社 説

 

ミサイル防衛提言「現実味乏しい敵基地攻撃論」

2020/8/11 火曜日

 

 自民党のミサイル防衛に関する検討チームが、他国領域内への打撃力保持を含む抑止力向上のための提言をまとめ、安倍晋三首相に提出した。提言は、いわゆる敵基地攻撃能力の保持を事実上求めているが、日本の防衛戦略の基本姿勢である専守防衛との整合性や予算、軍事技術面など、実現にはさまざまな課題をはらんでいる。なぜこの時期にこのような提言を行うのか疑問を感じる。
 検討チーム座長の小野寺五典元防衛相によると、提言を受けた首相は「まず陸上イージスの代替を議論し、その後本格的に安全保障政策について国家安全保障会議で議論したい」との考えを示したという。政府は今回の提言を踏まえ、国家安全保障会議の4大臣会合を開き、導入を断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に代わるミサイル防衛や、新たな抑止力の検討に本格着手。9月に一定の結果を示し、2021年度予算概算要求に反映させるとしている。
 弾道ミサイルの脅威などに対応すべく、計画が進められていた陸上配備型のイージスシステムが導入断念となった今、日本のミサイル防衛網をどのように構築するかは、喫緊の課題である。21年度の概算要求に反映させるとの考え方もまずは順当なものと理解できる。
 代替案としては、海上自衛隊のイージス艦を2隻程度増やして業務の一部を陸上自衛隊員に担わせる案を政府が検討しているとの報道があった。陸自による補完は海自の乗組員不足を踏まえた措置という。陸自は陸上型イージスの導入で見積もっていた人員を転用できる利点があり、海自側も隊員の募集や育成といった負担を軽減できるというもので、現実的な方策と言えるのではないか。イージス艦は荒天時に展開できる海域に制限があり、日本全土の防衛には課題もあるが、他の代替案と比較しても現実性は高いと言えるのではないか。
 陸上型イージスの代替案までは、理解できるものがあるが、敵基地攻撃能力の検討はやはり、拙速の感が強い。専守防衛との整合性といった政治的な課題に加え、そもそも攻撃能力を一から整備するとなれば膨大な予算が必要となり、軍事作戦的にもミサイル防衛と比較にならないほど難易度が高くなるとの専門家の指摘がある。
 敵基地攻撃能力を保持するかどうかは、国の安全保障を根幹から変えるものだけに国民的な議論が必要だが、現政権にそのような問題提起の兆候は見えない。敵基地攻撃能力を違う文言にするとの案が政府・自民党内で検討されているとの報道があったが、これぞ小手先、目くらましの最たるものだろう。国の防衛政策の根幹部分について、国民の目が十分に届かないまま、検討が進みかねない現状に危機感を覚える。

∆ページの先頭へ

県立高校再編「そこで何が学べるかを主眼に」

2020/8/8 土曜日

 

 県教委は、2018年度からおおむね10年とする県立高校教育改革推進計画基本方針を改定した。これに基づき、21年度中に策定予定の県立高校再編に関する第2期実施計画(23~27年度)の中では、生徒数減少に伴い、期間中の5年間で募集学級数を19学級減らす見込みとしている。少子高齢化に依然、歯止めがかからない中で、やむを得ない措置とはいえ、さらに小規模校存廃に関する議論が出てくることは確実だろう。仮にそのようになった場合は議論を尽くし、何が生徒のためになるのかを第一に考えて対応してほしい。
 改定内容によると、通学困難地域に配慮するための地域校について、中学生の進路選択を考慮した上で、2年連続で入学者数が2分の1未満となった場合に、1学年1学級規模の学校では、翌年度からの募集停止を基本とすることを明確化。このほか、地域校の活性化に向けて学校と地域などが一体となった検討を促すことを追記した。全国からの生徒募集導入を検討することも記した。
 県教委の推計によると、27年度の中学校卒業者数は9187人の見込みとなり、22年度と比べ981人の減。うち西北地区は27年度824人(22年度比161人減)、中南地区は同1935人(同177人減)の見込みという。両地区では、第2期実施計画期間中に募集学級数をそれぞれ3学級減らすなど、県全域で19学級減らす予定だ。
 しかし、問題はこの後だろう。28年度からの5年間では、中学校卒業予定者数がさらに約900人減となる見通しで、現時点ではこの期間中に県全域で17学級を減らすことになるという。将来のことは誰も断言することはできないが、この数字は何も対策を講じなかった場合と考えるべきなのだろう。
 現在も学校と地域が一体化した取り組みは試みられているし、地域から高校がなくなることを回避しようと地域住民が熱心な行動を展開しているところは少なくない。しかし、歴史と伝統、「オラほの学校」といった訴えだけでは学校の維持は難しい。近くに高校があっても、生徒自らが学びたい環境と異なると判断すれば、他地域の学校が選択肢となる。義務教育とは違い「そこに学校があるから行く」ということは考えにくい。
 その地域がいかに活性化に努め、子どもを産み育てる環境に最適であるかということ、また「その高校で何が学べるか」ということに主眼を置いた取り組みを官民で考えるべきだろう。
 改訂案に明記された全国からの募集検討は、実際に導入する場合は本県と他県の生徒の切磋琢磨(せっさたくま)による成長などが期待できそうだ。そのためには生徒を呼び込むため、本県の教育環境がいかに優れているか、本県の高校で学ぶ利点は何かを明確化し、取り組んでほしい。

