日曜随想

 

「気ままな旅」松阪・本居宣長の魅力

2019/6/9 日曜日

 

 2019年5月3日早朝、ゴールデンウイーク10連休の後半を利用して新青森駅から三重の松阪駅へ向かう。新元号「令和」に変わって最初の旅である。
 本居宣長(もとおりのりなが)は松阪で生まれ育った。小児科の医者で生計を立てながら、当時誰も読めなかった1000年前の日本最古の歴史書・古事記を、古事記伝(注釈書44巻)にまとめ上げた国学者である。
 全て独立独歩で学問を続けるしかなく、古事記に書かれた「天地」2文字の解読に5年を費やしたエピソードもある。古事記伝の完成は35年を要した。今日、誰もが古事記を読めるようになったのは、この労作のお陰であるといわれる。宣長は魅力的な人物である。松阪への旅は既に5回を数えるが、ここへ来ると必ず新しい発見、感動が得られる。
 見えない心をもつ人間を容易(たやす)く理解できるとは思わない。まして宣長ほどの大人物をそうやすやすと理解できるはずがない。何度来ても気付けない、わからないことがある。見落としも少なくない。
 松阪駅に降り立ったら、まず次の三つを見てほしい。駅前に設置した鈴のオブジェ、駅舎の全景、駅右手の観光案内所。なぜか。歴史の街・松阪ならではの落ち着いた佇(たたず)まいが実感できる。
 駅前通りを約4分進むと日野町交差点が見える。一角に「右わかやま道」「左さんぐう道」と刻まれた江戸時代の道標(伊勢街道と和歌山街道の分岐点)がある。そこを和歌山側へ30秒進むと左が本居一族の菩提寺(ぼだいじ)である樹敬寺(じゅきょうじ)宣長と長男春庭(はるにわ)の墓が背中合わせに立っている。
 交差点に戻り、左へ歩道を進む。間もなく宣長と賀茂真淵(かものまぶち)が対面した「松阪の一夜」の舞台(宿)・新上屋跡(しんじょうやあと)があるこのとき真淵は古事記研究に万葉集を読むことを勧めた。以来宣長は真淵と手紙のやりとりで学びを深める。歩道をさらに進むと本町交差点正面に豪商・三井家(越後屋・三井グループ)発祥地、左へ曲がると松阪城跡の石垣が見える。この松阪城跡の後ろに本居宣長記念館と魚町から移転した宣長の旧宅「鈴屋(すずのや)」がある。
 この日の記念館は来館者が多かった。新元号「令和」が宣長の万葉集研究にも光をあてたらしい。隣接する旧宅に宣長は12歳から72歳まで住んだ。鈴屋は53歳のとき、2階に増築した書斎である。
 床の間近くに疲れを癒やす「柱掛鈴(はしらかけすず)」をかけたので、鈴屋と名付けられた。宣長の著作はここで書かれたといわれる。
 古事記伝完成後、弟子たちに請われて書いた学問の初学者向け入門書「うひ山ぶみ」の一節「学問は、ただ年月長く倦(う)まずおこたらずして、はげみつとむるぞ肝要にて」。疑問にこだわって自問自答し自分で道を開いた宣長らしい言葉だ
 日本人の心(もののあわれ)と山桜を愛した宣長の歌が心に響く。「敷島(しきしま)のやまと心を人問(と)はば朝日ににほふ山桜花」
(東北女子大学家政学部教授 船水周)

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「我慢弱さの勧め(2)」ゲーム障害とe―sports

2019/6/2 日曜日

 

 5月25日に世界保健機関(WHO)は疾病及び関連保健問題の国際統計分類第11回改訂版(ICD―11)の6C51にゲーム障害を新たな依存症として、正式に認定しました。ICDは国際間で死因や疾病発生を明らかにするために、1893年に制定され、約10年ごとに分類、修正されてきましたが、今回の修正は約30年ぶりです。ICD―11は昨年6月に公表され、運用に向けた取り組みが各国でなされています。分類名は約3万2000、索引名は約10万のデータベースです。。私たちの生活にはあまり関係がないように思われますが、前回、1995年のICD―10を適用するに当たり、死亡診断書に疾患の終末期としての心不全、呼吸不全等は書かないでくださいの文言が追加されました。その結果、95年から極端に心不全が減少し脳血管疾患が増加したというあり得ない現象が発生しました。
 話をゲーム障害に戻しますと、精神、行動又は神経発達の障害の項目の一つで、診断には、行動様式が個人的、家庭的、社会的、学業的、職業的または他の重要な機能領域において著しい障害をもたらすほど重大でなければなりません。また、障害は少なくとも12カ月間にわたることが求められます。安心したことと思いますが、当事者の周りは大変です。何せ、24時間連れ添っているスマホのアプリも該当します。スマホのネット依存とも連動します。WHOもこれからデータ集めをする項目ですので、実態や対策はまだ先です。障害や依存と感じる方への我慢弱さの勧めとして、終わりのあるゲーム、仲間に義理立てしないゲーム、単価が高いゲームがよろしいかと。ブロック崩しやスペースインベーダーの世代にとっては、何のこっちゃかも知れません。
 これとは別に、e―sportsが取り上げられるようになってきました。e―sportsの競技者には、同情や心配は必要ありませんし、逆に失礼です。競技選手とは精神や肉体を鍛えて(すり減らして)競技に挑む人たちのことですので、健康とは切り離して考えましょう。。
 WHOの発表前の5月23日、昨年設立された一般社団法人日本eスポーツ連合は、国際疾病分類に“Gaming disorder(ゲーム障害)”を追加する動きを受け、科学的な調査研究に基づく効果的対策を模索することを目的に、公正中立で専門性を持つ外部有識者による研究会(坂元章代表)に、調査研究の企画や取りまとめを委託することとなりましたとの声明を出し社会的対応の意思を示している。
 依存や障害など精神性疾患の多くが本人はあまり意識していないが、他人から見て常軌を逸している行動と思われる。ワークライフバランスなど意識したことのない仕事依存の人たちはどうであろうか。
(弘前学院大学看護学部教授 三上聖治)

