日曜随想

 

「読書活動の効果」子どもは本を開く大人を見る

2016/1/17 日曜日

 

 昨年末に秋田市立図書館を訪ねた。市内5館で専門職採用された司書が読書案内や調べ物の相談に応じ、子どもの年齢に合わせた家族向けの本紹介など様々な事業が実施されている。また300人ものボランティアにより視覚障がい者・高齢者への対面朗読や子どもへの読み聞かせ、本の補修等が行われており、市民の社会参加の場となっている。図書館を拠点に地域で本に親しむ文化を感じながら、安直だが「全国学力テスト第1位」が頭をよぎる。
 平成21年度全国学力・学習状況調査をもとに国語、算数/数学の学力と読書活動の関係を分析すると、読書好きの子どもほど学力が高く、また平日の時間を計画的に使って読書の時間を生み出しているという。(「学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査 C.読書活動と学力・学習状況の関係に関する調査」静岡大学による文部科学省委託調査研究、2010)
 さらに読書の効果は学力だけではないらしい。青少年および成人を対象とし、子どものころの読書活動が成長後の意識・能力に及ぼす影響についての調査からは、就学前からの読書活動が多いほど、職業意識や将来展望といった未来志向性、社会性、自己肯定感、意欲・関心、文化的作法・教養、そして選挙や政治への関心や意見を持つといった市民性において、意識や能力が高い。特に小学校低学年までに家族から昔話を聞いたり、絵本を読んだり読み聞かせをしてもらった体験と社会性や文化的作法・教養の高さに関連が強いという(「子どもの読書活動の実態とその影響・効果に関する調査研究」国立青少年教育振興機構、2013)
 では子どもを読書好きにするためには?厚生労働省の調査からは、単行本や文庫を多く読む父母の子どもは絵本や児童書を読む冊数が多く、親子の読書習慣に相関があることが示されている。(「21世紀出生児縦断調査」2010)また先述の学力との関係を見た調査によると、学校図書館に学校図書館司書がいる場合は利用頻度が高いほど学力が高く、資料を活用する指導が行われている学校の児童生徒は、必要な情報から解釈し、熟考・判断し、自らの考えを表現する能力が高いという。本や図書・資料を介した大人の姿や関わりが子どもの読書活動に影響を与えていることがわかる。
 青森県内の学校図書館司書の配置状況は全国最下位であり、市町村立図書館の設置状況も最下群、図書館職員の数も非常に乏しい。弘前市立図書館の運営には指定管理者制度を導入することが決まった。子どもの学力にもつながる地域の読書環境を形成する図書館はもっと教育政策の中に位置づけられる必要がある。学都弘前の教育環境の動向は今、県内だけでなく北東北の自治体からも注目を集めている。
(弘前学院大学文学部講師 生島美和)

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「個を磨き人を育てる」店は自分の物語のためにある

2016/1/10 日曜日

 

