医療情報ほっと

 

高齢者の脱水症のお話

2020/5/30 土曜日

 

 高齢者(ここではおおむね75歳以上の後期高齢者、65~75歳で寝たきり等一定の障害のある方)の脱水症についてお話させていただきます。
 脱水症とは体内の水不足状態で多くの方がご存じのあの脱水症です。特に高温・乾燥状態の環境では体から水分が失われ脱水状態になりやすいのですが、これとは別に種々の基礎疾患のある方、あるいは利尿剤等の薬剤に起因する脱水状態もよく知られています。
 脱水のない通常の状態で考えますと、さまざまな基礎的条件の上になんとかバランスをとって恒常性が維持されているわけですが、これに何らかの環境等の悪化要因が加わると脱水症を引き起こします。
 特に高齢者の場合、多くの服薬があったり渇中枢など生体側の機能低下があったりで、不利な要件が多く整っています。脱水症については血液検査データからの計算で高張性脱水、低張性脱水、(そのどちらでもない)等張性脱水の三つに分類することもできます。この分類はナトリウムなどの電解質等と(純粋に)水の量とのバランスで決まりますが、分かりやすく言えば水が主に足りない(高張性)、電解質等の成分が主に低下している(低張性)、両方一緒に低下している(等張性)ということになりましょうか。
 当院でのデータでは高齢者の80%ぐらいの方々は高張性脱水になっていることが多く、症状が全くない平常状態でも、高張性脱水準備状態になっている状況が推察されます。
 この場合、お茶など(電解質・糖分などを含まない)水分を補給すればいいのですが、ここでもう一つ問題があります。経口摂取されている方では、ご自分では十分水分補給はしているとお答えになる方がほとんどですが、実際のところは水分補給が不十分になっていることが多いとされています。計画的に水分補給を心掛ける必要があります。
 高齢者ならずとも昔から午前(10時)、午後(3時)に、お茶の時間を設ける習慣があります。忙しい現代社会においても大事なことと思います。
(八幡町クリニック院長 大塚勝幸)

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乳がんと遺伝4

2020/5/23 土曜日

 

 今回は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の治療について説明したいと思います。
 BRCA1あるいはBRCA2の病的変異を持つ女性における70歳時の乳がん発症リスクは49~57%(病的変異の部位によって異なり、もっと高い場合もあります)と言われています。よって、BRCA1あるいはBRCA2の病的変異が明らかとなった女性に対して、有効な予防策が講じられることは重要な課題です。
 海外では、BRCA1あるいはBRCA2の病的変異を持つ女性にホルモン剤によるリスク低減が行われることもありますが、十分なデータがなく、現時点では勧められません。
 それに対して、予防的乳房切除術は数多くの研究があり、乳がんの発症予防効果が示されています。その結果を踏まえ、昨年12月、日本での予防的乳房切除術の保険診療が認められることとなりました。しかし、すべての施設でできるわけではなく、さまざまな施設要件を満たしている必要があります。弘前大学医学部附属病院でも早期に施設要件を満たし、予防的乳房切除術が行えるようにしていきたいと思います。
 また、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の治療として、オラパリブ(リムパーザ(R))という薬があります。この薬は遺伝学的検査(BRCAnalysis(R))で、BRCA1あるいはBRCA2に病的変異が認められた再発もしくは手術不能乳がんが対象となります。
 世界的に行われた臨床試験でオラパリブの有効性が認められ、2018年7月に日本でも適応が承認されました。オラパリブは、当院でも使用可能な状態となっており、適応がある方には、まずは検査を受けていただくように説明しています。
 以上、4回にわたり「乳がんと遺伝」について説明しました。乳がんに限らず、遺伝性腫瘍の診療は始まったばかりで、今後もさまざまな進歩が期待できる分野です。弘大病院でも、世界の潮流に乗り遅れることなく、皆さまに最新の医療を提供できる体制をつくり続けていきたいと思います。
(弘前大学医学部附属病院乳腺外科診療講師 西村顕正)

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乳がんと遺伝3

2020/5/16 土曜日

 

 前回は遺伝学的検査について述べましたが、今回は検査を受ける前に考えた方がいいことをお伝えしたいと思います。
 遺伝子検査を受ける目的は、人によってさまざまです。自分にとっての検査目的、検査を受けることで得られる利益、予想される不利益など、十分に考えておくことが大切です。遺伝子の検査は誰かに勧められて受けるものではありません。遺伝子検査を受けて分かること、分からないこと、検査結果にどう対応するか、どのような影響が生じる可能性があるかなど、よく考えた上で、ご自身で受けるかどうかを決める検査です。
 例えば、遺伝子変異があると分かった場合、自分はどのように感じるのでしょうか。また遺伝子変異が見つからなかった場合、どのように感じるのでしょうか。遺伝子変異が見つかった場合、家族には伝えるのでしょうか。親戚には伝えるのでしょうか。子どもにはいつ伝えるのがいいのでしょうか。遺伝子検査を受けない場合、今後どのような対策を取ればいいのでしょうか、といったいろいろ考えるべきことがあります。
 遺伝学的検査を受ける場合には、多くの場合は事前に遺伝カウンセリングを受けていただいています。弘前大学病院乳腺外科では、まずは私たち乳腺外科医がプレカウンセリングという簡単な問診を行います。その後総合患者支援センター内にある遺伝カウンセリング部門を受診していただき、臨床遺伝専門医の先生と遺伝学的検査のカウンセリングを受けていただいています。遺伝学的検査を受けた場合は、結果に応じて再度カウンセリングを行うこともあります。
 また、検査を受けなかった場合でも、後日気持ちの変更があった場合など、再度カウンセリングを受けることも可能です。
(弘前大学医学部附属病院乳腺外科診療講師 西村顕正)

