日曜随想

 

「スタミナ源たれ」青森発ナショナルブランドへ

2019/9/29 日曜日

 

 青森に、まさに「国盗り物語」を地で行く企業がある。それは上北農産加工株式会社(代表取締役社長・成田正義)。営業に人がとられ、猫の手も借りたいとき、地方百貨店での商品紹介コーナーでは、妻とパートの清掃員(現正社員)で仕事をこなした。まさに家族社員総出である。
 多くの創業者は、取材を受けるとき、胸を張り、淡々と理念や苦労話を語る。しかし成田社長にはその定義が当てはまらない。取材開始早々、両手を両足の膝に置き、姿勢を正し、人なつこい笑顔で、カッと目を見開き、取材する私と対峙(たいじ)し、身ぶり手ぶりで表現する。自分が本気で生きてきて、命がけで戦うとき、格好なんか悪くても構わない、その一生懸命な姿が人の心に響く。そして誰もが成田イズムに心酔し、その結果、魅了され、味方につくに違いない。私はその迫力、情熱に圧倒され、しばしペンを止め、聞きほれた。
 「スタミナ源たれ」は発売54周年を迎える。県内販売シェア80%といわれ、焼肉のたれ全国単品ランキングベスト100で3位。これだけ支持されている最大の理由は何か、それは安心安全にこだわる強い信念があったから、と成田社長は言う。
 1977年4月入社。92年には39歳で代表理事組合長となった(組織変更により、代表取締役に変更)。ここに過去に類のない赤字逆転のドラマが始まる。
 再建への強い意志で成田社長は全国行脚に出た。半端ない戦いであった。自分の足で売り込むことを信条として、コツコツ種をまき、小さな成果を積み重ね、結果、負の遺産(横領金による莫大(ばくだい)な借金=長期固定化債権=、未払い金の滞納、差し押さえ、不渡り手形の発生など)を26年間ですべて解消した。あまりにあって、一言では言い尽くせない。そして2018年度、設立以来の累積欠損金を解消、配当も出せるようになった。
 15年3月には第36回食品産業優良企業として食品産業センターから農林水産大臣賞を授与された。青森県では一家に一本の必需品になっていること、「生」からうま味を引き出すこだわり製法、そして積極的な地元雇用などが受賞の理由であった。成田社長は会社がどんなに苦境になっても、人員を解雇しない。むしろ社員同士の一体感、コミュニケーションを重視し、3年前からは全員参加でニンニクの植え付け、収穫を続けている。その結果、1992年の28人に比べ、現在人員が112名。なんと、約4倍に増えた。
 「どんなに原料が安いからと言って、輸入農産物に手をつけることは絶対なかった」と成田社長は繰り返し語る。他社のまねのできない商品づくり、ここに青森県の企業が目指す生き残りのヒントがきっとある。
(青森県産流通システム研究所所長 牛田泰正)

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「自然保全の重要性」県境産廃不法投棄から

2019/9/22 日曜日

 

 先日、「県境不法投棄原状回復推進協議会」の開催に先立ち、青森県職員の案内で、「青森・岩手県境不法投棄事案」の現場を訪れた。視察は毎年行われているものだが、昨年度は参加できなかったので、私にとっては2年ぶりとなった。30分ほどの現地視察だったが原状回復・再生の一環として植えられた樹木は、八戸市森林組合の指導と協力もあり、2年前に比べ大きく生育していた。一方で、今年は県全域がそうだが、極端な水不足で、浄化用水の確保のための追加工事も行われていた。本事案の発覚から20年、県民の中にはこの事実を知らない人も多くなってきていると思われるが、自然保護・環境保全がさらに重要性を増している今こそ、一人でも多くの人が、この事案を通じて、一度破壊され汚染された自然を元に戻すこと=原状回復には多大な費用、時間、労力などを必要としているかを認識することも重要であろうと思い、紙面の許す限りで紹介しておこう。
 事案は、本県田子町と岩手県二戸市の県境に、首都圏などの1万以上の事業者が出した産業廃棄物を、本県と埼玉県の2社が不法に投棄したもので、1998年12月に発覚した。両県に跨(またが)る27万平方メートルの土地に、汚染土壌を含めると109万立方メートル以上(本県側約84万立方メートル)の産業廃棄物が投棄された。廃棄物は廃油、廃食品、医療系廃棄物、廃有機溶剤などと混合された状態のものだった。
 発覚後、両県は原因者に措置命令を出したが、事業者は関係者の逮捕を受け解散したため、県が代執行で廃棄物の全量撤去を行った。しかし、揮発性有機化合物に汚染されている他、一部がダイオキシン類にも汚染されており、汚染された浸出水が周辺環境に拡散し、農業用水源や水道水源が汚染される危険性もあった。そのため、地下水を強制的に流すことで土中に浸み込んだ有害物質を流出させる浄化事業を行うこととなり、集水施設、注水施設、浸出水処理施設などを設置し、周辺環境への影響を監視するモニタリングも実施している。こうした努力の結果、一部地点で、1,4-ジオキサンなどの有害物質が環境基準値を超える値が測定されることはあるものの、浄化事業はほぼ順調に進んできている。今年の渇水のために新たに設備を設置する必要も出てきているが、3年半後の事業終了を目指している。事業は、本県だけでも総額477億円を費やし20年に及ぶものとなったのである。
 一度汚染された自然を元に戻すためには大変な努力を要するもので、この事業は、自然保全・保護の重要性を改めて示してくれている。県民も一度現場を訪れ、田子町立図書館に展示されている事案の概要や県の取り組みなどに関する資料をご覧になり、身近な問題として自然保護を考えられてはいかがだろうか。
(青森大学名誉教授 末永洋一)

