津軽開業 第2部 弘前を売り込め(2010・3・23~3・26)

 

弘前感交劇場=1

2010/3/23 火曜日

 

昨年は244万人の観光客が訪れ、新幹線効果でさらなる増加が見込まれる弘前さくらまつり

 弘前市の観光施策「弘前感交劇場」は2007年にスタートし、市民の参画を呼び掛けながら、地域に埋もれた魅力の発掘と磨き上げに取り組んできた。その成果として、弘前公園の桜やねぷたなど四大祭りに頼らないまち歩きの観光コースが形になり始めている。ただ、感交劇場の理念が一般市民にどれだけ浸透しているのかは未知数。東北新幹線全線開業まで9カ月。「劇場の幕開け」は、刻一刻と近づく。
  ◇    ◇
 「市民の意識がまだまだ。新幹線で、黙っていても観光客が多くなるという声が聞こえる」
 弘前市観光物産課の佐藤耕一課長は、市民の意識醸成を課題に挙げる。目指すのは地域が持つ魅力に対する市民の“気付き”。「魅力を知っていれば誰かに教えたくなる。市民が気軽に観光客に声を掛け、街の魅力を紹介してほしい」と期待を込める
 新幹線をどれだけ市民が意識しているか、物差しで測るのは難しい。しかし、持続する観光と地域経済の振興に全市的な意識の一体感は不可欠。市などは市民を対象にまち歩きツアーを行い、地域の魅力再発見の機会提供に努めている。
 さらに四大祭りに依存した観光から脱却することは、長年にわたって指摘されてきた難題だ。08年県観光統計によると、弘前市の観光客入り込み数推計は715万9000人。青森、八戸市より100万人以上多く、県内随一の観光都市を裏
付ける。一方で宿泊客は49万3000人にとどまり、祭り時期に集中した通過型観光地となっているのが実情だ。
 近年、JR駅前など県外資本のホテルが相次いで進出し宿泊施設の充実は図られたが、地元ホテルを含む客室の合計は2000室余り。さくらまつり時期に毎年200万人を上回る観光客が訪れても、容量には限界がある。
 通過型では経済効果として表れにくく、リピーター増への対策と、通年で宿泊を伴う観光コースの創出が求められている。
 その観光コースを模索しているのが、感交劇場の実務者会議「やわらかネット」だ。異業種の市民らが「ない物ねだり」ではなく「ある物生かし」の視点で、地域の魅力をつないだ観光コースづくりに知恵を絞っている。
 「民間の動きを行政が応援しなければならない。次のステップにつなげることが、われわれの仕事」と佐藤課長。劇場開演の準備は整いつつある。
 全線開業後の11年には弘前城築城400年祭を控える。小説「津軽百年食堂」の映画化も予定されるなど情報発信の好機が目白押しで、旅行者への備えは十分でなければならない。まさに「全線開業はゴールでなく始まり」(佐藤課長)だ。
  ◇    ◇
 東北新幹線全線開業でさらなる観光客の入り込みが期待される弘前市。開業を見据え、官民一体となった新
たな取り組みも始まっている。いかに効果を享受するのか、同市内での動きと課題を探る。
(東北新幹線全線開業取材班)

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まち歩きをPR=2

 

弘前の魅力として育ってきた洋風建築物

 団体旅行が主流だった弘前の観光も、時代の変遷(へんせん)とともに多様化しているニーズは「街の生活に触れたい」。個人や少人数のグループで訪れるケースが増え、市民の生活圏に繰り出している。洋館の街という“新しい顔”が、まち歩きの仕組みとして育ってきたことの表れでもある。
  ◇    ◇
 弘前観光コンベンション協会の坂本崇企画開発部長は「他県から来た人は、海のない弘前に、神戸や長崎にあるような洋風建築が多いことに驚く」と説明する。城下町で知られる弘前だけに、和を想定して訪れる人にとって和洋折衷の街並みは意外性があり、魅力的でもある。
 PRに動き始めたのは2003年。洋館とフランス料理という弘前の新しい観光の切り口を、首都圏の旅行関係の出版社やエージェントに売り込んだ。結果が出るまで3年かかった。雑誌に取り上げられる機会も増え、弘前の新たな魅力として知られるようになった。
 街の魅力は、地域のありふれた光景を“石ころ”と見るか、“ダイヤモンド”と見るかの違い。ダイヤモンドになると受け止める側の見方はがらりと変わる。坂本部長から見れば、「弘前は観光資源がたくさんあって、まち歩きに困らない街」だ。
  ◇    ◇
 市街の喫茶店もその一つ。土手町や一番町通りは喫茶店が多く、“お茶する文化”が根付く。全国的なチェーン店が中心街になくても、各店が固定客を持ち、平日の日中も人でにぎわう。
 「弘前はこの北の地で時代の流れを把握し、いち早く洋風文化を採り入れた。そのハイカラ好き、新し物好きの気質が受け継がれている。全国にいろいろな街があるが、弘前は独自の文化を持った街」と坂本部長は指摘する。
 通過型観光地の弘前は、宿泊につなげるための時間の過ごし方が課題だが、民間も動き出している。昨年秋には地元喫茶店が「弘前は珈琲(コーヒー)の街です委員会」を立ち上げた。
 弘前のコーヒーの歴史は約150年前にさかのぼる。北方警備のため蝦夷(えぞ)地(北海道)に赴いた弘前藩士に、薬としてコーヒーが配給された。委員会はその歴史に着目して藩士のコーヒーを再現、加盟店で提供している。特色ある喫茶店15店を紹介するガイドマップも作った。
 街を歩いて洋館を見学し、コーヒーで一息つく。冬の夜はイルミネーションに彩られた景色を楽しみ、三味線居酒屋で津軽の音に触れる。バーには弘前のオリジナルカクテルもある。民間が参画した魅力発掘により、まち歩きのメニューが限りなく広がる。

