社 説

 

自治体の基金「地方の実態踏まえ制度設計を」

2017/11/9 木曜日

 

 総務省は地方自治体の基金が2016年度末までの10年間に1・6倍に増えたとの調査結果を公表した。ただ、約7割は公共施設の老朽化対策や災害対応など将来への備えが目的。財務省側は基金増を理由に地方交付税の削減を主張しているが、一律削減は論外であり、地方の実態を踏まえた制度設計論議が必要だ。
 基金残高増をめぐっては、今年5月の財政制度等審議会(財政審)で財務省が「基金増は地方財政の余裕の表れ」と問題提起。これに総務省と地方側が猛反発し、総務省は地方の声を踏まえて実態を調査する考えを示していた。
 事態を重く見た県や県市長会など地方6団体も6月、総務省や自民党に交付税が削減されることがないよう要請。三村申吾知事は要請後、「当面は削減されないとの感触も得たが、引き続き6団体で行動していく」とし、国の議論を注視する考えを示している。
 その三村知事は03年に就任後、基金が底を突きそうだった県財政を立て直すため、公共工事の見直しや人件費の削減など歳出抑制を徹底。元金ベースでのプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化を図り、基金取り崩し額の圧縮、県債発行抑制に努めてきた。
 各市町村の財政環境も同様だ。6団体の要請直前、国会議員との意見交換の場で、県南の首長は市町村合併で職員や議員数を削減し、庁舎建設や学校改修など将来を見据えて基金を積み重ねてきたなどと説明。「(交付税削減の)議論自体に怒りを感じる。何のために血のにじむ思いで取り組んできたのか」と訴えた。
 調査結果を受け野田聖子総務相は、基金は地方の行政を将来にわたって安定的に運営していくために必要だとし、交付税削減に反対する姿勢を表明した。
 これに対して財務省は先月の財政審の分科会で、基金残高が過去最高となっていることを改めて持ち出し、地方創生関連事業費が積み残されている可能性を指摘。交付税の算定基準となる地方財政計画の見直しを主張する。
 しかし、地方の基金増は東京都の残高が3・6倍に膨らんだことも要因だ。都道府県の収入となる消費税収の配分は、事業者の売り上げに応じるため大都市に偏る傾向があるためで、財務省はこの配分ルールの見直しも提案している。
 今回の問題でも背景にあるのは、大都市への一極集中であり、特に地方で深刻な人口減少だ。
 地方の自治体は人口減で住民税が減り、労働人口減と相まって事業者の売り上げが落ち、結果的に税収が減ることを懸念する。それでも公共施設の老朽化などに対応しなければならず、備えが必要だと考える。また、東京都や23区と地方とでは事情も違う。消費税の配分ルールも含め、実態を踏まえた制度の在り方が問われている。

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ソウル線週5便化「県民の利用促進にも知恵を」

2017/11/8 水曜日

 

 今秋から、青森―ソウル線が1995年の就航以来初めて週5便(5往復)の運航となり、10月末には増便分の最初の便が青森空港を発着した。本県は現在、観光シーズンの真っただ中。紅葉や豊富な味覚、温泉など本県の秋の魅力を大いにアピールし、リピーター獲得などさらなる利用促進につなげてもらいたい。
 青森空港に到着した韓国人観光客に本県の魅力を聞くと、よく挙げられるのはやはり温泉や旅館。また青森のリンゴは韓国でも有名のようで、リンゴを味わったり、お土産に加工品を買うのを楽しみにしているという声もあった。紅葉の人気も高く、弘前公園には紅葉目当ての外国人観光客の姿が目立つという。これらは口コミも含めて本県の情報が一定程度届いているということ。就航から約22年、厳しい時期も変わらずに利用促進の取り組みを続けてきた成果だろう。
 今年の利用実績は10月30日までの速報値で利用者数が約2万9600人余りで、利用率は63・6%。夏季スケジュールの一部期間に機材を大型化したため、利用率こそ16年の75・1%を下回ったが、利用者数では16年同時期の2万8289人を上回り、好調のまま推移している。
 韓国人には冬のスキーや温泉も人気が高いため、閑散期に当たる冬も一定程度の利用が見込め、今後の期待も高まる。
 また週5便化となったことで、本県での滞在日数が伸びたことも観光関係者にとってはメリット。旅行会社が提供する同線を利用した本県ツアーはこれまで2泊3日が多かったが、増便後は3泊4日が主体。このため、従来から人気の高い弘前市や奥入瀬渓流に加え、新たに五所川原市の斜陽館や八戸市の八食センターなどが立ち寄り先として加わり、より多彩な楽しみ方が可能になったという。
 11月には台湾のエバー航空による青森―台湾間の定期チャーター便の運航も週2往復で始まり、本県を訪れる外国人観光客が増えることは確実。人口が減る中で地域経済を活性化するため、海外からの観光客の消費には一定の期待がある。
 増便で立ち寄る先が増えたように、今後は県内を広く周遊してもらい、関わる地域を増やしていく取り組みが必要だ。訪日ブームがいつまで持続するかは分からないが、観光事業者にとっては多様な外国人観光客に慣れ、おもてなしのノウハウを蓄積するチャンス。前向きに取り組み、ニーズの把握に努めてほしい。
 本県からの利用促進、アウトバウンドの取り組みも路線維持のために重要だろう。ソウル線の増便を記念し、新規にパスポートを取得して最初の海外旅行でソウル線を利用した場合、一定額を助成するなどの取り組みがあるが、より積極的な情報発信があってもいい。女性やシニア層、ファミリーなどターゲットを絞った旅の案内など、各国の関係者と連携した県民向けの取り組みにも期待したい。

