’19参院選 暮らしと争点

 

2019/7/12 金曜日

 

 21日投開票の参院選。本県の現状と課題、与野党公約を踏まえながら争点を探る。

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憲法改正=1

 

参院選の争点の一つである憲法改正では、自衛隊が明記されるかどうかも注目される※写真はイメージ

 自民党が参院選の公約の一つに掲げ、安倍晋三首相が強い意欲を示すのが憲法改正だ。集団的自衛権の行使を否定する従来の憲法解釈を変え、他国も武力で守れる限定的容認へと安全保障政策が転換する中、自民党は改憲の方向性として、現行の平和主義を継承しつつも自衛権の発動を妨げず、国防軍保持を明記するとしている。
 弘前市の自衛隊OB(78)は「憲法改正は必要」と断言する。「自衛隊は昔から憲法違反の存在と言われてきたが、自衛隊の任務は戦争ではなく国と国民を守ること。憲法に従って国を守れるなら、そうなってほしい」
 陸上自衛隊弘前駐屯地に近接する同市狼森町会の齊藤英蔵町会長(69)は、周囲のリンゴ農家の作業を長年ボランティアで手伝うなど、地域と交流しながら任務に励む自衛隊員を間近にし、親しみを感じてきた。
 「東日本大震災で、自衛隊はひときわ存在感を示した。時代にそぐわない憲法なら見直しは当然。自衛隊が戦争に行かずに済むよう政治家が外交することが重要では」と話す。
 津軽唯一の米軍駐留地つがる市。米軍の早期警戒レーダー「Xバンドレーダー」が2006年に国内で初配備され、航空自衛隊車力分屯基地に隣接する米陸軍車力通信所で運用されている。日米安全保障体制や自衛隊の存在を身近に感じる車力地区住民は、どのように捉えているのか。
 長年同基地の活動に協力している男性(82)は「防衛に米軍の力は必要だが、頼りっ放しなのはどうなのか。自衛権は何がどこまでできる権利なのか、議論を深める必要がある」と語気を強める。
 17年に相次いだ北朝鮮の弾道ミサイル発射時には、車力地区が標的となる不安も感じた。「だからこそ、国はしっかり国民を守る体制を整えてほしい」
 分屯基地がある同地区富萢町の男性(72)は「自衛隊員に危険な目に遭ってほしくない。周囲も現状維持が良いとの声が多い」と改憲反対の立場だ。「改憲にも一長一短があるはずだが、国がどこまで情報開示しているのか不明。最近は国への信用度が薄れている」と不安をにじませる。
 弘前市内の50代弁護士男性は改憲論議に「自衛隊に賛成、反対の議論は切り離すべき」と、そもそもの議論がかみ合っていないと指摘。改憲に対しては「端的に言えば、立憲主義の破壊につながる可能性があると懸念している」と話す。
 「憲法とは国家権力を制限するもの。自衛権の行使の限界が定められずに自衛隊だけ認めるとなれば、憲法が国家権力を制限する機能が壊されてしまう」
 憲法を専門とする弘前大学人文社会科学部の河合正雄講師も「憲法は国民ではなく国家権力を制約するもの」と強調する。「時代の変化で変えるべき部分は変えてもいいが、権力を縛る方向か、緩める方向なのかが重要」とし、自衛隊を明記した場合も制限がどちらに向かうのか考えるべき―とする。
 「自衛隊は明記されないまま合憲とされる形で、活動に歯止めがかけられてきた。現行枠で、自衛隊員が紛争に巻き込まれにくくなっているのも事実」と指摘。「憲法に明記されない自衛隊が気の毒という議論ではなく、憲法改正が実務に与え得る影響を冷静に議論すべき」とし、そこを出発点に議論を深める必要性を訴えた。

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年金の在り方=2

2019/7/13 土曜日

 

