’19参院選 暮らしと争点

 

地域の農業=4

2019/7/15 月曜日

 

担い手不足など生産基盤の弱体化が懸念される中、グローバルな市場競争の加速で地域農業は守られるのか。多くの農業者が不安を抱える

 2016年の参院選では安定多数を獲得した安倍政権。しかし、農業票の比重が大きい本県を含む東北地方では与党候補が相次いで敗北した。背景には、政府が選挙前に署名した環太平洋連携協定(TPP)に対する農家の不安や不満などがあったとされる。
 TPPは18年末、米国を除く11カ国によるTPP11として発効。2月に日本とEUの経済連携協定(EPA)が発効し、今秋には日米貿易協定の交渉もヤマ場を迎える。グローバルな市場競争を推進する安倍農政に対し、津軽の基幹産業であるリンゴやコメの生産現場からは批判や地域農業の未来を懸念する声が上がっている。
 本県産が約9割とされる国産リンゴの輸出量は、近年3万トンを超えるなど堅調に推移。だが、ある農業団体の男性幹部(58)は「政府が優先するべきなのは自由貿易の推進ではなく、弱体化する生産基盤の立て直し」と主張。同団体には800戸以上のリンゴ農家が所属するが「7割は後継者がいない。担い手不足を解消しない限り日本の農業は残っていかない」と危機感を抱く。
 労働人口減と自由貿易体制の拡大が同時進行する影響について、県りんご協会の藤田光男会長(68)は「周年供給体制が維持できなくなり、そこに輸入リンゴが入ってくる。インバウンド増加に検疫態勢が追い付かず、未侵入の病害虫が入り込む可能性もある」と危惧。「国政の中で農業は蚊帳の外。自分たちで産地を守っていくしかない」と失望感をあらわにした。
 「安倍農政は大企業が良ければいいという考え。ここ数年でその影響を一番受けたのはコメ農家では」と語るのは、ある農協系団体の男性幹部(62)。稲作をめぐっては近年、約40年行われてきた生産調整(減反)や戸別所得補償制度が廃止に。資本力の高い経営体にはチャンスとなる半面、地域農業を担う家族農業経営は収入の安定が保証されず、厳しい状況に追い込まれる。
 弘前市のコメ農家男性(57)は「この十数年、所得は横ばいだが農業機械や肥料の値上がりで借金が1000万円ほどになった。もっと苦しんでいる農家も多い」と実情を吐露。家族経営のコメ農家を中心に組織する鬼楢営農組合(弘前市)の工藤信組合長(65)は「国は農業所得が増える政策をやらず、大企業や米国の方ばかり向いていると農業者は感じている」と組合員の不信感を代弁する。
 政府が15年、岩盤規制改革の目玉と位置付け断行する形となった農協改革では、全国農業協同組合中央会(JA全中)が監査・指導権を失い、一般社団法人化する。改革の一環で9月末に連合会へと組織変更する県農協中央会の阿保直延会長(69)は、政府が目指す農政の在り方について「TPPや日米貿易交渉など、ますます食料自給率が下がる方向に進んでいる。自給率が低下したら米国が売る農産物を買えばいいと言うのか。食料の安全保障は国家として自国民を守る最低限の責務だ」と疑問を呈した。

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人口減少=5

2019/7/18 木曜日

 

