安倍晋三首相は消費税率を8%から10%へ引き上げるに当たり、消費の落ち込みを避けるため、中小の小売店でのキャッシュレス決済時を対象に、5%をポイント還元する対策を打ち出した。利用すれば消費者の負担が現行より下がり、実質的な「減税」とも指摘される。
キャッシュレスにはクレジットカードや電子マネー、モバイルウォレットなどがある。日本の場合は持ち歩く現金を狙う犯罪が海外より少ないといった治安の良さに加え、ATM(現金自動預払機)が各所に設置されている利便性などもあり、現金決済を好む傾向にある。国内のキャッシュレス決済比率は、現在2割弱にとどまっている。
海外先進国の多くは、日本よりキャッシュレス決済比率が高い。経済産業省が4月に公表した「キャッシュレス・ビジョン」によると、キャッシュレス経済比率は韓国が9割近く、中国は6割程度、米国は4割以上とされる。キャッシュレスに慣れた外国人が現状の日本を訪れ、不便を感じることもあるだろう。
2020年の東京五輪・パラリンピック開催に向け、海外から訪れる人が増えることを見込み、キャッシュレス化を推進する必要性が指摘されている。政府は2027年までには4割程度まで引き上げることを目指すとしている。
一方で、現在2割弱とされる国内のキャッシュレス決済比率だが、首都圏に比べると地方でのキャッシュレス決済比率はさらに低いとみられる。クレジットカード対応を行うには、小売店がカード会社に一定の手数料を支払う必要があるが、その負担が苦しい―という小売店も地方には少なくない。また高齢者をはじめ、慣れない手続きを避けがちな層もいるだろう。
本県は海外からの誘客を促進するインバウンド対策を進めており、キャッシュレス決済を今後普及させる必要性は指摘されている。本県は韓国、中国からの観光客も多く、経済効果を上げるにはキャッシュレス決済の普及が不可欠だ。
だがキャッシュレス決済のポイント還元期間として想定されているのは、消費税率を引き上げる来年10月から、東京五輪・パラリンピックまでの9カ月間。この間に、地方でキャッシュレス決済がどの程度普及するかは不透明だ。
安倍首相の経済対策「アベノミクス」の効果を、地方はなかなか感じにくい状況にある。その上、実質的な「減税」とされるポイント還元の恩恵も、地方は首都圏に比べるとあまり受けられない可能性がある。その場合は、地方を置き去りにした経済対策との批判は免れられないのではないか。
地方も現状を変える努力は必要だが、消費税率引き上げに当たり、より地方の実情を見据えた経済対策についても併せて国に求めたい。