日曜随想

 

「トランプ現象の危険」ポスト・トゥルース時代

2016/12/4 日曜日

 

 先月初め、世界をアッと言わせ呆然とさせる政治的出来事が起った。言うまでもなくアメリカ大統領選で共和党候補のトランプ氏が当選したことだ。アメリカ国内の世論調査や著名人の発言などからすれば、民主党クリントン候補が当選するとみられていたが、選挙人総取りという選挙制度と、表面的にはトランプ支持を主張しないものの、本音では強烈なトランプ支持者=「隠れトランプ」が多数いたことがトランプ当選を現実とした。いずれにしろ、トランプ氏が次期大統領となることとなったが、この「トランプ現象」とでも呼べる政治的現象に対し、筆者は一抹の不安を感じざるを得ない。
 何故ならば「トランプ現象」の本質は「自国第一主義」や「民族差別」「性差別」などを包含する極めて「排他主義」的行動を支持する人物が政治的リーダーになったことを意味するからである。
 今回の選挙は誹謗中傷合戦に終始した感があるが、これとは別に、トランプ氏の「選挙公約」は、その論理性や根拠を別とすれば、実に単純で明快であった。「イスラム教徒が米国にいるからテロが起きる」「メキシコからの不法移民が社会混乱を拡大する」「輸入するから雇用が奪われる」などイスラム教徒、移民、自由貿易などを「敵」として名指し「俺が大統領になったら、イスラム教徒や不法移民を排斥し輸入を制限し、お前たちの問題を全て解決してやる」と大衆に職と豊かさを保証すると主張したのである。
 今のアメリカは格差社会のただ中にあり、ITエリートや金融エリートが巨額の富を得る一方、多くの労働者は失業したり低賃金で働き、豊かさを実感できない状況にある。こうした時、前述のような「敵」の存在こそが原因だとする主張は、極めて分かり易く、大衆受けするのは確かである。「敵」を排除さえすれば自分たちの職が保証され賃金も上がり、生活も豊かになるという理屈だ。これこそ、デマゴキーの何物でもないのだが、民主主義社会では、時としてこうしたデマゴキーが大衆を熱狂させることになるのは、あのナチス・ヒットラーの例を挙げるまでもなく、昨今の政治世界にはしばしばみられる現象であろう。「敵」を作り挙げ「ワンフレーズ」の簡単明瞭な言葉で攻撃し、約束事を並び立てる手法だ。
 人種・民族・宗教などで差別を助長し、自民族と自国の権益のみを最優先する排他主義がはびこり、民主主義が育んできたヒューマニズムを否定するような政治が長続きするとは思わないが、そうした政治現象が現れることは徒に混乱と不安を残すことになるのは確かなことだ。因みに、オックスフォード辞書は、今年の単語に「客観的事実が感情や個人的信念に訴えるものよりも影響を持たない状況」を意味する「ポスト・トゥルース」を選定したのは正鵠を射ていよう。
 (青森大学名誉教授 末永洋一)

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「健康研究とこども園」短命県返上で皆が幸せに

2016/11/27 日曜日

 

 弘前大学の健康研究が文部科学省研究開発プロジェクト中間評価で全国一位となった。誠に喜ばしい限りである。
 今年度、青森中央短期大学で幼稚園教諭免許取得講座の教師論を担当した。青森県の認定こども園の充足率は27年度の施設数158、全国4位からさらに上昇し28年度208施設、3位となった。国の規定では、保育園の保育士からこども園の3歳児以上のクラス担任になるためには両方の免許が必要となる。5年間に限り優遇措置が実施されて今年は2年目となる。現職は働きながら週末講習を受けるという苦労が伴う。受講生は20代から60代まで100名にものぼり他県からの応募もある。
 次期学習指導要領を目前に控え、幼稚園教育にも一段と力が入っている。低年齢での教育が国の発展に大いに寄与するという研究結果からである。
 その中に健康保健という身体に関する項目があるが、青森県の実態には課題がある。園児から高校生まで体重が全国平均を上回る。短命県の現実に肥満が大きく関わっている。
 短命県返上の第一人者弘前大学中路重之教授は極めて多忙であるが、受講生の授業のためにスライドの使用の了承を取ったところ移動中の飛行機内であったが即座に承諾した。中路氏の資料は完璧であり受講生も十分に納得した。
 アンケートからは、「全国一の短命県、若年層の早死が多い。私の夫も一昨年肝臓病で52歳で亡くなりました。死因はアルコールでしたが、他に塩分の多い食事もありました。子どものころからの食習慣で改善することができなかったのですが、やはり保護者の意識改革が一番必要ですね」と意識を高めることの必要性が伝わり身につまされる思いであった。
 また、「『アメ』、『グミ』を食べて登園し、朝食抜きの子が多く見られているので、改めて食事の大切さを家庭と連携して進めていく必要性を感じた」「特に、タバコについて、母親も肺ガンで亡くなっているので考えた時期があった。母親自身、吸うより、灰皿に置いてることが多かったなあと思う。受動喫煙、副流煙の影響が大きいことをもっともっと、自身も家族も関わる子どもたちのことを考えて生きていこうと思う」等々さまざまな感想がある。子や孫へは大人が十分注意していただきたい。
 大腸内視鏡の検査がオリンパスとの共同で日本で初めて診断と治療に使われたのは弘前大学医学部内科学第一講座であることは意外と知られていない。弘前大学の健康研究の成果を県民一丸となって長寿を目指し取り組んでいきたいと思う。減塩、運動、睡眠、減酒、禁煙など本人のみならず家族みんなのためにお互い気をつけていきたい。
(元黒石幼稚園長 山内孝行)

