社 説

 

地下神殿「公共投資に“効果”の裏付けを」

2020/2/19 水曜日

 

 「地下神殿」と呼ばれる巨大な調圧水槽がある首都圏外郭放水路(埼玉県春日部市)を訪れる機会があった。総工費2300億円を投じた世界最大級の地下水路だが、部分運用期間を含む実動18年での治水効果が1484億円と試算されている。多額の事業費を伴う公共投資は、とかく必要性が疑問視される。放水路を先例とし、今後は具体的なデータに基づいて効果を試算し、それを裏付けに整備を進めるべきではないだろうか。
 放水路は埼玉県西部の中川、綾瀬川など中小河川の氾濫防止を目的に、河川ごとに整備された五つの立て坑と、それぞれを地下50メートルでつなぐ総延長6・3キロのトンネル、江戸川へ水を排出するための排水機場などで構成される。1993年に着工し2006年に完成した。
 各立て坑は深さ70メートル、内径30メートルで、自由の女神がすっぽり入る大きさ。一定水位を超えて川から流れ込んだ水は、各立て坑をつなぐトンネルを通って排水機場の調圧水槽にたどりつく。
 この水槽が「地下神殿」と呼ばれ、メディアにも数多く登場する人気スポットになっている。
 地下22メートルに位置し、長さ177メートル、幅78メートル、高さ18メートルという巨大空間にはトンネルを通って流れ込む水の勢いを弱め、排水をスムーズに行う役目がある。空気を満たした調圧水槽が地下水の影響で浮き上がらないよう、59本の巨大な柱と天井が重しとなって抑え込んでいる。
 調圧水槽で滞留した水は4機のスクリューで江戸川へ排水される。湾曲し川幅の広い江戸川の水位の上昇と各中小河川の増水には時間差が生じるため、江戸川の水位が上がる前に排水を終える仕組みだ。
 15年の関東・東北豪雨では、流れ込んだ東京ドーム15杯分の水が放水路を通じて江戸川に排出された。昨年9月の台風19号でもドーム9杯分の水を排出、埼玉県内で水害が相次いだのに対し、流域の被害を軽減した。
 放水路を管理する国土交通省関東整備局では、未整備時の被害戸数との比較などから15年の水害防止効果を373億円、台風19号で264億円と試算。実動18年では1484億円に達する。
 また、今回参加した見学ツアーは、国交省などが民間の旅行会社と連携し、既存のインフラなどを地域の観光資源として活用する「インフラツーリズム」のモデルケースになっている。
 週末だったこともあり、ツアーには親子連れなど多くの人が参加した。所要時間に応じてトンネルを歩いたり、100段以上の階段を下りて地下神殿を見学したりするコースなどが選べ、どのコースも人気を集めているという。
 副産物とも言える効果だが、放水路を先進例として、効果に裏付けられた防災インフラを計画的に整備したい。

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であい授業「共生社会に向けたアプローチ」

2020/2/18 火曜日

 障害のあるアーティストを講師に迎え、表現することの楽しさと障害者の生き方を共有・理解するワークショップ(WS)「であい授業プロジェクト」を県内中学校などで実施できないか、県内の教員有志らで構成するアウトプット展実行委員会が可能性を探っている。
 実行委は2015年と18年、県内障害者の造形作品を美術展形式で一般市民に紹介し、想像力や表現力の豊かさに障害の有無は関係がないことを示してきた。であい授業は障害者自身が生活圏の外の世界に踏み出す試みでもあり、実現すれば実行委の活動が新たな段階を迎えることになる。
 県内では、障害の有無を問わず子どもが同じ環境で教育を受けるインクルーシブ教育のシステム構築に関する研修会などが開かれ、一部分野では国の委託事業も進められている。障害者を理解するところから始まるであい授業は、インクルーシブ教育が目指す共生社会の実現につながる取り組みとも言えよう。
 15日には青森市の青森公立大学国際芸術センター青森で、市内3中学校の生徒16人を含む教育・福祉関係者ら約40人が参加したWSが行われた。実行委は学校現場での本格実施に向けた第一歩と位置付けている。
 WSは作品制作に先立ち、講師を務めた平野友愛さん(弘前市)の制作や日常に関する映像紹介で始まった。最初に平野さん自身のことを知ってもらう趣旨だろう。続いて、平野さんが描いた下絵の各小片を参加者が思い思いに彩色し、最後に平野さんが小片を張り合わせて一つの平面作品に仕上げた。平野さんが自席で色付けする様子は、モニター画像を通じて参加者が共有。参加者それぞれの個性が平野さんによっていかに一つの作品にまとめられるか、そのわくわく感も平野さんと共有された。
 であい授業は、るんびにい美術館(岩手県花巻市)が16年から取り組んでいて、これまで同県内の中学校などで計40回実施されている。今回のプログラムは、同美術館の手法を参考に構成された。秋田県からも参加があり、注目度の高さがうかがわれる。
 同美術館は、障害者の美術作品を展示するだけでなく、障害者らが制作するアトリエ、カフェなども備える。運営方針に掲げるキーワードは「ボーダーレス」(境界がないこと)。障害者による美術を「アール・ブリュット」「アウトサイダー・アート」といった言葉で区別していたこれまでとは異なる。
 であい授業は、障害の有無による境界を取り除き、新たな気付きを与えてくれるきっかけとなりそうだ。同時に、出会い自体が持つ力の大きさにも気付かされる。こうした取り組みが長く続けられれば、児童・生徒と社会の意識は少しずつでも変わるかもしれない。

