社 説

 

弘前市芸術文化施設「多様な表現に触れる好機」

2017/12/5 火曜日

 

 弘前市の吉野町瓦(れんが)倉庫を現代アート空間「弘前市芸術文化施設(仮称)」にリニューアルする建築改修プランと施設の運営方針が示された。2020年4月のオープンを目指すという。美術作品の創作・展示の場だけでなく、ライブや映画上映なども想定した柔軟で多機能な空間となりそうだ。
 煉瓦倉庫はかつて、初の国産シードルが生産された産業遺産。その歴史と記憶を継承する形で巨大かつ個性的な展示空間が整備されることになる。その空間で、国内外から招聘(しょうへい)した新進気鋭のアーティストが滞在しながら作品を制作・展示し、後世に伝えるコンセプトは、とても刺激的だ。滞在制作において「場」は重要な要素となるだからだ。
 近年は県立美術館(青森市)をはじめ、県内でも現代アートを扱う施設が増えた。十和田市現代美術館の知名度も今や全国区。青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC)は、アーティストの滞在制作と展示を主要事業の一つとしている。弘前にも、この土地ならではの現代アートの核となる場が生まれることを歓迎したいし、事業展開に期待したい。
 芸術文化施設には、運営を通じた人づくり、地元の美術や工芸といった各分野への波及効果も期待したい。
 アーティストが滞在制作した作品には、滞在先の風土、自然、産業、人々の気質といった要素が意識的、あるいは無意識のうちに盛り込まれたり反映されたりすることが多い。これらはしばしば、地元の人々にはない発想や感覚で表現され、観覧する人に驚きや感動を与える。そしてその作品は、その土地とは密接不可分の存在となる。
 こうした多様な表現は、地元の美術のみならず、工芸や文芸を含めた表現者たちに新たな発見を与え、新たな創造を促す作用が期待される。地元の文化を捉え直すきっかけにもなるだろう。子どもたちが多様な表現に触れるメリットは多言を要しまい。
 完成した作品に接するだけでなく、一般市民が制作の過程に触れる機会、事業運営を補助する機会があってもいい。
 例えばACACでは、滞在制作するアーティストを市民ボランティアがサポートしている。情報提供や地域案内、アーティストの息抜きに付き合うなど、各ボランティアが可能な範囲で制作を下支えしている。完成・展示後もアーティストとの交流が続いたり、ボランティア同士でアート関連のイベントを開催しているという。県立美術館でも作品制作や事業運営でボランティアが活躍している。
 ボランティアは単なる無償の労働力ではない。芸術・文化やアーティストと接することで得られる知見や感覚は、ボランティア本人の糧となるばかりでなく、ボランティアの周囲をも触発することだろう。

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秋田雨雀記念館「市民の声聞き「仮の場」解決を」

2017/12/2 土曜日

 

 「これだけの資料を大切にしてきた記念館、市民に感謝する」。先日、黒石市の秋田雨雀記念館を訪ね、秋田雨雀(1883~1962年)の足跡を調べたロシア人研究者の言葉だ。記念館にとってうれしいことではあるが、場所や運営面では課題が多い。
 雨雀は現在の黒石市前町に生まれ、詩人、劇作家、エスペラント(国際共通語)運動などで多彩な才能を発揮し、舞台芸術学院長や日本児童文学協会長を務めるなどの功績が高く評価され、名誉市民第1号になっている。
 蔵書や愛用品、手紙などを保存、展示している記念館は「こみせ通り」に面した津軽こみせ駅内にある。雨雀の没後55年に当たる今年、市民有志による運営を運営委員会に移行し、所有権が不確かだった所蔵品は、遺族からの寄贈を得て正式に記念館のものとし、散逸防止を約束。「雨雀をもっと知ってほしい」(伊藤英俊館長)と、通りから分かるよう看板を掲示したほか、雨雀の名を冠した文学・演劇賞や、貴重な資料を次世代に残すための基金も創設するなど、新たな取り組みを次々と打ち出している。
 以前は無造作に近い状態だった展示方法を可能な範囲で改善するなど運営委の意欲を感じる。ただ、土産販売や津軽三味線演奏を行う観光拠点の2階に間借りし階段を上らなければならないなど導線が悪いのに加え、解説員を常駐させられないため十分な情報提供もできていない。運営委の熱意だけでは限界がある。
 年間の来館者数をカウントしていないため正確には分からないが、パンフレットの持ち帰り数や自由ノートの書き込みなどから推測すると300人程度で、県外客の割合が高い。雨雀は文学や演劇の分野で全国的な知名度があり、県外客中心であることを考えると、できるだけ早く現状を変えたい。
 ロシア人研究者らは憲市長を表敬訪問し、こうした課題についても触れた。これに対して市長は「(現在の)記念館は仮の場所」とし「きちんとした場所に移し、残していきたい」との意向を示し、伊藤館長らは期待を膨らませた。
 市が抱える文化関係の課題には、多くの要望がある市民文化会館の早期再開や市立図書館の新設などがある。限られた財政の中で早期に全てを解決するのは簡単ではないが、記念館に県外客、海外の研究者が訪れており、市民が先人を学ぶ場にもなることを考慮すると、将来にわたって適正に保存・活用できる環境整備が必要だ。
 仮ではない「きちんとした場所」には公共施設や空き店舗の利用、津軽こみせ駅の在り方見直しなども考えられそうだが、中心市街地活性化につながるよう当事者以外の市民の意見も得ながら、貴重な資料を適切に守れる最良の方法を探らなければならない。

