社 説

 

「うるしの日」を機に「津軽塗を使う機会を増やそう」

2019/11/15 金曜日

 

 先日11月13日は「うるしの日」だった。国内で特に目立った動きがあったわけではないが、SNS(インターネット交流サイト)では漆関係者が「漆の器で食事をしてみてはいかがでしょうか」と呼び掛けていたほか、「全国の飲食店で一斉に漆器が使われたら」と希望するツイートも目にした。
 平安時代、文徳天皇の第一皇子惟喬これ(たか)親王が、漆の製法を虚空蔵菩薩から伝授された日―との伝説から、漆の良さを見直す日として日本漆工協会が1985年に「うるしの日」を制定している。
 そもそも漆器の良さとは何か。金属やプラスチックとも異なる「触れた時のぬくもり」もあるだろう。また、職人が丹念に仕上げた作品には、漆器独特の品格や存在感を感じさせる艶がある。漆器は首都圏などでは正月など、特別な日に使われることが多いとも聞く。
 一方、青森県民は日常的に漆器を使っていることが少なくない。漆器を日常生活に取り入れている豊かさを、われわれは自覚しているだろうか。その漆器とは無論、津軽塗である。かつて一大産業だった津軽塗のおかげで県民は、日常生活に漆器があることに対し、さほど違和感を抱いていない。
 県民が「身近にあるもの」と感じている津軽塗は2017年、本県初の国重要無形文化財に指定された。現在、津軽塗の出荷量はピーク時の10分の1まで落ち込み、職人も減少傾向にある。今や津軽塗は「身近にあって当たり前」の存在ではなく、「守り伝えようとする人々の手で懸命に支えられている」存在になりつつあるのだ。
 漆産業に欠かせない漆すら、決して「あって当たり前」と呼べない状態にある。国内で使用される漆のうち、国産はわずか3%足らずで、残りは中国産でまかなわれている。国重要無形文化財に指定された津軽塗がある本県では、県中南地域県民局が中南津軽「うるしの森づくり」推進事業に取り組み、漆資源の確保に向けた苗木の安定供給を目指している。
 このような現状も踏まえて15~17日、漆を取り巻く環境や、漆による地域活性化などをテーマにした「漆サミット2019in弘前~これからの国宝・重要文化財の保存・修復」が弘前市などで開かれ、研究者らがさまざまな角度から漆の魅力を発信する。
 楽観視できる状況にない漆産業を応援するため、11月13日は津軽塗を使う日にできないものだろうか。飲食店で積極的に用いればよいアピールになるだろうが、店側の負担もある。せめて、家庭で意識的に津軽塗を使う日として呼び掛けてみてもいいのではないだろうか。 

 特別な日に使う品格を備えながら、一定の配慮があれば日常的に使うことへの耐久性を備えているのが津軽塗だ。漆器を使う豊かさを、もっと楽しもう。

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桜を見る会「釈然としない突然の中止」

2019/11/14 木曜日

 

 例年4月に東京都内の新宿御苑で開かれている首相主催行事「桜を見る会」が、来年度は中止されることが13日に決まった。
 同会については、8日の参院予算委員会で、安倍晋三首相の後援会関係者が多数招待されていると共産党が指摘。主要野党は安倍首相が「地位を利用し、国の公的行事で接待をしていたと受け取られかねない」などとして合同チームを発足させ、「私物化」疑惑を追及し始めたばかり。政府は開催要項の見直しを検討する考えを示し、自民・公明両党も招待者の範囲や選定基準を明確にする考えで一致した矢先だった。
 菅義偉官房長官は中止の理由として、招待する基準の明確化を図ることなどを挙げた。自民党内からも「正当性が問われている」と中止論が浮上したが、政府の決定は批判の早期沈静化を意図したにしても急過ぎる。政府が事態の深刻さを認識している表れとも受け取れるが、規模縮小などの対応でもしのげそうなものをなぜ中止にしたのか釈然としない。
 この問題で浮かび上がったのは、招待者の選定過程における首相官邸・与党の関与の強さだ。
 招待者は、開催要項に基づき内閣官房が取りまとめるが、その際、各省庁に加えて首相官邸や与党にも推薦を依頼していたことが分かった。長年慣行化していたという。自民党国会議員らが、招待者の推薦枠を持っていたことを証言している。
 桜を見る会は、文化・芸能、スポーツ、政界などで功績・功労のあった人を招き、日頃の苦労をねぎらい懇談するのが目的。それ自体に疑念はなく、招待者にとっては名誉であろう。
 同会は東日本大震災などで中止になった年を除き1952年から続く恒例行事。中止は政治の責任が大きい。これを機に招待基準から不透明な要素を一掃し、所期の目的に近づけるよう大いに議論し見直せばいい。
 ただ、来年度の開催中止や次回以降の開催要項の見直しは、説明責任を果たしたことにも疑惑を不問とする理由にも当たらない。
 桜を見る会に関する参加者と支出額がここ数年で急増しているのも気になる。野党が入手した内閣府資料によると、今年度の参加者は約1万8200人で、支出額は約5500万円。5年前の2014年度は約1万3700人、約3000万円だった。いずれも安倍首相の在任期間に当たる。会の在り方はこの点でも妥当だっただろうか。
 13日の衆院厚生労働委員会では野党側から、18年度の桜を見る会について安倍首相の事務所が参加希望者を内閣府に仲介していたことをうかがわせる「案内状」が示された。事実であれば、この点でも政治のモラルが問われよう。

