日曜随想

 

「気ままな旅」異空間・六義園に遊ぶ

2018/7/8 日曜日

 

 3年前、3月下旬の週末だった。
 東京のホテルはどこもかしこも満室。定宿にしていた五反田のビジネスホテルもその日は完全に塞(ふさ)がっていた。
 そして、一縷(いちる)の望みを託したJR山手線沿いのホテル。あった。奇跡的に一室だけ見つかった。旅行代理店の受付嬢はここしかないという。直(す)ぐにOKの返事をした。
 予約したホテルはJR山手線・駒込駅(南口)に隣接していた。駒込駅で下車するのは初めてだが、目と鼻の先に大名庭園・六義園(りくぎえん)があった。一度は訪ねてみたいと思っていた庭園だったが、東京のどこにあるのか知らずにいた。それがホテルの満室という不運のお陰(かげ)で偶然に出会えた。人生は万事塞翁(さいおう)が馬。何が幸/不幸になるかわからない。
 翌朝ホテルを出て六義園へ向かった裏門の染井(そめい)門(閉門)の前を道なりに進み、7分程で正門に着く。入園後、内庭大門(ないていだいもん)をくぐると突然シダレ桜の大木が視界に入る。薄紅色の花が青空から流れ落ちるように咲いている。観桜客がシダレ桜に感嘆しながらシャッターを切る。
(ちなみに駒込の一部は江戸時代に染井村と呼ばれ、植木の一大産地であった。ソメイヨシノ桜発祥の地といわれる)
 六義園は五代将軍徳川綱吉の寵愛(ちょうあい)を受けた御側用人(おそばようにん)・柳沢吉保(よしやす)が作庭した大名庭園である。完成までに7年半を要し、吉保の和歌への思いや素養、思想が色濃く反映されている。広大な敷地には池や築山(つきやま)をはじめ万葉集古今和歌集に詠まれた紀州(現在の和歌山県)の名所、歌枕(うたまくら)を模した景色が点在する。側用人(秘書)は将軍と老中の間を取り持つ役目。綱吉は「生類憐(あわれ)みの令」により悪政と評されたが、吉保も評判はよくない。本当にそうなのか。現在は悪政の原因とされる「生類憐みの令」を評価する説もある。歴史研究の多面的検証の成果であろう吉保の評価もまたそうなってほしい
 六義園は歪(ゆが)んだ吉保像を変える歴史的遺産である。吉保は政務の疲れや苦労を園内の回遊で解消し、安らぎを得ていたのであろう。六義は和歌の心に由来する。園内を巡ると悪評高い吉保像とは別の姿が浮かび上がる。お勧めは藤代峠(35メートルの築山)からの眺望。往時は富士山や筑波山も望めたらしいが、現在は林立する高層ビル群に取り囲まれている。だが逆に、都会にあって都会とは異なる時間・空間を満喫できるように思える。綱吉の死後間もなく吉保は隠居し、最後はこの六義園で生涯を閉じたという。
 歴史に人間はつきもの。「人は好き嫌い、社会は善悪、歴史は正しいかどうかで判断する」。好き嫌いによる近視眼的評価だけでは事の本質(真実)を見誤る。吉保がこよなく愛した六義園は元禄(げんろく)15(1702)年の完成からすでに300年以上も経過している。
(東北女子大学家政学部教授 船水周)

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「ハンパないに思う」省略の持つ躍動感とスピード感

2018/7/1 日曜日

 

 世間は今、ロシアで開催されているサッカーワールドカップ人気に沸いている。大切な1点を争う中で、ゴールを決めた大迫選手は、一躍、日本のヒーローへ躍進したような報道がなされている。その中で、応援席に「大迫ハンパないって」と書かれた看板が掲げられているのを目にした。
 この大迫選手に対する「ハンパない」評価は、彼がまだ高校生の頃(2009年)の試合で、後ろからパスされたボールでも見事にトラップ(勢いを止めて受け止める)して、ゴールを決めたことに対して、相手チームの選手や監督が評価したものだ。つまりは、敵ながらものすごく上手い奴だ、半端じゃないというところを、省略して「ハンパない」と表現していた。応援の看板も当時の映像から作られたものだろう。それを見て、そういえば、「はんぱない」っていつ頃から使われているんだっけ?と思いついた。
 元々、「半端」は、「半端だ・半端な」と活用するいわゆる形容動詞といわれるもので、量や数がそろっていない不完全な状態を指す。そこからどちらともつかず徹底しない中途半端なことを指すようになる。もうひとつの意味としては、一人前でないことや、気のきかないことを指す。はんぱではないとか、はんぱじゃないなどと言われてきた。
 これが、若者語として「はんぱない」のように使われるようになった例として、『現代用語の基礎知識』(自由国民社)に2002年に採録された。その当時は「はんぱじゃない。すごい」という意味が付いている。それから2008年には、「ハンパない/パない/パねぇ」と表記されるようになり、さらにことばの省略が進んでいることがわかる。また、意味も「ハンパでないほどすばらしい」と「ハンパでないくらい悪い」の両方の意味が記述されるようになった。つまり、いい意味でも悪い意味でも程度が甚だしいというとらえ方だ。このあたりが冒頭の「大迫ハンパないって」につながるところだろう。
 この言い方について、間違った表現とか、変な言い方とか感じる大人の皆様も多いのではないだろうか。若者の言語感覚として、省略を好み、リズミカルな会話を楽しむ特徴がある。「了解」をただ「り」とだけで伝えることも当たり前で、「明けましておめでとう」を「あけおめ」などと言うのはけしからんなどというよりも、もっと事態は進行している。一方、「辛い」ことを「辛み」と万葉の昔の文法・ミ語法のような古風な表現もある。標準的な用法として辞書に採録されるようなものではないので、「俗語」として扱われるものだろうが、スポーツの持つ躍動感やスピード感とマッチして、人々の感覚にはよく合っているのだろう。
(弘前学院大学文学部教授 今村かほる)

