日曜随想

 

「地域のおかげで」 「返せない借り」の順おくり

2017/1/8 日曜日

 

 今年の弘前はいつになく穏やかな新年を迎えた。市街地の人通りがいつもより多く活気づいている気がする。他県に住む我が家の息子も帰省してきたが、二十歳をとうに過ぎた息子にも「孫と同じだから」と言ってお年玉をくださる近所の方々がある。そうそう、この方々には子どもらが小さい頃から、ひとかたならずお世話になったなあとしみじみ思う。そのおかげで今があるのに、お年玉の心遣いまでしていただいてはいつまでもご恩返しができないと恐縮しきりである。
 お年玉をもらうのは子どもだけというのが日本では普通だが、同じような習慣があるベトナムではいくつになっても年上から年下の人にお年玉をあげることになっているという。年上から年下へという序列が徹底している。お年玉にあたる「ティエン・モット・トゥオイ(漢字だと銭・一・年)」には新年に皆が一斉に歳をとるという意味が含まれているそうだ。誰もが年上からもらい、自分も年下にあげるという行為により、互いのつながりを生みだし、社会の中の自分の位置を確認する。みな同じように一歳ずつ年をとるから、この順序は安定して変わらない。
 お年玉のやりとりには年上が年下の世話や援助を与える一方、年下は敬意や感謝をもってこたえるという関係性が映し出される。そのようなやりとりは相手にある種の「借り」を作ることだともいえるただこの場合の「借り」はお金や物を借りるのとは違って相手に直接同じものを返済することができない、いわば「返せない借り」だといえる。それは自分がその立場になった時、他の誰かに同じことをしてあげることで順おくりにする「借り」であり、この種の「借り」が作られ続けることが社会的なつながりを生み、強める原動力になるのだという考え方がある。
 青森県の事業に関わり、学生たちがお世話になった三沢市根井集落の方がこんなことを言っておられた。「この地域に関わったことで、学生さんたちが将来どんなふうに変わっていくかを見守りたい。自分も大学生だったころがあったから」学生たちは根井のために何ができるかを真摯に考え行動してきたが、そのアイデアを支えて動かしてくださったのは、他ならぬこの集落の方々だった。お役に立とうと行ったつもりが、地域の方々のご好意のおかげで学生たちが大きく育てられた。この大きなご好意に直接お返しするなどとても無理だが、将来、学生たちがそれぞれの場所で次の誰かを支える側に立とうとすることはまちがいない。
 明日は成人の日。それは過ぎ越し方と行く末を思い、自分が「返せない借り」を順おくりする輪の中にいることを実感する日でもある。成人式を迎える若い人々に、またかれらを見守り惜しみない助力を与え続ける人々に幸あれと願う。
(弘前大学人文社会科学部教授 杉山祐子)

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「一枚の絵はがきから」百十年前の基督教徒の伝言

2016/12/25 日曜日

 

 童謡って知らないなぁ、と思っても、野口雨情の歌なら口ずさんだことがありませんか。わたしは漢字で書けないけれど「しょ、しょ、しょうじょうじ」で、リズムが思い浮かび、『青い眼の人形』は、「セルロイド」の意味もわからず、上手く発音できなかった辛い思い出が。
 また「赤い靴 はいてた女の子 異人さんに連れられて…」は、なんだか物悲しい歌詞として、耳に残っていました。
 この記憶を醒ましてくれたのは、追手門を南東から撮影した一枚の絵はがき。宛先も文面も英語なのですが加筆の「北海道札幌 ヒユエツト様」の墨書きが目立ち、送り主はB・アレキサンダー。
 諸説があるのでしょうが、「赤い靴」に実在のモデルがいたという話を聞かれたことがありませんか。女の子の名前は岩崎きみ。明治三十五年に静岡県で生まれ、やがて母とともに函館に流れ着く。ここで母親は、新天地開拓の夢を持った本県出身の鈴木青年と巡り会い、再婚。しかし、幼子を連れて開拓農場に入植するのは大変な困難が予想され、夫婦は出発できず悩んでいた。そんな折、メソジスト派の宣教師が養女を捜しているという話があり、夫妻に幼子を託して出立。
しかし、すぐに開拓団は解散し、失意のままに二人は引き揚げる。このころ札幌の新聞社にいた雨情は、鈴木からかつて子どもをアメリカ人宣教師に託した話を聞かされ、これが『赤い靴』の下敷き。
 そうです、「異人さん」と仮託される宣教師が、宛名の夫妻だったのですよ。
 歌詞のイメージから作られた赤い靴の像は、横浜山下公園を皮切りに、静岡県日本平、東京都麻布十番、北海道留寿都村や小樽・函館市に加え、鰺ヶ沢町にもあるのだとは、正直ビックリしました。
 さて、弘前にゆかりのアレキサンダーさんといえば、明治三十二年一月に宣教師館の火災で不慮の死を遂げた、メアリ夫人が知られているのかも。検案書の作成は伊東重だし、昭和十二年の新聞でも『異人さんの墓にも桔梗の花 弘前大圓寺英宣教師夫人の碑』の見出しですよ。
 はがきの差出人は、ロバート・アレキサンダー宣教師の妹のミス・ベッシー。弘前女学校長や幼稚園長を務め、義姉の弔慰金によって明治四十年九月に新築移転した若葉幼稚園は、「メアリ・アレキサンダー記念幼稚園」と愛されました。
 消印は、同年十二月二十一日。三年前に類焼の礼拝堂が、桜庭駒五郎と斎藤伊三郎により再新築された年でもありまして、百十年前のメッセージは、いろいろ深い意味合いを感じさせながらも、いまでも通用すると思うのです。
 『楽しいクリスマスとお正月をお過ごしください。こちらは一晩中クリスマスらしい天気です。「わたしたちの家族」と一緒に年末を過ごす予定です。あなたに恵みいっぱいを。かしこ。』。
 (元弘前図書館長 宮川慎一郎)

