日曜随想

 

「素材のうまさで勝負」じょっぱりを売る戸田のお餅

2017/6/4 日曜日

 

 津軽は、周りを山々に囲まれ、それらの山々からミネラル分などを多く含んだ豊かな水が流れ込む。朝晩の寒暖の差が激しいため米作りに適している。それゆえにいいお餅がつくられる。
 弘前市銅屋町に店を構える「戸田うちわ餅店」(戸田しのぶ社長)は昔から弘前市民に、子供から年配まで幅広く愛されてきた。1日200個限定。舟形の紙の入れ物に入れられているうちわ餅は、午前中にはなくなる。その人気の理由を戸田氏は昔ながらの手作りにこだわってきたからではないかという。お餅は、米の下準備から串に刺すまで時間をかけ、形にしておく。黒ゴマは滑らかで濃厚な高級国産品を使用する。その蜜入りの胡麻ダレが秘伝のたれであり、作りたての柔らかなお餅と胡麻ダレがからまり、それゆえに「うちわ餅」はとても美味しい。餅そのものに一切の添加物を入れてない。だからその日のうちに食べないと固くなる。それが反面、まじめに作っている証拠でもある。次の日になると餅が固くなってしまうので、作りおきができない。売り切れたらそこで店じまいというお店ゆえに、朝早くに行かないと買うことができない。そして噂が噂を呼び行列が絶えることがないのである。
 噂を聞き、俳優の梅沢冨美男が取材にくることになった。RAB特別番組「北海道新幹線開業記念 青函圏周遊☆4都市物語(函館・青森・弘前・八戸)」の中で梅沢冨美男が土地の名物料理を食べ歩くという番組である。弘前では三忠食堂の後に来る予定であった「戸田のお餅」はすべてのお客に並んで購入していただいている。どうしたものかと気を病んでいたが、事前の打ち合わせでプロデューサーが「うちのスタッフを並ばせて買わせます。特別な配慮は求めません」との快諾を得たという。「戸田のお餅」には、冠を得たテレビ番組も並んでまで取材したいと思わせる魅力がある。残念なことにその日、1台しかない製造機械が故障となり取材は急きょ取りやめとなった。
 弘前はローカルに徹してほしい。「戸田のお餅」のあり方は弘前の進むべき方向を示唆している。あくまでナチュラルであること。都会の真似をしないこと。そして「じょっぱり」であること。これが弘前のうりであり、地方の生き方だ。素材にこだわる本物主義は素材のおいしさを出せるからおいしい。以前、日曜随想で紹介したが「料理の良し悪しは80%が食材で決まる」とまで言われている。例えば物産展は、お客が本物を求めて買いに行くが添加物で作ったいい加減なものがある。本物を作りウエブで全国へ郵送できればいい。納品は何日でというシステムを作ればいいのだ。本物主義のこだわりがきっと「まちおこし」の鍵になると思われる。
(弘前医療福祉大学短期大学部教授 牛田泰正)

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「基礎科学と人文知」科学技術立国の前提

2017/5/28 日曜日

 

 1995年11月、「科学技術基本法」が公布・施行された。その趣旨は、天然資源に乏しく人口の急速な高齢化を迎えようとしているわが国にあって、産業の空洞化、社会の活力喪失、生活水準の低下といった事態を回避し、明るい未来を切り開くため、独創的、先端的な科学技術を開発し、新産業を創出すること、すなわち「科学技術創造立国」を図ることにあった。20余年を経過した現在、国内外ともにより厳しさを増す中で、課題は解決されつつあるのだろうか。そんな時、ショッキングな記事に接した。
 一つは、科学技術振興機構が公表した「研究開発の俯瞰報告書」が、わが国の研究開発は一部を除き低迷しており、最大の課題は人材不足であるとし、主要国の中でわが国のみが次世代の研究開発の低下が懸念されるとしたことだ。基礎科学を志す若手が減少していることも指摘している。もう一つは、イギリスの科学誌「ネイチャー」が、わが国の科学力の低下を指摘する特集を掲載し、原因は、各国が研究開発投資を増やす中でわが国は2001年以降横ばいで、国立大学への交付金を削減したため若い研究者が就けるポストが減少したことにあるとし、このままでは激しい国際競争の中で埋没していくと警鐘を鳴らしたことだ。
 わが国政府の科学予算の対GDP比は先進国の中で最低水準で、近年さらに減少傾向にあり、直接的関連は不明だが、一人当たりGDPは、主要国の相対的順位には変化がない中で、わが国だけが2000年以降、急落している。「ネイチャー」は1990年当時、「躍進する日本」を取り上げたが、わが国が「科学技術創造立国」を掲げてから20年余科学力もGDPも低下したのは皮肉なことだ。
 このことは以前から指摘されており、政府も一定程度は改善を行ってきた。しかし、効率化を重んじ「役に立つかどうかの近視眼的視点」から配分されており、短期間では成果の出にくい基礎科学への配分は減少している。さらに気になるのは、人文社会科学軽視の傾向がみられることだ。一昨年6月、文科省は人文社会系学部等の縮小と廃止を求める通知を出し、学術会議はもとより経団連からも反論が出されたことは記憶に新しい。
 近視眼的に効率性のみを重視して基礎科学を軽視し、社会的要請がないからと人文社会科学を排除することは科学技術立国創造上からも決して正しくはない。
基礎科学こそが実用的科学技術を生み出す基盤であり、人文社会科学=人文知こそが科学的思考の基礎であることは歴史が教えてくれる。かつてのソ連邦が「ルイセンコ学説」なる実用的「科学」を重用し、基礎科学や人文社会科学を排除した結果、多大な失敗を犯したことも一つの教訓として思い起こすべきだろう。科学技術は総合的・融合的な存在である。
(青森大学名誉教授 末永洋一)

