社 説

 

津軽のわらべ歌「記録を残す活動の継続を」

2020/2/12 水曜日

 

 弘前観光コンベンション協会が新年度用に「津軽のわらべうたカレンダー」を制作した。津軽の人々の記憶から薄れつつあるわらべ歌の歌詞を、改めて文字で記すと同時に、掲載したQRコードを読み取ることで実際の歌の一部を広く試聴できる仕組みとし、音声でも残したのは意義深いのではないだろうか。
 識字率が低かった時代、これらの歌は文字ではなく人から人へ、語りによって伝えられた。このため明確には意味の分からない単語が存在したり、地域によって歌詞が変容していったりしたことがあった。時代とともに存在があやふやになるわらべ歌は、途絶えてしまうとそれきりになってしまう可能性が高い。
 わらべ歌は単なる言葉遊びのようでありながら、昔の風習や生活の知恵が織り込まれていることがある。カレンダーの掲載歌「正月正月てえーもんだ/月より丸い餅食って/雪より白い飯食って/木のコッパ(皮)だけんだ魚食って/正月正月てえーもんだ」は、庶民が正月以外に白米を食べられなかった時代があったことを伝えている。
 また別の掲載歌「つぶやつぶや豆つぶや/しょうゆで煮付けてあがりゃんせ」は、田を起こす時期、田の周辺で見られるタニシを子どもたちが集め、食していることを面白おかしく歌っている。
 昔の女性たちの様子を歌ったものも興味深い。「(中略)よめごのはらさ/えぼどこでだきゃ/かいともいわず/いでともいわず/ただなくばかり」は、腹部に腫れ物ができても嫁ぎ先に遠慮して何も言えない「嫁」を歌っており、子どもたちは薬売りがくれる紙風船を飛ばしながら、この歌を歌って遊んだという。
 わらべ歌は忙しい父母に代わって家の留守を守る祖母が、孫に教えることが多かったとされる。それゆえ、わらべ歌は子どもたちの遊び歌であると同時に、津軽の女性たちの心情を伝える生活の歌でもあったかもしれない。わらべ歌を生活史の一部と捉えると、記録を残す重要性が浮かび上がってくる。
 カレンダー完成後、掲載歌を懐かしんで手に取る年配層がいた一方、ほとんどの掲載歌を知らない世代も少なくない。実際の歌を誰でも気軽に聴くことを可能とした今回の仕組みは、インターネット交流サイト(SNS)が一般的になった今だからこそできた、ユニークな記録の残し方ではないだろうか。試聴用のわらべ歌を歌ったのは、津軽地域の50~80代の会員による「津軽かたりべの会」だが、歌える世代の減少も懸念される。
 津軽のわらべ歌の一部は文字記録で残されて、音階も採譜されているが、すべては網羅されていない。わらべ歌を音で残し、気軽に聴けるものにした今回の取り組みを、さらに拡大することはできないだろうか。関係者の今後の取り組みに期待したい。

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トランプ氏無罪評決「疑惑解明に程遠い幕引き」

2020/2/8 土曜日

 トランプ米大統領のウクライナ疑惑をめぐる弾劾裁判は、「権力乱用」「議会妨害」の2件とも、与党の共和党が多数を占める上院で無罪評決が下され、トランプ氏は罷免を免れた。
 「権力乱用」は、トランプ氏が政敵であるバイデン前副大統領に打撃を与える個人的な政治的利益のため、大統領の地位を利用してウクライナ政府に圧力をかけたとする疑惑。「議会妨害」は、疑惑に関する下院の調査に協力しないよう、トランプ氏が当局者や元当局者に指示した疑いだ。
 弾劾の訴追手続きは、下院が可否を決し、訴追された場合は上院が弾劾裁判を開く。政党や政治家が関わる裁判である以上、ある程度、政治的思惑が絡みながら推移するのは仕方ない。とりわけ今回は今年11月の大統領選を控え、共和・民主両党が互いに非難を繰り広げた。
 しかし、疑惑は解明されることなく幕引きが図られた感は否めない。ボルトン前大統領補佐官が出版予定の著書で、ウクライナ政府に政治目的で圧力をかけたことを暴露すると報じられたが、同氏の招致と証人尋問は共和党の反対で認められなかった。
 トランプ氏側や共和党は疑惑と弾劾について「でっち上げ」「魔女狩り」と繰り返し、裁判では「大統領は何も間違ったことをしていない」と無罪を主張した。適切なプロセスと審議を経なければ、でっち上げかどうかを判断できるだろうか。議会の在り方として、こうした姿勢でいいのか、はなはだ疑問だ。
 ホワイトハウスは、評決を受けて「大統領の嫌疑は晴れ、潔白が証明された」と声明を出したが、無理がある。トランプ政権の疑惑に関する主張「選挙で国民に審判を委ねるべき」は無罪評決後のプロセスの話であって、自らの職責を放棄したに等しい。それは上院も同じそしりを免れまい。
 民主党も、トランプ氏弾劾に向けた支持を期待ほど広げられなかったようだ。無罪評決が確実視されていたため、当初から盛り上がりに欠けていたのかもしれない。上院共和党で造反したのは、トランプ氏と対立関係にある1人だけで、罷免に必要な票数には達しなかった。一般市民は政争臭が強過ぎて鼻白んでしまったのだろうか。
 今回の評決が、米政界の分断の深刻さを改めて象徴したとの指摘は多い。意に沿わなければ盛んに攻撃し、対立と差別をあおるトランプ氏の政治手法をも反映しているように感じられる。この手法が、弾劾裁判での共和党議員の造反阻止につながったのだろうが。
 無罪評決は、数の力と強権で得たようなものだ。トランプ氏がこの姿勢を今後も押し通すならば、国内外で新たな分断と対立を招くことにつながるのではないかと心配だ。