 株式会社物語コーポレーション(小林佳雄会長)は、焼肉「国内2位」、ラーメン「同5位」、お好み焼き「同3位」などの飲食店を全国に展開する。8年連続売上げ2桁増、10期連続増収増益。一部上場企業である。
 多くの会社は、人の和を重視する家族主義を目指す。そして一人一人に気を掛け合いながら、店舗、会社を一つの方向に向けようとするが、この会社は違う。一人一人の異なる性格を大切にし、個を尊重し、伸ばす人材育成企業を目指している。なぜならば飲食業の店舗は決して会社のためだけにあるのではない、社員一人一人が、自分自身の人生の物語を追求するためにあり、自分自身が集まって会社物語ができる。実はそれこそが物語コーポレーションの理念であるからだ。
 小林氏のすごいところは自分の弱さを包み隠さず開示して、とことん内省した自己分析結果を、会社説明会にきた学生の前で披露することである。
 慶応大学卒業の学歴を持たれるが、就職では苦戦の連続であった。30社、大小の会社を落ちた。そしてさらに、親から引き継いだ店においても、引き継いでまもなくに従業員が次から次へと辞めていったのである。
 何故なのか、ここから深く、凄まじい内省が始まる。そして気づいた事実は、就職も、結婚も、自分で判断していなかった。自分で何も意思決定していなかった。人に聞かないと判断できない自分がいたということであった。
 今多くの人が、自分が人からどう思われているのかで進路を決めている。だから受験と同様に、いい企業、有名企業を目指す。たった一回の人生をそんな決め方で決めていいのか。人は日々、新たに創造し、成長していく。だから瞬間、瞬間を精一杯生きなければならない。そのことをどうやって学生に知らせるか、それは説明会で自分を語るしかない、と決断された。
 入社式、新入社員100人への入社激励書は、一人一人の内容が違って書かれている。入社したその日から自分の物語が始まり、その日から会社の魅力に取りつかれ、燃えてくる。ある店長は店の長として、すべての判断をやらせてもらえるので、自分の価値観が店の経営に出せるのがいいという。この結果、業界平均離職率30%の中で物語コーポレーションは10%前後という低い数字がキープできるのである。
 今を生きろ、一日一日を大切に、その時、その場所で、何ができるのか、懸命に考え、判断し、行動しろ。これが小林流であり、会社説明会では孫子の兵法である「己を知ること」、ドラッカーが説く「リーダーの役割は意思決定」といった経営の真髄を熱く語られた。紙面が今回ほど足りないと思ったことはない。
(弘前医療福祉大学短期大学部教授 牛田泰正)

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「テロ、仏国と中国」寛容性か民族弾圧か

2016/1/3 日曜日

 

 21世紀が始まった2001年9月11日、アメリカで同時多発テロが勃発し、以来15年、テロリズムが止まないどころか、ISのような、より過激で無差別なテロさえ横行している。
 昨年11月のパリ同時多発テロは典型だろう。こうしたテロが起きる度に繰り返し主張されるのが、ハーバード大のハンチントン教授が唱えた「文明の衝突」論である。冷戦の終結以後の世界は異なる文明が衝突を引き起こすというもので、特にキリスト教文明とイスラム教文明の間には激しい衝突が起こすとした。もちろん、この考えは正しくなく、アメリカやパリの同時テロを引き起こしたのは一部の過激思想に染まったイスラム教徒であることを我々は知っている。しかし残念ながら、人間は時として理性を失い熟慮することを忘れがちだ。その結果、キリスト教文明圏でイスラム教徒が起こしたテロを「文明の衝突」として喧伝し、イスラム教徒を排除しようとする排他的な行動を起こしがちになる。パリ同時テロから間もなく行われたフランス地方選挙でもそうした傾向が現われ、排外主義を唱える国民戦線が第1回投票では第1党となった。幸い自由と民主主義の故郷であるフランス国民は決戦投票では賢明な判断を下し、国民戦線は第1党とはならなかった。フランス国民の寛容と理性が勝利したのである。
 ところでこれと逆の方向に動いているように思えるのが中国である。以前にも書かせていただいたが、中国政府の少数民族政策、特に対ウイグル政策は民族の尊厳を根底から否定するものであるように思えてならない。
 01年6月に新疆ウイグル自治区で起こった漢民族学生とウイグル民族の衝突以来、中国政府は一貫してウイグル民族の締め付けを強化しており、アムネスティ・インターナショナルは、世界で最も死刑が執行されている地域としてこの自治区を挙げている。
 そうした中、中国政府はパリ同時テロが起きるや否や「テロとの戦い」を宣言し、一部のウイグル民族のIS参加を口実に、ウイグル民族=イスラム教徒=テロリストなる図式を創り上げパリ同時テロの翌日にウイグル民族テロリスト26人を掃討したと発表した。しかし、この時射殺されたウイグル民族は9月に炭鉱で起きた事件で殺害された人たちの仲間であり、テロリストとは全く関係ないとされている。炭鉱の事件の詳細は不明だが、王毅外相はこの自治区でのウイグル民族対策が世界的な「テロとの戦い」の一環であると世界に表明した。しかし、事実は「テロとの戦い」を口実とした民族弾圧であることは容易に想像できる。
 大国・中国が世界のルールに従い、少数民族を対等に扱う日が来ることを期待したい。
(青森地域社会研究所特別顧問 末永洋一)

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