 ともあれ新幹線駅があるこの小さな町は、決して前途洋々ではない。まさにこれからが正念場である。北海道新幹線を利用する際には、そんな木古内町をぜひ気に留めておいてほしい。
(オフィス「オリゾンテ」代表 田村昌弘)

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「日本アニメ百年(13)」テレビアニメの台頭(6)

2019/3/24 日曜日

 

 最近はTVアニメが日本の商業アニメ界の主流ですが、劇場アニメにも秀作が数多く制作されています。ここで少し近年の劇場アニメにも触れておきます。いくつか前のお話で触れたことがありますが「AKIRA」という劇場アニメが1988年に日本で公開されました。翌年にはアメリカでも公開されて大変な評判となりました。それから30年がたち昨年、ワシントンポスト紙というアメリカの新聞に特集記事が掲載されました。
 この30年間にこのアニメはアメリカに計り知れない衝撃を与えたというものでした。当時はたかが漫画映画ぐらいの認識でしたが、それが30年間にわたって未だに影響を与えているという内容でした。このアニメは大友克彦監督で原作、脚本も同じです。前回お話しした東京ムービー新社の制作で、当時アニメ映画としては破格の10億円の制作費をかけたといわれています。じつはこのアニメの制作は、この規模ですから大変遅れていました。そこでアニメスタジオ同士の繋がりで、スタジオジブリの「となりのトトロ」を制作したスタッフたちが出向して手伝ったということです。さらにジブリの「魔女の宅急便」というアニメ映画の制作にあたり、このときのお礼なのでしょう今度は「AKIRA」のスタッフが加わったということです。そして、お互いに親交を深め、このときの関係者が結集して新しいアニメスタジオ「スタジオ4℃」が誕生します。
 2004年このスタジオ制作で、湯浅政明監督、脚本の「マインドゲーム」が単館上映されます。この劇場アニメは第59回毎日映画コンクール大藤信郎賞を受賞、さらに第8回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、海外でもカナダの05年モントリオール・ファンタジア国際映画祭では最優秀作品賞を含め5部門で受賞し、06年パリ・KINOTAYO映画祭大賞など数々の賞に輝きます。
 吉本興業も全面協力して、コメディータッチのふしぎな作品となっています。劇場アニメAKIRAの誕生からこのマインドゲームまでの繋がりに、全く表現が違う作品ですが不思議な縁を感じます。湯浅監督はTVアニメの「クレヨンしんちゃん」の作画監督を務めたりしていました。スタジオ4℃制作ではありませんが、その他の湯浅監督の劇場アニメ作品に「夜は短し歩けよ乙女」があります。17年カナダのオタワ国際アニメーションフェスティバルにて日本人の監督では初めて長編部門グランプリを受賞しました。同年「夜明け告げるルーのうた」ではフランス、アヌシー国際アニメーション映画祭で、長編部門最高賞のクリスタル賞を受賞しています。興味がおありの方は、湯浅監督の作品も是非ご覧になっていただきたいと思います。
(弘前大学教育学部教授 石川善朗)

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「気ままな旅」新宿区・漱石山房を訪ねる

2019/3/17 日曜日

 

