社 説

 

岩木山で迂回路設置「登山道整備を見直す契機に」

2018/8/10 金曜日

 

 貴重な自然景観を保護するため津軽国定公園の特別保護地区に指定され、厳しい規制が敷かれている岩木山8合目付近で弘前市が2017年、国や県に届け出をせずハイマツやササなどの植物を刈り払い、登山道の迂回(うかい)路を設けていたことが発覚した。
 津軽の人々が信仰の対象としてきた岩木山には嶽、百沢、弥生、大石赤倉、長平の5登山道が存在。古くからお山参詣の道として利用されてきた。新たに設けられた迂回路については、8合目付近で弥生登山道と大石赤倉登山道を結ぶもので、昨年10月に設置されていた。
 弥生登山道は近年、道が荒れている傾向にあった。また登山者が登山口にアクセスしにくく、車を止める場所もあまりなかったため、市民団体「津軽百年の森づくり」が整備を提案。これを踏まえて市が国有林野の無償貸し付けを受け、整備に着手できる状態とし、弥生いこいの広場から登り始めることができる新ルート「新弥生登山道」を設置し、3合目から弥生登山道へと合流させていた。
 弥生登山道の3~8合目に生い茂ったササなどは、市が業者に委託して刈り払いを実施。さらに弥生登山道の8合目から頂上にかけては、関係機関で構成される岩木山環境保全協議会の会員が現地確認した際、道の傾斜がきつい上、草木が生い茂って荒れていたことから、「ほかの登山道への迂回路があれば安全」との意見でまとまったとして、迂回路設置に着手したという。
 登山者の安全安心のため、大石赤倉登山道へ迂回できる道を設けたかったという考えは間違っていない。ただしそれは県、国へ届け出をしてから着手すべきものだった。現地確認に国や県の関係者もいたため、ある程度の了承が得られたと早合点した市側は、正式な手続きを後回しにしても大丈夫との認識で、迂回路を業者に設置させてしまった。
 しかし改めて国や県と意見交換したところ、迂回路の近くに湿地が存在しており、自然保護の観点から迂回路を使用しない方が適切であることが判明。「安全安心」の確保を念頭に迂回路を設けたものの、結局は特別保護区の植物を刈り払っただけで終わる形となった。市の拙速な判断だったと言わざるを得ない。
 一方で、観光振興を考えれば、自然保護に配慮して安全な登山道を整備するという取り組みはもっと進めてもよいのではないか。弥生登山道に関しては、8合目から頂上にかけ、津軽百年の森づくりがボランティアで整備を実施しているが、迂回路として結び付けた大石赤倉登山道にしても、8合目から頂上の間の道は整備されていると言い難い状態だ。
 今回の問題は、岩木山に詳しい地元住民だけでなく山を愛する人々を広く受け入れるために、登山道整備を考え直すきっかけになるのではないだろうか。

∆ページの先頭へ

東京医大入試不正「教育の原点見失わず再出発を」

2018/8/9 木曜日

 

 東京医科大(東京都新宿区)の不正入試問題に絡み、男子受験生や現役生らに加点するなど得点を操作する一方で、女子や浪人回数の多い受験生の合格者数を抑制していたとされることが7日、同大が設置した内部調査委員会の調べで分かった。さらには、これとは別に、既に贈賄罪で起訴された前理事長の主導により、2年間で計19人の点数を個別に不正加点していたほか、前理事長らが受験生の親から謝礼を受け取っていたとみられることも分かった。
 事実とすれば、医師を目指している若者の多くが回り道をするか夢を絶たれるかしたことになり、その怒りと悲しみは計り知れない。大学側は得点調整を根絶し、女子受験生らの追加合格も検討する考えを示したという。しかし、今回の調査結果を聞いた受験生らは当然不信感を持つであろうし、追加合格などの措置を受け入れるかどうかは当人の判断としても、大学側も精神的ケアやしかるべき時に大学に入学できなかったことによる経済的損失の補償を検討する必要がある。
 委員会がまとめた調査結果報告書によると、女子や浪人生を抑制する点数操作は、遅くとも2006年度入試から行われていたといい、今年度一般入試2次試験の小論文では、100点満点に対する受験生全員の得点に0・8を掛けた上で、男子の現役~2浪受験生には20点、3浪生には10点を加点。女子と4浪以上の受験生には加点していなかった。このほか、個別の不正加点は1次試験で、今年度6人、昨年度13人に対して行われ、最大49点加点したケースもあった。こうした調整は前理事長や同じく贈賄罪で起訴された前学長がリストを作成、実施していたという。
 女性は将来的に出産や育児で長時間労働ができなくなるなどの理由を挙げており、「女性差別以外の何物でもない」としたほか、浪人生への調整も「受験生への背信行為」とされた。
 かつて、女性の進学や社会への進出に対して、軽蔑的な目線で見る風潮があったことも事実。女性は家にいて、家事や育児に専従するのが当然と思われていたわけだが、現在は「男女共同参画社会」と言われるように、女性の出産や育児が当然あることを前提に、職場環境を整える必要がある。その中で、こうした前時代的なことが行われていたことに、耳を疑う声があることは当然だ。浪人生に対しても、志望大学入学を目指す努力と年月が報われない、となれば心の傷は大きい。
 「医は仁術なり」という言葉がある。こうした行為をした大学に、人を思いやる「仁」を備えた医師を育てる資格があるのか疑念を抱く。東京医科大に対してどのような措置が行われるのかは分からないが、人を育てる、教育するという原点を見失わないようにしてほしい。

