発信!世界へ 五輪イヤー到来

 

2020/1/1 水曜日

 

 今年夏の東京オリンピック・パラリンピックは大規模なスポーツ大会であるだけにとどまらない。ホストタウンの取り組みや、観戦客をはじめとするインバウンド(訪日外国人客)への対応などを通じて、いまだ世界に知られていない地域独自の文化などを発信できるチャンスでもある。両大会を契機とする地域振興に向けた県内の取り組みを7回にわたり追う。

∆ページの先頭へ

ブラジル柔道との絆=1

 

強化合宿で稽古に励むブラジル視覚障害者柔道チームの選手ら=2019年7月、弘前大学武道場

 「ブラジル視覚障害者柔道チームが合宿を通じて国際大会でメダルを取るなど結果を出している」。2017年から弘前市で行われている強化合宿で指導に当たっている弘前大学柔道部の高橋俊哉監督はこう語り、市のホストタウンとしての取り組みがブラジルチームの成果につながっていると強調する。
 合宿誘致のきっかけとなったのは、ブラジルに柔道を広め、現地ではいまだに史上最強の格闘家と英雄視されているコンデ・コマこと故前田光世氏が同市船沢地区(旧船沢村)出身だったこと。同年7月にはその縁をたどり、船沢小、中学校の児童生徒と交流している。
 19年は岩木小学校と第三大成小学校を訪問し、レクリエーションなどを通じて親交を深めたほか、例年小中高生らを対象としていた合同公開稽古を国体予選終了後に行い、県内の多くの実力者が視覚障害者柔道に触れる機会を提供した。
 ブラジルチームは障害者への理解を広めることをパラリンピアンの使命と捉え、合宿に合わせて開かれるイベントに積極的に参加し、地元住民との絆を深めている。
 合宿を通じて成長しているのはパラリンピアンだけではない。視覚障害者柔道と晴眼者(せいがんしゃ)柔道の違いは互いに組み合った状態から試合が始まること。裏を返せば、障害の有無を問わずに競技できるのが特徴だ。組み手争いがないため小手先のごまかしが利かず、同大柔道部の山根哲平主将(21)=農学生命科学部3年=は「組む大切さを知ることができたし、それを意識して練習したことで実力が付いた」と、柔道への向き合い方が変わったと振り返る。
 市柔道協会の清野一榮会長は「障害を持っている人たちへの理解促進に取り組むことは当協会の柱の一つ」とし、練習環境を整えるだけでなく、道場の外で交流できる場を設けることが「柔道関係者としてのもてなし」と意義を強調した。
 こういった交流を重ねてきたことで、市は19年10月、共生社会ホストタウンとして登録された。20年以降もパラスポーツの普及や心のバリアフリー、ユニバーサルデザインの街づくりに継続的に取り組む方針だ。
 ブラジルチームは今年8月上旬、市内で1週間ほど事前合宿を行う。市文化スポーツ課オリンピック・パラリンピック推進室の長谷川竜太総括主査は「大会を前に壮行会を開く予定。大勢の市民の方に参加していただき、選手の背中を押してあげられれば」と思い描く。
 くしくも弘前ねぷたまつりの会期と重なる。これまでの強化合宿は7月に行われていたため、ブラジルチームにとっては未経験の文化交流イベントだ。「ねぷたで送り出すことができれば地元として最高ではないか。コンデ・コマをリスペクトしてくれている彼らを、街を挙げて送り出してあげられる」と弘大柔道部の高橋監督。柔道の競技人口がおよそ200万人ともされるブラジルに弘前を知ってもらうまたとない機会と言えそうだ。

∆ページの先頭へ

民間インバウンド団体=2

2020/1/3 金曜日

 