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青森機動監視隊派遣「漂着船の住民不安払拭を」

2019/11/13 水曜日

 

 北朝鮮のものと思われる漂流・漂着船が近年、本県日本海側でも急増していることを受け、第2管区海上保安部と青森海上保安部は今月4日から、鯵ケ沢町を拠点に沿岸部の監視活動などを行う青森機動監視隊(MMP=ダブルエムピー)を現地に派遣、活動を開始した。漂着船に特化したMMPは国内初。これにより陸のMMP、海の巡視船、空の航空機が連携し、一層の監視強化が図られることになる。9日には早速、中泊町の折腰内海水浴場付近海岸に漂着した木造船に対応した。木造船が漂着する日本海側自治体の要望が実った結果でもあり、今後も地域住民の不安を払拭(ふっしょく)するための活躍を期待したい。
 船が漂着しただけでも処分方法や費用などが問題となる。まして、北朝鮮籍の船となれば、拉致など過去の経緯から、乗り捨てられた工作船であるとか、その船に乗っていた何者かが既に上陸し、わが国にとって不利益な行為をしているのではないか―といった不安が付きまとう。実際、昭和40~50年代には多数の工作船の目撃や工作員が上陸する事案があった。それだけに、一定期間とはいえ、地元に常駐し監視活動と漂着後の対応を行ってくれるMMPの存在は自治体や地域住民にとって心強い。
 漂着船事案は海岸線が長い深浦町、つがる市の方が多いわけだが、鯵ケ沢町をMMPの拠点とする意味は、日本海側中心部に位置し、南北に移動しやすい地勢もある。仮に深浦町で事案が発生した場合、青森海保がある青森市から陸路で移動した場合、3時間前後を要していたが鯵ケ沢町を拠点に移動すれば、これが1時間前後と大幅に短縮され、まさに迅速対応となる。
 青森海保などはMMP派遣と併せて、地元自治体との情報共有や連携を強化するため、鯵ケ沢町役場に海上保安官連絡所を設置した。非常駐ではあるが、定期的に保安官が訪れる。海難救助を目的とした連絡所は県内漁協にも数カ所設けられているが、役場や役所への設置は県内初となる。海保と自治体との連携が密になれば、今後の漂着船対応などにも良い意味で変化が出ることも期待されよう。
 こうした海保側の対応を歓迎する声が多数ある一方で、ある自治体の首長からは「もう少し大きな仕組みとして、絶えず巡視船が動ける態勢づくりにも期待したい」との意見があった。巡視船は日常的に日本海沖の監視活動を続けているとはいえ、その発着拠点が日本海側にはない。例えば、絶えず巡視船が活動できる仕組みとして、日本海側に海保の出先機関を置くといったことも検討してほしい。陸奥湾に面する青森市、太平洋に面する八戸市には拠点がある。海を隔てて海外と接する日本海側にも拠点があっておかしくはない。地域の一層の安全安心確保のため一考願いたい。

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米軍機模擬弾落下「抗議にも改めぬ姿勢に不信感」

2019/11/9 土曜日

 