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北朝鮮ICBM発射「平和的道筋での解決に努力を」

2017/12/1 金曜日

 

 北朝鮮が国際社会への挑発行為を再び強行した。日本時間29日午前3時17分ごろ、平壌近郊の中部・平城付近から東方に向けて大陸間弾道ミサイル(ICBM)1発を発射した。
 北朝鮮の政府声明によれば、ミサイルは予定された飛行軌道に沿って53分間飛行し、日本海の公海上に設定された目標水域に着弾した。高度は過去最高の約4500キロに達し、約960キロ飛行して本県西方約250キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内の日本海に落下したと推定されている。
 北朝鮮国営の朝鮮中央テレビなどは「新たに開発したICBM『火星15』の試験発射に成功した」と政府声明を発表。金正恩朝鮮労働党委員長は「本日、ついに国家核武力(戦力)完成の歴史的大業、ミサイル強国の偉業が実現した」と宣言した。
 県によるとミサイル発射当時、日本海では本県所属のイカ釣り漁船27隻が航行・操業していた。落下地点は津軽地域にも近い。幸い被害は確認されていないものの、ミサイルは北朝鮮の設定通りに着弾しない可能性も十分あり、不測の事態も生じかねない状況で、断じて容認できない許し難い暴挙である。
 北朝鮮のミサイル発射は9月15日、中距離弾道ミサイル「火星12」が平壌から発射され、日本上空を越えて太平洋に落下して以来となる。さまざまな動きの中で2カ月半にわたって沈黙し続けてきた北朝鮮が、再び挑発行為に踏み切ったのはなぜなのか。
 トランプ米大統領は11月5日の来日から始まったアジア歴訪で、北朝鮮への圧力強化を主張してきた。さらに、9年ぶりに北朝鮮をテロ支援国家に再指定し、大規模な追加制裁を実施する構えを見せている。こうした「最大限の圧力」に対し、決して屈しないという姿勢をアピールしたものと考えられる。
 北朝鮮の政府声明によれば、火星15は通常より発射角度を上げ高く打ち上げる「ロフテッド軌道」を意味する「最大高角発射態勢」で行われた。これまでで最も高い高度で、通常の角度で発射した場合、射程は米本土全域を含む約1万3000キロに達する可能性がある。
 核武装の脅威を武器に米国に何らかの譲歩を迫る駆け引きを狙うかのような北朝鮮の挑発行為によって、米朝間の緊張が高まるのは必至だろう。
 米政府は、軍事力を背景に外交と経済制裁で最大限の圧力をかけ、北朝鮮に方針転換を促す方針を維持する構えのようだ。「核戦力の完成」を宣言した北朝鮮が、対話に前向きな姿勢に転換するかが今後の焦点の一つとなる。
 何らかのきっかけで起こりかねない軍事的衝突を避けるためにも、国際社会が連携を強化して、外交解決による「平和的な道筋」を探る必要があろう。

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日馬富士引退「引退は時期尚早、事実解明を」

2017/11/30 木曜日

 