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やわらかネット=3

 

主婦が案内する「ちょい食べコース」でまち歩きを楽しむ市民ら

 「今年の弘前城雪燈籠(どうろう)まつりは、土手町にろうそくの灯がともり、今までと違う人の流れができた」「廃油からろうそくを作り、環境学習として取り組むこともできるのでは」「冬期間の週末は商店街にろうそくをともし、最後は(相馬の)沢田地区のろうそくまつりで締めくくるのはどうか」
 弘前感交劇場の実務者会議「やわらかネット」は、毎週水曜日の午後6時30分から、市立観光館2階研修室で開かれており、これまで約40回の会議を重ねてきた。
 ここは感交劇場の劇団員養成所で、観光資源の発掘とコース作りを推進する場。各回の参加者や議題は決まっていない。市民らが緩やかなネットワークの中で意見を出し合い、時に手を組んでコース化の可能性を探っている。
  ◇    ◇
 実現には課題も数多いが、生まれたてのアイデアは産学官でつくる感交劇場推進委員会が支え、育てる。推進委員会事務局の桜田宏さんは「市民のアイデアが入ることで観光コースに魂が入る」とし、「地域の時間の過ごし方に魅力があれば、そこで初めて経済効果が生まれる」と訴える。
 昨年12月、やわらかネットから市民手作りの初の観光コースが誕生した。地元主婦が考案した旅行商品「りんごスイーツちょい食べコース」の受け入れが始まったのだ。企画したのは、市内で子育て支援活動に取り組む「ふれ~ふれ~ファミリー」代表の一條敦子さんだ。
 主婦の案内で駅前や土手町を散策し、生のリンゴ、アップルパイ、アップルティーを味わう“リンゴ尽くし”のコース。プロの旅行業者では思いつかない主婦目線のアイデアが新しい。このコースで市民は街の魅力を再確認し、観光客は本場のリンゴの歯応えと、こだわりのお菓子に驚く。
  ◇    ◇
 「コースを企画するのが面白い」という一條さんは、やわらかネットで毎週のように企画を提案。出席者のアドバイスを受け、旅行商品として形にした。市内すべての菓子店や喫茶店を組み入れるのは困難。特徴ある店を選び、直接足を運んで交渉した。
 スタッフは現在6人で、発足から今月までに約100人の観光客を受け入れる。
 一條さんは「うれしいのは、各店が商品の特徴を伝える機会が増えると喜んでくれること。地域経済が潤ってほしいし、みんなに自分たちの街の良さを知ってもらい、自信を持ってほしい」と、目を輝かせる。

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リンゴで観光=4

2010/3/24 水曜日

 

リンゴの花が咲き誇る景色も地域の魅力(弘前市りんご公園)

