社 説

 

忍者屋敷の保存「貴重な観光資源、活用促進を」

2020/10/16 金曜日

 

 取り壊しが取り沙汰されていた弘前藩の忍者集団が使っていたとされる「忍者屋敷」の新たな所有者が決まった。今後は保存を前提に、観光スポットとして整備されるとのことで、また一つ、観光都市弘前に魅力的な施設が加わることになる。
 屋敷は、弘前藩の忍者集団「早道之者」の活動拠点だったとされる弘前市内の古民家「旧相馬家住宅」。現在の所有者が高齢となり、維持費の負担も大きいため、土地と建物を売却する意向を示していた。
 新たな所有者は、弘前観光ボランティアガイドなども務める市職員の佐藤光麿さんで、屋敷の保存・活用に前向きな方が新たな所有者となることは、文化財や観光資源としての今後の展開を考える上でも朗報だ。
 早道之者の調査研究を行っている青森大学忍者部顧問の清川繁人社会学部教授によると、早道之者は、蝦夷地の監視役を幕府から命ぜられた弘前藩が甲賀忍者の中川小隼人を召し抱え結成され、その詰め所は、1735年ごろに現在地に移ったとされる。現在の建物が往時のものかは不明だが、江戸時代後期-幕末のものとされる。
 「忍者」は時代小説やテレビの影響により、国内でも何度かブームが起き、漫画や映画、ゲームで扱われたことをきっかけに海外まで、ファン層を拡大させている。
 ただ、こうした作品に描かれる忍者像は、総じて超人的な身体能力があり、奇想天外な術技を駆使するなど、あくまで想像上のキャラクターの要素が強く、忍者の実像を必ずしも表しているとは言い難い。一方、学問の世界では、忍者は長く研究対象とされにくい分野ではあったが、近年は、滋賀県甲賀市や三重県伊賀市など、忍者ゆかりの地域での自治体編さん事業が進んでおり、成果が上がっている。また戦国大名・武田氏研究で知られる研究者が戦国時代の忍びの者を扱った一般向けの書籍を上梓するなど「忍者」と呼ばれた者の実像にようやく学問の光が当たってきている印象を受ける。
 弘前市の「旧相馬家住宅」は、まさに実際の忍者が活動拠点としていた屋敷であり、現存のものとしては、国内唯一とされる。取り立てて奇抜な仕掛けがあるわけでもないが、それが諜報(ちょうほう)活動を主な任務とした江戸時代の忍者の拠点としての現実性を体現しているようで、興味深い。先述したように、学問としての「忍者」研究は近年、裾野を広げており、こうした知識を得た歴史ファンらが実際に目にすることのできる「忍者屋敷」として、弘前を訪れる機会が増えるかもしれない。
 今後は、忍者屋敷見学ツアーを開催しながら補修を進め、宿泊体験ができる民泊施設としての活用も考えているようだ。文化的な価値も高めながら、誘客を期待できる個性的な観光資源として、地域全体で大切に守り育てていきたい。

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津軽塗のコラボ「広い視野で協力者を探したい」

2020/10/15 木曜日

 

 伝統工芸の存続に向け、新商品の開発や販路開拓の必要性が叫ばれて久しい。その中で弘前市の津軽塗作家とイタリア在住のジュエリーデザイナーのコラボレーション作品「津軽塗ジュエリー」が完成し先日、関係者が報告のため、同市を訪れた。
 今回のプロジェクトはイタリアのワインメーカー「チェレット社」によるもの。津軽塗作家の松山継道さんとジュエリーデザイナーの小川智子さんが担当。漆による重厚な彩りが際立つ宝飾品が出来上がった。
 津軽塗は本県を代表する伝統工芸品であることは言うまでもない。完成までの工程が幾つもあり、出来上がった作品の模様は独特で、手間がかかっていることは素人でもすぐに感じ取ることができる。ただ、近年は需要が伸び悩み、作り手の確保も大きな課題となっている。
 このような苦境が続く中、今回のコラボレーションは大いに歓迎すべき事例だ。チェレット社は、世界の芸術家を交えた文化活動に積極的に取り組んでいることで知られ、松山さんと小川さんの間を弘前商工会議所が取り持つ形で実現した。
 今回制作されたジュエリーは四つのネックレスで、そのうちの一つ「バローロ」は「ワインの王」と呼ばれるチェレット社の赤ワイン「バローロ」に着想を得たという。津軽塗は漆を使った工芸品で、ワインとは縁遠いように思われる。しかし、よく考えてみると、漆の深みのある光沢がワインの色合いを連想させたのかもしれない。
 コラボレーションの面白さは何といっても「意外性」にあるのではないか。今回のプロジェクトも、「漆」「ワイン」「ジュエリー」と無関係のように思われるものを一つに組み合わせ、全体として調和した作品に仕上げた。
 伝統工芸の将来を考えるならば、このようなコラボレーションが今後ますます重要になってくるはずだ。伝統工芸品はかつて日常生活で用いられ、人々にとって必要不可欠なものだった。しかし、生活様式は時代とともに変化し、生活の中で頻繁に用いられる物とは必ずしも言えなくなっている。
 基本となる商品を次世代に伝えつつも、新たな発想で思いもよらない商品を作ってみることも重要なのではないか。今回の作品について松山さんは「津軽塗や漆の魅力が広がっていけば」、小川さんは「イタリアと日本の文化をつなぐことができてうれしい」とそれぞれ語った。
 もちろん、伝統工芸品は地元の風土によって育まれたものであり、その点を深く理解すべきであろう。ただ、需要がなければ残していくことは極めて難しい。探してみると、遠く離れた土地にも、津軽塗という文化を評価してくれる人たちがいたのである。視野を広く持って、新たな協力者を探していくべきではないだろうか。