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「もうひとつの旅」ふつうの暮らしで交流する

2016/11/20 日曜日

 

 オルタナティブツアーという形の旅がある。一般的なマスツーリズムのツアーとはちがう、もうひとつの旅、といった意味合いをこめての呼び名だろう。有名観光地で定番の観光コースを回り、食や買い物を楽しむ一方通行の旅ではなく、その地域のふつうの人びとの暮らしや文化に直接触れることや人びととの交流を主眼にした旅である。
 タンザニアで私がお世話になっている旅行社は、日本の旅行社と連携したオルタナティブツアーを早くから手がけており、タンザニアの農村滞在を中心にさまざまな企画ツアーを続けている。キリマンジャロの農村を訪れるツアーや、農村に滞在しながら民族楽器を習うツアーなど、複数の企画があるが、どれも少人数で村に行き、村の家にお世話になって数日を過ごす特徴が共通している。
 観光客向けの娯楽施設を作るわけでもない。村の小学校や村びとの畑を訪ねるというイベントはあるものの、何をするかはツアー参加者の自由だという。子どもたちと遊んでもいいし、村を散歩しておしゃべりしたり、書き物をしたりしてもいい。めいっぱい詰め込まれたスケジュールをこなす旅とは違って「さあ、これから何しよう」と考える贅沢がある。
 ウェブで公開されている多くの参加者の感想には、滞在当初の不安やとまどいが、村の人びとに受け入れられ過ごすうちに村の生活リズムを心地よいと感じるようになったり、それまでの自分の考え方や感じ方が変わったりした経験へとつながっていくようすが描かれている。
 先月NHKの番組「サキどり」で紹介されていた外国人向け日本の地方ツアーも、オルタナティブツアーと同じ考えかただなあと思って見た。これは大分県を拠点にした会社の活動だが、「一般的には注目されていない、日本で暮らしていなければ知り得ない地方の魅力を紹介するものが中心(ポール・クリスティ氏:日本貿易会月報2015年10月)だという。観光地ではないけれど、美しい日本の地方(「田舎」)を歩き、そこで出会った地元の人たちと交流するツアーが人気なのだそうだ。歩く速度でその地域を見ることによって、ふつうの暮らしの中にあるリアルな人びとの姿がわかるのだと思う。このようなツアーは、一朝一夕にして実現できるものではない。タンザニアのツアーも、当該会社の代表たちが敬愛をもって、地域の人びとと積み重ねてきた交流と相互信頼によるものだ。
 上述のタンザニアの会社に弘前大学の学生がインターンとして採用され、オルタナティブツアーを学ぶことになった。他県出身の彼女は、青森のふつうの暮らしに魅せられ青森でもこのツアーを企画したいと考えたようだ。ツアー企画で青森のどんな輝きが見出されるだろうか。
(弘前大学人文社会科学部教授 杉山祐子)

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「地方ネタの東京歩き」旅先で集めた先人の話題

2016/11/13 日曜日

 

