社 説

 

青い山脈 70年「作品の言づてに再び目を」

2017/4/18 火曜日

 

 弘前市出身で戦後「百万人の作家」とたたえられた石坂洋次郎(1900~86年)に関する企画展「石坂洋次郎展―『青い山脈』70年―」が、同市立郷土文学館で開かれている。ベストセラー小説「青い山脈」の新聞連載が始まってから70年を迎えた節目にちなんだ企画だ。
 同館は弘前ゆかりの文学者を紹介する施設だが、もともと石坂の記念館的な性格を併せ持つ。2階は石坂洋次郎記念室と名付け、あまたの資料や遺品を公開してきた。
 今年はこの企画展と並行して、石坂が敬愛した郷里の先輩作家西善蔵との交流など石坂にちなんだスポット企画展を順次開催。定期的に開催している講演会「北の文脈文学講座」も石坂関連の内容が中心で、まさに「石坂イヤー」と呼ぶべきプログラムだ。
 「『青い山脈』70年」展開催に伴い、記念室は石坂の生涯を概観する内容に展示替えし、未発表原稿や初公開資料を紹介している。旧制横手中学校(秋田県横手市)教員時代の教え子だったジャーナリストむのたけじの作文に記された石坂の評「巧く書けた。心理描寫が生きている」には、短文ながら愛情がにじむ。
 1階の一般展示室では、「青い山脈」およびその前後と作家歴を三つに大別。「若い人」「陽のあたる坂道」を含む各時期の主要作品を挙げながら、石坂の文学観と各時期の特徴を一歩踏み込みながらも分かりやすく示している。解説を通じて、戦前の社会情勢や私生活の影響を受けながら確立させた、「観念」よりも「現実」を、「精神」よりも「肉体」を重視する姿勢が、確立後は基本的に変わらなかったことがうかがえる。性の問題を前面に据え、かつての明るさやユーモアが影を潜めた後年の作品群も、その延長線上にあると言えそうだ。
 「新しい憲法も新しい法律もできて、日本の国も一応新しくなったようなものですが、しかしそれらの精神が日常の生活の中にしみこむためには、五十年も百年もかかると思うんです」。「青い山脈」のこの一節は、70年を経た今なお、読者に突き付けた鋭いメッセージ(言づて)に映る。現代に生きるわれわれは「民主主義」の精神を、地に足の着いたものとし得ているだろうか。
 石坂の著書は現在、一部を除き、多くが新品を入手できない。流行や風俗といった時代性の色濃い作品はまだしも、普遍的メッセージを放つ作品まで絶版状態にあるのは残念だ。石坂が「戦後の流行作家」の一人にくくられ、全てがその枠内で片付けられているようだ。関心を持つ者が作品に気軽に触れることができる環境づくりを望む。
 石坂の顕彰施設は、全国でも同館と石坂洋次郎文学記念館(横手市)の2館のみという。今展開催には同記念館も協力した。今後の両館の連携も期待したい。

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吉野町緑地「県全体にアートの波を」

2017/4/15 土曜日

 

 弘前市の吉野町煉瓦(れんが)倉庫を中心とした吉野町緑地周辺整備事業に絡み、同市と県内外の企業でつくる「スターツグループ」がこのほど基本協定を締結、2020年度の開館に向けて本格的に動き出した。もともと市民に親しまれていた煉瓦倉庫と吉野町緑地だが、美術館を核とした整備が進めば新たなにぎわいの拠点となり得る。今後の推移に注目したい。
 13日には優先交渉権者を選定するに当たっての審査講評も公表され、応募してきた事業者の提案とそれがどのように評価されたのかが見て取れて興味深い。
 講評によると、スターツグループの提案は従来の美術館とは異なる「アートセンター」を創設するという考えで、核となる美術館は芸術家が滞在しながら創作した作品を展示する「創造・更新型」とする方針。作品収集については「赤煉瓦倉庫の建築と対話し、新たな創造性を喚起する作品」「弘前市、東北地域との対話を促し、その自然、歴史、物語を素材とする作品」「現代の新たな創造性を喚起させる作品」という三つの方針が示され、地域性と時代の流れを捉えた明確で具体的な方向性だと高く評価された。
 老朽化が著しい煉瓦倉庫C棟は意匠を継承しつつ、ミュージアムショップやカフェ、シードル工房を誘致する考え。同倉庫が日本で初めてシードルを醸造した場所だという歴史を踏まえると弘前らしい独自性のある利活用と言えるだろう。
 スターツグループは県内外8企業と1協力企業で構成され、美術館総合アドバイザーにエヌ・アンド・エー(東京都)代表で東京都六本木ヒルズにある森美術館館長の南條史生さん、全体のデザインに携わるデザインアーキテクトにパリ在住の建築家、田根剛さんの就任が決まっており、いずれも実績のある方々だけに、新たな「アートセンター」が出来上がるのでは―という期待が高まる。
 審査会は事業者の提案を高く評価しつつ、同事業のさらなる充実に向け、中央弘前駅や中心市街地の歩行者ネットワーク、都市環境などと接続、呼応するような計画を求めた。まちづくりの重要な拠点となる場所だけに、事業者には市側と十分に情報共有し、事業の実現に向け、まい進してもらいたい。また通常の公共施設とは運営手法が異なり、課題が浮上することもあるだろう。市側には市議会などを通じてしっかりと情報公開し、市民の理解を得るように努めてほしい。
 県内には既に全国的にも知名度が高い県立美術館や十和田市現代美術館があり、さらに弘前市、八戸市にも新たに美術館ができることで、県外観光客やアートに関心の高い層には強力なアピールになり得る。今後は市民、県民ら地元の関心を盛り上げると同時に、県外客向けに分かりやすい周遊コースを示すなど、本県全体に効果が広がるような取り組みを求めたい。