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弘前管内でコロナ確認「地域住民は冷静に対応を」

2020/10/14 水曜日

 

 県は12日、弘前保健所管内で新型コロナウイルス感染が初めて確認されたと発表した。PCR検査対象者は250人程度と県内でこれまでになかった規模だが、濃厚接触者は現時点で20人程度とみられ、実際の感染拡大状況は今後の検査結果で明らかになる見通しだ。
 感染が確認された2人は弘前市内の病院に勤務する医師であり、2週間前から県外への移動歴はなかった。県内で今まで確認された新型コロナ感染において、初めて感染経路が不明と発表されたケースであり、今後の調査で判明することに期待したい。
 弘前保健所管内で初の感染確認とあり、地域住民からは不安の声も上がる。PCR検査対象者が約250人という報道に対し、ツイッターなどソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)では「濃厚接触者が250人」など、誤った認識の書き込みが一部見られている。地域住民の不安が増大しやすい時期だからこそ、メディア側もより分かりやすく、正確に伝わる報じ方を心掛けなければならない。ニュースの一部分だけが切り取られて拡散していく傾向にある時代であることは、十分注意しなければならないだろう。
 検査対象約250人は強いインパクトを与える数字だが、県としては事態を楽観視して数字を少なめに見積もることなく、検査の網をできるだけ広く張ったと言える。濃厚接触者と、その周囲にいる関係者の状況を現時点で把握した数字であり、「クラスター発生の一歩手前」「市内に感染者が多く出歩いているのでは」などと恐れるのは早計だ。
 同保健所管内の8市町村を代表する形で弘前市の桜田宏市長は12日に会見し、地域住民に冷静な対応を求めた。PCR検査の対象者以外については、県がそれを妥当な判断としているからであり、関係者やその家族周辺を避ける事態にならないよう呼び掛けている。
 県外では、新型コロナ感染者を受け入れている病院に勤務する医療従事者の子どもが学校や預かり施設などで避けられたり、受け入れ拒否されたりといった事例も報告されている。弘前保健所管内においても、同様の心無い対応が起きないように注意すべきだろう。
 不確定な情報で新型コロナを過度に恐れることなく、正しい情報でいかに感染拡大防止に努めるかが重要だが、感染した個人を責めない社会であることも重要だ。新型コロナについては、無症状の陽性者からでも感染する可能性がある。無自覚なまま感染させる可能性は、自身にすらあると認識しておきたい。
 本県で今年3月、初めて新型コロナ感染が確認されてから半年以上が経過した。地域住民が当時より多くを学びながら対策に取り組んできたことを生かし、事態を軽視はせず冷静に対応することを肝に銘じたい。

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核のごみ「全国民が考えるきっかけに」

2020/10/10 土曜日

 