∆ページの先頭へ

コロナとうがい薬「推奨にはまだ課題も多い」

2020/8/7 金曜日

 

 吉村洋文大阪府知事と松井一郎大阪市長は4日の記者会見で、新型コロナウイルスの患者が殺菌消毒効果を持つ成分「ポビドンヨード」を含むうがい薬でうがいをしたところ、唾液からウイルス陽性反応の出る頻度が低下したとする研究結果を発表。特に▽発熱など風邪に似た症状のある人とその同居家族▽接待を伴う飲食店の従業員▽医療従事者や介護従事者―に向けて、うがいの励行を呼び掛けた。
 ポビドンヨードは、ムンディファーマが販売するうがい薬「イソジン」などに含まれている成分で、大阪はびきの医療センターが軽症者41人を対象に調査。記者会見の内容が報じられると、弘前市を含む全国のドラッグストアなどで、軒並み品切れとなった。同成分入りのうがい薬は医薬品に当たり無許可販売は法律で禁じられているが、インターネット上では転売も相次ぎ、オークションサイトやフリーマーケットアプリの運営元が対応に乗り出した。
 吉村氏の「ポビドンヨードによるうがい薬でコロナに打ち勝てるのではないか」といった発言の力強さも、感染に恐々としている人々に響いただろう。吉村氏はこうした事態を受け、5日の記者会見で「予防効果があるということは一切ないし、そういうことも言っていない」と釈明した。
 うがい薬自体、新型コロナのあおりで品薄傾向だったと聞く。再び店頭に並ぶまでは時間がかかりそうだ。
 同センターの研究結果は「ポビドンヨードを使うとコロナウイルスの舌の上での増殖が抑制されることが分かった」(厚生労働省)段階。厚労省は「現時点で効果があるというには時期尚早ではないか」、日本医師会は「現時点ではエビデンス(証拠)が不足している」などと冷静な対応を求めた。調査患者の少なさも指摘されている。
 現時点では、新型コロナ感染拡大の抑制に一定の効果が期待できると言えるかもしれないが、専門家は「新型コロナに効果があるかどうかは、今後の臨床研究を経て初めて認められる」として、自分の判断で使うのは慎むよう求めている。感染者が自身の陽性状態を隠す道具として悪用しないかといった懸念もある。
 医学的には「時期尚早」「証拠不足」が妥当な見解なのだろう。確かに吉村氏の姿勢は勇み足かもしれない。ただ、厚労省などの対応には、どこか当事者意識が希薄に感じられる。こうした研究は同省主導で行われても良さそうなものだ。それともこの研究自体、価値が低いと見なされているのだろうか。
 いずれにしても、この種のうがい薬を使用していることを理由に、手洗いやせきエチケット、「3密」を避けるといった通常の感染予防対策をおろそかにしてはいけないことは言うまでもない。

∆ページの先頭へ

75回目の原爆忌「被爆者、被爆地の声を世界に」

2020/8/6 木曜日

 