 夏目漱石(そうせき)が晩年(1907~16年)を過ごし、『三四郎』『門』を生み出した家は「漱石山房(書斎の意)」と呼ばれた。山房があった新宿区早稲田南町は漱石の誕生、終焉の地だ。山房は45年の空襲で焼失したが、2017年9月24日、ここに「新宿区立漱石山房記念館」(地上2階、地下1階)が開館した。ガラス張りの瀟洒(しょうしゃ)な建物は緩やかな坂の上に建つ。前庭には山房の象徴的な植物であるバショウやトクサが植えられ一際目をひく。
 1階で最初に驚かされるのは、再現された漱石山房の書斎。愛用した紫檀(したん)製の文机(ふづくえ)。白磁の火鉢。平積みされた書籍群。それが見事に調和し整然と並んでいる。書斎の外はベランダ式回廊が設置されていた。執筆に疲れたとき、漱石はここで籐(とう)椅子に座り、お気に入りの庭木や草花をゆったりと眺めてくつろいだらしい。
 2階へ上がる踊り場付近では猫のシルエットが漱石の世界へと誘(いざな)う。そのあと館内を一巡すると、次のように漱石の人となり、人物像が立体的に理解できる展示に工夫されていたことがわかる。[1]漱石の作品世界(1・2・3・4)[2]漱石を取り巻く人々[3]所蔵資料(草稿・原稿、書簡・葉書等)[4]漱石の人物と生涯(生い立ち・学生時代・結婚家族・イギリス留学等)[5]DVD映像(《1》夏目漱石と新宿〈9分〉《2》木曜会と漱石の門下生・友人たち〈8分〉計17分)。
 山房裏側は漱石公園になっている。入り口前に漱石の胸像(「則天去私」の銘)、正面に道草庵、左手に猫の墓がある。猫の墓は『吾輩は猫である』のモデルとなった福猫、『硝子(ガラス)戸の中(うら)』に出てくる犬(ヘクトー)、『文鳥』のモデルとなった文鳥など、夏目家のペット供養塔である
 漱石は自分を慕う門下生や若者のために木曜を面会日に定め自由に語り合った。そしてこの会から漱石山脈と称される人材が輩出された。ちなみに漱石の思想は大学院時代の恩師・ケーベルに影響を受けている。東京朝日新聞掲載の「ケーベル先生の告別」に「先生に一番大事なものは人と人を結び付ける愛と情(なさけ)だけである」と述べていることでもわかる。
 門下生の森田草平はいう。「先生の前にいると何でも自由に言える。叱られることはあっても、誤解されることはない。そしていつも何か暗示をうける」。また作家になる久米正雄と芥川龍之介に宛てた手紙には「あせってはいけません。ただ牛のように図々しく進んで行くのが大事です」と書いた。漱石の異次元の人間愛、真摯な生き方がそうさせるのであろう。
 漱石山房へは東西線早稲田町外苑(がいえん)東通り出口1から表示通りに小路を進むと、5分で着く。小路に入らず坂を下り、生誕の地(小倉屋の隣)・夏目坂を通って早稲田小学校へ抜けるコースを辿(たど)れば、12分程度かかる。漱石に興味関心がある方は一度訪ねてみてはいかがだろう。
(東北女子大学家政学部教授 船水周)

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「お節介のすすめ」おばちゃんでよかったこと

2019/3/10 日曜日

 

 連日、児童虐待のニュースを目にする。本当に痛ましい事件ばかりだ。なぜ、この子たちは楽しい、光輝くような人生の楽しみを、十分に味わうこともできずに亡くならなければならなかったのだろう。人の子の親の一人として、口惜しさと共に深い悲しみで胸がつぶれそうな思いがする。子どもはひとりひとり、いろいろな形があるにせよ、幸せになるためこの世に生まれてきたのだと信じたい。そうすることが大人の務めなのではないだろうか。そんな風に大上段に振りかぶって言わなくても、みんながちょっとずつ、お節介になればいいのだ。
 私自身がフルタイムで仕事をしていることから、私の子どもには血のつながった祖母2人のほかに、血のつながらない地縁による祖母が3人、そのほか子育てを手伝っていただいた方々がたくさんいる。みなさんに手も口も出してもらった。「前のオリンピックくらいまでは、そしたふうに近所で子守ばするって感じあったんだいな」と言われたが、私は平成にそうした恩恵にあずかった。
 私の大きな変化は、子どもができてから自分のことを「おばちゃん」と平気で言えるようになったことだ。自分はおばちゃんなんだと納得すると、おばちゃんらしさは加速できた。おばちゃんは、ある意味、無敵である。これまで遠慮してできなかった「手出し」や「口出し」も徐々にできるようになっていた。
 小さな子どものいるお母さんは、ゆっくりと温泉に入ることも、美容院に行くこともままならない。乗り物の中で子どもが泣くと、周りに遠慮して、座っていづらくなったりするそんな様子のお母さんを見ると、つい、「ちょっと抱っこしてましょうか?」と言いたくなる。ほんのちょっとした声掛けが、本当に助かる時がある。それはお父さんも同じだ。核家族化が進み、誰かに相談したくても、他からの助けが得られにくいばかりか、誤解されて虐待だと言われるのも困るなどと考えたら、子育ては楽しいものでなくなるだろう。
 夜泣きしても、おねしょしても、わけのわからない事で泣いたり怒ったりしても、子どもはいつまでも子どもではいない。親だって一緒に一日一日親になっていく。そんな簡単そうなことがわからなくなるくらい、子育てが辛いことだってある。でも、みんな経験してるから当たり前なのではなく、みんな経験してるから辛いのわかるよと言ってあげたい。
 おばちゃんになってよかったのは、こうした口出しと手出しができるようになったことだ。今は、職場で学生にも実践している。おばちゃんのちょっとウザイかもしれないお節介や親切の押し売りが、子どもや親、そして学生をひとりにしない、そんな平和があってもいいだろう。
(弘前学院大学文学部教授 今村かほる)

