津軽野有情

 

青鹿=10

2010/2/1 月曜日

 

 山でのカモシカとの出会いは、いつでも快い余韻を残す。
 出会うと人を嫌って逃げるように姿を消す動物が多い中で、カモシカはゆっくりと視線を合わせる時間がある。時には、30分もの長い間、斜面の高見からこちらを見下ろしていることがある。
 なぜカモシカを「あお」とか「あおしか」と呼ぶのか疑問に思っていた。
 古語では、灰色をおびた白を「青(蒼(あお))」と言うらしい。奈良公園などで見かける褐色の鹿に対して、カモシカの毛の色は、まさに青。青鹿なのである。

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青啄木=11

2010/2/15 月曜日

 

 アカゲラ、アオゲラ、オオアカゲラなど、キツツキの仲間がよくウルシの実を食べに来る。寒い冬を乗り切るのに、脂肪分や糖分の多い実は、貴重な食料なのである。
 アオゲラは夏の間、山間地で暮らしているのだが、冬は里や市街地にも姿を見せるようになる。それだけ、冬は餌が少ないから、広く餌を求めて飛び歩いているということだろう。
 弘前公園のカエデの木で、アオゲラが樹皮からしみ出してくる樹液をなめているのを見たことがある。まさに、カエデ糖から糖分を得ていたのだ。

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山毛欅林=12

2010/2/22 月曜日

 

 猛吹雪がおさまった後のブナ林。
 二十数メートルもあるブナの木が、下から上まで雪をまとい、あたかも雪の精が立ち並んでいるように見える。
 こんな白一色と化したブナ林は、冬に山に分け入っても、滅多にお目にかかれない。
 風の強さ、気温、雪質などがうまく調和した限られた条件でなければ、こんな世界は出現しない。
 自然が時として見せるこうした光景は、実に美しく感動的である。しかも、長くは続かないはかなさが、より感動を大きなものにしてくれる。

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霧氷=13

2010/3/1 月曜日

 

 八甲田山系の西の縁に、毛無山という山がある。黒石市の開拓集落厚目内は、その毛無山の中腹といっていい。
 かつて、厚目内中学校に勤務していた私は、堅雪を使って毛無山に何回か登った。
 下から見てブナが白く見えたのは、雪ではなく氷のためだと、登ってみてわかった。
 霧が木の枝に氷となってついた霧氷だった。枝が風で揺れると、互いに氷がぶつかりカラカラと乾いた音をたてた。
 振り返ってみると、開拓の苦労の跡が白い角張った畑となって散らばって見えた。

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鎌尾根=14

2010/3/8 月曜日

 

 岩木山の柴(しば)柄(から)沢(さわ)は、我が青春の地と言っていい。高校生の頃(ころ)、通い詰めた沢だ。
 春には、山の先輩達と嶽温泉に泊まり、翌朝、冷え切って雪が堅い柴柄沢の右岸を登った。
 今でも、その頃が懐かしく、毎年春には残雪を踏んで右岸を登る。
 鎌尾根は、岩木山の古い噴火口の壁の一つで、鎌の刃のように湾曲して切り立っている。
 昔、石が吹き飛ばされるほどの強風の中、岩にしがみついて鎌尾根を越えたことがあった。
 この日は、遠く白神山地まで見通せた。

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氷晶=15

2010/3/15 月曜日

 

 移動性高気圧にすっぽり覆われ、深夜の放射冷却による冷え込みがきつい日、早朝に氷晶が見られることがある。
 文字通り巨大に発達した氷の結晶である。枯れ草の茎や木々の枝に、薄い結晶が何枚も折り重なるようについている。
 どこにでもできるわけではなく、川から流れ出る湿度の高い空気の通り道に集中してできる。しかも、全くの無風状態という条件が必要である。
 雪を踏む振動、吐く息がもとで、はらはらと落ちるほど繊細である。
 気温が氷点下なのに、直射日光が当たり始めると、光のエネルギーで落ちてしまう。

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青森椴松=16

2010/3/22 月曜日

 

 毎年、天気のいい日を選んで、南八甲田の横岳に登る。
 昨年の2月は雪が少なく、樹氷と化しているはずのアオモリトドマツが、クリスマスツリーのような姿のままだった。
 それが幸いして、横岳から隣の南沢岳を眺めると、かすかに雪をまとったアオモリトドマツの林が、木の形を残したままきれいに見えた。雪が少ない年でなければ、なかなか見られない景色だ。
 雪が少ないせいで、アオモリトドマツに地衣類のサルオガセがついているのを久しぶりに見た。絶滅していなかったのがわかって嬉(うれ)しかった。

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岳樺=17

2010/3/29 月曜日

 

 夏の間、ダケカンバはあまり目立たないが、紅葉から木々が葉を落としている季節に、その美しさが際だつ。
 白(しら)樺(かば)の白も美しいが、肌色を思わせるダケカンバの木肌は、温かみがあって一味ちがう。
 くねくねとしなやかに伸びる独特の枝振りは、標高が高く雪の多い厳しい気候に耐えて生きることで、生み出されたものだろう。
 風が音を立てて雪煙を舞わせている中、紺(こん)碧(ぺき)の空に枝を伸ばしているダケカンバの姿は、雪山登りの疲労を忘れさせるほど美しい。

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雪化粧=18

2010/4/5 月曜日

 

 雪国の冬は、南国の冬とはちがってつらいことが多い。雪かき一つとっても、こんなに雪国の暮らしは大変なんだよとつい口から出てしまう。
 それでも、雪国でなければ味わえないことも沢(たく)山(さん)ある。
 初雪の朝に感じる昨日までとは違う明るさと静寂。月明かりが夜空に浮き上がらせる煌(こう)々(こう)とした雪山。多様な雪質が見せる自然の造形美。
 新雪の朝に見る雪化粧した町並み、そして木に花が咲いたかと思うほどの雪の花。
 雪国もまんざら悪くはない。

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樹影=19

2010/4/12 月曜日

 

 スキーにシールを貼(は)り、雪山を登る。雪の斜面がしっかりと体重や蹴(け)りを受け止めてくれるのが小気味いい。
 林の樹間から、真っ白な岩木山の輪郭が浮き上がって見える。点々と続く何本もの野(の)兎(うさぎ)の足跡を越えて登る。
 野鳥たちの群れが、梢(こずえ)の雪を落としながら頭の上をにぎやかに移動していく。
 ようやく林から抜け出ると、大きな沢の対岸に、ブナ林が影を落としているのが見えた。急斜面がさらに影を引き伸ばしている。
 晴れた日の雪山は、静かで何もかもが美しい。

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