社 説

 

宿泊施設への支援「地域文化守るためにも必要だ」

2020/5/23 土曜日

 

 新型コロナウイルスの感染拡大で、飲食業界とともにとりわけ大きな打撃を受けているのが宿泊業界だろう。県内でもホテル、旅館などが休業を強いられており、自治体などがさまざまな支援策を打ち出している。その中で、自力で経営立て直しに挑む施設も見られている。
 岩木山麓の嶽温泉山のホテル(弘前市)も休業で経営難に陥り、インターネットで資金を調達する「クラウドファンディング」を始めた。同ホテルには毎年春、弘前さくらまつりや岩木山麓のオオヤマザクラを目当てに観光客が訪れる。春の収入は経営の基盤となっているため、この時期の休業は死活問題となる。
 経営する家族によると、新型ウイルスの収束が見通せないため、経営を継続できるか不安に思ったこともあったようだが、思い切って挑戦。すると、県内外から支援が集まり始めているという。支援とともに多くのメッセージが寄せられており、その内容が興味深い。
 「自分もつらいが何とか頑張ってほしい」といった声をはじめ、同ホテルが人気の食事「マタギ飯」を提供していることから、「マタギ飯は青森県の文化の一つ」といった励ましの言葉も届いたという。マタギ飯は地元に根付くマタギ文化が反映されており、届いたメッセージの通り立派な文化である。宿泊客は、マタギたちが好んだ山菜入りの混ぜご飯を食べながら、地元の文化に思いをはせているのではないか。
 宿泊施設と地元の文化が深い関わりを持っている地域は数多く見られる。例えば、黒石市の黒石温泉郷もその一つだろう。同温泉郷はもともと湯治場として栄えた。湯治の文化が今も色濃く残っており、共同浴場を中心に客舎が取り囲む典型的な湯治場の街並みを見ることができる。
 黒石温泉郷の各宿泊施設も休業を余儀なくされ、6月まで営業を再開しないところもあるという。同温泉郷には板留、青荷、落合、温湯という四つの温泉があり、それぞれエリアとして個性を持っている。しかし、地元の宿泊施設が仮に経営難に陥ってしまえば、湯治の文化が受け継がれていくことも難しくなるように思う。
 こうして考えれば、宿泊施設は単に「観光客が泊まる施設」なのでなく、地元の文化を伝え、発信していく働きも併せ持っていると言ってもよいのではないか。各地の宿泊施設を支援することは、地域の文化を守ることにもつながる。だからこそ、山のホテルにも、思いの詰まったメッセージが数多く寄せられているのだろう。
 今回のコロナ禍は経済に大きな打撃を与えているが、地域の文化にとっても打撃となっていると捉えてみれば、支援に関心を示す人も増え、その輪もより大きなものとなっていくのではないか。

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黒川氏の辞表提出「問われる首相の姿勢と責任」

2020/5/22 金曜日

 

 全国紙記者らと東京都内で賭けマージャンをしていた疑いを週刊誌に報じられた東京高検の黒川弘務検事長が、事実を認めて辞表を提出した。
 賭けマージャンに興じていたのは今月1日と13日。新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言の発令期間中に当たり、不要不急の外出の自粛が叫ばれていた。
 賭けマージャンは賭博罪に問われる可能性がある。実際には意見交換会あるいは情報交換会の性格が強かったのかもしれないが、公務員、特に検察幹部の立場に鑑みれば、順法精神の甘さを問われても仕方あるまい。
 政府・与党は、検察官の定年引き上げなどを盛り込んだ検察庁法改正案の今国会での成立を目指していた。黒川氏はその渦中の人物で、成立見送りが決まったわずか2日後にこの問題が明るみに出た。この問題を知った政府・与党が、慌てて見送りを決めたのではないかとすら思える。
 黒川氏は2月で定年のはずだったが、1月に勤務の半年延長が閣議決定された。黒川氏については「政権寄り」との評も根強く、各方面からは「次期検事総長に就任させるため」との声が上がっていたという。検察官の定年に国家公務員法の特例規定は適用されないという従来の政府答弁を、安倍晋三首相は「適用されると解釈する」と覆して異例の決定を下した。決定に関する首相、森雅子法相、人事院の国会答弁を時系列で見ると、その強引さが際立つ。
 検察庁法改正案以前に、安倍首相は強行人事がたどった経過と責任について説明責任と任命責任を負うだろう。
 同法改正案は、「役職定年」付きで定年を引き上げる一方、内閣の判断で最大3年間そのポストに留任できる特例規定を盛り込んだことで、政府の恣意(しい)的な人事介入を招きかねない、黒川氏の定年延長を事後的に正当化するものだ―といった疑念や批判を呼んだ。
 政府・与党は今国会での成立を断念した際、秋に予定される臨時国会で成立を目指す方針としていた。黒川氏の辞表提出を受けても、法案を修正せず継続審議にできるだろうか。
 犯罪の起訴に関する権限を持つ検察には、政治的中立性が強く求められる。少なくとも現状のまま特例規定が残る限り、いくら審議を先送りしても国民の理解は得られず混乱は続く。
 首相は特例規定について「疑惑隠しのための法改正との指摘は当たらない」と強調したが、その理由や基準を明確に示していただろうか。自民党のベテラン議員は同法改正案について「黒川氏の問題とは別なのに、黒川氏のための法改正だという誤った理解が広がった」と悔やんだそうだが、その原因は、納得に足る説明をせず、説明する姿勢も示さなかった内閣にあると言っていい。

