社 説

 

“富岳”世界4冠「課題解決に生かす日本の強み」

2020/6/24 水曜日

 

 理化学研究所や富士通などが開発中のスーパーコンピューター「富岳」が、計算速度を競う四つの世界ランキングで2位に大差をつけて1位を獲得した。その一つ「TOP500」で1位になるのは、先代の「京」が2011年6、11月に記録して以来のこと。本格運用は21年度の予定だが、先行して新型コロナウイルス感染症対策研究で利用されており、高い能力を生かして早期終息に寄与するものと期待する。
 14年に開発開始した富岳は、京の100倍以上の計算能力、省電力性能向上を目標に掲げる。今回1位になったのはTOP500のほか、産業利用などのプログラムで使われる計算速度を測る「HPCG」、人工知能などで活用される計算性能を評価する「HPL―AI」、グラフ解析に関する「Graph500」。
 富岳の特徴は性能だけではない。スパコンの主流は画像処理向けの計算に特化した半導体(GPU)に移ってきたが、富岳が採用したのは既存のスマートフォン向けCPU(中央演算装置)をベースに改良したもの。GPU搭載スパコンは用途が限られ、コストも高いが、富岳は長年培われたソフトウエア技術を活用できるなど使い勝手に優れるという。理研担当者は前者を高性能だが運転は難しく荷物も詰めない「スーパーカー」、富岳は運転が容易な「普通のセダン」と表現した。実に分かりやすい説明だ。
 民主党政権下の事業仕分けで「2位じゃ駄目なのか」と指摘されたこともあった京だが、台風の発達やゲリラ豪雨の発生を予測するなど多くの実績を残し、医薬品開発にも活用された。富岳は「1位を取ろうと作ったマシンではない」(開発責任者の松岡聡・理研計算科学研究センター長)。目指したのは国民の関心が高い課題の解決に寄与する性能だった。
 目標達成への挑戦が「輝かしい成果」(松本紘・理研理事長)につながった。しかも今回は、搭載した16万個ほどのCPUのうち、使用されたのは約95・6%。理研はソフトウエアの調整などで、さらに性能が向上する可能性があるとしており、本格運用が楽しみになる。
 今後ナノテクノロジーや防災、創薬、エネルギーなど多岐にわたる最先端研究に活用される見通し。特に新型コロナをはじめとする新たな感染症や近年多発する豪雨、地震といった自然災害対策は、国民の命や生活を脅かす喫緊の課題。喜ぶべきは「世界ランク1位」の“称号”ではなく、幅広い分野からの要求に世界トップの性能で応えたことである。
 23日の会見で富士通の時田隆仁社長は「日本の技術力、物作りの強さを示すことができた」と述べた。資源の乏しい日本が経済大国に成長した背景にあるのが、世界に誇る技術力や応用力。富岳開発の根底にある日本の強みは、世界のスパコン開発競争に一石を投じそうだ。

∆ページの先頭へ

南北連絡事務所爆破「北朝鮮の自制を強く求める」

2020/6/23 火曜日

 

 北朝鮮が、韓国との南北交流事業の象徴である開城工業団地内の南北共同連絡事務所を爆破した。今月に入り、北朝鮮は韓国の脱北者団体が金正恩朝鮮労働党委員長を批判するビラを散布したことに強く反発しており、連絡事務所爆破は南北間の通信線遮断に続く対抗措置の一環とされる。今回の爆破により、北朝鮮の対決姿勢が一層鮮明になり、韓国の文在寅大統領が進める南北融和は大きく後退し、東アジア情勢の不透明感が増している。
 一連の対抗措置は、市民団体の行った活動に対するものとしては、過剰・過敏な対応に思える。その背景には、北朝鮮の非核化をめぐる米朝対話が、米朝双方の思惑の違いにより、暗礁に乗り上げ、国際社会の制裁が長期化していることが挙げられる。また、新型コロナウイルスの影響で、北朝鮮とは経済的にも大きなつながりのある中国との国境が封鎖されるなどしたため、北朝鮮経済が苦境に陥りつつあるとみられていることも要因の一つにあるのではないか。
 北朝鮮は韓国を「敵」と表現して対決姿勢を再び強めることで、国内の緊張を高め、体制引き締めを図る狙いがあると考えられる。また韓国にプレッシャーを与え、米国への働き掛けを強めることで国際社会による経済制裁の緩和、解除を狙っている側面もあるだろう。
 北朝鮮軍は、南北協力事業の金剛山観光や開城工業団地がある地域への軍部隊展開や、南北軍事境界線付近での軍事訓練再開などを計画していると明らかにしている。南北共同連絡事務所の爆破に続けて、さらにこうした行動をエスカレートさせれば、韓国軍との軍事的緊張が一層高まることになる。
 北朝鮮の今回の対抗措置は、歴史的会談と言われた南北首脳会談や米朝首脳会談に象徴される、朝鮮半島における外交的解決への努力を無に帰させる、時代に逆行する行為だ。対話路線、南北融和路線の象徴である共同連絡事務所の爆破などという軍事力を背景にした挑発的な対抗措置は、いたずらに域内の状況を不安定化させ、緊張を高めるもので、国際社会からも強い非難を受けている。不測の事態を呼び起こしかねない行動は厳に慎むべきだ。
 北朝鮮は、今回の挑発行動で米国を交渉のテーブルに着かせ、何らかの譲歩を引き出す狙いがあるのかもしれない。だが米国は今、大統領選の真っただ中にあり、デリケートな時期にある。こうした時勢で“砲艦外交”のような手段で自己の主張を遂げようとしても、かえって状況の混乱を招きかねないのではないか。
 北朝鮮が国際社会からの経済制裁解除を望むならば、行うべきは国際社会が求める核開発や長距離弾道ミサイル計画の廃棄に向けた具体的行動に帰結する。改めて挑発的な行動の自制を求めたい。