 米軍三沢基地所属のF16戦闘機が6日、六ケ所村の私有地に模擬弾を落下させた。しかも、米軍が防衛省に報告したのは翌7日という。基地と地元自治体は信頼関係の上で共存しているはずだが、人的被害がなかったとはいえ、米軍のこうした対応は、信頼を著しく損なうものであり、憤りを禁じ得ない。
 防衛省によると、6日午後6時35分ごろ、訓練中のF16が三沢市と六ケ所村にまたがる「三沢対地射爆撃場」の西約5キロの牧草地に模擬弾1発を落とした。模擬弾にはコンクリートが詰められ重さは約230キロ。深さ約3メートルの地中に埋まっていたという。火薬が入っていなくても、これだけの威力があるのだ。現場の5キロ圏内には学校などもある。もし当たっていたらどうなっていただろうか。
 落下が明らかになった7日、三村申吾知事が「一歩間違えれば大変な惨事」、菅義偉官房長官は「あってはならないもの」と述べ、地元六ケ所村と三沢市の首長も一斉に非難した。民有地に落下させただけでも周辺住民に大きな不安を抱かせるが、米軍が防衛省に報告したのが翌日朝になってからだったため、防衛省から関係自治体への情報提供も当然、それ以降になった。こうした米軍の姿勢が、疑問と不信感を増幅させた。
 三村氏は8日午前、防衛省に河野太郎防衛相を訪ね、再発防止策が講じられるまでF16の模擬弾訓練を中止させるよう要請するとともに、事故の連絡が発生翌日だったことを批判した。これに対し河野氏は「(米軍に)原因究明、再発防止策をしっかり講じるよう申し入れる」とし、報告が遅くなったことについては「申し訳ない」と謝罪した。米軍は防衛省に当面の訓練中止を伝えてきたというが、抗議をどれだけ深刻に受け止めているのか疑念が残る。
 三沢基地の米軍機は今年1月、部品の一部を八甲田の山中に落下させたほか、エンジントラブルで青森空港に緊急着陸。翌2月は三沢飛行場でオーバーランし、民間機の運航に影響を及ぼした。6月には北海道で低空飛行(米側は最低安全高度に注意して飛行と回答)し、校庭の児童が待避した。実害があったものでは、昨年2月に小川原湖へ燃料タンクを投棄し、漁業に大打撃を与えた問題が記憶に新しい。
 防衛省や県などはその都度、抗議し再発防止を求めてきたが、こうした問題は後を絶たない。報告遅れは他基地でもある。昨年は嘉手納基地(沖縄県)に所属するF15戦闘機の部品がなくなったが、日本側に報告があったのは6日も後で、防衛省は「迅速な情報提供を要請している」としていた。それなのに、また「迅速な情報提供」はなかったのだから、不信感を抱いて当然だ。米軍は姿勢を改めない限り、地元の理解が得られないことを肝に銘じなければならない。

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マラソン会場変更「安全確保へ不断の努力を」

2019/11/8 金曜日

 

 東京五輪のマラソン会場が札幌市に変更されることが決まった。五輪期間中は酷暑が予想され、選手や観客、運営ボランティアの暑さ対策が十分か不安は尽きない―と、この欄で指摘し3カ月。賛否はあるようだが、関係者全員の安全が最優先であることは論をまたない。他競技についても引き続き安全確保を第一に対策を講じてもらいたい。
 東京五輪のマラソンは女子が8月2日、男子が同9日、競歩は7月31日と8月7、8日。ちなみに今年8月2日の東京都の最高気温は35・1度、昨年は37・3度だった。天候にも左右されるが、むしろ雨の日は湿度が上がり70%を超す。熱中症の危険度が最高レベルとなる温度であり、湿度だ。
 組織委員会は暑さを考慮して当初の計画からマラソンが午前6時、男子50キロ競歩が午前5時半のスタートに早められるなどの対策を取った。東京都も暑さを軽減する路面の塗装など工夫したが、根本的な解決にならないことは関係者誰しもが分かっていた。
 国際オリンピック委員会(IOC)が急きょ会場変更を決めた背景には、9月から10月にかけてドーハで開催された世界選手権のマラソンで、気温30度超、湿度70%超の環境下で棄権者が続出したことがある。
 実際、組織委の森喜朗会長は「IOCのバッハ会長は(ドーハと)同じことが東京で起きたらIOCと東京大会が批判の渦に巻き込まれると考え、会場変更を決意した」と明かす。
 つまりIOCは五輪の商業価値を守るため、「アスリートファースト」を楯に強引に変更を決めたということになる。IOCの意向に沿って準備を進めてきた組織委や都、関係者の努力を無視した、あまりにも場当たり的な判断だ。
 会場変更の意思決定に不透明さは残るが、選手、観客、ボランティアの安全を考えれば、札幌開催に向け全力で準備するしかない。ただ、残り10カ月という短期間での準備に課題は山積している。
 コースは毎夏行われている北海道マラソンが参考となるようだが、コース決定までにはさまざまな段階を踏む必要があり、沿道の警備や輸送の計画も白紙から検討することになる。
 もちろん東京を想定して準備を進めてきた選手や各国チーム関係者も、新たなコースに関する情報をゼロから収集することになる。
 さらにはマラソンの発着点だった新国立競技場のチケットを購入した人たちはどうなるのか。女子マラソンは陸上競技の決勝種目とセット販売されており、単に払い戻すだけでは済まない。
 繰り返し指摘するが、選手や観客、ボランティア全員が安全に大会を終えてこそ、評価に値するはずだ。さらなる安全確保への努力が求められている。

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