今年の「お田植え祭」。地域密着の取り組みが人口減少解決への糸口となればと期待が掛かる=5月25日

 本県の人口減少に歯止めが掛からない。県によると、人口は1983年をピークに減少傾向が続いており、現在も年に1万5000人ほどが減っている状況だ。
 五所川原市市浦地区の住民団体「なんでもかだるべし~うら」の柏谷祐美子代表は「後継者がどんどん出て行き、産業が成り立たない」と現状を語る。同地区も右肩下がりで人口減少が続き、今は10年前と比べて約600人減った。働き手が少ない現状が重くのしかかる。
 政府は今年度から、地方への移住者に最大300万円を支給する政策「起業支援金・移住支援金」なども打ち出している。ただ「(全国一律型では)移住者が来ても、より条件が良い他地域に流出する可能性がある」と定着への効果を疑問視する。
 とはいえ、最近は活動に成果も出てきた。5月下旬、同地区で行われた恒例の「お田植え祭」には例年の倍近い100人が参加。地域の高校生、弘前大学留学生らの姿もあった。「関係人口をつくるよう心掛けてきたからね」とイベント実行委員会の中心を務めた柏谷代表。
 「関係人口」とは移住者や観光客ではなく、イベントに顔を出すなど地域と多彩に関わる人々を指す。関係人口創出は政府が年内に策定予定の「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2020~24年度)の基本方針になっている。柏谷代表は「子どもたちが関わることで地域のことを伝えられるし、(活動が)地区外にも普及し良い流れがつくれる」と力を込める。
 その“流れ”が、今年は若年層や他地区に住む地元出身者を呼び込んだという手応えを感じている。将来的には女性が子どもを育て、仕事に復帰できる環境を整備したいと考えており、そのためには「次世代を育てることが重要地方創生はぜひ教育支援に尽力してほしい」と訴える。
 同市全体でもこの10年間で約7000人が減少した。そんな中、女性でつくる企業組合「でる・そーれ」は津軽五所川原駅前にカフェを構え、SNSを利用した情報発信、移住体験などで関係人口増加に努める。
 組合員の自主性を生かした活動が特徴とする辻悦子理事。地域資源を生かす形で、女性が社会で活動できる場をつくってきた。当初から行政の補助金にはほぼ頼らず、10年の節目を迎えた。人口減少傾向が続く中、いずれはU・Iターン者らが働ける場にしたいと将来像を描く。
 国の「地方創生」政策については「(支援金などは)数年後を見据えると有効とは思えない面もある」と指摘する。
 深刻な人口減少を「この20年の異様な出生率低下が問題の根幹」と指摘するのは首都大学東京の山下祐介教授(社会学)。国の「地方創生」と歩調を合わせる形で人口減少対策を進める自治体も多いが、「地方創生は自治体に補助金目当ての競争などを促し、中央主導を強化させてしまった」と強調。掲げられている「仕事づくり」についても、ただ仕事を増やせばいいというわけでなく、支援が合う合わないは地域によって違うと指摘する。
 対策としての関係人口増大には「県内の人口は減っているが、常に津軽と関係を持ちながら生きている人は(転出者らも含め)多くいる」とし、「全く新しく関係人口をつくる試みもあってよいが、(今ある)関係に気付き、地域に役立つものへとしていけるかが重要」と語った。

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子育て支援=6

2019/7/19 金曜日

 

幅広い子育て支援のニーズをどう反映していくかが問われている

 各党が力を入れる公約の一つが子育て支援だ。与党は今秋から実施予定の幼保無償化を成果にさらなる充実を掲げ、野党も「待機児童解消」「児童手当の増額」など、おのおの子育て世代へアピールする。その実、子育て世代・現場の求める支援は多角的で幅広い。一方で財源には限りがあり、“バラマキ”に終わることなく、年代・地域を問わず安心して子育てができる一貫した支援の在り方が求められる。
 消費税増税に合わせた幼保無償化は、住民税非課税世帯の0~2歳児やすべての3~5歳児を対象に、幼稚園や保育園、認定こども園の費用を無料にする。対象世帯は「とても助かる」「就学前は習い事も増えるのでいい」と喜ぶ一方、0~2歳児を持つ親は不満も。3人の子を持つ鶴田町の女性(30)は、上の子2人が保育園に通っており「一番上の子が対象だが小さい子は保育料が高いし逆なら助かる」と話す。田舎館村の1歳児の母親も「仕事復帰のため5カ月で保育園に預けた。小さいうちはミルク代もおむつ代もばかにならない」と対象拡大を望む。
 子育て施設の充実を望む声も多い。板柳町の女性(31)は「近くには休日や夜遅くまで預かってくれるところがない。実家まで往復1時間かけて娘を連れて行くのは大変。経済的な支援より親が子育てしながら働きやすい環境を整えることが先」と話す。県内においても待機児童、保留児童(希望する施設への入所を待つ児童)は少なくない。1児を持つ弘前市の女性(32)は「年度初めだと保育園に入りやすいことは知っていたが子どもが小さすぎた。年度途中の復帰では入れたいところには入れられない。預かってくれるならどこでもいいわけではない。親が安心して仕事に復帰できる環境であってほしい」。
 その保育現場では人材確保が最大の課題だ。県こどもみらい課によると、保育士養成施設卒業生が県外の保育所等に就職する割合は2014年度の20・6%に対し、18年度は31・7%と1割増加。また厚生労働省の社会福祉施設等調査によると、本県の新卒常勤保育士・保育教諭の離職率(17年度)は11・2%と全国平均の7・7%に比べかなり高い状態で、待機児童解消のためにも保育士確保は急務だ。
 弘前市保育研究会は今月、初めて市内保育士養成校で学生を対象に地元就職に向けたプレゼンテーションを行う。首都圏の施設はより良い条件で求人を出し、本県への“売り込み”も激しい。同研究会の藤田俊彦会長は「まずは何よりも各園の努力は必須。『保育士は忙しいものだから』ではもういけない。保育士がデスクワークに集中できる時間を確保するなどして負担を減らし、長く勤められる・勤めたいと思ってもらえる環境づくりに取り組まなければならない」と指摘。その上で課題に挙げるのは奨学金だ。「処遇改善が進み首都圏との差は少なくなってきているが、向こうの大きなところは給料に奨学金手当をつける場合も。奨学金を受けている学生が多い中にあって、親も含め就職先を選ぶ大きなポイントになっている。この点で地方にも何か支援があれば、地元に残ってもらう上でプラスになるかもしれない」と話した。