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「国民性はさまざま」それって『五月病』かも

2019/5/26 日曜日

 

 「五月病」という言葉をご存じですか。アメリカの精神科医が、仕事を始めて1カ月くらい経つと、体調不良を訴える症例が多いと報告したのがきっかけのようですが、その後日本でも、望月衛という心理学者が「五月病」という言葉を使い始め、1960年代から、多くの人に使われるようになりました。
 5月の連休の後に、学校や会社に行きたくない、なんとなく体調が悪い、授業や仕事に集中できないなどの症状を訴えることから、「五月病」と呼ばれるようになったのですが、症状としては▽やる気が出ない▽些(さ)細(さい)なことでもイライラする▽不安や焦りがつきまとう▽体がだるくて睡眠も浅く、疲れがとれない▽食欲がわかず、おいしさを感じられない▽動悸、息切れ、めまいの症状が出る―などが挙げられますが、これらの症状をきっかけとして、徐々に体調が悪くなり、欠席や欠勤が続くことがあります。新社会人では、会社に入り、新人研修を終え配属先も決まって、仕事を任され始めた六月頃から症状が出ることから「六月病」とも呼ばれています。
 「五月病」について、世界各国の事情を調べてみると、興味深いことがわかりました。
 お隣韓国では、3月が新年度の始まりで、3月に似たような症状を示す人がいるようです。「春困病(チュンゴンチュン)」といい、生活の環境が変わったストレスが原因と言われています。
 アメリカには五月病に似た症状として、冬休み休暇明けの1月に「January blues」、夏休み明けに「September  blues」があります。英語で「Blue(青)」は憂鬱(ゆううつ)な精神状態を表しています。アメリカでは、進学や就職などの環境の変化によって大勢が同時期に不調を訴えるような事例は、あまり見られないそうです。イギリスでも、1月はみんな気だるそうにしているそうですし、ドイツには「Urlaubsblues」という言葉があり、長期休暇明けの憂鬱という意味です。ドイツ人は休暇をとても大切にするので、気分が沈む人が多いのでしょう。クリスマス休暇を重視する国ではよく見られる症状なのだと思いました。
 ブラジルでは、サンバカーニバルが終わる2月後半から3月にかけて「カーニバルロス」があるそうです。人々の気分が落ち込み、経済が停滞する事態になることもあるそうです。
 「お休み終わっちゃった。残念!」と嘆いている欧米の方々に比べると、日本の「五月病」はまじめな日本人が頑張りすぎるがゆえの病なのかもしれませんね。
 解決策を調べても「生活のリズムを整え…。」とこれまたまじめな回答ばかり。日本人は、もっと自分が楽しめることを考えた方がよさそうですね。
(弘前医療福祉大学教授 小玉有子)

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「スリランカとテロ」新たな融和と発展を祈念

2019/5/19 日曜日

 