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「津軽のまちあるき」親密さがおもてなしの源泉

2017/5/21 日曜日

 

 今年も桜時期に訪弘することができた。さくらまつり期間中、私の盟友「弘前路地裏探偵団」が夜桜まちあるきガイドをするというので、激励と参加のため当地に赴くのが恒例になっている。
 弘前では古くから活躍する「観光ボランティアガイド」に加え、近年新たな「まちあるきガイド」がいくつも誕生し、ユニークな観光まちあるきが人気だ。
 団体から個人へと観光旅行のスタイルが変化し、定番とは違った楽しみを求めるニーズに応えるように全国で「観光まちあるき」が増えている。そうしたなか、弘前を皮切りに津軽地方の各市町村でもまちあるき観光に注力し、さらにこの動きは三八や上北など全県にも拡がっている。かくいう私も、弘前の動きに刺激され、函館でまちあるき観光を模索し、実践し始めた一人である。
 観光まちあるき全体を俯瞰(ふかん)する中で、津軽の取り組みには特筆すべきことがある。それは市町村を跨いだ協力連携、とりわけそこに関わる人々の親密さだ。
 国内旅行を楽しむうえで、行政区域すなわち県や市の境を意識する必要は本来ない。一体として外にアピールしている地域の中に縄張り的な障壁があるならばそれはマイナス要素といえる。ましてや近隣どうしがささいなことで反目し、そっぽを向くような関係では、それがサービスの端々に露呈してしまう。これとは逆に、それに関わる人々が親密で、さらには協調や互いの磨き上げができる関係にあれば、自ずとプラスに働くはずだ。
 この地域では「まちあるき」という新しい観光ニーズに対して、当事者たちが教わりや学び合いをとおして、互いの親密さをこれまで以上に深めてきた。この親密さこそが、旅行客目線でのおもてなしを提供する源泉となり、近年津軽の観光はひと皮むけた気がする。
 とはいえ、まちあるき観光は多くの人々を効率良くもてなす手法ではない。入込数や消費額などで効果を図れるものでは決してない。施設作りとは異なり大きな投資を伴うものではないが、それゆえに人的資源こそがその根幹である。平たく言えば、担い手にいかに気分良く振る舞ってもらえるかに尽きるのだ。
 今般、政府が掲げる「地方創生」では観光振興は大きな柱であり、着地型観光(地元自らが企画・提案し発信する観光形態)推進のための組織づくりやその運営に対する支援、財源措置もうたわれている。しかし、この施策はガイドをはじめとする現場の担い手たちが潤いや満足を実感できるものではなかろう。
 まちあるきは観光客だけのものではない。地元の人たちが積極的に参加し、時には担い手になることもできる。様々なかたちで応援することこそが津軽の観光をもうひと皮剝くための近道であろう。
(オフィス「オリゾンテ」代表 田村昌弘)

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「さらりと注意」特別扱いでも排除でもなく

2017/5/14 日曜日

 