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石垣解体スタート「次代に残る歴史的事業に」

2017/4/14 金曜日

 

 世紀の大プロジェクトとなる弘前城本丸石垣修理事業で、まさに事業の本丸と言える石垣解体作業が始まった。石垣の状態や遺構を確認するためのさまざまな調査や内堀の水抜き、そして大きな反響を呼んだ天守の曳屋(ひきや)など、石垣修理事業は、これまでさまざま行われてきたが、すべてはこの石垣の解体、再整備を目的とするものであると言っても過言ではない。つまり、事業はここからが正念場と言えるだろう。次の100年、いやそれ以上の長きにわたって弘前市のシンボルであり続ける弘前城の文字通り「礎」となるようなしっかりとしたものを完成させていきたい。
 本丸の石垣は、弘前藩が津軽領統治の拠点として創り上げた弘前城の中でも、まさに当時の最新技術を導入したものと言えるだろう。築城にあたってはさまざまな資材が領内に求められ、人材については領内はもちろん、領外からも集められたことが資料にも残っている。
 こうした築城当時の人々の熱気により、それまでの奥州、とりわけ本県地域では目にすることがなかった大規模な石垣が弘前城には備えられたのであり、石垣は城下町建設にあたって優れた技術や文化が弘前の地に流れ込んだことの証左となる貴重な遺構だ。
 解体は2018年度末まで行われ、約3000個の石を取り外すという。石垣解体範囲は天守台真下から本丸東面にかけての約100メートルと南面約10メートル。19年度から石垣を順次積み直し、21年度中に天守を元の位置に曳き戻す予定だ。全ての石垣の積み直しは23年度の完了を見込む。昨年12月には2518個の石垣に、積み直す際の“住所”となるナンバリング(番号付け)作業を既に終えている。
 石垣解体は、21日までに天守台東面石垣の1段目(隅石を除く)の解体を完了される予定で、弘前さくらまつり期間の解体作業は休止されるが、石が取り外された石垣の様子は、展望デッキなどから見ることができる。
 弘前城・弘前公園において、今まで当たり前のようにそこにあったものが、なくなるという不思議な感覚は、2015年の天守曳屋で体験している。今年の弘前さくらまつりでも天守台の石垣の一部が外された状態となるので、趣は変わってくるだろう。18、19年と今後数年間で本丸周辺の眺めはどんどん変化していく。石垣修理の様子をリアルタイムで感じることができる今後数年間の祭りは貴重な観光資源となる。人気が高い外堀の花筏(いかだ)とともに、祭りを代表する名所スポットに育てたい。
 弘前さくらまつりは今年100年目の記念の年となる。さまざまな事業やイベントが行われ、節目の祭りを盛り上げる。その記念の年に石垣解体がスタートすることの取り合わせの妙を思いながら、この大事業の成功を祈りたい。

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原発避難いじめ「大人の取り組みこそ重要」

2017/4/13 木曜日

 