∆ページの先頭へ

都知事選告示「新型コロナ対策と五輪争点」

2020/6/20 土曜日

 

 任期満了に伴う東京都知事選が18日告示された。都内では連日、数十人の感染が確認されている新型コロナウイルス対策や、2021年夏に延期された五輪の在り方が主な争点。首都のかじ取り役を選ぶ大切な選挙だが、感染防止に配慮した異例の選挙戦でもあり、来月5日の投開票結果が注目される。
 再選を目指す現職の小池百合子氏。1期目を振り返れば、16年の就任から持ち前の発信力を武器に「小池流」の政治スタイルを確立。対立軸を生み出す手法で時に国政に影響を与え、新型コロナの対応では国に先んじる姿勢を見せて、注目を浴びた。
 就任直後には「安全性に懸念がある」として豊洲市場の築地市場からの移転延期を表明、移転を決めた石原慎太郎元知事への批判を展開して注目を集めた。17年の都議選では地域政党「都民ファーストの会」を率いて自民党都連との対立を演出、圧勝した。五輪の経費をめぐっては、元首相の森喜朗大会組織委員長との対立もニュースになった。
 一方、公約の「七つのゼロ」で達成できたのはペット殺処分ゼロだけ。大騒ぎした豊洲市場には遅れて移転した上、築地市場跡地の再開発構想が二転三転するなど、特筆すべき実績は見当たらない。
 新型コロナで久しぶりに存在感を発揮したものの、当初の対応は鈍かった。国内感染が広がり始めた2月に入っても東京五輪の開催と成功に強い意欲を見せていた。
 ところが3月24日に五輪延期が決まった直後から、新型コロナ対応に活路を見いだしたかのように、精力的にメディアに露出する。政府の緊急事態宣言が遅いと嘆き、休業要請の対象事業をめぐる政府との調整では「天の声が…」などと恨み節を披露、再び世間の注目を集めた。
 ただ、都独自に感染拡大への警戒を呼び掛ける「東京アラート」は、新たな感染者が数十人も確認されながら出馬表明前日に解除され、休業要請も全面解除された。これには「選挙ありきの警報か」「レインボーブリッジを赤く照らしたかっただけか」などと批判も相次いだ。
 英語を交えたワンフレーズを乱発する“小池節”をめぐっては、「都市封鎖、いわゆるロックダウン」のように、都民の危機意識を飛躍的に高めたと称されるものもあるが、「アラート(警報)」など何を意味するのか不明なものもあり、評価は分かれる。
 いずれにしても感染終息が見通せない中、選挙戦ではコロナ対策の強化・拡充が争点になる。各陣営は感染対策として有権者との握手を避けたり、屋内の大規模集会を控えたりする。
 かつてない静かな選挙戦は、一般有権者の関心を高めることができるのだろうか。投票率の行方とともに、都民の判断が注目される。

∆ページの先頭へ

河井前法相夫妻逮捕「政権の求心力低下は必至」

2020/6/19 金曜日

 