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犯罪情勢統計「犯罪抑止に向け不断の努力を」

2020/2/7 金曜日

 警察庁が6日に公表した、昨年1年間の犯罪情勢統計(暫定値)によると、全国の警察が把握(認知)した刑法犯は前年比8・4%減の74万8623件となり、5年連続で戦後最少を更新したことが分かった。一方、虐待の疑いで児童相談所(児相)に通告した子どもの数や、コンピューターネットワーク上で行われる、いわゆる「サイバー犯罪」の摘発件数は過去最高となった。
 同庁のまとめによると、刑法犯全体の件数は、自治体やボランティアによる防犯活動や防犯カメラの普及などを背景に窃盗事件が減ったことなどから、17年連続で減少している。特殊詐欺の被害件数は前年比5・6%減の1万6836件だったが、電話で資産状況を調べた上で家に押し入る「アポ電強盗」の発生など深刻な状況が見られた。
 一方、児相に通告した18歳未満の子どもは前年比21・9%増の9万7842人となった。このうち、言葉による脅しや無視、目の前で家族に暴力を振るうといった「心理的虐待」が7万441人で約7割を占めた。このほか「身体的虐待」が1万8219人、「育児放棄」が8920人という。前年からの増加分21・9%は実数にして1万7500件余の増であり、2009年以降年々増加傾向にある。サイバー犯罪の摘発件数は前年比5・6%増の9542件。インターネット交流サイト(SNS)を通じて犯罪の被害に遭った子どもは2095人にも及んでいる。
 刑法犯認知件数の減少は歓迎すべきこととはいえ、70万件以上という数字を考えれば、今後も抑止に向けた不断の努力がまだまだ必要だ。暴力や窃盗、強盗といった他人の身体・生命を脅かしたり、財産を奪ったりする行為は1件であっても、被害者当人としてみれば心身に相当なダメージを受ける大きな問題であり、前述のような防犯活動や防犯カメラ普及など犯罪が起きにくい環境づくりを官民一体となって、さらに進める必要があると考える。
 さらに、閉鎖的な空間で行われることが多い子どもへの虐待とサイバー犯罪は認知、摘発するまでに時間を要するケースも多く、その増加は懸念すべきことと考えるべきだろう。警察庁が「予断を許さない状況」と分析するのもうなずける。こうした犯罪の増加には、現在の社会情勢や家庭環境の在り方、情報伝達手段の高度化などさまざまな背景が考えられる。
 報道を見る限り、わが子や交際相手の子どもへの暴力、食事を与えずに餓死させる、アポ電強盗の末に相手を死亡させるといった悲惨なニュースも散見される。刑法犯全体の認知件数が減少する中で、過去にはほぼあり得なかったこうした犯罪に対しても、効果的な抑止策を望みたい。