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「今日は何の日」日本の行事・記念日

2019/3/3 日曜日

 

 3月3日は、「桃の節句」「雛祭り」として有名です。この行事は、平安時代に、中国から日本に伝わり、草木、紙や藁で作った素朴な人形(ひとがた)に自分の厄災を移す習わしや、貴族階級の子女の間で始まった「ひいな遊び」という人形遊びが結びつき、海や川に人形を流してお祓いをする「流し雛」の習慣となったそうで、江戸時代には、「上巳(じょうし、じょうみ)」の節句」と呼ばれていました。3月の最初の巳(み)の日に行われていましたが、のちに3月3日に定まりました。節句が五節句の一つに定められると、5月5日が男の子の節句であるのに対し、3月3日は女の子の節句となり、桃や雛人形を用いることから、「桃の節句」「雛祭り」と呼ばれるようになりました。以前から、どうして桃なのだろうと思っていましたが、桃は魔除けの効果を持つとされてきたからではないかということでした。
 この他にも、天徳2(958)年に大宰府で「曲水の宴」が始まったのも3月3日(旧暦)。十二単、衣冠(いかん=貴族や官人の宮中での勤務服)などの平安装束をまとった詠み人が、曲水の溝に浮かべられた盃が流れてくるまでに詩歌を詠み、酒を飲み干す禊祓(みそぎはらえ)の雅な神事だそうです。また、信長の父・織田信秀の忌日、さらに前田利家の忌日で、開国にまつわることでは、桜田門外の変、そして日米和親条約締結の日でもあります。
 地方ごとにも、古くから伝わる様々な行事があり、南魚沼市では、国の無形民俗文化財に指定された奇祭「越後浦佐毘沙門堂裸押合大祭」が開催されます。上半身裸の男衆が「さんよ、さんよ!」の掛け声とともに押し合いながら毘沙門天を誰よりも早く、近くで参拝しようとする祭礼です。また、千葉県香取市では、「木内神楽(きのうちかぐら)」が奉納されます。文化年間(1804年~)の頃には既に行なわれていたことがわかっている歴史ある神楽で、五穀豊穣・商売繁盛を祈願して行われてきました。
 慶長8(1603)年、初代の木造橋が江戸に架けられたのも今日で、今では日本橋という地名です。33の語呂合わせから、「耳の日」とも言われており、三重苦のヘレン・ケラーにサリバン女史が指導を始めた日だとか、電話の発明者グラハム・ベルの誕生日でもあるとか、補足情報も様々あります。他にも「ちらし寿司の日」「耳かきの日」「女のゼネストの日」「金魚の日」「結納の日」「ジグソーパズルの日」…。いろいろ調べてみると、知らないことがたくさんあって、勉強になりますが、何もない日はあるのでしょうか。
 『この味がいいね』と君が言ったから7月6日はサラダ記念日。俵万智さんの短歌を思い出しました。
(弘前医療福祉大学教授 小玉有子)

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