 昨年7月の参院選で地元県議らに現金を渡し、票の取りまとめを依頼したなどとして、検察当局は18日、公選法違反(買収)容疑で、衆院議員で前法相の河井克行容疑者(57)=広島3区=と、妻で参院議員の案里容疑者(46)=広島選挙区=を逮捕した。ウグイス嬢と呼ばれる車上運動員に対する違法報酬疑惑に端を発した一連の問題は、法務行政トップを務めた現職国会議員夫婦が逮捕されるという異例の事態に発展した。
 河井容疑者は、首相補佐官や党総裁外交特別補佐を歴任し、昨年9月に初入閣したが、直後の同10月、案里容疑者陣営の選挙違反疑惑が報じられ、法相を辞任した。2人は今月17日に自民党を離党したが、今回の逮捕により政権の求心力低下は避けられそうにない。
 河井容疑者の逮捕容疑は、案里容疑者が初当選した2019年7月投開票の参院選をめぐり、同3月下旬から8月上旬、計94人に案里容疑者への投票や票の取りまとめを依頼。報酬として計121回にわたり総額約2570万円を提供した疑い。案里容疑者は、このうち5人に対する計170万円について、河井容疑者と共謀した疑い。
 検察当局は、河井容疑者の関係先から、配布先をまとめた「買収リスト」を押収。リストの記載内容や、事情聴取に現金受領を認めた地元議員らの供述を精査するなどした結果、買収の意図を認定できると判断したとみられる。
 昨夏の参院選広島選挙区(2人区)は、自民党と野党が議席を分け合ってきた従来の選挙戦とは様相を異にし、案里容疑者は同じ自民党の重鎮を押しのけて議員の座に就いた。激烈な争いが「実弾」攻勢につながった可能性があるとみられている。自民党が新人の案里氏擁立にかじを切った背景には安倍晋三首相と現職候補の不仲があったともされる。それを裏付けるように選挙資金をめぐる格差は如実で、両容疑者の政党支部には党本部から「相場の10倍」と言われる計1億5000万円が送金されており、党内からも疑問視する声が上がっている。
 昨年12月には、統合型リゾート(IR)汚職事件で衆院議員の秋元司被告=自民離党=が逮捕されたばかり。新型コロナウイルス対策の持続化給付金などをめぐる数々の疑惑が持ち越されたまま通常国会が17日に閉幕し、政権の立て直しに全力を挙げる安倍首相だが、河井容疑者らの逮捕は今後の政権運営に大きな打撃を与えることは間違いない。
 首相主催の「桜を見る会」など長期政権ゆえの「おごり」とも指摘される問題が後を絶たない中で、またしても発生した「政治とカネ」の問題。国民の政治不信を助長させた責任は大きい。事件の真相解明はもちろんのこと、失墜した政治への信頼回復に向け、政治家一人ひとりがいま一度、襟を正す必要があろう。

∆ページの先頭へ

地元旅「気付かない魅力に気付く好機」

2020/6/18 木曜日

 

 新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除され、移動の自粛要請が緩和される中、観光再開の動きが県内でも見え始めた。その中で、地元に目を向けた「マイクロツーリズム(小さな旅行)」などが注目されている。経済を回す一方策として大いに歓迎したい。
 緊急事態宣言が全国で解除されたとはいえ、各地では連日新たな感染者が確認されている。遠距離の移動には慎重にならざるを得ない―というのが大半の人の受け止めではないか。ただ、新型コロナの感染拡大による経済への打撃は相当なもので、回復に向けて少しでも早く動き出したい―というのも大半の人の思いではないか。
 このような状況下、注目されている考え方の一つがマイクロツーリズムだ。弘前市内でも弘前観光コンベンション協会が、しばらく中止していた「まちあるき」などを順次再開。先日、大規模補修工事を終えた旧弘前偕行社などを巡るツアーを行ったところ、近隣の住民らが参加した。
 参加者の中にはサイクルツーリズムに携わっている人もおり、今回のツアーを通じて身近な名所など観光資源の価値を再確認し、地元の観光推進に決意を新たにしていたようだ。「地元を見直そう」といった呼び掛けはこれまでもかなり行われてきたが、コロナ禍によって広範囲の移動にリスクが伴うようになると、その重要性が増したように思われる。
 マイクロツーリズムについては経済関係者だけでなく、各自治体の関係者も注目している。弘前市など津軽広域8市町村の首長は先日、テレビ会議を開き、地元の観光振興などをめぐって意見交換した。その議論の中でも、マイクロツーリズム推進の必要性が訴えられ、8市町村の宿泊・観光施設を活用するプランを設定することになった。
 「リゾート再生請負人」と言われる星野リゾートの星野佳路代表も、マイクロツーリズムの重要性に触れている。自粛緩和などに伴って、最初に需要が戻るのは自家用車で行くことができる近場の旅行だと指摘し、1時間圏内の人に楽しんでもらうマイクロツーリズムに注力すべきだと提言する。
 その上で、マイクロツーリズムを「地域の魅力を再発見する機会」と強調。より良い観光の在り方を地元の人と一緒に模索できる環境が整えば、コロナ禍以前より強い観光地を生むことができると訴えている。
 観光地として一層の発展を望むのであれば、地元の住民が地元の価値を深く認識することは不可欠。ただ、そのような機運を十分に醸成してきたかどうか、いま一度考えてみる必要はあるのではないか。今を「気付かない魅力に気付く好機」と捉え、「地元旅」を大いに楽しんでみてはどうだろうか。

∆ページの先頭へ

Page: 1 ... 3 4 5 6 7 8 9 10 11 ... 182