会員はノックノックワールドの活動に加え、それぞれのフィールドでもインバウンド対応に取り組み、黒石全体の環境整備・向上に尽力している

 東京五輪を追い風に、盛り上がりを見せるインバウンド(訪日外国人客)観光。行政を中心に受け入れ環境の整備が急ピッチで進められており、対応の充実を目指す輪は民間にも広がりつつある。黒石市の事業者らで結成された「ノックノックワールド」もその一つ。「世界の扉をノックする」という意味が込められた名の通り、インバウンドに特化した活動で海外に黒石を精力的に売り込んでいる。
 ノックノックワールドは市主催のインバウンド観光勉強会に参加した市内事業者らから成る団体。現在は、温泉旅館や飲食店の経営者、こけし工人、観光関係者らさまざまな分野の約50人が入会している。
 発足のきっかけとなった勉強会は、2016年度から3年にわたり行われた事業で、地方のまちづくりを支援しているFines.t(東京都)代表取締役の都築葉子さんが講師を担当。講座やワークショップ、先進地視察などを通じて、インバウンドの受け入れ環境整備の知識、関心を養った。
 事業終了を控えた受講者の間で「勉強会が終わっても仲間として活動していこう」という声が上がり、都築さんの後押しもあって前身となる「ノックワールド」が発足。定例会を毎月開催して地域活性化の方策などについて見識を深めるとともに、インスタグラムのアカウント開設や、ドイツのメディアに黒石をPRするメールを送るなど広報活動に着手した。
 昨秋、理念や方針をしっかり掲げ、同じ目標に向かって活動していこうと「ノックノックワールド」に改名し、再出発を果たした。
 今年は台湾や米ニューヨークを中心に海外メディアなど1001カ所に黒石のPR動画を送付する計画があるほか、市民の日常をテーマにしたモデルコースの検討、ホームページ開設なども予定している。
 代表を務めるのは、「旅の宿斉川」代表でニューヨーク在住経験のある斉川蘭子さん。斉川さんは「黒石は水、おいしい食べ物、温泉、歴史的な建物がある地域」と一度故郷を離れたことで見えた魅力を語る。また「『五輪が終わって環境整備も終わり』ではなく、小さなことを一つ一つやっていくことが民間チームの役割だと思う。私たちが住んでいる田舎の環境を守り続けることで、リピーターを増やし、最終的には移住したいと思ってもらえるようにしたい」と東京五輪後の未来も見据える。
 インバウンドに携わる市民、事業者が主体的に動き始めていることについて、市の真土亨商工観光部長は「意欲を持って取り組んでもらえるのは黒石市の大きな力になり、心強い。ノックノックワールドは多種多様な業種の人が集まっているので、それぞれの持つ人脈でより広範囲に黒石をPRできる」と期待。「市と民間が切磋琢磨(せっさたくま)、協力して黒石の魅力を発信していきたい」とした。

∆ページの先頭へ

五農高のチャレンジ=3

2020/1/4 土曜日

 

選手村ビレッジプラザの建設に使われるFSC認証材のスギを加工する五所農林高生=2019年9月

グローバルGAPの公開審査で聞き取りに答える五所農林高生ら。FSCと合わせ、二つの取り組みを通して農業、林業へ強く関心を持つ生徒が増えてきている

 東京五輪・パラリンピックでの木材と食材の提供に向けて取り組んできた五所川原市の五所川原農林高校(菊地建一校長)。木材については、同校実習林で伐採されたスギが「選手村ビレッジプラザ」(東京都)の外構フェンスに使用された。食材の提供についても期待が高まっており、生徒らは「世界のアスリートに五農の木材、農産物の素晴らしさを伝えられたらうれしい」と口をそろえる。
 同校は2018年に五農オリンピック委員会を立ち上げ、木材や農産物の提供に向けて関係機関にアピールしてきた。
 木材の提供は、同校が高校として世界で初めて取得した森林管理の国際認証「FSC」が決め手となった。ビレッジプラザは選手の交流や歓迎式典などが行われる施設で、実習林で伐採されたスギ10本(0・3立方メートル)が外構フェンスに使用されたほか、もう1本(0・05立方メートル)が別の部分に使われた。
 昨年9月には同校で森林科学科の生徒がスギを加工。出発式では「テープカット」ならぬ、認証材の「ウッドカット」で見送った。1月には同科から2人がビレッジプラザの内覧会に出席する予定となっており、同科の花田文貴さん(2年)は「世界のアスリートが集う場所に、五農生が管理したスギが使われるのは誇らしい。実物を見たらもっと感動すると思う」と話す。
 もう一つの大きな目標が、選手村で消費される食材の提供だ。食材調達の条件にはGAP認証が含まれているが、同校は日本の高校として初めて15年にリンゴでグローバルGAPを取得。以降、16年にコメ、17年にメロン、18年にジャガイモ、19年にタマネギで取得して品目を増やしている。
 昨年7月、台湾の女子ソフトボールチームがホストタウンの弘前市で合宿した際に、同校で栽培されたリンゴのアップルパイが提供され、好評を得た。食品科学科2年の伏見鮎美さんは「(東京五輪・パラリンピックの)本番でも、ぜひ五農のおいしい農産物を世界のアスリートに食べてもらいたい」と目を輝かせる。
 同校で行われるグローバルGAPの公開審査には、全国から農業関係者が訪れるなど注目を集めている。同校は人材育成面でも高く評価され、グローバルGAP大賞を受賞した。生徒たちは「相手にものを伝える力が向上した」などと、取り組みを通じた成長を口にする。グローバルGAPチームリーダーの加藤雄己さん(生物生産科3年)は「家でメロンを作っているが、自分も将来、グローバルGAPを取得して輸出したい」と夢を語る。
 「FSCやグローバルGAP取得の取り組みを通じ、農家の子どもでなくても、農林業の分野へ進もうという生徒が出てきている」と菊地校長。「少子高齢化が進み、農家の後継者問題が深刻化する中、農業でどのように頑張っていくか。そのためにも、高校生のうちにグローバルGAPを学ぶことは大きな武器。東京五輪以降も取り組みを続けていき、地域で通用する人材を育てていきたい」と力を込める。

