津軽野有情

 

蝶蜻蛉=40

2010/9/27 月曜日

 

 かつては、南国に住む憧(あこが)れのトンボだった。蝶(ちょう)のように巾(はば)の広い翅(はね)を持ち、ひらひらと優雅に飛び回る。
 十数年前には、青森県にいなかった。しかし、その後県境を越えて北上し、県内の一部の沼にも住み着くようになった。
 雄は紺色の翅に虹色の金属光沢があり美しい。天気のよい日には、太陽の光を反射させながら翅を左右交互に傾け、周囲に自己アピールする。
 身近に見られるようになったのは嬉(うれ)しいが、これも地球温暖化のためではと思うと、喜んでばかりもいられない。

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涼風=41

2010/10/4 月曜日

 

 写真に撮りたいトンボがある時は、まずトンボの行動をよく観察する。
 どのあたりを飛び回るか、どこによく止まるかと観察する。それから胴長を履いて、川の中に陣取る。
 止まっているトンボに、近づいて撮ろうとすると逃げられる。だから、よく止まる場所の近くに座って待つのが一番いい。
 心も野心を捨てて、川の石のように無心になるのがいい。トンボはこちらの思いを、確かに読み取っている。 欲を捨てて待つと、思いがけないチャンスがやってくることがある。別のトンボが、恰(かっ)好(こう)の場所に向こうからやってきて、目の前に止まってくれた。

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翡翠=42

2010/10/11 月曜日

 

 弘前だんぶり池に、昨年はカワセミが頻繁に姿を現した。
 それには、はっきりした理由がある。繁茂しすぎた植物を、一生懸命抜き取ってくれたボランティアの人たちがいたからだ。
 生き物を観察する子ども達のために、橋の近くや木道の周辺を念入りに抜いてくれた。
 それが、水が浅く生き物の多いだんぶり池を、カワセミの恰(かっ)好(こう)の餌場にしてくれた。
 橋の手すりや木道を止まり木にし、そこからダイビングしてオタマジャクシやトンボのヤゴを捕まえていた。
 カワセミが自然の再生に妨げになっているとは言えまい。互いに精(せい)一(いっ)杯(ぱい)生きようとしているだけなのだから。

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水葵=43

2010/10/18 月曜日

 

 青森県のレッドデータブックでは、ミズアオイが植物のCランクに位置づけられている。
 そのミズアオイが、時として休耕田や川の中に大群落を作っている。さらに、最近は除草剤に抵抗力を持った水田雑草として取りざたされている。
 自然はあまりに複雑怪奇で、なかなか簡単には理解できないし、人の力では容易にコントロールできそうにない。
 コントロールしようと思う方が、多分思い上がりなのだ。
 まず、私たち人間が自然の一員だと認識することから発想する謙虚さが必要だと思う。

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御輿草=44

2010/10/25 月曜日

 

 道端のゲンノショウコは、昔から胃腸薬として重宝されてきた。その苦み成分が、消化液の分泌を促し薬効があると言われる。
 ゲンノショウコという名前は、飲むとすぐ効くから「現の証拠」と言われたことからついた。
 果実が熟すと果皮が割れて跳ね上がり、勢いよく種子を飛ばす。その果皮の跳ね上がった様子が、御輿の屋根の形に似ているので御輿草とも呼ばれている。
 昔、唇にくっつけて遊んだ記憶もあるかも知れない。
 確かに御輿を連想させるおもしろい形だと、林道の道端で一人納得した。

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森の妖怪=45

2010/11/1 月曜日

 

 碇ケ関の「竹の子の里」から、昔登ったことのある白地山を目指した。
 あまり入る人もいないようで、林道には所々で落石や藪(やぶ)が目立った。
 登山道を大きなぬかるみがふさぎ、何度も大回りせざるをえなかった。そうしたぬかるみの一つで、まさに森から生まれた愉快な妖怪に出会った。
 ぬかるみの泥の中にしっかりと立ち、赤い顔で静かにこちらを見ている。朴(ほお)の木の実である。梢(こずえ)から落下し、偶然にも立った形で泥に突き刺さったのだろう。
 思わず「やぁ!」と、親しみを込めて挨(あい)拶(さつ)をしたくなる。

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カルデラ湖=46

2010/11/8 月曜日

 

 十和田湖は、世界有数のカルデラ湖である。十和田山の山頂から眺めると、地球の大きなクレーターのように見えた。
 私はかつて、中学生を連れて十和田湖を2度歩いて回った。1周40キロくらいだろうか。生徒達は、チョロいものだと甘く見て歩き始めるが、対岸がかすむほどの距離に、後悔するのが普通だ。
 朝の7時に滝ノ沢キャンプ場を出発し、時計回りに1周すると、夕暮れ時の7時頃(ごろ)にキャンプ場に戻る。
 だれもが足を棒にして歩き通し、十和田湖を1周歩いたという達成感に満足する。
 十和田湖を訪れるたびに、生徒達の顔を思い出す。

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千振=47

2010/11/22 月曜日

 

 

 千振とは、変わった名前である。
 乾燥させた植物体は、その強烈な苦味とともに煎(せん)じ薬として知られている。
 煎じて飲む薬を、昔は「振り出し薬」と呼んだらしく、千回煎じても苦さが衰えないという意味で「千振」と言われるようになったと、ものの本で読んだことがある。
 私自身は、特に薬として重宝しているわけではないが、その五弁の花の可(か)憐(れん)さに惹(ひ)かれて探している。
 今では生えている場所も少なくなり、なかなか見つからなくなった。リンドウ科の植物である。

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刈田富士(かりたふじ)=48

2010/11/29 月曜日

 

 

 岩木山は、四季を通じて、子どもの頃(ころ)から眺めてきた。いや、いつもどんな時も、岩木山に見つめられてきたと言うべきかもしれない。津軽の人たちの心には、深く入り込んでいる山だ。
 だからこそ、特別な岩木山ではなく最も普通な岩木山、いわば普段着の岩木山を、すてきな写真に仕上げたいと常々思ってきた。
 津軽平野では稲刈りが終わり、棒がけで天日干しされていた。りんご畑では何の品種か、収穫が続いていた。
 岩木山の中腹まで紅葉が下りてきていた。そろそろ初雪も近いなと思われた。

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混交林紅葉=49

2010/12/6 月曜日

 

 弘前公園の桜が、松の緑で一層引き立てられるように、野山の紅葉も針葉樹の緑でよりあでやかに見える。
 紅葉が盛りの北八甲田で遊んだとき、葉を落としたダケカンバの白い幹と、広葉樹の紅葉、そしてアオモリトドマツの緑の織りなす景色に圧倒された。
 なんとあでやかな眺めだろう。日本の伝統的工芸品に見られる美しさも、こうした自然の姿によって培われてきた美意識によるものにちがいない。
 毛無平から眺める田茂萢岳斜面の紅葉に、西陣織にも似た美しさを見た気がした。

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