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エネルギー=7・完

2019/7/20 土曜日

 

原発立地県である本県は再生可能エネルギーのポテンシャルも高い。エネルギーと住民の暮らしが密接に関わる中、活発な議論が求められている(写真はつがる市)

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故を契機にクローズアップされた原発・エネルギー問題だが、今回の参院選では議論がなかなか聞こえてこない。しかし、有権者の間で原発に対する不安は消えておらず、エネルギーは重要な問題であり続けている。
 弘前市の会社員男性(39)は「原発事故後、再生可能エネルギーにシフトする国もある一方、日本はどちらを向いているかはっきりしない。議論を避けているのか」と不安を口にする。
 「(主要な)争点ではないとされるが、原発はあるだけで不安。福島県のようなことがないとは言い切れない」と語るのは弘前市の主婦女性(63)。「(エネルギーの将来について)活発に議論するべきだ」と呼び掛ける。
 本県で初めて市民主導型の風力発電を稼働させたNPO法人「グリーンエネルギー青森」の笹田隆志常務理事も「原発事故の教訓がまったく生かされていない。事故は風化してしまったかのようだ」と憤り、「子、孫(世代のためにエネルギー問題を)どうするのか。国政選挙の重要な争点の一つにすべきだ」と訴える。
 原発の是非が議論されると同時に再生可能エネルギーの積極的な活用が叫ばれる。本県は風力発電などのポテンシャルが高いとされ、津軽地方でも新たな動きは見られる。ただ、普及に向けて課題はないのか。
 つがる市では2020年4月の稼働を目指し、民間会社2社による計49基の大型風車の建設が進められている。このうち、グリーンパワーインベストメント(東京都)の子会社「グリーンパワーつがる合同会社」は出力合計が12万1600キロワットと国内最大級の事業を展開。メロン畑が広がる通称「メロンロード」沿いを中心に大型風車38基を建設中だ。
 49基の一部は農家の高齢化や後継者不足に伴って使われなくなった農地に建設されており、地元からは「風力なので作物に影響はないのでは。(農地を貸すことで)収入につながる人もいる」(市内のメロン農家女性)と歓迎する声も聞かれるが、一方で危惧する声もある。風車近くにメロン畑を持つ男性(52)は「風力発電には賛成だが、稼働したら騒音がどのくらいなのか。一日中(畑で)作業できるのか不安だ」と語る。
 風工学を専門とする弘前大学の本田明弘教授は、再生可能エネルギーの出力が気象によって変動する特徴を指摘しつつ、「変動を補うために何らかの安定した電力が必要。再生可能エネルギーで(電力需要を)100%賄うのは簡単ではない」とする。
 国際社会は再生可能エネルギーを増やそうという流れにあるが、エネルギー政策を実際に推し進めるには「国、県、地域のポリシーのベクトル(考え方の方向性)が合っていないといけない」と強調。改めて、エネルギー問題をめぐる議論の必要性を訴えた。

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