先日、ある自治体に教育資金の足しにと思い、ふるさと納税を考えた。ネットで、その自治体とふるさと納税をクリックしたところ、まず出てきたのは、返礼品を扱う業者が各自治体の返礼品を競い合っているサイトだ。テレビCMを盛んに流している業者のサイトももちろんあった。疑問に思ったのは、なぜ、ふるさと納税の返礼品をこうした業者任せにしているのかということだ。自治体も職員不足で、返礼品まで手が回らないのは理解できるが、納税の一部が業者に手数料として払われることになり、業者が「中間搾取」をすることになりはしないのか。
ふるさと納税制度は、周知の通り、現在の菅首相の肝煎りで作られたもので、総務省は(1)納税者が納税先を選択することで、その結果、税の使われ方を考えるきっかけになる(2)生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域、応援したい地域の力になれる(3)自治体が納税をアピールすることで競争が生まれ、地域の在り方を考えるきっかけになる-制度だと紹介している。納税者が税の使われ方に関心を持つべきなのは、ふるさと納税に限らず当然のことであるが、所得税や住民税のように徴収されるのではなく、自らが選択して納税することで税への意識が高まり、地方に生まれ育った人が、学業や就職で故郷を離れて都会に住まざるを得ず、人口減少や産業不振で税収減が続く故郷へ「恩返し」ができる機会であるのも素晴らしいことだろう。しかし、自治体は、地域の素晴らしさや地域づくりをアピールし、納付された税をどのように使っていこうとしているのかなどをしっかりと紹介しているのだろうか。また、納税する人も、返礼品を真っ先に考え、返礼品の「豪華さ」で納税先を考える場合が多いのではなかろうか。返礼品に加え、税の控除対象ともなり、節税対策に利用する人もいるようだ。
納税者のこうした心理を巧みに利用したのが、大阪府泉佐野市の返礼品だろう。明らかに度を越した返礼品が問題となり、制度から除外された泉佐野市が裁判を起こし、最高裁は法的には泉佐野市に問題はないとして国が敗訴した。しかし、一裁判官が「釈然としないものが残る」と述べた通り、泉佐野市のやり方は度を越していたのは誰の目にも明らかである。もっとも、問題の本質は、自治体をアピールするのではなく、返礼品をアピールできる制度自体にあったのだ。国も返礼品には一定の制限を付けたが、そうではなく、納税者がこの制度の意義を認識し、故郷や地方を思い、その活性化のために納税する制度にすべきなのだ。
そろそろ、ふるさと納税を考えている人も多いことと思うが、返礼品の「豪華さ」ではなく、この制度の原点に立ち返り、故郷や地方の役に立つ納税(寄付)をしたいものである。
(青森大学名誉教授 末永洋一)