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「色彩心理学」色のパワーと上手に暮らそう

2018/6/24 日曜日

 

 サッカーワールドカップで、世の中は盛り上がっています。今夜もセネガル戦ですね。ところで、日本のゴールキーパーのユニホームの色を覚えていますか。オレンジでした。色彩心理学では、赤やオレンジは元気が出る色と言われています。今日はちょっと元気がないとか、気合を入れたい日は、全部でなくても、洋服の一部や小物などに赤やオレンジを取り入れると、効果があるとされています。もちろん、侍ブルーのユニホームの襟元にも、赤いラインがしっかり入っています。
 英国チチェスター大学の研究者達が、サッカーのペナルティーキックを使って、色の研究をした報告では、キーパーが赤いユニホームを着ていたときの成功率が、他の色に比べて明らかに低かったそうです。赤は自分で使う分にはモチベーションを上げる良い色なのですが、相手側には、威圧的・攻撃的な色に見えるようです。今夜のセネガル戦では、ゴールキーパーはオレンジより赤を着て欲しいですね。
 赤には、他にもいろいろ特性があります。運動会の赤い三角コーン、工事現場で注意喚起に使われている赤い点滅灯、パトカーや救急車の屋根のライトも赤ですね。赤は目立つ色なので、注意喚起には最適の色です。商品の紹介やコマーシャルなどにもよく使われます。食べ物も美味しくみせてくれて、食欲も増進できます。
 もうひとつ目立つ色といえば黄色です。一年生のランドセルカバーや帽子は黄色です。こちらは安全のための注意喚起に使われています。目立つ色は、咄嗟の時、避ける傾向があるとも言われています。高齢になるとどうしても暗い色の洋服を選びがちですが、交通事故に遭わないためにも、外出時は身体の一部でもいいので、赤やオレンジ、黄色など目立つ色を身につけましょう。
 他にも色には、様々な効果があります。緑は落ち着いたり、青は気持ちが静まったり、集中できたり、オレンジは楽しい気分になったり、不思議です。
 でも、皆さんには、自分が好きな色、落ち着く色があると思います。その色に囲まれていると、何だかゆったりした気分になれたり、その色の服を着ていると、とても自分らしいと思えたり、その色は、きっとあなたにとって大切な色なのだと思います。年だから恥ずかしいとか、年相応の色を身につけなければなどと思わないで、自分の好きな色に囲まれて暮らしてください。そして、たまには今まで試したこともないきれいな色をちょっと取り入れて、気持ちの変化を楽しんでみましょう。
 暮らしの中にたくさんある色ですが、好きな色やパワーを貰える色を、上手に取り入れながら、元気ややる気を引き出してみましょう。ちなみに、私のスケジュール帳はオレンジです。
 (弘前医療福祉大学教授 小玉有子)

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「文化を活用すること」スペイン旅行から学ぶ

2018/6/17 日曜日

 