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県のコロナ対策「長期化も視野に、対応を」

2020/5/21 木曜日

 

 県が新型コロナウイルス対策関連経費として総額46億6000万円を盛り込んだ補正予算案を発表し、今後の取り組みの方針を示した。予算案は感染拡大防止と医療提供体制の強化を中心に、雇用の維持と事業の継続、経済活動の回復に向けた支援を加えた3本柱。15日に閉会した県議会臨時会で審議、可決され、今後本格的に取り組みが進むことになる。
 最も予算を割いたのは感染拡大防止対策の拡充で、総額の約7割に当たる30億円余を計上した。例えば患者が入院できる病床は現行の99床から149床を目標に増やしていく。軽症者や無症状の患者を受け入れる宿泊療養施設は5月に青森市内のホテルに30室を確保したが、県内全圏域に計450室の確保を目指すとした。現在は軽症や無症状の患者も入院しているが、病床や宿泊療養施設を増やすことで、万が一重症者が増えても治療を受けられる体制が確保されるという。
 各保健所に設置されている帰国者・接触者相談センターには相談員を追加配置し、医療機関との間にホットラインを設置。PCR検査を行う県環境保健センターには検査装置を新たに2台導入して、検査件数を現在の1日最大40件から96件に増やすことを目指すとした。相談・診察から検査、入院・療養まですべての段階で体制の拡充を図るということだ。
 本県の患者は合計で27人。5月7日を最後に新たな患者は確認されておらず、首都圏などに比べたら切迫した状況とは言えない。ただ新型ウイルスが完全に終息するまでには相応の時間がかかるという見方は多く、油断はできない。保健所に電話をしてもつながらず、受け入れる病院が見つからないということがないよう、備えは万全にしておくべきだろう。
 事業の継続や経済活動の回復に向けた支援には、バスや民営鉄道など苦境にある交通事業者への経営支援や、教育費の負担を軽減するための支援など早急な対応が必要な取り組みに加え、一定の収束後を見据えた県産品の販促や国内旅行の需要回復に向けた取り組みなどが並ぶ。
 県外在住者から募集した青森旅行のプランを県民が代理で体験、リアルタイムで共有する「リモート観光」の実施や、県内外の量販店や飲食店での「青森県フェア」の開催などただ新型ウイルスが収束すれば全国の自治体が地元産品の販促や観光需要の獲得に懸命になることが想定され、競争は厳しいものになりそうだ。
 何より懸念されるのは、先行きが見通せないことだ。本県では大型商業施設などへの休業要請の期間が終わり、緊急事態宣言が解除されても、観光施設や飲食店に以前の活気は戻っていない。混雑や長距離の移動を敬遠してしまう動きは、しばらく続くのではないかと思われる。感染拡大防止対策に一定の配慮をしながらも、地元の経済を着実に回す仕組みを検討し、支援することが必要だろう。

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弘前公園開放「来年の祭り開催へ意識高揚を」

2020/5/20 水曜日

 