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聖火リレー「五輪へ、熱い気持ちをつなごう」

2020/2/15 土曜日

 

 2020年最大の催しは何といっても東京五輪・パラリンピックだろう。夏の五輪の国内開催は1964年以来56年ぶり。2月までに各都道府県で行われる聖火リレーの詳細が発表になり、春からの本番に向けた期待が高まってきている。
 聖火リレーとその関連行事は市町村で行われることもあり、五輪を身近に感じられるイベントの一つ。本県での聖火リレーは6月11、12の2日間。14市町村を通過するが、県内のスタート地点になるのが弘前市の弘前城本丸だ。聖火ランナーを務める同市出身で、北京五輪では女子ソフトボール日本代表監督を務めた齋藤春香さんも市民にはおなじみ。本県でのスタートを、市民総出で大いに盛り上げたい。
 ほかにも平川市や黒石市、つがる市、五所川原市など津軽地方では8市町村で聖火リレーが行われ、西目屋村では五輪に3度出場した矢澤一輝さんがカヌーを使って岩木川で聖火を運ぶなど、見どころ満載。各市町村では聖火リレーの開始や到着時に式典を開催、リレーが行われる2日間の最終到着地となる青森市と八戸市では大会組織委による2000~3000人規模の大規模な式典が行われる予定で、こうした関連行事に参加するだけでも、五輪に向けて盛り上がっていく高揚感を感じることができるだろう。
 2月に詳細が発表されたパラリンピックの聖火リレーも興味深い。こちらは各地で火をおこす採火式から始まり、その炎がパラリンピックを応援しようという熱意とともに47都道府県で一つに集められる。最終的に全国から送り出された火が聖火となり、東京都でリレーされるという。採火した炎が各地の学校や障害者福祉施設などを訪れる「聖火ビジット」という催しも各地で行われる予定だ。
 本県でのパラリンピック聖火関連行事は8月16、17の2日間。県内で採火式が行われるのは弘前市など7市町村で、大森勝山遺跡や八戸市の是川石器時代遺跡など世界遺産登録を目指す縄文遺跡も選ばれ、縄文時代の火おこしで採火する場所も。県内で採火された火が集められるのも青森市の三内丸山遺跡で、六本柱付近で行われる集火は、縄文文化を県内外に広く発信できる機会になりそうだ。
 東北地方に視野を広げれば、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の3県では「復興の火」の催しがある。ギリシャで採火した聖火を聖火リレーに先立って展示し、復興に尽力する人々に見てもらおうという企画。展示場所はいずれも震災で甚大な被害を受けており、追悼と復興への思いを胸に刻む機会となるだろう。
 聖火リレーのグランドスタートは3月26日で、あと1カ月と少し。関連行事の内容に工夫を凝らし、国内各地の魅力とともに五輪を盛り上げようという熱意を広く世界に向けて発信したい。

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暖冬の雪「事故防止に細心の注意を」

2020/2/14 金曜日

 