「これ以上年金が減らされたら」「自分の世代は受給できるのか」―。先の見えない年金制度に不安が募る

 年金や介護、医療など生活に直結する「社会保障制度」。老後、公的年金以外に2000万円の蓄えが必要と指摘した金融庁報告書が報じられたことをきっかけに、参院選の争点の一つとして急浮上した。先行き不透明な将来に、高齢者や現役世代の間には不安が広がっている。
 津軽地域の住宅型有料老人ホームに住む男性(70)は、東京で就職し、40歳の頃に帰郷してからは出稼ぎをして生活費を稼いだ。50代の時、無呼吸症候群との診断を受けた。ドクターストップで働くことができなくなり、生活保護を受けるようになった。65歳からは生活費を年金受給に切り替えた。
 2カ月に1度支給される老齢基礎年金、厚生年金の他、年に2度支給される企業年金を合わせると支給額は月換算で約10万円。ホームへ支払う家賃や医療費でほとんどが消えるため、赤字を免れるために食費を削る日も少なくない。服も生活保護受給以降はバザーで100円のものを購入しているという。
 男性は「年金から家賃を引かれるとほぼ残らないから、家でただ寝ているかテレビを見ているか、外出しても病院に行くくらい。健康で文化的な最低限度の生活を憲法でも謳(うた)っているのに、全然できない。最低の生活」と漏らす。
 ひざの手術で入院した際には生活保護を受けても自己負担が発生し、これでは生活できなくなると焦り、退院したことも。
 男性は「年金と生活保護は安くなり、介護保険は高くなる一方。10月には消費税増税もあり、さらに生活が厳しくなる」とため息交じりに話し「このままだと年金は削減されるばかり。これ以上減らさないで」と訴えた。
 平川市に住む看護師男性(34)は、妻と共に働きながら2人の子どもを育てている。貯金や投資などで蓄えを増やそうとしているが、「老後資金」が「2000万円」に届くかは分からないと首をかしげる。各政党が年金・社会保障について、公約を掲げるが「実現しても年金だけで生活できるほどもらえるとは思えない。生活のため、定年を過ぎても死ぬまで働くだろう」と諦めの表情を浮かべる。
 仕事で訪れる介護の現場では、施設利用者と似たような年代の高齢の職員が、生活のために働いている姿を見掛けるという。「現在の(年金)制度ですでに働かざるを得ない人たちがいる。少子高齢化が進んでいることを考えれば、私が高齢者になる頃には必須になる」と、先行きに明るさを見いだせない。
 「私たちが働いて払ったお金が、顔も知らない高齢者のために使われる。一方で、私たちが高齢者になった時、同じようにもらえるか分からない」。子どもたちが成人し、働き始めた時に同じく苦しむことにならないかと心配は絶えない。
 「自分が働いた分、自分に返ってくる仕組みにするなど、働き手の将来の不安をなくすようにしてほしい」。男性は、年金制度の抜本的な改革を求めた。

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消費増税=3

2019/7/14 日曜日

 

現在の8%から10%へ引き上げられる予定の消費税。与野党で方針は真っ二つに分かれるが、有権者の投票行動に与える影響は明確でないようだ

 今年10月に10%へと引き上げが予定される消費税。政府方針に対して野党は「凍結」「廃止」などを掲げ選挙戦を展開している。地元の有権者からは、財政の安定化を重視して増税を容認する声が聞かれる一方、与党の説明不足や軽減税率の複雑さを危惧して現政権に不信感を抱く層も見られる。一概に「増税容認イコール与党支持」ではなく、投票行動への影響は複雑化しているようだ。
 消費増税についてはデフレによる消費冷え込みが続く現状で、国内景気のさらなる減速が懸念されている。経済基盤が弱い地方においては都市部よりも影響が大きいとみられているが、与党は軽減税率の導入やプレミアム商品券発行などの緩和策を強調。野党は税の累進制強化など、消費増税に代わる税収確保を主張している。
 「嫌ではあるが増税は反対でない」と話すのは弘前市の自営業男性(40)。現在とこれからの人口減少社会での財政悪化を踏まえ「即効性を求めれば10%への引き上げはやむなしでは」と話す。しかし現政権については「カネに絡む未解決事案が多く、全体的に説明不足。与党には同意できない」と不支持の立場だ。
 「増税が必要ならばやるしかないが…」と話す同市の団体職員男性(49)も与党の説明不足を指摘。景気や生活への打撃に不安を抱く。選挙戦に増税を真っ向から掲げる与党の姿勢にも「『安倍一強』の政局が続いて主張も乱暴になってきて怖さを感じる」と危惧。同市の大学生女性(18)は「福祉の充実のためには必要」と消費増税には賛成の立場だが、重視しているという高齢化社会への対策については、与党の政策に響くものがないという。
 商業者からも消費増税を不安視する声が相次ぐ。服飾店男性(33)は「10%という数字に心理的作用がどれだけ働くか心配」と話す。「消費税は上がるものだと思っている」と容認しながらも「今はストップしてほしい」というのが本音だ。
 消費の反動減を緩和するための軽減税率導入だが、現場からの反発は強い。「分かりにくく、どう考えても大変」と嘆くのは喫茶店女性(45)。店内での飲食の他に持ち帰り商品も扱うため、複数税率の処理が求められる。消費増税自体にも反対だ。参院選自体に関心が薄かったというが「消費増税が争点になることで大事な選挙だと思う」と、投票所に足を運ぶ意志を固めたという。
 消費増税に対しては諦観している有権者が少なくない印象だ。「上がらないのが一番だが、仮に野党に政権がすげ替わっても結果は同じ」と話す食品販売店男性(31)。消費税凍結・撤廃の政策も「与党の反対を言ってるだけの話。上がってしまうのは仕方ない」とドライに見ている。「現政権には下がってもらいたいが、野党にも信頼が置けない」と前出の自営業男性。政治不信が続くゆえか、足元の経済を直撃する増税について、好転を期待する声はあまり聞かれない。