 暴行問題の渦中にあった、大相撲の横綱日馬富士(33)=本名ダワーニャム・ビャンバドルジ、伊勢ケ浜部屋、モンゴル出身=が29日、日本相撲協会に引退届を提出し、八角理事長(元横綱北勝海)が受理した。
 同日午後、記者会見に臨んだ日馬富士は正式に引退を表明した上で「国民、ファンの皆さまに心からおわびし、感謝申し上げたい。私は相撲を愛している。素晴らしい(角界生活)17年でした」と思いを吐露した。
 日馬富士は2001年初場所、「安馬」のしこ名で初土俵。08年九州場所後に大関に昇進し改名。速くて低い、激しい攻めを武器に12年名古屋場所から2場所連続全勝優勝を果たし、秋場所後に70人目の横綱に昇進した。3横綱2大関が休場した今年9月の秋場所では逆転優勝を果たし、9度目の優勝を遂げたばかりだった。
 そんな日馬富士が問題を起こしたのは、秋巡業中の10月25日夜だった。鳥取市で開かれたモンゴル人力士らの親睦会に参加した日馬富士は、別の2次会会場で、同じモンゴル出身力士の幕内貴ノ岩(貴乃花部屋)の態度に腹を立てて暴行したとされる。鳥取県警の任意聴取や相撲協会の危機管理委員会による聞き取りに対しては暴力を働いたことを認めている。
 過去の一連の不祥事から立ち直りつつあった角界であり、日馬富士自身もその強さから人気回復の一角を担っていた一人だった。そんな日馬富士の引退に残念な、また複雑な思いを抱く相撲ファンは少なくないだろう。
 自らけじめを付けたことを是とするか、事実関係が不明確な状況のまま角界を去ることを非とするか、評価は分かれるだろうが、釈然としない思いが多くの人にあるのも事実。日馬富士自身、連日の報道や聴取といった対応に精神的な疲れもあったのだろう。ただ、進退を明確にするならば、自身も周囲もすべて事実を出し切ってからでも遅くはなかったと思われる。
 というのも、貴ノ岩の師匠である貴乃花親方が協会幹部への不信感からか、事実解明のための協力を拒んでおり、日馬富士側からの情報は出ても、貴ノ岩側の情報がほとんど出てこない状況である。また、暴行の様子もビール瓶で「殴った、殴っていない」、数十発も「殴った、殴っていない」などと情報が交錯している。
 暴行自体はもちろん、あってはならないが、事件の真相が曖昧な中での引退劇もあってほしくはなかった。今後、事実が明らかになる中で、当然引退しなければならない事態だったのか、引き続き角界で活躍する余地があるのか、見据える必要があったのではないか。今後の推移を見守りたい。

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りんご公園「“付加価値”発信の拠点に」

2017/11/29 水曜日

 

 県産リンゴの消費拡大に向けて輸出の重要性が高まる中、弘前市りんご公園を訪れる外国人観光客が増え続けている。輸出先に出向いたPR活動などに加え、品質の高い果実を生産する園地について理解を深めてもらうことは極めて重要。その意味で同公園を大いに活用したい。
 りんご公園を訪れる外国人観光客数は近年、おおむね増加傾向にある。2011年の東日本大震災の影響で一時落ち込んだものの持ち直し、昨年初めて1万人を突破。今年は今月8日現在で1万6661人に上った。同公園のインターンシップ(就業体験)に参加する留学生の応対も好評を得ているという。
 現状、アジア圏の客が目立ち、台湾、中国、香港、タイなどの順となっている。訪日観光客全体に占めるアジア圏からの客の割合が高いため、りんご公園を訪れる客に占める割合も高いのは自然と考えられる。さらに推察すると、台湾や香港は県産リンゴの主要な輸出先であり、現地で県産リンゴの認知度が高いことも影響しているのではないか。
 県内の自治体、リンゴ関係団体はこれらの国、地域の量販店などを毎年のように訪れ、県産リンゴをPRしている。こういった長年の努力で県産リンゴは現地市場で揺るぎない地位を確立した。他国産との競合が激しさを増す中、これからも地道に続ける必要はあろう。
 ただ、現地市場でのさらなる浸透、一層の販路開拓を目指すのであれば、別のアプローチも必要だ。リンゴの生産現場に消費者を招き、果実の品質の高さや安全性を知ってもらうことも有効な手段だろう。実際、海外のメディア関係者に園地を視察してもらうといったケースはしばしば見られる。
 幸い、訪日外国人客は急激に増加している。彼らを招かない手はない。生産者個々人で受け入れることは容易ではないが、りんご公園であれば、生産期間を通じて一定数の観光客を受け入れることは可能だろう。もちろん、果実自体の品質で勝負することが販売戦略の基本だが、他国産との差別化を図る上で、生産現場について理解を深めてもらうことは重要な意味を持つはずだ。
 りんご公園を訪れる外国人観光客が最も多くなる時期は、果実のもぎ取りを体験できる10~11月だという。さらに訪問客を増やすためには、収穫期前の誘客が必要不可欠。さまざまな作業工程を経て出来秋を迎えていることを体験してもらうことも一つの考え方ではないか。
 通年で果実を消費者に提供できる点が本県リンゴ産業の最大の強みだ。収穫期以外の時期にも果実を味わってもらい、園地や生産者の思いについても理解してもらう。こうした経験は来園した外国人観光客の記憶に「付加価値」として残るのではなかろうか。りんご公園をその拠点として今後も育てていきたい。

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