∆ページの先頭へ

73回目の原爆の日「核廃絶へ不断の努力を」

2018/8/8 水曜日

 

 広島は6日、73回目の原爆の日を迎えた。そして、あす9日は長崎原爆の日である。「まさに地獄」「原爆は二度とあってはならない」―。被爆者らの多くが当時の様子をこう振り返るように、何年たっても決して忘れることのない忌まわしい記憶が、今も鮮明に脳裏に焼き付いていることだろう。
 人類史上初めて核兵器が広島で使用されたのは1945年8月6日のことだ。街は一瞬にして廃虚と化し、約14万人にも上る貴い命が奪われたとされる。その3日後の9日には、長崎に投下された。
 原爆によって多くの命が奪われたばかりか、今なお後遺症に苦しむ人たちがいる。終戦から何年たとうとも決して忘れてはならない事実である。人類が二度と同じ過ちを繰り返すことがないよう、世界で唯一の被爆国として果たすべき役割を考え、平和への誓いを新たにしたい。
 厚生労働省によると、被爆者健康手帳を持つ人は今年3月末時点で全国に15万4859人、平均年齢は82・06歳で昨年より0・65歳高くなった。歳月と共に被爆者の高齢化が進む一方、戦争を知らない世代が増えており、語り継ぐことの重要性が年々増しているといえる。
 本紙で紹介された広島市西区の鈴藤実さん(87)は、原爆で祖父母と両親、2人の姉を亡くした。爆心地から離れた工場にいたため、一人だけ生き残ったという。「あの悲惨さを知っていたら、核兵器が存在すべきでないことははっきり分かる。早く禁止してほしい」と訴える。
 佐伯区の木元晃さん(78)は当時5歳で、爆心地から1・5キロの自宅で被爆した。「原爆は二度といけん」などと訴え「生の声を伝えるため、今年から語り部として活動したい」と話す。被爆した祖母や父から体験を聞いて育った中区の吉沖紀代美さん(53)は「年をとって亡くなる方も多く、被爆二世としての使命を感じる」と決意を込める。このように、多くの関係者が記憶の継承と平和の実現を強く訴える。
 昨年は、核兵器廃絶に取り組んできた国際的なNGOの連合体「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」がノーベル平和賞を受賞した。また、先行き不透明ながら、朝鮮半島の緊張緩和の動きもある中で、「被爆者の思いが世界に広まりつつある」と歓迎する声がある。
 一方で世界情勢は混沌(こんとん)としており「核兵器のない世界」の実現はいまだ先が見通せない。国連の核軍縮に向けた議論は停滞し、核保有国と非保有国の対立はより顕著になっており、具体的な進展を望めない現状にあるのは残念なことだ。
 各国の利益が絡み合うだけに、核軍縮への道のりは険しいが、だからこそ被爆国である日本の果たすべき役割は大きいはずだ。惨劇を二度と繰り返さないため、核なき平和な世界の実現へ不断の努力を重ねてほしい。

∆ページの先頭へ

プルトニウム削減「エネルギー政策の議論こそ重要」

2018/8/7 火曜日

 