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やさしい日本語「幅広い分野で有効活用を」

2020/2/6 木曜日

 「余震」は「後から来る地震」、「津波」は「とても高い波」―。これらは災害時の多言語対応として大きな役割が期待される「やさしい日本語」の一例だ。
 訪日外国人客が増加傾向にある中で、最近では全国的に活用の場が広がっているが、全国に先駆けて研究に着手したのは弘前大学社会言語学研究室(佐藤和之教授)だ。
 きっかけは1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災。被災地では当時、日本人以外に外国人も多く、被災者が日本語や英語を十分に理解できずに避難や救援の情報を得られないというケースが目立った。突然の災害時には、瞬時の判断が生死を分ける。その鍵を握るのは、災害や避難の情報を正しく的確に理解できるかどうかである。震災の経験に基づき、外国人を支援するための語彙(ごい)や表現方法を研究し、その後発生した東日本大震災などの経験も踏まえながら「やさしい日本語」の充実を図ってきた。
 当初は認知度が低かったものの、最近では全国の自治体で活用が進んでいる。東京五輪開幕に向け消防庁が策定した「外国人来訪者や障害者等が利用する施設における災害情報の伝達及び避難誘導に関するガイドライン」にも、避難誘導などの表現として「やさしい日本語」の活用が盛り込まれるまでに至った成果は大きい。
 阪神・淡路大震災から25年を迎えた今年、研究の第一人者である佐藤教授が3月末で退官となることから、「やさしい日本語」の活用事例を発信してきた研究室のホームページが1月17日で閉鎖された。弘前大から全国に発信し続けてきただけに、閉鎖は非常に残念なことだが、佐藤教授は「今後は地域に委ねたい」と話している。
 相次ぐ災害の教訓を生かし、長い時間をかけて蓄積してきた研究成果を社会の中でどう有効に活用していくかは、われわれに託された課題だ。
 研究室のホームページは各地で災害が発生するたびにアクセスが殺到していたという。それは需要が増していることの裏付けでもあろう。外国人のみならず、子どもや高齢者ら災害弱者にとっても有効な手段であるだけに、活用は「言葉を通じたノーマライゼーション」(佐藤教授)を実現するものだ。
 本県を含め全国的に外国人労働者数も増加傾向にある中で、災害時のみならず、さまざまな緊急事態発生時にその役割は一層増すことだろう。まずは弘前大を抱える弘前市や本県において、日常的に活用されるよう、より積極的に導入していきたいものだ。
 度重なる災害を教訓に進化し続けてきた弘前発の「やさしい日本語」が今後、幅広い分野で有効活用され、地域の防災・減災と安心安全なまちづくりに役立つことを期待したい。

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遺跡ボランティア「縄文の価値伝える重要な存在」

2020/2/5 水曜日

 

 世界文化遺産登録を目指す「北海道・北東北の縄文遺跡群」について、政府がパリの国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦書を提出した。ユネスコの諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)が今年秋に現地を調査し、登録の可否を勧告する。登録実現に向けて今年はまさに正念場だ。
 登録の可否を判断する上で遺構の保存状態などはもちろん重要な要素となるが、同時に重視されるのが「地域社会との関わり」。この点については、登録を目指した取り組みで中心的役割を果たしている岡田康博・県世界文化遺産登録推進室長も強調する。
 岡田氏によると、縄文遺跡群と地域社会との関わりは密接な状態にあるといっていいようだ。遺跡群を構成する本県など4道県の全17遺跡で、遺跡の保存・活用を支援する民間団体が発足しているほか、各遺跡で清掃活動といったボランティアが遺産登録を目指す前から行われている。
 地域社会との関わりがなぜ審査で重視されるのだろうか。例えば、今を生きる人たちが遺跡を大切にしているということが、遺跡が時を経ても価値や魅力を持ち続けていることを示しているから―と考えてみるのはどうか。価値や魅力があるから、地域の人は遺跡を誇らしく思い、その存在を地域振興などに生かそうとも思うのではないか。
 幸い、縄文遺跡群の保存・活用を支援する人たちは数多くいる。各遺跡を広く知ってもらおうと活動する遺跡ボランティアはその代表だ。彼らのこれまでの活動をしっかりイコモスに説明することが、登録の可否を判断してもらう上で一つのカギになるはずだ。
 縄文遺跡群の中心的な遺跡である三内丸山遺跡(青森市)でボランティアガイドなどを行う三内丸山応援隊は今年、発足から25年を迎える。これまでに組織は一般社団法人化され、100人弱がボランティアとして活動している。
 ガイドとして活動する女性の言葉が印象深い。女性いわく「(三内丸山遺跡は)自分の体の一部というくらい身近な存在」。遺跡への理解が深くなければ、こう言い切ることはできないはずだ。縄文遺跡群は採集、漁労、狩猟による定住を成し遂げたことが特色で、農耕以前における生活の在り方や精神文化を顕著に示す物証とされる。応援隊のメンバーはこれらの価値をよく理解し、広く伝えようと日々活動しているのだろう。
 他遺跡の保存・活用を支援する団体も地元住民に遺跡の価値を理解してもらう活動の充実を推し進める。遺跡自体はもちろん大切だが、遺跡を介して伝えられた文化の価値を地域社会がさらに後世に伝えることも大切だ。その意味で遺跡ボランティアは極めて重要な存在となっている。さらなる活躍を期待したい。

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