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「街かどでの社交」バル街イベントの本質

2019/9/15 日曜日

 

 先般、私が裏方を務める「函館西部地区バル街」が、サントリー地域文化賞を受賞した。地域文化の創出・発展に寄与したとのお褒めをいただきうれしい限りだ。近年の青森県では、田舎館村の田んぼアートがこれを受賞している。
 私たちは、函館山の麓にある旧市街地を舞台に、一夜限りの飲み食べ歩きイベントを、2004年から年2回ずつ実施している。旧来、はしご酒と呼ばれていたものを、スペインのバルと呼ばれる飲食スタイルを参考に「バル街」と名付けた。こうしたイベントは函館を発祥として、一時期は全国約500もの地域で開催された。県内では弘前や青森、五所川原でも定期的に行われている。
 イベントの参加者からは、初めての店でも気軽に入れるよい機会、という声をよく聞く。また参加店では、相当数の来客により多くの売り上げが見込める。また運営側にとっても、適切な規模を逸脱さえしなければ、行政の補助金などを得ずとも、参加者からのチケット収入だけでシンプルに実施できるメリットがある。一時期は中心市街地活性化の「三種の神器」ともてはやされたが、集客や売り上げ向上など、カンフル剤的な効果を期待して飛びついたところは、継続して実施していくことが難しかったようだ。
 長らく運営に関わってきた私の経験から言えば、賑(にぎ)わいづくりを目指してバル街を継続させるためには、主催者、参加店そして参加者、この三つのコミュニケーションが何よりも重要なことである。
 今回の受賞では、参加した市民同士が言葉を交わす「街かどでの社交」が創出されていることが高く評価された。社交とは、実に古めかしい言葉であるが、酒で文化を創ってきたサントリーを母体とする文化財団の視線は、私たちのイベントの本質を見事に言い当ててくれた。
 バル街では、参加店が記されたマップがキーアイテムである。これがバル街参加の目印となり、街を歩いても、行列しても、相席しても、これを持っていれば同じくバル街を楽しむ人という安心感があり、知らない者同士が気軽に会話を交わせるのだ。その社交の楽しさこそが人気の秘訣(ひけつ)でもある。参加者が増えてくると、店の中だけでなく、街かどがまさに社交の舞台となる。街かどでの社交が花開けば、その街の良さを改めて感じ合うことができるのだ。皆がこの機会を続けたいと思えばこそ、参加者は節度を持ってこの日を楽しみ、参加店は集客と接客に努力を重ね、主催者はより良い運営を常に心掛けるのである。
 10月12日には、弘前で17回目となるバル街が開催され、函館からも出店を予定している。この夜は、私たち自身も改めて弘前の皆さんとの「街かどでの社交」を楽しみたいと思っている。
(オフィス「オリゾンテ」代表 田村昌弘)

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「日本アニメ百年・完」テレビアニメの台頭(10)

2019/9/8 日曜日

 

 さて、東北地方にはほとんどないアニメスタジオですが、宮城県には誘致企業として東京に本社があり、その分社のようなサテライトスタジオがあります。しかし、青森県のイーゲルネストのように本社が地元である数少ないスタジオが、福島県いわき市にも存在します。「スタジオダブ」と言います。
 もともと代表者が虫プロダクションのアニメーター出身で、虫プロダクションの混乱期にサンライズスタジオの独立に伴って移籍したようです。しばらくしてから地元に帰り、地元でアニメの依頼仕事を請け負うようになっていき、そのうちにスタジオ設立となったようです。その経緯から主にサンライズの仕事をしながら、その他、幾つかの大手スタジオの仕事も請け負ったようです。現在では東京やアジア数カ国にスタジオを持ち、デジタル化を推進しているようです。現在でも、数多くの作品に名前を連ねています。
 アニメスタジオは圧倒的に関東、関西に多く、一部東海、北陸、九州が有名ですが、数少ないながらも東北で頑張っているスタジオもまた存在します。前回お話しした弘前市のアニメスタジオ・イーゲルネストも、規模はそれほど大きくはないですが、技術力は評価されているようですし、仕上げ仕事だけではなく、原画制作にも幅を広げています。地元弘前市で30年以上仕事を続けていられるのですからぜひ皆さんで応援していただきたいと思います。なお、イーゲルネストのアニメーション部門を別名で「スタジオOM青森ワークス」と呼ぶ場合もあります。最近、劇場公開された「機動戦士ガンダムNT」のエンドクレジットでは「スタジオOM青森ワークス」となっていました。これは現在一番新しいガンダムシリーズなので、仕事内容によって二つの名前を使い分けているようです。両者は同じ母体のようですから、名前が違っても組織は同じだと思います。イーゲルネストに改名する前の名前がスタジオOM青森ワークスで社名変更していても二つの名前が存在するということです。「機動戦士ガンダムTHE ORIGIN」劇場版のエンドクレジットではイーゲルネストです。
 日本におけるアニメーション制作の初めから、100年間の時間経過に伴って起きたことをいろいろと書いてきましたこの拙文も、102年の今年に、最後として地元のアニメスタジオのことを記して閉じたいと思います。ここ最近、地元弘前市では、アニメ「ふらいんぐうぃっち」の主舞台として描かれたり、観光アイコンとして「桜ミク」が登場したりして、アニメの素材が市の中で大変大きくなってきています。これを機会に今までアニメと聞いて敬遠してきた方々も、ぜひ鑑賞してみてはいかがでしょうか?
(弘前大学教育学部教授 石川 善朗)