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地域の農業=4

2019/7/15 月曜日

 

担い手不足など生産基盤の弱体化が懸念される中、グローバルな市場競争の加速で地域農業は守られるのか。多くの農業者が不安を抱える

 2016年の参院選では安定多数を獲得した安倍政権。しかし、農業票の比重が大きい本県を含む東北地方では与党候補が相次いで敗北した。背景には、政府が選挙前に署名した環太平洋連携協定(TPP)に対する農家の不安や不満などがあったとされる。
 TPPは18年末、米国を除く11カ国によるTPP11として発効。2月に日本とEUの経済連携協定(EPA)が発効し、今秋には日米貿易協定の交渉もヤマ場を迎える。グローバルな市場競争を推進する安倍農政に対し、津軽の基幹産業であるリンゴやコメの生産現場からは批判や地域農業の未来を懸念する声が上がっている。
 本県産が約9割とされる国産リンゴの輸出量は、近年3万トンを超えるなど堅調に推移。だが、ある農業団体の男性幹部(58)は「政府が優先するべきなのは自由貿易の推進ではなく、弱体化する生産基盤の立て直し」と主張。同団体には800戸以上のリンゴ農家が所属するが「7割は後継者がいない。担い手不足を解消しない限り日本の農業は残っていかない」と危機感を抱く。
 労働人口減と自由貿易体制の拡大が同時進行する影響について、県りんご協会の藤田光男会長(68)は「周年供給体制が維持できなくなり、そこに輸入リンゴが入ってくる。インバウンド増加に検疫態勢が追い付かず、未侵入の病害虫が入り込む可能性もある」と危惧。「国政の中で農業は蚊帳の外。自分たちで産地を守っていくしかない」と失望感をあらわにした。
 「安倍農政は大企業が良ければいいという考え。ここ数年でその影響を一番受けたのはコメ農家では」と語るのは、ある農協系団体の男性幹部(62)。稲作をめぐっては近年、約40年行われてきた生産調整(減反)や戸別所得補償制度が廃止に。資本力の高い経営体にはチャンスとなる半面、地域農業を担う家族農業経営は収入の安定が保証されず、厳しい状況に追い込まれる。
 弘前市のコメ農家男性(57)は「この十数年、所得は横ばいだが農業機械や肥料の値上がりで借金が1000万円ほどになった。もっと苦しんでいる農家も多い」と実情を吐露。家族経営のコメ農家を中心に組織する鬼楢営農組合(弘前市)の工藤信組合長(65)は「国は農業所得が増える政策をやらず、大企業や米国の方ばかり向いていると農業者は感じている」と組合員の不信感を代弁する。
 政府が15年、岩盤規制改革の目玉と位置付け断行する形となった農協改革では、全国農業協同組合中央会(JA全中)が監査・指導権を失い、一般社団法人化する。改革の一環で9月末に連合会へと組織変更する県農協中央会の阿保直延会長(69)は、政府が目指す農政の在り方について「TPPや日米貿易交渉など、ますます食料自給率が下がる方向に進んでいる。自給率が低下したら米国が売る農産物を買えばいいと言うのか。食料の安全保障は国家として自国民を守る最低限の責務だ」と疑問を呈した。

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