 福田永斎の名前を聞いた人は、少ないと思いますが、彼の画いた苹果や葡萄、柑橘類などの果実図が手許にあります。知ったかぶりで申せば、師匠は有名な谷文晁。幕末から明治に生きた町絵師で、数年前に出版された、日常生活をサラリと画いた絵日記が知られていますね。
 ご維新後は、明治十二年に開設された駒場農学校に傭われ昆虫飼養日誌に挟み込まれた、農作物の害虫の写生を残しています。この画印を拝見するため、久々に上京してきました。印章は同一でしたし、写真と見紛うばかりの精緻な画の色彩は、百三十年余を経たと思えない鮮やかな艶もあって、感激した次第。
 これに注記をしていたのは、国蝶のオオムラサキの属名に献名されている昆虫学者の佐々木忠次郎。大森貝塚の発見で知られるエドワード・モースの愛弟子であり、蚕の飼養でも著名かと存じます。
 大森貝塚の碑は、さほど離れていないながら、品川区内にもありますが、この繋がりを知ったので、大田区大森の史跡「大森貝塚」を表敬訪問。佐々木博士が揮毫の碑文の造立者銘板に、当市出身の岩川友太郎の名前を見出しました。
 岩川は貝類の学者で有名ですが南方の蝶にも名を残して「イワカワシジミ」とはきつい洒落のような話であります
 なお同じく東奥義塾出身で、東京医科大学に進んだ伊東重が、モースの講義を岩川の薦めで聴講した逸話は有名かと。
 話を駒場農学校に戻しますと、ここはドイツ人のケルネル博士を招き、施肥や近代農法を研究したところ。そんな当代一流のお傭い外国人先生に、意見を申したのが岩木山神社の長利仲聴でした。
 発端は、明治十四年に熊野奥照神社の拝領田の扇田に生えた瑞穂。不思議なことに一本の茎の先端に三本の穂があり、二本はヒエだが、一本にイネが実った。
 「古今未聞ノ珍物」と考え、「老農博識ノ参観ヲ得テ」、神田に生えた由縁を知りたいと、翌年五月に県に提出です。
 この「米稗両穂ヲ結ヘル変生稗」を鑑定したのがケルネル博士。同年十一月付けの鑑定結果が、日本語訳で届いたのは十六年の正月。顕微鏡で調べたところ、ヒエとイネをあとで挿入したと判断されたのだから、長利には納得が出来ない。
 鑑定は「世ニナキモノト思フ偏心ヨリノ僻見」で、日本書紀にも「天地異常ノ物」の記録があると、重ねての上申書。「天造ノ変生物」と信じていたが、一刀両断に偽造と判断されたのでは、「私名分難相立」というわけです。
 頑固一徹というか、我の強い津軽オヤジのじょっぱりかも知れませんがねぇ、ちょっと好きな態度でもあります。
 郷土ゆかりの場所といえば、どうしても江戸屋敷などを思い浮かべますが、こんな『トーキョー散策マップ』ば、作成途中の話題発掘から楽しいかもねっ!
(元弘前図書館長 宮川慎一郎)

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「学恩」日本言語地図と恩師

2016/11/6 日曜日

 

 

 私が大学・大学院を通じてお世話になった恩師に、福島県生まれの飯豊毅一先生がいる。先生は、長く国立国語研究所にお勤めになり、『日本言語地図』全6巻、『方言文法全国地図』全6巻に携わられた。『日本言語地図』は、全国の方言の地理的分布を一望でき、『方言文法全国地図』は文法事象の全国的な分布を展望できる基礎資料としてのことばの地図である。
 しかし、これとは別に、ご自身の研究として自分一人で日本全国を調査なさっていたことを知る人は、あまりいない。自慢する人ではなかった。ひと言で日本全国といっても、膨大な調査であることは想像できるだろう。現在進行中の国立国語研究所の新たな言語地図では、私は青森県を分担して県内14地点を調査したが、それも他に2人の助力を得たほどで、1人で全国を、というのは想像すらできない。
 私の学生時代、先生は「何十年に一人くらいは、自分の足で全国を回って方言を調査してやろうと考える人が出てくるんです」と、福島の上り調子の独特のアクセントで笑いながら話しておられた。今になって、本当の意味で、その姿に頭の下がる思いである。決して人を悪く言わず、しかし迎合することもなく、学問的に正しいことは遠慮会釈なく主張するということ、それを守っていくことがどれほど難しいことか、しみじみ感じる。
 調査に連れて行っていただいた折、調査をお約束した時間に間に合わせるために、宿で朝ご飯を食べる時間が無ければ駅のホームでパンをかじりなさいとか、どうしても手に入れたい資料なら、遠慮せずに頼みなさいとか、当時の私にはかなり厳しいと思えることも多かった。けれど、それは先生の歩んでこられた研究者としての道に他ならなかったのだ。
 「あなたは何のために研究するのですか?」という質問は、私がまだ学部の学生の時にいただいたものだ。「知りたいこと、わからないことがあるからです。」などという返事しかできなかった。「自分が知りたいだけですか?それがわかって、世の中には何の役に立ちますか?」という質問には、答えることができなかった。それほど未熟だった学生に、「今はわからなくても、考えなければいけません。考え続けなければいけません。」と教え諭してくださった。そしてご自分の全国調査のデータを惜しげもなく私たちに与えてくださった。
 私が弘前に着任してまもなく、恩師はこの世を去られた。今の私をどのように見ておられるだろうか。師が与えてくださった学恩は、学生達に渡せているだろうか。私の研究は地域のために役だっているだろうか。学会での発表が終わって、今一度、振り返る今日この頃である。
(弘前学院大学文学部教授 今村かほる)

 

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