 米軍による世界初の原爆投下から6日で75年。被爆地・広島市の平和記念公園では市主催の「原爆死没者慰霊式・平和祈念式」(平和記念式典)が開かれ、犠牲者に祈りをささげ、平和を誓う。新型コロナウイルス対策のため参列者を減らし、合唱などを取りやめる。高校生4人の「被爆ピアノ」演奏と歌唱にとどめ、出席を予定していた国連のグテレス事務総長もビデオ映像によるあいさつに変更した。節目の式典ではあるが、大幅な規模縮小を強いられた。
 わが国は広島と長崎で掛け替えのない多くの命を失い、原爆がいかに悲惨な状況しかもたらさないものかを知る、世界で唯一の国である。あの悲劇から75年となる節目は「ヒロシマ」「ナガサキ」から平和の大切さを世界へ発信する絶好の機会である。
 国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会の専門家パネルがまとめた中間報告書は、北朝鮮が自国の弾道ミサイルに搭載できる核兵器の小型化を「恐らく」実現したと指摘、「高濃縮ウランの生産や実験用軽水炉建設の継続を含め、核計画を続けている」と分析した。日本の防衛白書も「核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っているとみられる」と同様の見方をしている。非核化への第一歩と期待を抱かせた2018年の米朝首脳会談は、北朝鮮にとっては、もはや“なかったこと”になっているのかもしれない。
 日本は「非核三原則」により核兵器は保有していない一方で、核兵器禁止条約には賛同していない。すぐ近くにある核の脅威に対する自衛手段が同盟国・米国の「核の傘」であるためだ。ただ、自衛のための必要最小限度の防衛力しか保持せず、攻撃的兵器を保有しない「平和国家」だと教育を受ける子どもたちは、条約反対や検討中の他国領域内への打撃力保持に疑問を抱くのではないだろうか。
 75年というと30年ほど前の日本人男性の平均寿命に相当する長い年月である。しかし、被爆者は今も苦しみの中にいる。先月、健康被害を受けたのに被爆者健康手帳などの交付申請が却下された広島県内の84人が、却下は違法として県と市に取り消しを求めた「黒い雨」訴訟の判決があり、広島地裁は原告全員の黒い雨による被爆を認めた。ただ、これで終結ではない。原告団・弁護団は控訴見送りを求めて今も闘っている。
 原爆忌に当たり、松井一実広島市長は平和宣言で、各国為政者に国家間の連帯と、核廃絶への取り組み継続を呼び掛ける予定。日本政府に対しては、被爆者の思いを誠実に受け止め、条約締結国になるよう求める。核兵器のない世界を創造できるのは、被爆者の苦しみを知るわが国以外にない。新型コロナで縮小とはなるが、被爆者の声や被爆地のメッセージを、特に核兵器を保有する国々にしっかり届けたい。

∆ページの先頭へ

再処理合格「サイクルの是非 議論を」

2020/8/5 水曜日

 

 日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(六ケ所村)が原子力規制委員会の安全審査に正式合格した。核燃料サイクル政策の主要施設だが、政策そのものが行き詰まっているとの指摘もある。サイクルを維持するのか、改めて議論が必要だ。
 原発で使い終わった核燃料からウランとプルトニウムを取り出し、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料などの形で核燃料に再生し、繰り返し発電に使うのがサイクル計画だ。
 当初は取り出したプルトニウムを高速増殖炉で使う計画だったが、原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が事故を起こして廃炉となり、現在は既存の原発でMOX燃料を使うプルサーマル発電に軸足を移している。
 プルサーマルはいわば“1周目”だ。しかし使い終わったMOX燃料を再処理する“2周目”は研究段階で、具体的な「第2再処理工場」の計画もない。当初のサイクル構想は崩れ去っている。
 政府は使用済み燃料の体積が再処理によって4分の1に減り、半減期も8000年まで短縮できると説明するが、使用済みMOXは再処理しなければごみであり、その有害度は再処理前の3~5倍とされる。結果的に有害度の高いごみを作るだけだとの指摘もある。
 また、海外に再処理を委託し発生したプルトニウム45・7トンも問題だ。核兵器の原料となるだけに国際監視の目は厳しい。電気事業連合会は現在4基にとどまっているプルサーマルを16~18基で行えば、保有分に加え再処理で発生する分も消費できるとしている。
 しかし原発の再稼働は進んでおらず、現在の保有分も消費できるか不透明だ。つまり再処理してプルトニウムを取り出すことは、余剰プルトニウムの保有につながる可能性が高い。
 一方、再処理工場の総工費は約14兆円。原子力発電のコストは1キロワットアワー当たり10・1円以上で、うち再処理費用は1・5円。これらは電気料金に上乗せされ国民の負担となる。
 核のごみの最終処分場も議論が進んでいない。最終処分法に基づき設立された原子力発電環境整備機構は各地での対話集会などを通じて候補地を募っているが、入り口の文献調査に名乗り出る自治体は皆無だ。安全協定では六ケ所村の高レベル放射性廃棄物の一時貯蔵施設は受け入れから30~50年で搬出することを定めており、残る時間は少ない。
 再処理工場を動かすリスクも当然ある。事業者の日本原燃はトラブルを繰り返し、原子力規制委員会からその技術的能力について厳しい指摘を受けている。一方で国内の再処理技術を維持するため稼働の必要性を訴える意見もある。
 いずれにしても今回の合格で社会の関心は高まっている。サイクル政策を維持するのか否か、議論する機会である。

∆ページの先頭へ

Page: 1 2 3 4 5 ... 183