 高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分地選定で、北海道寿都(すっつ)町が第1段階となる「文献調査」に応募したのに続き、道内の神恵内(かもえない)村も受け入れを表明した。経済産業相が替わるたびに、国と交わした最終処分地にしないとの確約を確認してきた本県としては、具体的な動きが出たことを喜ばしく思うが、決定までは多くのプロセスがあり、先行きは依然見通せない。
 寿都町は9日、原子力発電環境整備機構(NUMO)に応募書類を提出した。応募は2007年の高知県東洋町以来13年ぶり2例目。一方の神恵内村は地元商工会の請願を村議会が採択したのを受け、調査実施を申し入れた経産省に高橋昌幸村長が応じた。
 道内2町村で文献調査が行われる見通しとなった。ただ、北海道の鈴木直道知事は「(核のごみは受け入れ難いとする道の)条例順守や慎重な検討を繰り返しお願いしてきた」と、容認しない立場。安全性や風評被害などに不安を抱く地元の理解を得るのも容易ではない。実際、町長宅が放火されたり、村役場に誹謗(ひぼう)中傷する手紙が寄せられたりしている。
 両町村が文献調査に乗り出した背景にあるのは急激に進む過疎化。人口減は税収の縮小、産業の衰退を招き、その影響は住民サービスの低下などさまざまな分野に及ぶ。こうした状況下では、文献調査を受け入れるだけで得られる最大20億円の交付金は魅力。東京電力福島第1原発を見ると、住民が強い不安を抱くのは分かる。しかし苦渋の決断に対する誹謗中傷はフェアではない。
 交付金を餌に、乏しい財政に苦しむ過疎地域を釣り上げようとするような政策は疑問もある一方、福島第1原発の処理水保管タンクは2022年にも満杯になるとみられる。行き場のないまま増え続ける核のごみ処理は、六ケ所村の再処理工場を中心とする核燃料サイクル事業推進にとっても喫緊の課題である。
 最終処分地は文献調査後、ボーリングで地層を調べる「概要調査」、さらに約14年かけて地下施設を使う「精密調査」を経て決まる。調査の間に核のごみを搬入することはなく、概要調査も住民の同意を得た上で行うことになっている。
 両町村に続く応募が増えることを期待したい。過疎に苦しむ自治体は全国にある。もしかしたら、政府の科学的特性マップで「好ましくない」とされ、選ばれることはないと考えて応募する自治体が出てくる可能性も否定できないが、安全を確実なものにするには、多くの選択肢があった方がいい。町長選で反対派が推す候補が当選し、応募を撤回した東洋町のケースがあったように、今回の行方も不透明だが、最終処分場問題は電気の恩恵を享受する全国民共通の課題。みんなで考えるきっかけになることも期待する。

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省庁の“脱はんこ”「民間にも恩恵もたらす視点を」

2020/10/9 金曜日

 

 菅義偉首相は7日の規制改革推進会議で、全省庁の行政手続きを対象に、押印廃止や書面・対面主義の見直しに向けた方針を速やかに策定するよう指示した。不動産売買など、民間事業者同士の手続きの規制緩和に取り組む意向も表明した。
 「脱はんこ」は、菅首相の看板政策である行政のデジタル化と表裏一体の存在。押印廃止が最終目的ではないが、同日の指示は、デジタル化推進への“本気度”を改めて表明した格好だ。
 河野太郎規制改革担当相は既に押印の原則廃止を打ち出している。各省庁は、年間1万件以上の申請があり押印が必要とされる手続き820種類のうち、9月末時点で約96%に当たる785種類で廃止が可能としている。河野氏は行政手続きのオンライン化を推進するため「脱ファクス」を徹底させ、地方自治体の「脱はんこ」も後押ししたい考えを示している。
 行政手続きの簡素化はこれまで何度も指摘されながら、なかなか進まなかった経緯がある。年内に関係省令・告示を改正し、来年1月召集の通常国会に関連法案を提出する運びだが、見直しの過程では簡素化を阻んできた背景や要因も洗い出す必要があろう。
 皮肉にも、新型コロナウイルスの感染拡大により、官民で長く続いた押印や書面・対面主義の慣行は見直しを迫られた。
 行政をデジタル化し、これまで行政のアナログ的な手続きに対応していた民間人員を他業務に配置することにより、コロナ禍で大きく落ち込んだ国内総生産(GDP)を押し上げる効果が期待できる-などとする見解が経済団体から示されたためだ。感染抑制策としてテレワークの導入が進められた一方で、書類へ押印・サインしたり書類を提出したりするために出勤せざるを得ない人が大勢いたことも問題視された。
 書類作成者の意思確認の手段が押印である必要性は、現在のIT社会ではどれだけあるのだろう。商取引などの場合は、印鑑に代わり電子署名などを導入することで、成りすましや改ざんは防ぐことができる。こうしたオンラインでの電子契約サービスが活況を呈していると聞く。
 ただ、行政手続きの押印・書面撤廃は、パソコンの操作に慣れていない高齢者への配慮が必要となろう。民間の場合、電子署名システムには維持費が掛かることが多いといい、中小企業が対応できるかといった懸念も指摘されている。「脱はんこ」推進には地方自治体にも国民にも民間にも目配りが必要だ。
 もっとも、押印廃止は、経済性や効率性の観点から検討されているもので、はんこの存在意義自体が否定されたわけではない。デジタルがなじむ分野、アナログがなじむ分野それぞれに応じて使い分ける意識醸成を求めたい。

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