 あまりにも極端である。北国・津軽の雪のことだ。本来なら寒さのピークとなるはずが、今月2日には弘前市で積雪ゼロを観測。暖冬少雪の長期予報通りと思っていたら1週間後は72時間降雪量が全国一となる80センチを記録。そして12、13日の日中は春の陽気―。これも地球温暖化がもたらす異常気象なのだろうか。
 今冬の少雪は、本来豪雪地帯である日本海側の各地で見られる。他県では1月に入っても営業できずに事業継続を断念したスキー場がある。先日、長野県野沢温泉村の野沢温泉スキー場で開かれた全国中学校スキー大会も、雪不足で距離リレーが中止された。
 弘前市では2日午後1時に積雪ゼロを観測。2月としては2007年2月28日以来、13年ぶりという。このまま春へと向かうかとも思えたが、8日から冬型の気圧配置が強まり、9日には大雪警報発令。積雪は80センチとなり、JR奥羽線、五能線、弘南鉄道弘南線、大鰐線で上下計36本が運休・区間運休となった。
 ようやく訪れた雪景色。弘前城雪燈籠まつり(8~11日)は、ちょうどこの降雪期間と重なり、訪れた25万人(まつり本部発表)の市民や観光客は、津軽の冬を満喫できたことだろう。雪の有無は市民生活に影響するが、祭りにとっては恵みとなったようだ。
 しかし、祭り閉幕を待ったかのように12日の県内は、最高気温が外ケ浜町蟹田の9・5度を最高に、鯵ケ沢町9・1度、弘前市8・9度―と3月中旬から4月上旬並みまで上昇。13日も弘前市で6・5度まで上がり、空から降ったのは雪ではなく雨。当然、雪解けも進んだ。
 気象庁の天気予報を見ると、津軽では16日から再び降雪がありそうだ。春の近づきを感じるものに「三寒四温」があるが、2月に入ってからの“厳冬”と“初春”の繰り返しは、この言葉の域を超えている。13日発表の東北地方週間予報(14~20日)によると、期間の初めの気温は平年よりかなり高く、以降は平年並みか高めとされている。直前にならないと精度は上がらないため、どの程度の雪になるかは分からないが、備えはしておきたい。
 大雪だと公共交通機関の乱れを考えた行動、気温が高まれば雪解けによる被害に気を付ける必要がある。特に雪崩や屋根雪の落下などは、命に関わる深刻な事態を招く。弘前市などは市内5消防署で貸し出している命綱などの利用や、2人以上での作業に加え、融雪による中小河川や用水路の氾濫にも注意するよう呼び掛けている。
 豪雪地帯の人ほど、少しでも春らしさを感じると気が緩みがちになる。しかし、まだ2月なのだ。本来なら厳冬期であることを忘れず、気を引き締めて例年とは違う、暖冬だからこその留意点を確認した上で慎重に対応したい。

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海自中東派遣「あいまいな派遣目的に懸念」

2020/2/13 木曜日

 中東海域での日本関係船舶の安全確保を目的とした海上自衛隊の護衛艦が、同海域に向け出港した。新規任務での護衛艦の海外派遣は2009年以来、11年ぶりとなる。
 今回の派遣は、イランの核開発計画をめぐって米国、イランの間に緊張、対立関係が生じる中、米国の強い求めに応じて政府が派遣を決めたものだ。ただ、日本と友好関係にあるイランを刺激しないよう、米国主導の有志連合への参加は見送る形で、日本独自の活動として派遣を決めている。
 そのため、防衛省設置法の「調査・研究」規定に基づくものであり、内容はあくまでも「情報収集」という、ある種の“あいまいさ”を内包したものだ。米国とイランの双方に配慮した結果で、新法制定を伴わないという点でも異例の海外派遣となる。
 今回は有志連合への参加を見送ったものの、バーレーンの米中央海軍司令部には連絡要員を派遣し、活動海域の治安情報を共有するなど、米軍と緊密に連携するとしている。もともと米国の求めに応じた派遣であり、もう一方の当事国であるイランが今回の日本の行動に対し、表面的には理解を示したものの、本心は穏やかならざるものが、あるであろうことは想像に難くない。
 活動期間は1年間で、延長には改めて閣議決定が必要となるが、日本も広い意味で、“イラン包囲網”の中にいる―とアピールしたい米国などは長期の活動を望むだろう。活動終了の時期について、河野太郎防衛相は「日本関係船舶の航行の安全に特段の懸念を抱く必要がない状況」と述べるのみで、具体的な見通しを示していない。活動の長期化を懸念する声も相当数ある。
 そもそも日本関係船舶の安全確保のための情報収集という任務の内容自体、不明確な点が多々ある。例えば、海自が得た不審船や海賊などの情報が連絡要員を通じて米軍に伝わり、それを元に米軍が攻撃した場合、海自も報復の対象となる危険性が包含されているのではないか。また、日本関係船舶が攻撃を受けるなど不測の事態が発生した場合は、護衛艦が自衛隊法の「海上警備行動」で保護する方針だが、武器使用などの強制力を伴う措置を判断するに際し、現場の混乱を招く懸念もあるだろう。
 中東情勢は米国によるイラン側要人の暗殺と、同国の報復攻撃で緊張が高まったが、現在は幾分、落ち着きを取り戻した感がある。今回の派遣は国会での議論も不十分との批判もある。十分な議論を経ない今回の派遣の判断は拙速ではなかったか。自衛隊の海外派遣という、慎重に慎重を重ねて判断すべきものが、既成事実の積み重ねにより、なし崩しになる恐れがある。海外派遣の在り方について、国民的な議論が必要だ。

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