岸田文雄首相が5日、ロンドンの金融街シティーで講演し、エネルギーのロシア依存度を低減するため改めて原子力の活用を進める考えを示した。最近、原発の再稼働に積極的な発言が目立つ首相。電力供給への懸念が拡大していることが背景にあるが、エネルギー源として原発の再稼働推進が理解を得られるのか、夏の参院選に向けて世論を探る狙いもありそうだ。
ロイター通信によると、首相は講演でロシアによるウクライナ侵攻がエネルギー安全保障をめぐる環境を一変させたと指摘。エネルギー分野における脱ロシアに貢献するため、再生可能エネルギー(再エネ)に加え、安全を確保した原子炉を有効活用するとした。
中長期的には、エネルギーの安定供給を確保しつつ、2050年カーボンニュートラル、30年温室効果ガス46%排出削減という公約の達成を目指す。
そのため、30年に17兆円、今後10年間で官民協調により150兆円の新たな関連投資を実現させる考えも示した。その投資を引き出すため、30年までの包括的政策のロードマップを早急に策定するという。
ここで注目したいのは、再エネ拡大に向けた政権の本気度である。政府が昨年10月に策定したエネルギー基本計画では再エネによる発電量の割合を30年度で36~38%まで高める目標を掲げているが、太陽光や風力は限られた国土で敷地確保が課題となり、気象条件にも左右される。
ならば潮汐(ちょうせき)力や洋上風力など四方を海に囲まれた日本ならではの再エネの実用化が不可欠だ。地熱なら24時間稼働できる。これらは実証段階だったり技術開発の途中だったりする。投資を引き出すためにも、政権がロードマップで具体的な政策を示し本気度を見せる必要がある。
一方で、自民党内には代替エネルギーについて「原発しかない。このままだと12月以降は大停電が起こるかもしれない」との声もある。実際、今年3月には東京電力や東北電力管内で電力が不足し、停電の恐れがあるとして初の電力需給逼迫(ひっぱく)警報が発令され、供給への不安を印象付けたばかりだ。
エネルギー基本計画では30年度の原発比率を20~22%と設定したが20年度の実績は約4%。36基中、現在稼働しているのは5基にとどまる。
首相は海外訪問前、記者会見では原子力の活用について「極めて大切だ」と発言。テレビ番組では原発再稼働に関し、原子力規制委員会の審査について「合理化、効率化を図りながら体制を強化し、できるだけ(再稼働)可能な原子力発電所は動かしていきたい」とも語った。
世論の反応を探るための発言だろうが、脱ロシアを旗印に原発再稼働を推し進めても理解は得られまい。やはり再エネ拡大への具体的な道筋を示すことが先である。