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「図書館の勧め」ブラブラ歩きの楽しさ

2016/12/18 日曜日

 

 世間にはいろいろな図書館がある。多くの市民を対象とした〇〇市立図書館・〇〇県立図書館のように広く一般に開かれたものは、よく目にするだろう。それ以外にも、ある専門分野の情報を集める専門図書館がある。郷土資料、研究報告書、行政資料、統計のようなものを扱うところが多いが、マンガ、教科書、点字、カタログ・ポスター・チラシ、児童書のようなものを収集する図書館もある。例えば、評論家大宅壮一が収集した明治以来の雑誌の図書館として名高い大宅壮一文庫などは専門図書館として有名である。
 ひと昔前の図書館といえば、何となく古い、かび臭くて暗いイメージもあったが、現代の図書館は明るく快適な空間であることが多い。某書店の管理運営が加わって、本の貸し出しだけでなく、CDやDVDの有料レンタルが行われたり、カフェが併設されている公共図書館も現れた。逆に八戸では、専門書を品ぞろえの主力として、自治体が運営する書店もオープンして話題に事欠かない。書店なのに店内で本を読んだり読書会をするスペースが用意され、カフェもある。
 本を読むことの魅力とは何だろう。人気の図書館は図書館員がそれぞれの専門性を活かした企画や、時代や市民のニーズに合わせたブックフェアやテーマ展示を実施したり、読み聞かせや、さまざまな提案を行っている。ある学校図書館では、その実践のおかげで利用率や貸し大冊数が伸びている実例も報告されている。
 活字離れの今日、タブレットやパソコンの利用者も増え、さらにマンガやアニメといった媒体を好む人も増える中、すごいことだと思える。
 私は学生の頃、図書館でよく調べ物をした。わからないことが明らかにならないので、本当に時間を惜しんで図書館に通い、他大学の図書館にもお邪魔した。よく知らない図書館では、調べたい資料を探すのに時間がかかり、効率的だとはいえなかったが、副産物として面白い資料に出会うという喜びがあった。何が書いてあるのかタイトルだけではわからない本や、背表紙と表紙でタイトルの異なる本、自分の想像しえない物語や経験が書かれた本など、検索しただけでは出会えない面白さがあった。
 図書館は知識の窓と言われる。そこで調べて知りたい情報を得ることはもちろんだが、図書館を入り口としてもっと広い知識空間へつながることができる。最近、学生が授業の発表の後に「勉強してれば、どんどん、やること増えるんだって。終わらない」と感想を述べていた。「そうだよ、正しい。それが学問するってことなんだよ。始めたからわかったよね。知らないことばかりだってことがわかることが大事なんだ」と私。
(弘前学院大学文学部教授 今村かほる)

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「がんこ寿司疾風伝」人を磨いてこそ商いは立つ

2016/12/11 日曜日

 