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日米首脳会談「問題打開の契機にはなり得ず」

2017/11/7 火曜日

 

 安倍晋三首相と米国のトランプ大統領は6日、東京で会談した。最大の焦点となった北朝鮮問題については、同国への圧力を最大限まで高めることを確認し、日米の結束の強さをアピールした。
 前日の5日、安倍首相とトランプ大統領は埼玉県内で共通の趣味ゴルフを通じて交流を深めた。大統領たっての希望を踏まえ、プロゴルファーの松山英樹選手の同伴を日本政府は実現させ、「シンゾー」「ドナルド」とファーストネームで呼び合う二人の蜜月ぶりを演出した。
 「ゴルフ場であれば、お互いにリラックスして本音の話ができる」と安倍首相が語ったところを見ると、安全保障など幅広い課題について意見を交わしたものと思われる。ゴルフ外交については一部から批判もあったが、信頼関係の深さを表すものだったとは言えそうだ。
 6日の会談後に会見した安倍首相は、北朝鮮に対する政府の独自制裁措置を追加することを表明。7日の閣議で北朝鮮の35団体・個人の資産凍結を決定する方針だ。トランプ大統領も「(前政権の)『戦略的忍耐』の時代は終わった」と圧力強化の姿勢をより鮮明にした。
 確かに日米両国の絆の強さはアピールした。しかし、核・ミサイル開発、拉致といった問題打開の契機にはなり得なかったのではないか。トランプ大統領にとっては「内憂」を抱えたままのアジア歴訪となっている。米紙の最新世論調査で大統領の支持率は37%。当選から1年たとうとするこの時期の支持率としては、過去70年間で最低という。投資家だった商務長官がロシア関連企業と利害関係を持っているとの疑惑も浮上している。
 大統領は公約をほとんど成し遂げていないと批判されているため、今回の訪日に際しては、国内向けアピールとして対日貿易赤字をとりわけ強調し、日米間の自由貿易協定(FTA)交渉入りに強い意欲を示した―との見方が大勢だ。
 北朝鮮問題で日米の結束の強さをいくら示しても、自国の政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)であれば、北朝鮮と友好国に足元を見られかねず、問題のこう着状態を打開するのは難しい。北朝鮮対策を進めていく上で、日米に韓国を加えた3国の連携は極めて重要だが、やはり中国などの協力も不可欠だろう。
 トランプ大統領は8日、中国の習近平国家主席と会談する予定で、米国が北朝鮮への石油供給禁止といった強力な手段を行使することを中国に求めている中で、習主席がどう対応するか注目しなければならない。
 米国は軍事的手段を含む「あらゆる選択肢を検討中」とするが、万が一、武力が行使されれば、日本への影響は計り知れないものがあろう。北朝鮮が核・ミサイル開発をますます加速させる中、外交・経済による圧力強化に向けて関係国への働き掛けにも一層力を入れたい。

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障害者のアート「息の長い支援で課題克服を」

2017/11/4 土曜日

 

