ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を背景に、北米と欧州諸国で構成する集団防衛組織である北大西洋条約機構(NATO)拡大の動きが見られる。ロシアと1300キロ以上にわたり国境を接するフィンランドは大統領と首相がそろって加盟支持を宣言。隣国スウェーデンも続く見込みで、欧州全体の安全保障のありように大きな影響を与えそうだ。
NATOは2国が申請すれば加盟手続きを大幅に急ぐ構えだが、手続き完了には少なくとも数カ月を要する見通し。一方、ロシア側は軍事的手段の行使をほのめかしており、安全をいかに確保するかが課題だ。
長年中立を保ってきた2国がなぜNATO加盟へ傾くのか。それは、ウクライナを一方的な理由でじゅうりんし、住民の命を脅かしているロシア側の姿勢にあることに他ならない。他国から支援があるとはいえ、ウクライナはNATO非加盟であるために、圧倒的軍事力を持つ大国と単独で戦わなければならないことも背景にあろう。軍事力を背景にした現状変更がないという確実な保障が担保されない限り、この動きを止めることは難しい。緊張緩和に向けた取り組みが急務だ。
フィンランドのニーニスト大統領は12日、マリン首相との共同声明で、NATO加盟による国の安全強化の姿勢を打ち出し、数日中に加盟申請の決定がなされることを希望した。スウェーデンでも与党の社会民主労働党が15日に方針を発表する。
フィンランドは第2次世界大戦中に旧ソ連と戦った「冬戦争」と呼ばれる交戦の結果、国土の約1割に当たる領土の割譲を余儀なくされた。これ以降は旧ソ連やロシアを刺激しない中立的外交を保ち、欧州連合(EU)に加盟したのはソ連崩壊後の1995年と遅く、NATOは非加盟という状況だった。しかし、ウクライナにおけるロシアの暴挙を目の当たりにし、「中立路線では自衛が困難」という認識が拡大。かつて2割程度だったNATO加盟支持は、最近の世論調査で8割近くにまで達した。200年余にわたって中立を保ってきたスウェーデンでも、5~6割が加盟を支持し、与党の社会民主労働党が支持表明すれば、事実上の申請が決まる。
NATOは東西冷戦下の49年、北米と欧州の計12カ国で発足した。ソ連崩壊後は東欧の旧共産圏が相次いで加わり現在は30カ国に及ぶ。ロシア国境に近く、旧共産圏もしくは旧ソ連の一部だった国々には集中的に軍配備がなされている。ロシアにとっては、これが脅威に映り、その拡大は防ぎたいのだろう。しかし、旧ソ連や現在のロシア誕生後も続いてきた、力による周辺諸国に対する現状変更という事実がある。軍事力をもって対抗手段とする、もしくは抑止力とすることは悲しい現実だ。一刻も早く緊張が解ける日が訪れることを願いたい。