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「気ままな旅」高岡市・越中万葉を感じたい

2019/9/1 日曜日

 

 富山県高岡市伏木(ふしき)は奈良や飛鳥(あすか)と共に万葉故地、越中(えっちゅう)万葉の中心地だった。越中万葉は、万葉集の代表歌人で編纂(へんさん)者とされる大伴家持(おおとものやかもち)が29歳で越中国守(現在の県知事相当)として赴任し、奈良の都へ帰るまでの5年間(746~751年)に越中国の風土や四季、言語をモチーフに詠んだ223首(関連歌を合わせて337首)に由来する。越中万葉の地・伏木を訪ねたい思いが令和最初の夏に実現した。
 8月9日、新青森6時17分発東北新幹線はやぶさ4号に乗車。大宮で9時9分発北陸新幹線はくたか555号に乗り換える。高崎、軽井沢、長野、富山と過ぎ、11時34分新高岡駅着(金沢駅まで14分)。ここから城端(じょうはな)線で高岡駅へ接続される。オレンジ色のディーゼルカー(2両編成)に乗り、3分で高岡駅に着く。この日の目的は二つ。伏木の万葉歴史館見学と越中国庁跡とされる勝興(しょうこう)寺周辺の散策である。
 駅ビルで軽く食事を済ませ、高岡13時47分発氷見(ひみ)線ワンマン・ディーゼルカー(2両編成)で伏木へ向かう。車窓を眺めながら12分で伏木駅到着。まずタクシーで高台にある万葉歴史館へ。通常は徒歩25分らしいが、6分で着いた。
 歴史館の見所は、家持が好んだ花や鳥を歌と対比させた最新映像装置で鑑賞できるメディアボックス、越中国と万葉集の関わりを紹介したグラフィックパネル・万葉集古写本(桂本)、展示品、越中の自然を詠んだ「二上山賦(ふたがみやまのふ)」「立山賦(たちやまのふ)」の歌碑である。(家持は長歌を漢詩文の「賦(ふ)」<叙述描写>と称した)
 歴史館見学後、今度は徒歩で伏木駅方面へ下っていく。途中に越中国庁跡・現勝興寺、家持が住んだ越中国守館跡・現気象資料館がある。この地で詠んだ家持の歌。
 「馬並(な)めて(並べて)いざうち行(ゆ)かな渋谿(しぶたに)の清き磯廻(いそみ)に寄する波見に」「もののふの八十娘子(やそをとめ)らが汲(く)みまがふ寺井(てらゐ)の上の堅香子(かたかご)(カタクリ)の花」「新しき年の初めはいや年に雪踏み平(なら)し常かくにもが(いつもこうして集まりたい)」「東風(あゆのかぜ)いたく吹くらし奈呉(なご)の海人(あま)の釣する小舟漕(をぶねこ)ぎ隠る見ゆ」
 翌10日は、家持が訪れる度に絶賛した渋谿の磯(いそ)・雨晴(あまはらし)海岸へ行ってみた。昨日同様氷見線で高岡駅から雨晴駅まで20分。ここは冬晴れの海越しに望む3000メートル級の白い立山連峰の眺めが絶景といわれる。この日はあいにく猛暑日。富山湾にそそり立つ雄大な連峰は雲に隠れて見えない。絵はがきを手に家持が見たであろう情景を想像してみる。「立山(たちやま)に降り置ける雪を常夏に見れども飽かず神(かむ)からならし(きっと神の山だからであろう)」
 万葉集の1割を占める家持の歌473首の半数近くは越中国で詠まれた。家持は越中国の自然や風物に触れた折々の感動を歌に詠み、万葉集に収めた。大伴家持が越中国守になって生まれた越中万葉。いにしえの越中国をもっと感じたい。
(東北女子大学家政学部教授 船水周)

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