昨年11月下旬、東北経産局主催の灯油問題懇談会があった。消費者と供給側が意見交換するもので、私も「学識経験者」という立場で参加している。会の中心課題は、可能な限り安価で安定的に灯油を消費者に供給できるかであるが、この時点では、原油価格が高止まりで、灯油価格も高い水準にあったので、消費者は大変懸念していた。もっとも、その後、米中「貿易摩擦」に端を発した世界経済の先行き不安などで原油需要が減少し、随分と安くなっているのは確かである。
こうした課題とともに議論されたのが供給体制である。灯油を購買する場所でもあるサービスステーション(SS)の数が全国的に減少し、「SS過疎」(1自治体にSSが3カ所以下しかない状態)が深刻化しているため、ガソリンや灯油の供給が懸念されているのだ。資源エネルギー庁は昨年11月、大規模災害時の製油所機能の維持や、給油所(SS)が非常時でも給油を継続できる体制の整備などを急ぐことにしたが、平時でも、石油製品の供給が容易ではない事態が顕在化していると言えよう。
SSの減少(SS過疎の進行)は、少子高齢化と自動車の燃費向上などの構造的要因と、商品の差別化が困難で価格競争が激化し、収益率が低下していることが要因で、1994年度には6千余あったSSが、2017年度にはほぼ半数にまで減少し、今後はさらに減少していくことは必至の状況だ。灯油などを扱う揮発油販売業者数も同様な傾向にある。
こうした中で、ガソリンや灯油を消費者に日常的に確実に届けるためのいくつかの方策が提案されている。一つは、過疎地は都市部に比べ人口や家屋の密度が低いことから、安全水準を都市部より低くすることで設備コストを下げ、収益性を向上させるというもの、二つ目は、IT技術を積極的に活用し、人手不足を克服するとともに業務の効率化を実現しようというもの、三つ目は、SSを「地域のサービス拠点・総合エネルギー拠点」として再編する計画で、LPガス・スタンド、自動車整備場、簡易郵便局や宅配ボックスの設置、地域の物産販売・観光サービス提供の場など、日常生活に関わる物販とサービスを総合的に行うとともに、災害時の拠点化も図るものである。また、これとは別に、タンクローリー車を派遣して給油する「どこでもスタンド」の実証実験も一部地域で開始された。
これらは依然として構想や実証実験の段階に過ぎない。しかし、SS過疎が我々の日常生活を脅かす懸念がある時、我々は予め何らかの方策を講じておく必要があろう。その際、自治体、地域住民、供給業者などが課題解決のための協議体を構成し、地域の実情に適した方策を可能なところから実践していくことが求められているのは言うまでもなかろう。
(青森大学名誉教授 末永洋一)