 東京電力福島第1原発事故などで福島県内から避難し、転校した小中学校・特別支援学校などの児童生徒らに対するいじめが、2016年度に129件あったことが、文部科学省の調査で分かった。このうち4件が、東日本大震災と原発事故に起因・関連する、いわゆる「原発避難いじめ」だった。
 15年度以前は70件発生しており、原発避難いじめは9件。県教委によると、このうち1件は県内で発生していた。同じ学校に通う児童生徒から言われた言葉で、嫌な思いをしたという。
 原発避難いじめが各地で明らかになり問題となっていたが、まさか本県でも発生していたとは思いもよらなかった。同じ東北地方であり、被害の程度こそ違うがともに被災県、さらには同じ原発立地県でもある。敵意を向けるなど想像もできない。
 県内でいじめられた子どもは現在、通常通りに登校しており、問題は解決した状態だという。ただ、いじめによって受けた心の傷は、外面からうかがい知ることはできない。県教委、学校関係者には引き続き心のケアなどに努めてもらいたい。
 今回の調査結果を受け、松野博一文科相は全国の児童生徒に「慣れない環境で生活する友達を理解し、支えてほしい」と呼び掛け、教育委員会や教職員に対しては「格別の配慮をお願いする」とした。
 さらに、保護者や地域住民には「いじめの背景には大人の配慮に欠ける言動があるとも考えられる」と、被災地の状況や放射能に関する理解を求めた。まさに、この点が重要なことだと考えられる。子どもに最も影響を与える親が、誤った知識や偏見を持っていたのでは、原発避難いじめは到底なくならないだろう。
 原発事故後、福島を支援する取り組みの一方で、放射能に対する不安などから差別的な言動も多々見られた。
 今回の調査では「放射能が付くから近づくな」「福島に帰れ」と言われたなどのいじめがあったと報告された。大人たちの不適切な言動が、そうしたいじめを引き起こした一因となったのではないだろうか。
 原発避難いじめに限らず、いじめ根絶は長く叫ばれてきたが、いまだ実現しそうもない。かつて大学時代の恩師が「大人社会がいじめ社会になっている限り、学校のいじめはなくならない」と語っていた。学生時代はぴんとこなかったが、今なら理解できる。
 職場でのいじめはなくならず、ハラスメント(嫌がらせ)という言葉もすっかり定着してしまった。子どもたちのいじめによる悲劇をなくするためには、まずは大人が真剣に取り組む必要があるのではないか。

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将来推計人口「社会の担い手確保を急ぎたい」

2017/4/12 水曜日

 

 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した2065年までの50年間の将来推計人口によると、15年に1億2709万人だった総人口は53年に1億人を割り、65年には8808万人にまで減少する。
 5年前の前回推計では、65年に8135万人にまで減少するとしたが、近年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)の改善、平均寿命の延伸を踏まえ、人口減少は緩やかになるとの見通しを示した。
 50年後の合計特殊出生率が推計の柱となり、今回は前回推計の1・35から1・44に上方修正。政府は「子育て支援や育児の充実が一定の効果を与えたと考えている」(菅義偉官房長官)などと手応えを語った。
 確かに推計上、人口減少のペースは緩やかになった。しかし、減少していることに変わりなく、歯止めがかかっているわけではない。政府が、50年後の人口1億人維持に向けて掲げる「希望出生率1・8」には程遠い。
 平均寿命の延伸自体は喜ばしいが、総人口の増加は今後望めない上、出生率が伸び悩む中では当然、高齢化は急速に進む。15年に60・8%を占めた現役世代(15~64歳)の割合は、65年には51・4%にまで減少。15年の26・6%だったお年寄り(65歳以上)の割合は、65年には38・4%にまで上昇するという。
 お年寄りを現役世代が支える構図を見ると、15年は1人を2・3人で支える「騎馬戦型」だが、65年には1人を1・3人で支える「肩車型」に変わるという。現役世代の負担増大は明らかであり、「超高齢化社会」への対策は待ったなしの状況だ。
 つまり、社会の担い手確保が急務なのである。そこで昨今必要が叫ばれていることの一つが、女性やお年寄りが働き続けられる環境づくりだ。
 出生率の上方修正を受け、政府が「関連政策が奏功した」と自信を示すのであれば、女性が働きやすい環境づくりを進めることを改めて求めたい。大都市圏、地方を問わず、子どもを産み育てる環境はまだまだ改善が必要だ。
 大都市圏では、保育施設に入ることができない待機児童などが問題化しているが、雇用環境が充実していない地方にあっては、経済的な理由から子どもを産み育てることを諦めるケースも少なくないのである。
 社会保障制度を支えなければならない現役世代の出生率が悪化し、人口減少に拍車が掛かる。その結果、社会保障制度の維持がますます困難になる、といった悪循環だけは何としても避けたい。
 重ねて訴えたいが、人口減少の見通しが緩やかになったからといって、楽観してはならない。人口減少が続くことを前提に、社会の担い手確保を急ぎたい。

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