三照堂(弘前市) 代表取締役 木村公昭さん(48) |
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弘前市一番町の一番町店にて。「明治三十五年」と書かれた顧客名簿「印鑑簿」を持ってもらった。後ろの棚にははんこを手彫りする時に使った道具や貴重な史料が並べられている |
弘前市一番町には印章業が数軒建ち並ぶ。なぜか。坂を上った所にかつて、市役所と警察署があったから。1894(明治27)年に創業し、弘前の“はんこ通り”に軒を連ねる「三照堂」。老舗の5代目として2018年、代表取締役に就任した。
長男で一人っ子。先代で父の忠資さんに勧められ、20歳から5年間、大阪府の印章店で修業した。印刷業をメインに多店舗展開する同社で、販売員として働き、店長も2年間務めた。小売りの経験は今に生きている。
不況に強いと言われてきた業界だが、はんこ需要はじわじわと減っている。店の売り上げは1989年がピークで、今は最盛期の6割ほどに減った。
2020年は新型コロナウイルスに加え「脱はんこ」に、中小企業や家族経営の零細企業が多い業界は大きく揺れた。自身も行革担当相の「脱はんこ」発言に「これからどうなっていくのか」と一時、とてつもない不安に駆られた。営業先でも業界の先行きを心配する声が聞かれたが現状、大きな変化はない。
ペーパーレス化で認め印がなくなっていくのは間違いなく、不要なものにまで押印する必要もないと考えている。政府の旗振りに電子署名業界が活況だが「セキュリティーの問題などがあり、はんこ屋は到底できない」。
大きな事業転換は難しい中「うちにはうちの強みがある」と言い切る。リンゴなど農作物を入れる段ボール、コンクリート、電子部品といったさまざまな素材に押すはんこや大型のはんこである。
需要減を見越して先代たちが試行錯誤しながら開拓してきた分野が、今でははんこの売り上げの多くを占めるまでになった。大型はんことそのスタンプ台を作れる会社は全国的にも珍しく、東京をはじめ県外からの問い合わせは絶えない。3年前には海外ブランドコスメのプレゼン用にと、直径21センチの唇型はんこを頼まれた実績もある。「例えはんこがなくなったとしても、これらで勝負していきたい」と意気込む。
しかし店頭販売をおろそかにするつもりはない。「ここで親にはんこを買ってもらったから、今度は子どものはんこを-」と、店を訪れる客は1人、2人ではないからだ。
「おやじや先輩たちがお客さんを大事にしてくれたおかげで今がある」。127年の歴史を背負いながら時代時代に合った商品構成で挑むつもりだ。
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