里の自然学(竹内健悟)

 

ヨシ群落守る「攪乱」=21

2010/3/15 月曜日

 

人為攪乱を調べるための実験区。左が火入れ区、中央が刈り取り区。右が無処理区、春の火入れ直後に撮影
攪乱によるヨシ群落の違い。刈り取り区はヨシが密生する。無処理区は低密度で枯死体がたい積。火入れ区はその中間

 ヨシの刈り取りや火入れには、植生が遷(せん)移(い)することを防いだり、害虫や雑草を除去する効果があるといわれている。特に、春先の火入れはヨシを休眠から覚(かく)醒(せい)させる、焼いたあとの灰が肥料になるともいわれている。ヨシ原は利用されること、言い換えれば「人に攪(かく)乱(らん)されること」によって守られてきたといえる。このことは、経験に基づく常識として各地に定着しているが、意外にも科学的に実証した例が見あたらない。そこで、攪乱がヨシ群落にどのような影響を与えるのか、そして攪乱が減少している岩木川下流のヨシ原はどういう状態になっているのか、盛岡大学短期大学部教授の齋藤宗勝先生と青森南中学校長の齋藤信夫先生とともに2006年から調査を行った。
 調査の第一目的である人為攪乱によるヨシ群落への影響は、秋に刈り取った「刈り取り区」、春に火入れをした「火入れ区」、何も手をつけない「無処理区」の三つの実験区を隣り合わせて設定して、ヨシの生長や群落構造の違いを調べた。各区画では5個ずつ設置した調査枠内のすべてのヨシにナンバーテープを巻いて、4月から10月まで毎月1回、ヨシの本数(密度)、1本1本の高さ、稈(かん)径(けい)(太さ)、すべての葉の長さと幅(葉面積計算に利用)を測定した。また、50センチ四方の枠内で植物体を高さ20センチごとに区切ってすべて刈り取り、乾燥重量によって群落の構造を把握する「層別刈り取り」を数カ所で行った。さらに、河川敷を横断してヨシの密度や生育状態、土壌・水分条件を記録し、下流部のヨシ原の状態をマクロにとらえる調査を行った。
 調査結果を簡単にまとめるとイラストのようになる。「刈り取り区」は、他の区画に比べてヨシが密生する上に小ぶりな葉がたくさん付いて地上部に光が届かないような群落になった。「無処理区」は密度が低く、少ないながらも大型の葉をつける群落で、地表部は枯死体が積み重なり、緑のヨシに枯れヨシが交じる状態になった。「火入れ区」はその中間の様相で、地表には光が届いて、草花の生育も見られた。つまり、火入れよりも刈り取りの方がヨシの生長の勢いが強くなり、刈り取りを続けることによって、商業的にも良質のヨシが育つという結果になった。攪乱があった場所ではすべてが新ヨシになるので品質的にも良好であるが、放置された場所では枯れたヨシが交じって品質を落とすうえに、ヨシ原そのものも衰退していく様子がうかがえた。
 ヨシ原は景観的には一様に見えるが、中の様子は決して均一ではない。同じ河川敷でも、大型のヨシ群落のすぐ隣に小柄なヨシの群落や乾燥地の草花の群落があったりする。その要因は土壌と水分で、水分が豊富で土や泥が多い場所では大型のヨシが生育し、自然な状態でも群落が維持されている。一方、砂地や乾燥が進んでいる場所では、ヨシが小柄で密度も低く、ススキへの入れ替わりが見られている。このような場所は放置されることによって遷移がより早く進むと思われる。ただし、異なる状態のヨシ群落がパッチ状に連なることは、様々(さまざま)な生きものにハビタットを提供していることになっているのかもしれない。この点については今後の研究の課題である。
 この研究プロジェクトは、リバーフロント整備センター・国土交通省による「河川生態学術研究」の一環として行っているもので、岩木川研究グループは17名の研究者で組織されている。ヨシ原に関しては弘前大学農学生命科学部の東信行先生が鳥類を中心においた「ヨシ原生態系」について、杉山修一先生が「ヨシ群落の遺伝的構造と生態機能」について研究を進めている。
(環境社会学会会員・竹内健悟)