 今年2月2日のこの欄で、「ツクツクとスマホ」と題し、スリランカ旅行の印象を、経済発展とその矛盾を中心に書かせて頂いた。そのスリランカで、イスラム教徒による自爆テロが起こり、日本人を含む多くの死傷者が出たというニュースに接した時、私には驚き以外の何物でもなかった。同国のイスラム教徒は全人口(約2千万人)の1割にも満たず、コロンボやゴールなどの都市部を中心に商業者などとして全土に散居しており、全人口の70%強を占めるシンハラ民族と「共生」していると思われたからだまたこうしたテロ事件が起こったのは、アジア社会においては、イスラム教徒が多数を占める国々、例えばバングラデシュやインドネシアであったという事実もある。
 スリランカでも宗教を異にする民族間の対立や衝突は幾度かあったが、仏教徒のシンハラ民族とヒンズー教徒のタミル民族の「民族紛争」を例外として、いずれも小規模なものであった。シンハラ民族とタミル民族間の「民族紛争」は、シンハラ民族中心の体制づくりに対し、タミル民族の青年層が反発し、武力闘争へと発展したもので、2009年には軍事力で圧倒する政府軍(シンハラ民族)の完全な勝利で内戦は終結した。民族的対立が完全に解消したわけではないが、以来20年余、国内の安定を背景に外資の導入を図り、経済格差や外資による支配などはあるものの、比較的順調な経済発展を遂げてきていた。そうした中、同国のイスラム教徒が過激化し、他民族、他宗教、さらに外国人へ無差別テロを実行したことに戦慄(せんりつ)と憤りを禁じ得なかった。
 テロ事件の全貌は未だ明らかではないが、イラク、シリアの混乱の中で一時は広大な領域を支配下に置いたイスラム過激派テロ集団であるIS(イスラミック・ステート)の影響があるとされる。周知のようにIS自体は組織的にはほぼ壊滅させられたが、多くの専門家は、その残党が世界各地に拡散し、テロを引き起こす可能性を指摘していた。それが現実になってしまったのであるが、IS残党がテロを引き起こす可能性が高いとされたのは、多くのIS戦闘員を出してしまった欧州やインドネシアなどであり、スリランカで史上稀(まれ)にみる自爆テロが起こされるとは思われなかった。
 テロ事件の結果、同国のイスラム社会は徹底した監視対象となり、民族間や社会の分断が進むことが懸念される。さらに、同国の基幹産業でもある観光業も大きな打撃を蒙(こうむ)り、経済的発展にも影響するだろう。しかし、テロの目的が民族・宗教間の分断と対立を煽(あお)り、社会的混乱を引き起こすことにあるならば、そうした妄動に操られてならないのは当然だ。同国がこの事件を乗り越え、新たな民族的・社会融和を図り、さらなる経済的社会的発展を遂げることを期待したい。
(青森大学名誉教授 末永洋一)

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「デジタルアーカイブ」街の姿を未来に残す

2019/5/12 日曜日

 

 5月3日、弘前では観桜会記念日だった。私の盟友・弘前路地裏探偵団が観桜会のパレードに参加するので、近年これに合わせて訪弘し、撮影したり花見を楽しむのが恒例になっている。大正時代に観桜会開催のきっかけをつくった「呑気倶楽部」という当時の若者集団に敬慕の念を抱き、奇抜な衣装に身を包んで沿道の人々を楽しませた。この扮装(ふんそう)は映画フィルムに収められた当時の観桜会の様子にヒントを得たもの。映像記録が今に残っていたことで、こうしたパレードが実現した。まさか100年後にこうした展開になるとは、当時の進歩派の若者たちも想像しなかったことだろう。
 街の記録といえば、私は15年ほど前に函館で、図書館に所蔵される幕末期から昭和初期までの古写真と絵はがきを撮影や取り込みによってデジタル化する作業に携わっていた。これらは貴重な資料ゆえに公開の機会さえなかったものだが、デジタル化することで調査研究に役立つことはもちろん、誰でも容易に見ることが可能になり、活用の幅がぐんと広がった。「デジタルアーカイブ」(デジタルデータの保管庫という意味)と呼ばれるもので、当時は先駆的な事業だったが、いまでは各地で盛んに行われている。
 いまでこそ映像や写真は最初からデジタルになり、記録のためのコストが大幅に下がったことで、あらゆるものが撮られ、検索も可能になり、アーカイブ(保管)が容易になった。こうしたものが将来、平成以降の街の営みの記録として残っていくことは間違いない。しかし、一般の家庭にカメラなどが普及した昭和30年代から平成初期まで、街は盛んに撮られたが、写真は家庭でアルバムに死蔵され、映像は8ミリフィルムやビデオテープなどで廃棄されてしまうことも多く、近いうちにこれらの多くが失われてしまう危惧がある。さらには新聞や出版業界の低迷、自治体業務の再編や外部化により、誰もが頼りにしているところにさえも残らなくなりつつある状況だ。
 デジタルアーカイブは、将来の世代に記録を残すという意味で学術的にも重要なものであるが、あまり大げさに考えると気力や資金が続かず、目的さえもいつしか見失ってしまうことがあるようだ。ならば、これをもっと気楽に考えてみるとよい。いつぞやの街の姿を写し出す写真があれば、それを酒の肴(さかな)に一晩中いろんな話題に花を咲かせることができるもの。私がかつて携わったデジタルアーカイブは、今ではそんなふうにも使われている。昭和の頃の記録は、至近にある楽しみに向かって、皆で少しずつ手間を持ち寄りながらアーカイブに取り組むのがよいのではなかろうか。
 呑気倶楽部のように楽しむことが、街の姿を未来に残す近道に違いない。
(オフィス「オリゾンテ」代表 田村昌弘)

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