 弘前市は18日午前、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、4月10日から続けてきた弘前公園の閉鎖措置を解除した。本来、弘前さくらまつり期間だった4月23日~5月6日も含み、38日にも及んだ措置だけに、開園を心待ちにしていた市民らの喜びもひとしおだろう。当日は多くの人が園内に踏み入り、散策などを楽しむ光景が見られた。既に多くの県で緊急事態宣言が解除されたとはいえ、感染症自体は全国的に終息したと言える状況ではない。来年こそ、心から笑顔で桜を楽しむため、今後同市や本県から感染者を出さないという強い心構えで、一人ひとりができることに協力し、コロナ対策に取り組んでほしい。
 約49万2000平方メートルの面積を誇る弘前公園には、ソメイヨシノやシダレザクラなど約50種、およそ2600本の桜があり、開花し弘前さくらまつりが催される春には県内外はもちろん海外からも多くの観光客が訪れる桜の一大名所だ。この時期、観光や宿泊、商工などの各業種に与える経済効果は計り知れない。
 しかし、市は感染防止対策として弘前さくらまつりを中止するという苦渋の決断をした上で、会場の弘前公園を閉鎖するという措置を取った。1895(明治28)年に始まった、公園の一般開放以来の歴史を一度とはいえ途切れさせ、各方面に多大な経済的損失が生じるのを覚悟してのことだ。それだけに、この決断は非常に重いものでもあった。「3密」防止が叫ばれる中、祭りを開催した場合、感染の危険性が高まり、万が一感染者が出た場合は今回以上の対策を迫られる可能性があっただけに、閉鎖という措置はやむを得なかっただろう。
 閉鎖解除当日は午前9時から、市公園緑地課職員28人が3班に分かれ、北門、東門、追手門の順で開門。花びらが散ったとはいえ、開花の面影が残るソメイヨシノの木々、本丸から眺望する雄大な岩木山など、閉鎖前は当たり前のように見ることができた光景に市民らが改めて感激する様子が見られた。追手門の開門に立ち会った櫻田宏市長は、来年の祭り開催に向けて「これまでの100回分を含めて素晴らしい祭りにしたい」と語った。そのためには、市民や公園を愛する一人ひとりの協力が不可欠。市長の思いに応えられるよう、市民らが気を緩めないことが必要だ。
 本県では、弘前公園同様に大型連休期間を含め、五所川原市の芦野公園や深浦町の十二湖といった主要観光地を閉鎖する動きが相次いだ。目的はやはり新型ウイルス感染拡大防止だ。観光地としての規模の違いがあるとはいえ、経済的損失を含め、それぞれに重い決断を求められた。各観光地とも今後は観光需要の回復が課題となるが、コロナを発生させない取り組みに工夫を凝らし、来場者の感染予防意識を継続させたい。

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休職者が農作業従事「一層の広がりに期待」

2020/5/19 火曜日

 

 新型コロナウイルス感染拡大の影響による休職者と、人手不足に悩む農家をマッチングさせる弘前市独自の「休職者等農業マッチング緊急支援事業」が効果的に動きだしている。15日現在、少なくとも21人の休職者が臨時作業員として雇用され、生活の維持と農産物の安定生産につながるとして双方から歓迎の声が上がっており、一層の広がりを期待したい。
 事業は休職や自宅待機などを余儀なくされた市民らを農業生産現場で受け入れた際、雇用主に対して1日当たり3000円を上限に賃金実支出額の半額を補助するもの。既に支払い済みでも申請すれば4月1日以降の実支出を元に補助金を支給する。マッチングはつがる弘前農協の無料職業紹介所などを通じて行う。
 新型ウイルス感染拡大に伴って全国的に経済活動が停滞し、ホテル・旅館や飲食店などで失業・休業者が出る一方、技能実習や今年4月に制度開始1年を迎えた「特定技能」の在留資格を得た外国人が入国制限で来日できず、介護や農業などの分野で人手不足が深刻化している。
 農林水産省によると、農業では少なくとも、中国人を中心とした外国人技能実習生約1900人が来日できておらず、実習生が戦力として定着している野菜の収穫作業などで影響が出ているという。
 本県でもリンゴやコメなどの農作業が本格化する中、新型ウイルスの影響による人手不足は深刻だ。一方で、春観光の目玉である弘前さくらまつりの中止などによって、観光関連分野では休業を余儀なくされる状況から休職者も相次いでいる。状況改善へ、うまくマッチングを図りながら互いのメリットに結び付けようと、弘前市はいち早く事業化に着手。取り組みは徐々に広がり始めている。
 市は15日に、マッチングが成立した農家のリンゴ園での作業状況を報道陣に公開した。摘花作業が最盛期を迎える園地では、総合宴会場などを経営するあきたや(同市茂森町)の従業員夫婦が働いていた。同社が経営する総合宴会場では3月末から予約の取り消しが相次ぎ、これまでに約1万食分がキャンセルされるなど大きな影響が出たため、4月20日から休業しているという。
 農家側も摘花作業に追われる中、アルバイトを雇いたくても見つからず困っていた様子。「助かった。(市の)補助金で人件費も抑えられる」「休職手当だけでは生活が困難だったので良い取り組み」と双方から安堵(あんど)の声が上がった。
 事業は困っている市民が互いに助け合う形となっているばかりか、普段は触れることがないであろう地元の基幹産業を知るいい機会にもなり、新たなつながりが生まれることも期待される。以前から担い手不足が課題となっていた農業の人材確保に結び付く好機となるかもしれない。今後にさまざまな可能性も抱かせる。まさにピンチはチャンスだ。

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