 内閣府の原子力委員会が、原発の使用済み核燃料に含まれるプルトニウムの利用方針を改定し、保有量を「減少させる」と明記した。ただ、今回の改定は核燃料サイクルの推進を前提としており、対症療法でしかない。やはりわが国のエネルギー政策がどうあるべきか、本質的な議論が不可欠だ。
 プルトニウムは核兵器への転用が可能な放射性物質で、国際原子力機関(IAEA)などが厳しく規制・管理している。
 日本のプルトニウム保有量は2017年末時点で約47トン。政府は資源の有効活用の観点から、使い終わった核燃料からプルトニウムを回収、ウランと混ぜて作ったウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を原発に使うプルサーマル発電で減らす計画を進めている。
 しかし、2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、原発の再稼働が遅れている。これに加えて日本原燃の六ケ所再処理工場が運転を開始すれば、保有量は増え続けることになる。
 原子力委は改定で、六ケ所再処理工場の運転を制限し、原発使用分までしかプルトニウムを製造しない方針を示した。
 さらに電力事業者間での連携の必要性にも言及した。原発再稼働が進んでいない東京電力ホールディングスの保有プルトニウムを、他社の原発で利用する案などがある。
 しかしプルサーマルも原発1基当たりの消費量は年間0・5トンとされ、再稼働が進まない現状では、核燃サイクルを推進しながらプルトニウムを大幅に削減できるはずもない。
 だったらサイクルを中止すべき―という声も当然のように出てくる。ところが六ケ所再処理工場に一時貯蔵されている使用済み燃料は、再処理を前提としたもので、中止するなら搬出元に返還する取り決めとなっている。
 ところが使用済み燃料の貯蔵量がひっ迫している原発は数多く、本県から返還しようにも、引き受け先に余裕はない。サイクルを中止するにしても混乱は避けられないのだ。
 そもそも今回の改定は、米国などが日本に削減を求める中で、「国際社会の懸念を踏まえた」(同委)ものだ。
 実際、駐日米国大使館のエネルギー首席担当官は、北朝鮮の非核化に向けた動きが国際社会で注目されていることも念頭に、日本の削減方針を「世界の核不拡散に重要だ」と論評する。
 余剰プルトニウムの削減を着実に進め、国際社会の懸念に応える。その実現にはプルサーマルでの消費を促進するため原発を再稼働させるのか、直接処分へと方針を転換し、そのための最終処分場の選定を急ぐのか。
 いずれにしても、政府は早急に国民を巻き込んだ議論を始める必要がある。

∆ページの先頭へ

特殊詐欺「問われる地域社会の在り方」

2018/8/4 土曜日

 

 今年上半期に警察が把握した振り込め詐欺など「特殊詐欺」の被害額は前年同期比約13億3000万円(7・1%)減の約174億9000万円、認知件数は同672件(7・6%)減の8197件だったことが、警察庁のまとめ(暫定値)で分かった。県内は被害額が2617万円で前年の4959万円からほぼ半減、認知件数も10件減の22件となった。
 全国的には、還付金詐欺の被害額と認知件数が前年上半期の半分以下になり、全体を押し下げる格好になった。高齢者を対象とした現金自動預払機(ATM)の利用制限や、銀行員らによる注意喚起の声掛けなどといった対策が効果を上げたことは間違いないだろう。油断することなく、今後も対策を持続してほしい。
 逆に、いわゆる「おれおれ詐欺」が増加している。上半期の認知件数は前年同期比22・7%増の4560件に上り、被害額は同1・9%増の約96億3000万円だった。おれおれ詐欺は昨年大幅に増加し、約203億4000万円の被害が発生。統計が残る2004年以降で過去最悪を更新した。
 犯行に及ぶ側は、あの手この手で現金をだまし取ろうとする。変化し続ける社会情勢に合わせた手口を生み出し、あるいは選択する。警察による絶え間ない情報発信とともに、被害に遭わないように情報を収集することも求められよう。
 上半期の被害件数全体に占める65歳以上の割合は、前年同期比3・6ポイント増の75・7%で、高齢者の被害防止が引き続き課題となっている。「自分がだまされるはずはない」などといった過信はせず、少しでもおかしい、怪しいと思ったら警察や身近な人に相談することが重要だ。
 他方で、特殊詐欺で摘発される未成年者が急増している。上半期に摘発された14~19歳の少年は368人で、前年同期の182人から倍増し、全体の27・8%を占めた。少年のうち約73%は現金受け取り役の「受け子」。成人のなり手は減少傾向にあり、20代が後輩や、その同級生を犯行グループに誘い込むケースも見られるという。
 識者は「インターネット交流サイト(SNS)が発達し、バイト感覚で気軽に加担する少年が増えている。『犯罪とは知らなかった』では済まされないことを広く伝えていく必要がある」と訴える。別の識者は「閉(へい)塞(そく)した人間関係の中で生活しているため、自分の居場所はそこにしかないと思い、誘いを断れない少年が増えている。人間関係を広げる環境づくりが大事になる」と強調する。
 人口減少や急速な高齢化、ネットの普及などといった社会構造の変化に伴い、地域社会で人間関係の希薄化が進んでいると指摘される。特殊詐欺に限らず犯罪の加害者、被害者を出さないために、地域社会はどうあるべきかが問われているように感じる。

∆ページの先頭へ

Page: 1 ... 103 104 105 106 107 108 109 110 111 ... 188