 「がんこフードサービス」創業者、小嶋淳司現会長は1935年和歌山県生まれ。17歳の時に病の母親に代わり家業のよろず屋を継ぎ商いに目覚めた。22歳の時に家業を兄にバトンタッチして同志社大学卒業。起業家として生きることを決意し、寿司店で1年間見習いをした後、63年に大阪・十三に「がんこ寿司」を開店した。炉端料理和食とんかつ店などを次々と全国展開。2016年7月期年商217億円。関西経済同友会代表幹事や日本フードビジネス協会会長を歴任し藍綬褒章を、さらに2度の農林水産大臣賞を受賞し大阪商工会議所副会頭に就任。平成22年旭日中綬章を受章されている。
 小嶋氏の疾風伝は他の創業者同様に怒涛のような人生をかいくぐり、今日の成功をおさめられている。たった4坪半の1軒の店だった経営規模で、120坪のビジネスへ挑戦を決断するなど、ドラマ顔負けの武勇伝を持つ小嶋氏だが、その中でも飲食の、どの業種に進むかを決めた経過にこれからの起業を考える人にとっての実践的学びは多い。
 小嶋氏は繁盛している店がどの程度儲かっているかを調べるため、平日1日と土日の2日間、調査対象店舗の外に立ち、開店から閉店までの入店者を数えた。店内ではオーダーの内容を確認し、客数と客単価から売り上げを算出。卸売市場では店で使われている食材の仕入れ値を調べ予測した。さらに近くの不動産屋で家賃を調べ、光熱費は店舗の開店前と閉店後の水道、ガス、電気のメーターを確認して回った。時には税務署員と間違われ、包丁片手に詰め寄られたこともあったという。結果、50店舗の調査からすし屋を選ばれた。
 前述のように小嶋氏は、17歳で店を一人で継いだ。商いを始めたばかりの頃、青二才と呼ばれ、相手にされないことが何度もあったが、辛抱し、そこで商いの原点を学んだという。良いものを安く売ればよく売れた。つまり結果が出ればすべてがいいのだ。このことは年齢とは関係なかった。若くても評価される。商いの原点とはお客様が喜ぶことをやり続ければいい、そして結果を出せば、若くても評価される―と。しかし、結果を出せない限り、努力も何も残らないということも同時に学んだ。
 がんこ寿司の理念は人材育成が根っこになっている。若い人に折り目の正しさを求め、仲間同士の研さんを促し、情熱の完全燃焼を宣言する。小嶋会長自身が17歳で家業を継ぎ4坪半から120坪へ挑戦した。「商人(あきんど)っちゅう字はな、人の上に商いがのってるんや。人間を磨いて人柄をよくする以外に商売を大きゅうする方法はあらへん」。小嶋氏は大学卒業を前に、京都のお寺の住職さんから授かった言葉を忘れたことがない。
(弘前医療福祉大学短期大学部教授 牛田泰正)

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「トランプ現象の危険」ポスト・トゥルース時代

2016/12/4 日曜日

 

 先月初め、世界をアッと言わせ呆然とさせる政治的出来事が起った。言うまでもなくアメリカ大統領選で共和党候補のトランプ氏が当選したことだ。アメリカ国内の世論調査や著名人の発言などからすれば、民主党クリントン候補が当選するとみられていたが、選挙人総取りという選挙制度と、表面的にはトランプ支持を主張しないものの、本音では強烈なトランプ支持者=「隠れトランプ」が多数いたことがトランプ当選を現実とした。いずれにしろ、トランプ氏が次期大統領となることとなったが、この「トランプ現象」とでも呼べる政治的現象に対し、筆者は一抹の不安を感じざるを得ない。
 何故ならば「トランプ現象」の本質は「自国第一主義」や「民族差別」「性差別」などを包含する極めて「排他主義」的行動を支持する人物が政治的リーダーになったことを意味するからである。
 今回の選挙は誹謗中傷合戦に終始した感があるが、これとは別に、トランプ氏の「選挙公約」は、その論理性や根拠を別とすれば、実に単純で明快であった。「イスラム教徒が米国にいるからテロが起きる」「メキシコからの不法移民が社会混乱を拡大する」「輸入するから雇用が奪われる」などイスラム教徒、移民、自由貿易などを「敵」として名指し「俺が大統領になったら、イスラム教徒や不法移民を排斥し輸入を制限し、お前たちの問題を全て解決してやる」と大衆に職と豊かさを保証すると主張したのである。
 今のアメリカは格差社会のただ中にあり、ITエリートや金融エリートが巨額の富を得る一方、多くの労働者は失業したり低賃金で働き、豊かさを実感できない状況にある。こうした時、前述のような「敵」の存在こそが原因だとする主張は、極めて分かり易く、大衆受けするのは確かである。「敵」を排除さえすれば自分たちの職が保証され賃金も上がり、生活も豊かになるという理屈だ。これこそ、デマゴキーの何物でもないのだが、民主主義社会では、時としてこうしたデマゴキーが大衆を熱狂させることになるのは、あのナチス・ヒットラーの例を挙げるまでもなく、昨今の政治世界にはしばしばみられる現象であろう。「敵」を作り挙げ「ワンフレーズ」の簡単明瞭な言葉で攻撃し、約束事を並び立てる手法だ。
 人種・民族・宗教などで差別を助長し、自民族と自国の権益のみを最優先する排他主義がはびこり、民主主義が育んできたヒューマニズムを否定するような政治が長続きするとは思わないが、そうした政治現象が現れることは徒に混乱と不安を残すことになるのは確かなことだ。因みに、オックスフォード辞書は、今年の単語に「客観的事実が感情や個人的信念に訴えるものよりも影響を持たない状況」を意味する「ポスト・トゥルース」を選定したのは正鵠を射ていよう。
 (青森大学名誉教授 末永洋一)

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