政府は紙幣のデザインを2024年上期をめどに刷新すると発表した。1万円、5千円、千円の3紙幣で、刷新は現在の紙幣の流通が始まった04年以来、20年ぶりとなる。新しい肖像は、1万円札が日本の資本主義の礎を築いた渋沢栄一、5千円札は女性教育を推進した津田梅子、千円札は日本近代医学の先駆者、北里柴三郎がそれぞれ採用された。また21年度上期をめどに500円硬貨の素材や製造方法も改めるという。
コピー技術が高度化する中、政府は偽造を防止するため、約20年ごとに紙幣のデザインを一新している。今回もそうした流れの中でのデザイン刷新だろうが、先ごろ発表した「平成」から「令和」への改元祝賀ムードの盛り上げを狙ったようにも見える。そういう目で見れば、あざとさを感じないわけでもないが、偽造防止という観点で見れば、刷新は必要なものであり、タイミングとしても、新しい紙幣への準備期間などを考えれば、この時期の発表もうなずけなくもない。
肖像に選ばれた3氏について、麻生太郎財務相は「新たな産業の育成、女性活躍、科学技術の発展など現代にも通じる諸課題に尽力されており、新元号の下での新しい紙幣にふさわしい人物だ」と説明している。確かに3氏とも、経済、教育、医学の分野で日本の発展に大きな役割を果たした人物ばかりであり、いずれも新時代の紙幣の顔となるにふさわしい人物と思う。
ただ、知名度という点では、なじみが薄いと感じる国民もいるだろう。今回は発表も唐突な印象が拭えなかった。選考過程を透明化し、候補の公表を行うなどすれば、国民の関心や認知度はもっと高いものになったのではないかと思う。
新紙幣に対する思いはさまざまだろうが、機能面や偽札対策としては、最新の技術が盛り込まれている。視覚障害者が紙幣の違いをより判別しやすくなるようにユニバーサルデザインを採用。指の感触により、紙幣の種類を識別できるマークの形状や位置の変更などを行った。また訪日外国人旅行者にも分かりやすいように、額面数字を現紙幣よりも大きくしている。偽札対策としてはホログラムをさらに強化し、肖像の3D画像が回転する最先端のホログラムを銀行券として世界で初めて採用する。
官民挙げてのキャッシュレス化の推進が図られているが、日本人の現金に対する信頼感は根強いものがある。より使いやすく、さらにまがいものが出にくくなる対策が施されるのは、意義のあることだ。新紙幣の機能充実に期待したい。
両替機や現金自動預払機(ATM)など、紙幣が変われば、対応をしなければならないものは多い。時間的な余裕はあるが、市民生活に直結したものだけに、これらの対策も抜かりなく行わなければならないだろう。