 先月、10日間ほどのスペイン旅行をする機会があった。そのうちの2日間は飛行機の中なので、実質8日間程度であったが、それでもよく知られている観光地には行くことができた。歴史好きである私は、トレドとグラナダには一度は行きたいと思っていたが、ようやく実現できた。トレドは、古代ローマ帝国やイスラム勢力の支配の後、レコンキスタ運動でスペイン王国領となり都が築かれたが、各時代の城砦が今もそのまま残っている。
 グラナダは勿論、アルハンブラ宮殿である。イスラム勢力によって築かれた城砦・宮殿とキリスト教勢力によって築かれた宮殿が一体感をもって聳えている。対岸の小高い丘から見たライトアップされた宮殿は極めて幻想的で、我々の背後から「アルハンブラの思い出」が聞こえてきた時、この宮殿をめぐる民族の興亡や歴史の変遷を感じ、柄になくロマンチックな気分となった。そのこともあり、ギターを奏でていた若者にはチップをはずんでしまう結果ともなった。ワインも安いので昼夜の別なく飲んでいるうちにスペイン旅行は終わったが、文化歴史や観光資源との関係について考えさせられることがいくつかあった。
 一つは文化的遺産と人々との「距離」の近さである。マドリッドのプラド美術館に行った時のことであるが、教師に引率された20名程度の小学生たちが、あのベラスケスの絵の前で床に座り、先生の話を聞いていたのには驚かされた。しかし、考えてみれば、世界的名画を目の当たりにして授業を受けることくらい効果的なことはないだろう。以前訪れた大英博物館でも同じような光景にあったことがあるが、本物から「隔離するのではなく、世界的遺産をより身近に感じさせることは、自国や自民族へのアイデンティティーや誇りを持たせることともなり、その有する意味は大きいだろう。
 もう一つは歴史・文化や観光資源を「儲け」の手段として活用することである。美術館であれ観光地であれ、日本人ガイドの他に「ローカルガイド」、すなわち、現地のスペイン人ガイドも同時に雇わなければならないのだ。現地ガイドは一定の資格を有しているが、ほとんどが日本語を知らず、専ら日本人ガイドが案内することとなるので、彼らは単に一緒についてくるだけなのだ。アルハンブラ宮殿で現地ガイドが発した言葉は「フォローミイ」と「ファイヴミニッツ」だけだったが、それでも雇わなければならないのは、法律で決められているからであり、スペインの産業・雇用対策のためでもあるようだ。
 わが国も観光立国を宣言し、インバウンド客は急速に増加している。彼らに文化歴史や観光資源をより身近に感じてもらい、専門的観光ガイドによる有料案内を実施することなどで、観光を産業として育成することも急務だろう。
(青森大学名誉教授 末永洋一)

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「スロウな観光」人の顔が見えるおもてなし

2018/6/10 日曜日

 

 「函館の観光は格が違う」、函館に暮らす筆者が弘前や青森、八戸などの観光関係者と話すと、開口一番よくそう言われる。観光入込数は青森県のそれぞれの街に比べれば、もちろん函館はダントツに多い。近年は「市区町村の魅力度ランキング」なるものでも常に上位だ。地域経済というマクロな視点でみると、それは誇るべきことであろうが、楽しみを希求する一人の旅行者の目線で考えてみると、違うのは「格」ではなく「質」なのではないか、といつも感じる。
 函館の観光は、分かりやすく、多くの人を効率よくもてなす、いうなれば「ファスト」な観光なのだ。ファストフードと言うときに使われるファストだが、決して卑下した言い方ではない。見どころにアクセスしやすく、誰にでも好まれやすいという意味だ。これに対して青森県各地の観光は「スロウ」なものと言えよう。スロウとは、遅れているということではなく、じっくりと堪能できる良さがある、という意味だ。
 ファストな観光では、それに関わる人たちの顔が見えにくい気がする。他方、青森県の近年の観光スタイルは、人が介在するおもてなし重視。まちあるき観光が各地で定着したことなどは、その好例だろう。スロウと感じる一番の要素は、そこで活躍している人たちの顔が見えることなのだ。
 先般GWに、弘前から足を延ばして金木まで出かけたときのこと。花見客でにぎわう津軽鉄道での旅は、まさにスロウな体験が盛りだくさんだった。桜と列車をカメラに収めようと客が殺到する芦野公園駅脇の踏切で安全確保に奔走していたのは、警備服のガードマンではなく、津鉄と大きく書かれた袢纏を着た男性。聞けば鉄道会社のサポーターズクラブの会員だという。列車を待つ間、おいしい笹餅を見つけ、立ち売りする年配女性と話したのだが、その人こそ笹餅づくりの名人、桑田ミサオさんだった。車内では、観光アテンダントの女性たちが乗客の一人ひとりに声を掛け、津軽弁まじりで周辺の見どころを丁寧に案内していた。五所川原の駅には、地元の農業高校が運営する売店があり、駅前には街や鉄道の盛りあげに一役買うコミュニティカフェまである。この地をわざわざ訪れる旅人の動機は、レトロ感漂う津軽鉄道に乗ることだろうが、人の顔が見えるおもてなしがいろいろと待ち受けている。
 近年、ガイド本には載っていない、その街らしい何かを求める旅行客の声が非常に多い。そうした要望に接するたび、ファストな観光では、この先どうにも心もとないと感じる。だからこそ「格」の高低はともかく、わが街函館は、弘前はじめ県内地域から観光のあり方を謙虚に学ぶべきなのである。
(オフィス「オリゾンテ」代表 田村昌弘)

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