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乳がんと遺伝2

2020/5/9 土曜日

 

 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(以下、HBOC)とは、生まれつきBRCA1またはBRCA2のどちらかに病的変異を持っており、乳がんや卵巣がんになりやすいことが知られています。
 それでは、どのような時にHBOCを疑うのでしょうか。HBOCを疑う場合は、(1)若い年齢(目安は40歳未満)で乳がんと診断された方(2)トリプルネガティブ(エストロゲン、プロゲステロンのホルモン受容体とHER2というタンパクがすべて陰性)の乳がんと診断された方(3)片方の乳房に複数回乳がんを診断された方(4)男性で乳がんと診断された方―などが挙げられます。
 また、乳がんと診断された方で、血縁者に若い年齢での乳がん、卵巣がん・卵管がん・腹膜がん、男性の乳がん、悪性度の高い前立腺がん、膵臓(すいぞう)がんのいずれかの方がいる場合もHBOCを疑います。遺伝性乳がんが心配で病院を受診する場合には、血縁者にがんにかかった人がいないか、かかった人がいた場合は何のがんか、がんになった年齢などを確認するようにしましょう。
 HBOCであるかどうかは、遺伝学的検査で調べます。遺伝学的検査とは、その原因となっている遺伝子に病的変異があるかどうかを調べる検査です。生まれたときから持っている遺伝情報を調べるため、生活習慣等を変えても、遺伝子の状態は変わりません。体中の細胞はすべて同じ遺伝子の情報を持っていますので、遺伝学的検査は採血で行います。検査結果が届くまでの所要日数は、約3週間程度です。
 検査結果は遺伝子変異あり、遺伝子変異なしの他に「VUS」という、現時点では病的変異ありであるのか、なしであるのか不明であるという結果もあります。BRCA1、BRCA2遺伝子に変異が見つからない場合でも、可能性は低いですが、今の技術では見つけることができない変異を有する場合があります。また、BRCA1、BRCA2遺伝子以外の遺伝子ががんの発症と関連している可能性もあります。また、病的変異が見つかった場合でも、実際にがんを発症するかどうかや発症時期までは予測することはできません。
(弘前大学医学部附属病院乳腺外科診療講師 西村顕正)

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乳がんと遺伝1

2020/5/2 土曜日

 

 今日から4回にわたり、「乳がんと遺伝」というテーマでお話したいと思います。
 遺伝性乳がんと聞くと、アンジェリーナ・ジョリーを思い浮かべる方は多いのではないしょうか。彼女は2013年5月14日「My Medical Choice」というタイトルでNew York Times紙に投稿しました。その記事の中で、彼女は遺伝性乳がん卵巣がん症候群であり、将来87%の確率で乳がんになることが予想されたので、予防的に両側乳房切除を行ったと述べております。なぜ彼女は乳がんになっていないのに、乳房の手術を受けることになったのでしょうか。このような疑問を読者の皆さまが理解できるように遺伝性乳がんについて解説していきたいと思います。
 遺伝性乳がんの話をする前にまずは遺伝子の説明をしたいと思います。遺伝子は人の体の設計図みたいなものと言われ、ヒトは約2万2000種類の遺伝子を持っていると言われています。遺伝子の情報は、基本的には人類でほとんど共通していますが、一人ひとりで少しずつ違いがあることが特徴です。これを変異といいます。この変異した遺伝子は必ずしも子供に遺伝するとは限りません。遺伝子は父親から一つ、母親から一つ遺伝子を受け継ぎます。親のどちらかが変異のある遺伝子を持っている場合、その変異が子どもに受け継がれる確率は、性別に関わりなく、2分の1の確率となります。また遺伝子に変異があっても病気の発症とは関係ない遺伝子変異もあり、病気の発症と関連がわかっている遺伝子変異を病的変異と言います。
 乳がんになった人で、病的変異を持っている人は5~10%と言われています。その中の半分くらいの人はBRCAという遺伝子に病的変異がある「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」です。その他にも遺伝性乳がんには、TP53遺伝子に病的変異がある「リー・フラウメリ症候群」などがあります。
(弘前大学医学部附属病院乳腺外科診療講師 西村顕正)

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