 ふと気づくと、外はもう、みずみずしい新緑の季節である。仕事に追われて出かける余裕もないうちに、リンゴの花はまっさかり、到来物にタケノコが混じるようになった。しばらく見ないうち、弘前の街のようすも変わっていた。外国の方々が多いのである。桜やリンゴの花まつりのせいだろうか。観光業とは関わりない私でも「いい時期においでになりましたねえ。美しい季節を存分に楽しんでね~」などと、客を迎える主人みたいな気持ちになってしまう。
 でも、外国からのお客さんと接する機会が増えた分、ここは注意してあげるべきだなと思うことも多くなった。これが意外にむずかしい。とくに、相手がまったく気づかずにルールを外れた行動をしているときなど、いやな気分にさせるのも気の毒と思って見逃したり、文化が違うからここのルールは守れないのだと決めつけてしまったり、媚びるようにへらへらと注意してはみたものの、そういう自分の態度を情けなく思ったり。
 以前弘前公園でこれぞお手本というような注意をする女性を見かけいたく感じ入った。ある週末のお昼ごろのことだ。公園の一画でみんなが思い思いにお弁当を広げているとき、外国人グループが食材や飲み物を持ってやってきた。そして「火気厳禁」と書いてある看板の側で、楽しそうにバーベキューの用意を始めたのである。「火気厳禁」を知らずにやっているのだろうが、教えてあげたほうがいいだろうなと思ったそのときである。ひとりの弘前女性がすくっと立って外国人グループに近づき看板を指してこう言った「ノーファイヤーディスプレイスノーファイヤー(この場所で火はダメよ)」相手が「危ないことはしないよ」と答えたのだが、彼女はあいさつするのと同じような自然さで「ノーファイヤー」を繰り返す。相手も「ここで火を使ってはいけない」と気づいたらしい。バーベキュー道具を片づけ始めた。それを見ると女性は「サンキュー」と言い、何ごともなかったかのように自分の席に戻っていった。楽しみにしてきたであろうバーベキューを諦めることになった外国人グループだったが、何のわだかまりもなくそこで火を使ってはいけないというルールの存在を教えられ、自然にそれに従った。バーベキュー道具を片づけて、焼かずに食べられる物をアテにビールを飲み始め、やはり何ごともなかったかのように楽しく盛り上がっていた。
 あのとき注意をした女性は、とくに英語が堪能なわけではなかったように思う。しかし、あの注意のしかたはまさに国際人の態度だった。相手を叱責するでもなく媚びるわけでもなく、さらりと自然にそこでのルールを伝える。そんなやりとりができれば、地元民も来訪者もおたがい心地よい場ができあがるのだな。
 (弘前大学人文学部教授 杉山祐子)

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「旧士族の名誉を守る」明治初期の桜をめぐる噂

2017/5/7 日曜日

 弘前城に初めて桜が植えられたのは、三百年ほど前の正徳五年。京都ブランドへの憧れとは言い過ぎにしても、お殿様の肝煎りで、家臣らが植えたのですね。
 「世の中に絶えて櫻のなかりせば…」と、開花状況に一喜一憂した旧城の観桜会もついに今日が最終日となりました
 維新後は旧藩主家が東京に移り、兵部省の管理下となったここは、東北鎮台の兵士が駐屯後、空き地ならば牧場に拝借したいと出願されるほどに荒廃します。
 市域の中心部にあって、起伏に富んだ広大な面積ですから、土地が分割される恐れもあったのでしょう。しかし何より津軽家への崇敬を秘めながら、先達らは旧城のほぼ全域を守る英断を下します。この想いを叶えるため、国に藩主家への縁故払い下げや市会も陳情を重ね、ようやく明治二十七年十月一日、公園創設を果たすことが出来たのです。
 こんな気概のなか、廃藩後に植えられた桜を、「町人が物見遊山にふけるのは無礼極まると、旧士族らが伐った」との噂は、果たして事実なのでしょうか。
 明治十年代には新聞もないので、当時の資料を捜すのは困難ですが、明治三十六年に『心なき地方人は悪戯にようやく生長しかけた苗木を抜き取り、あるいは小枝を手折るなどするために、成木の数は寥々たるものがあった』との記事が。
 更に明治四十五年には『櫻折る馬鹿』と、今ではこんな見出しもお目にかかれませんが、『半開の樹枝を折り取る馬鹿者あり多くは夜桜見物の帰り掛けに蛮行を敢えてするものと思わる…こんな馬鹿者は其の筋に於てドンドン検挙いたされたきもの』と、花見客のマナーは最悪。
 また、園内のツツジを抜いた犯人は、ちゃんと検挙されており、士族と警官の馴れ合いや隠蔽はないと信じ、事件なら記録があるはず、伝聞情報だけなのよ。
 では、どうして「士族の実力行使」が、語られるようになったのでしょう。
 春・秋にはなんと山菜採りが出入りして、士族を憤怒させたといい「菊池・内山の二人が、弘前城に桜を植えようとした時も、城に花を植えて行楽の場所にするとは何事か―という士族達の猛反対を受けた。二人はやっと説得して植えた」と、戦後のまつり特集に。更に地方版の「物見遊山をたくらむとは無礼千万」といきまく旧士族がいた。だから、さくらが咲いてもお城に近づくものはいなかった、あたりが下地だろうと推理します。
 オラホのお城という誇りと、津軽人独特のエスプリが話を発展させ、ついにはある種のお国自慢に生長させたのかな。
 ここに生まれ育ったものにとっては、旧城は特別の場で、観桜会には晴れ着を着て、飲食さえも遠慮していたことが、古写真などで窺うことが出来ます。
 さぁて、次の百年に向け、どんな話を語り伝えていきましょうかねぇ?
(元弘前図書館長 宮川慎一郎)

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