∆ページの先頭へ

津軽圏域DMO=4

2020/1/5 日曜日

 

津軽圏域の14市町村が手を組み、決意を新たにしたイベントの様子=2019年7月、弘前市内

 「(津軽地域の)14市町村の素晴らしい魅力を効果的に打ち出すために“本部”の機能を担うのがDMO。スタートに向けて頑張りたい」―。弘前市の櫻田宏市長は2019年7月、「津軽圏域DMO(仮称)」の今年4月設立に向けたキックオフイベントで、強い決意を示した。
 観光庁が設立を推進する日本版DMOのDMOは「Destination Management/Marketing Organization」の略。官民が一体となって市場調査などを展開し、それを基に地域の「稼ぐ力」を引き出しながら経営的な視点で「観光地域づくり」を進める。津軽圏域14市町村は現在、そのかじ取り役となる法人の設立を目指している。
 津軽圏域の中で、今年開催する東京五輪の聖火リレーコースに選定された西目屋村は、同DMOの設立に大きな期待を寄せる。
 村産業課の平田凌主事は、聖火リレーコースにある乳穂ケ滝を新たな観光資源として磨き上げたい方針で、「村が選ばれたことをチャンスにしたい」と国内外への魅力発信の契機と捉えている。
 ただ、人口規模の小さい自治体は、人員や予算などさまざまな面から単独で誘客事業を進める難しさもある。
 同課の山内啓太観光係長は同DMO参画のメリットを「単独活動よりも経費が抑えられる」とし、圏域全体でのマーケティングに「津軽地域自体の観光地的価値がより明確になり、観光客のニーズに応えられるようなプログラム作成にも対応できる」と指摘。広範囲でのプロモーション活動によって「滞在型観光につなげられるのでは」とし、“稼げる”観光に期待を寄せる。
 同DMOへの参画の意思を示す観光事業者のうち、弘前市の津軽藩ねぷた村(中村元彦理事長)は、国内外から多くの観光客が訪れる津軽地域の観光拠点の一つでもある。地域の伝統文化であるねぷたを体験できるほか、多言語表記のパンフレットも充実しており、国内外に対応した受け入れ態勢は万全だ。
 村山佳光専務理事は今年の大きなトピックである東京五輪の効果を「欧米の人は旅行先での滞在期間が長く、五輪目的で来日した人も地方に流れる可能性がある」と分析し、「東北の祭り巡りの一環として弘前にも来てほしい」と期待する。
 同DMO設立について村山専務理事は、津軽地域の民間観光事業者や施設がこれまでも連携、協力してきたことを踏まえ「民間と行政、観光事業者などが互いの持ち物をどれだけ生かせるかが鍵」と強調。サイクリングによる周遊型観光で効果を発揮している「せとうちDMO」を例に、「津軽圏域DMOでも何か軸になるものが必要だ」と指摘する。
 昨今の旅行スタイルは団体から個人、少人数にシフトし、旅行先での過ごし方も多様化している。個人がインターネットで集めた情報を基に旅行するケースも増え、地域間競争が激化する中、受け入れ側が戦略的に対応しなければ、効果に結び付けることは難しい。
 同DMOをめぐっては現在、関係者が考え方の浸透を図ろうと、人材育成研修などでの“土台づくり”や観光に関わらず圏域地域で活躍する団体や企業に広く参画を呼び掛ける“仲間づくり”を進めている。
 弘前市観光部DMO推進室の石井啓之室長は「具体的なことはこれから」と前置きした上で、「津軽圏域DMOは10年後、20年後も選ばれる地域を目指している。観光地域づくりを担う“プラットフォーム”のような役割を果たし地域の活性化につなげるのが目標だ」と準備に奔走する。

∆ページの先頭へ

Page: 1 2