 日本一の美しさを誇る弘前公園の桜だが、近年強まる全国的な早咲き傾向は避けられない。旅行計画を立て、桜を楽しみに訪れる観光客へのもてなしをどうするべきか。
 「リンゴ畑の中を通るアップルロードは貴重な景観。岩木山の眺めもいい」と語るのは、市りんご農産課の田村博文りんご係長。生産量日本一の広大なリンゴ園の花を観光に生かさない手はない。新幹線開業で観光客の増加が予想される中、生産者の所得向上につなげたいとの思いは強い。
 「リンゴの花見は秋の収穫体験へのきっかけづくりになる」。食べるリンゴから花見、収穫体験など誘客に結び付け、リピーター増加に期待を込める。
  ◇    ◇
 リンゴの街・弘前の情報発信基地となる
市りんご公園の役割も大きい。同園は市が所有し、指定管理者の弘前観光コンベンション協会が管理・運営する。
 65種類、1200本の木を栽培し、施設内はリンゴにちなんだ雑貨、食品など約1200種類の商品を展示販売。食事コーナーではりんごカツカレーを販売し、外国人客の人気ナンバーワンメニューという。同協会市りんご公園担当の大瀬和臣さんは「食でお客さんを引きつけるものを進めたい」と、魅力創出に知恵を絞っている。
 まだ雪の多い今月上旬、施設内にリンゴの剪定(せんてい)枝が置かれ、枝先に青葉と花を付けた姿が訪れる人に“春近し”を感じさせていた。「欲しい人に枝をプレゼントしている。室内は日光が当たらないので、白い花が咲く」(大瀬さん)。持ち帰る旅行者にとっては、帰ってからの楽しみになる。
  ◇    ◇
 同園の年間の利用者入り込み数は、2007年度が10万5700人、08年度は11万9000人で、前年比1万3300人増。09年度は1月末で9万6300人が訪れている。
 各年とも利用者のピークは花が咲く5月。単月では意外にも花見時期に訪れる人が最も多い。弘前公園が葉桜になるころ、園内にリンゴの花の鉢植えを設置し、路線バスを走らせて市りんご公園への誘客を図っている。
 桜が早咲きだった08年は例年にも増して人が押し寄せ、5月に3万5300人(前年比1万5200人増)が訪れ、りんご花まつりの期間は3000台の車で駐車場が満杯になる日もあった。
 今年のりんご花まつりも5月上旬に開催予定。大瀬さんは語る。「観光客に『来て良かった』『また来たい』と思ってもらえるように、職員のもてなしのスキルアップに取り組んでいる。まずは地元の人に喜んでもらえる施設でなければ」

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こだわり弁当=5・完

2010/3/26 金曜日

 

JR弘前駅で昨年12月から販売が始まった「ばっちゃ御膳」

 県内随一の観光都市ではある弘前だが、最近までこれといった駅弁はなかった。昨年末から津軽の郷土料理を詰め込んだ弁当の販売が始まったほか、今後も地元のこだわり弁当が続々と登場する予定で、駅弁誕生への兆しが見え始めている。
  ◇    ◇
 昨年12月12日、JR弘前駅2階自由通路で弁当「ばっちゃ御膳」が売り出された。3カ月たった今も販売好調で、ほぼ毎日売り切れる盛況ぶりだ。
 ばっちゃ御膳は津軽料理遺産認定・普及協議会と、秋田屋仕出し店のコラボ企画。同協議会は、郷土料理139品目を後世に伝承すべき料理として津軽料理遺産に認定した。その料理を多くの人に知ってもらおうと企画したのがばっちゃ御膳。
 貝焼きみそ、ボウダラとフキの煮付け、身欠きニシンのしょうゆ漬け…。津軽の定番の総菜が凝縮され、竹皮の容器も素朴で味わい深い。坂本貴秀同協議会事務局長は「旅人の期待に応えられるものを作りたかった。昔からの料理で、古くさいところがいい。食材は動いても、食文化は動かない」と語る。
 弘前駅で平日15個、土日祝日に20個販売し、ニーズの把握に努めている。販売を担当する秋田屋仕出し店の高木徹総合企画部長は「当初10個販売したところ品切れになる日が多く、15個に増やした。午後1時にはなくなる」という。
 客層は40~60代が多く、「懐かしい」「作り方を教えて」といった声が届き、地元のリピーターが増えている。観光客には“弘前の弁当”として受け入れられている。
 「まず1個買って、その後5、6個買って友達に配る人もいる。安定した支持を得ているのは何より」
 高木部長は思いがけない消費者の反応に手応えをつかんでいる。
  ◇    ◇
 新たな動きも。弘前市などは駅弁・空弁(そらべん)・津軽弁プロジェクト実行委員会を立ち上げ、地域ならではの料理や地元食材を基本に、弁当を起爆剤とした地域活性化へ動き出した。全線開業までに、いろいろな弁当を選べるようになりそうだ。
 津軽各地の業者によるアイデア弁当を、4月中にも自由通路のスペースを利用して“津軽弁”の名で売り出す。石川善朗委員長は「電車に乗るための弁当ではなく、駅で買って街に繰り出してほしい。散策して街角のベンチで食べてもらうのが理想。包み紙で市内のマップを作るのもいい」としている。
 ばっちゃ御膳にとってはライバル出現となるが、高木部長は「各業者がいろいろなコンセプトを持って出してくると思う。1種より多い方が選ぶ側にとって楽しみがあっていいし、売り場が活気づく」と期待を寄せる。

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