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岩木川ヨシ原どう保全=22・完

2010/3/29 月曜日

 

岩木川には環境教育や観光の対象となる魅力がいっぱい。岩木山自然学校主催「岩木川子ども自然体験学習会」のカヌーでの川下り
渡良瀬遊水地のヨシ焼きのパンフレット。ヨシ原保全は行政が支援する大イベントとなっている(このパンフレットは2006年のもので、今年は3月27日に行われた)

 近年、人による利用の減少によって、ヨシ原や草原の存続が全国的に危ぶまれており、各地で保全のための活動が展開されるようになった。岩木川下流のヨシ原を未来に残すために何をすればよいのか、そのヒントを探るべく各地のヨシ原関係者に聞き取りを行った。
 古くからヨシと関係が深かった琵琶湖では、「守る」「育てる」「活用する」を柱とした「ヨシ群落保全条例」が1992年に制定された。ここでは、保護と再生に加え、維持のための活用が入っていることが注目され、刈り取りやヨシ松(たい)明(まつ)などのイベントが誕生している。
 北関東の4県にまたがり、約1500㌶のヨシ原が広がる渡良瀬遊水地では、渡良瀬遊水地利用組合連合会が中心になって、毎年春に「ヨシ焼き」を行っている。実施関係者は約1000人、訪れる見物客やカメラマンは6000人を超えるという大規模な行事、春の風物詩となっている。この地は、日本一の葦(よし)簀(ず)生産地であったため、資源としてのヨシ原維持が当初の目的であった。しかし、ヨシ産業が衰退してきた現在は、火災防止、不法投棄の防止、湿地環境や貴重な湿原植物の保全といった目的で、多くの市民も火入れに参加するようになっている。その陰では、火入れに伴う煙や降灰への理解と協力を求めたり、安全を確保するために、行政をはじめとする関係機関が地域への広報活動を行っているが、ヨシ焼きの後には多数の苦情が寄せられるとのことであった。
 ヨシの生産地として知られる北上川河口域でも毎年火入れが行われ、春の風物詩となっている。ここでは、ヨシ業者が資源維持目的で自分の担当個所を焼いていたが、ヨシ原が「日本の音風景100選」に選ばれたことがきっかけとなって「北上のヨシを守る会」が発足し、ヨシの葉ずれの音と景観を守るために毎年計画的に焼くようになった。青森県の仏沼湿原でも、当初の干拓地維持という管理目的に自然環境保全という目的が加わり、ラムサール条約登録地を守る活動として地域の協力体制の下で火入れが行われている。
 以上から、ヨシ原が持つ価値が多様化していること、当初の資源管理という目的に様(さま)々(ざま)な価値が加わって火入れが正当性(レディティマシー)を獲得していること、実施する組織や活動形態も変化し、行政と連携して地域を挙げた公共的活動に発展していることなどがわかった。
 それに対し、岩木川ではヨシ原を守る組織もなく、人々とヨシ原のかかわりも弱くなったために、火入れは私的な行為と見なされ、苦情によってますます実施しづらくなる傾向にある。しかし、このままではヨシ原は荒れていくばかりである。そんな中、昨年は原野火災が多発した。しかもヨシが生長した6月下旬にも発生している。集落付近の原野火災は脅威であり、繁殖中の多くの生きものが犠牲になったとも思われる。その要因には放置による枯れヨシの増加・堆(たい)積(せき)が挙げられる。つまり、ヨシ原の手入れは人の生活や財産を守るためにも重要なことが示されたといえる。
 岩木川で火入れを行うには、煙や降灰、希少種の生息地に配慮し、場所を選んで小規模かつ数年のローテーションで実施する方法や、そのためのモニタリングと順応的管理を実施する体制が必要になる。同時に、ヨシ原を利用した観光や、バイオ燃料等によるヨシの需要の開発といった新たな価値やかかわりを創出することも必要である。
 ヨシ原はブナの森同様、広い面積で存在する場所は今や限られてしまった。多くの命を育み、恵みをもたらしてきたこの自然を残すために、津軽人の力を結集したいものである。
(環境社会学会会員・竹内健悟)

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