英政府は14日の臨時閣議で、欧州連合(EU)離脱交渉で暫定合意した離脱協定案を承認した。国内手続きの第一関門を通過したことで、離脱に向けて具体的に動きだすこととなる。ただ、交渉段階で離脱を急ぐあまり妥協を重ねたことに抗議し、EU離脱担当相が辞任するなど、メイ政権は大きく揺らぎ始めており、英国内に拠点を置く日本企業も警戒感を抱きながら行方を注視している。
反EU感情が根強い英国。2016年に残留、離脱を問う国民投票を行い、離脱が51・9%で過半数となった。移民規制で自由な政策を行えないなど、EUによる束縛に対する不満が背景にある。とはいえ、半数近くがEUとのつながりを望んでいるのも事実。英国は小差を総意として離脱交渉に入ったことになる。
EUとの離脱交渉で英国は、日本円で5兆8000億円と推計される「手切れ金」の支払いや、在英、在EU市民の離脱後の権利を現状並みに保証することのほか、最大の懸案事項だった英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドについては関税を設けずに離脱に伴う社会、経済の激変を緩和する「移行期間」の設定などを協定案に盛り込み、暫定合意に至った。さらに、北アイルランド問題が未解決の場合は、移行期間の延長、もしくは英全体のEU経済圏残留かを20年7月までに選択するとした。
臨時閣議は5時間以上に及ぶ議論の末、協定案を承認したが、メイ首相による数々の譲歩に対する反発は大きい。完全な離脱となるのか、EUの関税同盟に事実上とどまるのかも現時点で見通せず、仮に関税同盟残留なら関税自主権を行使できず、貿易などにEUのルールを受け入れなければならない上、EUでの発言権は離脱で失う。メイ首相は関税同盟残留を“非常時の保険”とするが、大方は「発動される」とみているようだ。そうなると、英国が掲げてきた米国との自由貿易協定(FTA)締結、日本が主導して進めている環太平洋連携協定(TPP11)への合流もできなくなる。TPP11のメリット拡大を図りたい日本にとっても無視できぬ問題だ。
議会からは「EUの属国になる」などの厳しい意見が噴出。ラーブEU離脱担当相は「合意を支持できない」と抗議し辞任。マクベイ雇用・年金相、バラ北アイルランド担当閣外相らも後に続いた。早くも「メイ下ろし」が動き始めた。
求心力を失ったメイ首相が議会承認を得られるかは分からず、英経済界は物流などに影響する「合意なき離脱」に警戒感を示す。15日の金融市場は、こうした動きを受け、英通貨ポンドが急落した。金融をはじめとする日本企業も、ドイツに現地法人を設立するなど、今後起こり得る事態に対応した体制構築を急いでいる。米中貿易摩擦に続く英国のEU離脱問題。世界経済に暗雲が広がってきた。