新型コロナウイルス対策の「切り札」と期待されるワクチンの接種が始まった。国民の期待も大きいが、供給量が不確定なため65歳以上の高齢者への接種が遅れる可能性もある。政府はスケジュールの変更などがあった場合、速やかで正確な情報発信に努める必要がある。またワクチン接種が社会活動を取り戻すための手段であることを周知し、より一層国民に協力を呼び掛けるべきだ。
政府の計画ではワクチンは厚生労働省主体の医療従事者向け先行接種を皮切りに、県主体の医療従事者向け優先接種、市町村主体の高齢者接種、その他の住民(基礎疾患のある人優先)の順に進められる。
県は厚労省の計画に基づき接種時期を医療従事者向けの優先接種は3月から、住民(65歳以上高齢者)向け接種は3月下旬から開始する方向で準備を進めている。
ただ、ワクチンの先行きは不透明だ。欧州連合(EU)が域内で製造されたワクチンの輸出を規制するなど、円滑な確保は見通せない。
政府はファイザー社と1億4400万回分の供給を受ける契約を交わすが、ワクチン1瓶からの接種回数が6回から5回に減ることが判明したため接種可能者は想定の7200万人から減る恐れがある。また、一般接種の開始時期も明らかになっておらず、一部には「半年後」との見方もある。
不確定要素が多い中、地方自治体は補正予算の編成や専従組織の設置と職員の配置、接種場所や人員の確保など準備を進めている。ところが規模の小さな町や村には、さらなる難題が待ち受ける。
それは集団接種に必要な医師や看護師の確保だ。ただでさえ医師の偏在が指摘される中、公立病院の統廃合などにより、隣接する町村でも事情は異なる。
津軽地方の首長は「人口の多い市部にも悩みはあるだろうが、小さい町や村は最初から医師や看護師が足りていない。限られた医療資源をどう活用するか考えてほしい」と心情を吐露。政府や県に対し、地域住民の命をどう守るのか、解決策を検討すべきと訴える。
対策としては複数の町村が限られた医療資源を交互に活用する、圏域の中核病院が資源の乏しい町村に出向いて集団接種を担うといったことが考えられよう。
ただでさえ、今回のワクチン接種は地方に負担が大きい。菅義偉首相は国会で「多くの国民が一日も早く接種できる環境をしっかりつくっていくのが政府の責任」と明言した。
ならば政府は自治体によって異なる状況を把握した上で、きめ細かな支援体制を検討すべきだ。
時事通信の2月の世論調査ではワクチンに「期待する」との回答が8割を超えた。これを裏切らないためにも確保見通しや副反応の有無を含め、正確な情報発信が必要だ。