 障害者の美術創作を支援する「青森アール・ブリュットサポートセンター」が、五所川原市のNPO法人「あーるど」施設内に開設された。環境整備、支援人材育成、作品の権利保護、ネットワークの構築などに携わるという。
 特に県内で特別支援学校を卒業した障害者の創作は、限られた福祉事業所や美術家・指導者たちの熱意に支えられているのが実情。学校で創作と自己表現の楽しさに目覚めても、卒業後は環境的にも経済的にも継続が困難な場合が多いという。作品を展示・保管する場の確保も難しい。全県を対象としたセンターの開設で本県障害者アートは新たな段階を迎えたと言え、これら課題の克服に向けた活躍を期待したい。
 センターを運営する一般社団法人「あおもりインクルージョンネットワーク」は、1~4日に弘前、青森、八戸の3市で、事業所関係者や一般市民らを対象とした支援セミナーを開催。五所川原市の楠美家住宅(25~26日)と青森市の県立美術館(県美、29日~12月3日)で予定している「北海道・東北 アール・ブリュット展」では、本県のほか岩手、秋田、宮城の各県と北海道の障害者による美術作品を紹介する。
 障害者による作品の美術的価値を評価する機運は国内でも官民ともに年々高まっている。2014年度は文化庁の助成事業で全国調査が行われ、15年度に全国4カ所でその成果展が開かれた。岩井康賴・弘前大学教育学部教授(附属特別支援学校長)や教員有志らが県美で開催した「アウトプット展」(15年)、青森公立大学国際芸術センター青森が青森市内3会場で開催した展覧会「きみの世界とぼくの世界と」(16年)などで、豊かな発想や強烈なインパクトを放つ表現の数々に感銘を受けた人は少なくないだろう。アール・ブリュット展ではどんな作品に出合えるか楽しみだ。
 サポートセンターは厚生労働省の障害者芸術文化活動普及支援事業を受託して開設された。同事業の位置付けは14~16年度のモデル事業で得られた成果の全国展開だが、東京オリンピック・パラリンピック(20年)の文化を通じた機運醸成につなげる狙いもある。関係者によると、来年度以降の補助の在り方は必ずしも明確でないという。障害者アートの支援を、五輪を盛り上げる手段として終わらせてはならない。その明確な姿勢と息の長い支援が必要だ。
 「生の芸術」を表すフランス語「アール・ブリュット」の定義は固まっていないが、もともとは正規の美術教育を受けていない人のアートを指し、障害者であることは前提にしていなかった。障害の種類や程度に伴う制約は生じても、作者の興味・関心や心情を率直に反映する表現の本質に、障害の有無は関係がない。何より作品がそのことを教えてくれる。

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弘前城本丸発掘調査「市民の関心を高める発見」

2017/11/3 金曜日

 

 石垣の解体・修理工事が進む弘前城本丸で元禄期のものと推定される排水設備が見つかった。排水設備は本丸御殿からの生活用水や本丸、石垣に浸透した雨水などを石組みの暗渠(あんきょ)(外から見えない水路)を通じて、内堀へと流していたとみられるが、明治以降にこの設備が埋め立てられたことから、人為的に石垣から水を外へと排出する機能が喪失。専門家からは、この埋め立てにより、石垣背面からの排水が滞り、現在のはらみにつながる一因となったとする考えが示された。
 今回の石垣解体・修理工事の原因となった本丸石垣の膨張・はらみの原因はさまざまな要因が重なっているとも思うが、排水設備の埋め立ては有力な原因の一つと考えられるだろう。専門家からは「今後、石垣を積み直す際はきちんと暗渠から水が出るようにしなければ」との提言が成されたという。今回の発見を踏まえた適切な対策を施し、弘前城の本丸石垣を末永く後世に伝えるものとしなければならない。
 それにしても先人の知恵と工夫の素晴らしさには圧倒される。要害、堅固な石垣の裏側に、こうした排水設備が備わり、石垣と本丸の環境を安定せしめていたとは実に驚くばかりだ。こうした新事実が発見されるのも、発掘調査が行われているからであろう。
 貴重な文化財である弘前城を発掘調査できる機会はそうそうあるものではない。特に石垣などの遺物・構造物となれば、なおさらだ。今回の発掘調査では、さまざまな成果が上がっているが、その中でも目を引いたものとしては、天守台最上段にあたる石「天端石(てんばいし)」の四隅で見つかった“イカ”の形をした巨大な隅石(角石)だろう。全国の他城郭の石垣でも類似の隅石は例がないもので、大変珍しいものだ。先の排水機構といい、この“いかすみ石”といい、発掘調査の大きな成果だ。解体・修理工事の進捗(しんちょく)とともにさらなる成果が上がることを期待したい。
 今回は他にも、明治中期の石垣崩落時に、築石とともに裏側にあった裏込め材の栗石も大きく崩れたため、さらなる崩壊を防ぐことを目的に、上部から粘土で“ふた”をした痕跡が見られた。明治中期の石垣崩落とその後の修復工事の実態は、まだまだ分からないことが多い。先のいかすみ石もその存在の特異性を考えれば、明治・大正期の修復工事の際に埋め込まれた可能性も考えられるだろう。排水機構がなぜ埋められたのかも気になるところだ。
 調査の進展により、さまざまな発見がある弘前城だが、発掘だけでは解明に限界があるのもまた事実だ。市民や関係者がこうした新発見に触発され、弘前城について興味を持てば、史料上の新発見につながる。弘前市のシンボルである弘前城の価値はさらに高まるだろう。

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