挑戦!健康寿命 弘前大COIプロジェクト

 

健康づくりリーダー=3

2019/1/29 火曜日

 

ひろさき健幸増進リーダー高橋さん(中央)によるいきいき教室。健康づくりは地域、職域、学校で広がっている=2018年12月

 弘前市内の静修会館で2018年12月、地域の人たちを対象とした「いきいき教室」が開かれた。笑い声が絶えない教室で「さあ、腕を真っすぐ上げて背筋をぐっと伸ばすよ」と軽快な口調で指導するのは、ひろさき健幸増進リーダーの高橋ゆみ子さん(65)だ。
 21年間、福祉分野に携わってきた高橋さんは、60歳で定年を迎えた後、健幸リーダーとして活動し始めた。「体操だけでなく、いろんな問題点を地域で解決する、その一員になりたい。何かあった時に心配し合える関係をつくりたい」と健幸リーダーの役割を語る。
 高橋さんは地元町会だけでなく、“ご縁”のあった地域で健康づくりの場を広げる。高齢者の独り暮らしが多い現状から、町内会と連携し、119番の仕方や救急対応など、生活に必要な情報も伝えている。
 弘前市と弘前大学は12年度、ひろさき健幸増進リーダーの育成を独自に開始した。市が弘大大学院医学研究科に設置した寄付講座「地域健康増進学講座」で約6カ月、健康概論や疾病、運動・健康管理などの講義や実習を受け、生活習慣と病の全体像をつかみ、知識の伝え方を学ぶ。6年間で累計184人を認定した。
 健幸リーダー育成に当初から関わる弘大社会医学講座の沢田かほり助教(35)は「短命県の原因は県民の健康リテラシーと健康意識の低さ。住民に近い存在がリーダーとして一人ひとりの意識に働き掛けていくことが重要」と指摘する。
 健幸リーダーによる17年度の普及活動は、13年度の約5倍となる997回で、参加者の延べ人数は2万人を超えた。これに加え、職域で活躍する健幸リーダーは、職場(北星交通、東北化学薬品、シバタ医理科、栄研など)で社員の健康づくりを提案し、働き盛り世代に働き掛けている。
 沢田助教は「リーダーによる市民への健康づくりの普及が進んでいる」と強調する。
 15年、市のバックアップを受け、リーダーが主体的に運営する「ひろさき健幸増進リーダー会」が発足した。月例会を開いて情報交換し、スキルアップを目指している。
 健幸リーダー1期生で、自身も積極的な活動を展開する八木橋喜代治会長(76)は「リーダーは運動が得意な人や老人クラブなどとの連携がうまい人などさまざま。得意分野を生かし多種多様な活動をしている」と話す。
 市健康づくり推進課は「リーダーと、市の健康づくりサポーター、食生活改善推進員、地域の保健師らとの連携で広がりが期待できる」と、地域で活動する健康づくりの担い手たちが連携する重要性を述べる。
 15年、県医師会による「健やか力推進センター」が開所し、健康づくりを広める“健康リーダー”育成は全県展開された。17年度は約100の小中学校で健康授業(教育)が行われ、県の健康経営認定制度では、認定企業が150社を超えている。県内の多くの市町村は「健康宣言」を実施し、首長が前面に立ち健康リーダーの育成や学校での健康教育強化、健診受診率向上などに取り組む。累計数は年度内に39市町村になる見込みだ。
 「自分も健康でいたいし、地域の人が一人でも長生きでき、一人でも楽しい老後を過ごすことができるように頑張りたい」と高橋さん。本県ではきょうも健康づくりのリーダーたちが地域、職域、学校で声を張り上げる。

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啓発型健診=4

2019/1/30 水曜日

 

その後の行動変化につながるよう健康教育をその日のうちに行う啓発型健診。短命県返上に向けた打開策の一つとして開発が進む=2019年1月、啓発型歯科健診プログラム

 「コレステロールが高いと分かっても、(住民自身が)どうすればいいのか分からない。これでは死亡率は下がらない」
 短命県返上、平均寿命と健康寿命の延伸に取り組むに当たり、こうした現状と常に向き合ってきた弘前大学COI。課題解決に向け、あらゆる成果を集約し新たな行動変容プログラムとして開発しているのが、健康教育に力点を置いた「啓発型健診」だ。
 啓発型健診は(1)検査結果をその日のうちに返し、ビッグデータ解析によるオーダーメードの保健指導を提供する「即時性」(2)メタボ、ロコモ、口腔(こうくう)保健、うつ・認知症の重要4テーマを総合的に健診する「包括性」(3)病気の判定だけでなく、その後の行動変容につなげる健康教育で“自分ごと”として捉える「啓発性」―の三つのアプローチで生活習慣病予防を促す戦略だ。
 弘大COIの村下公一副拠点長は「病気のリスクが高くなる前に働き掛ける予防へのアプローチ。健康意識が低く、まだ症状がない住民こそが真のターゲット」と説明する。
 啓発型健診では、専門家から数値の見方や改善方法を直接学ぶ。1回目の健診後には、定期的な健康情報の提供もあり、健康管理に結び付ける仕掛けも。半年後に受ける2回目の健診で行動変化や健康状態を検証する。
 2018年10月、東北化学薬品(工藤幸弘社長)が2回目の啓発型健診を行った。
 経理課課長補佐の伊達信晴さん(39)=東京都出身=は「健診後、体重や食事、運動といった簡単な項目を定期的に自分でチェックし記録する習慣が身に付いた。(教材もあり)健康管理しやすく、社員同士の健康についての会話も増えた」といい、「短命県とは知らず青森に来たが、東京にいた頃よりも5キロは痩せた」と変化を語る。
 半年間で体重が約10キロ落ちた営業2グループ課長の清水孝志さん(41)は「健診をきっかけに、このままでは良くないと食事を早い時間に取り、なるべく階段を使ったり、ジムに通ったりした」と生活習慣の改善効果を語り、「体形が変わり性格も前向きになった。生活全体の幅が広がった」と笑顔を見せる。
 弘大COIによると、これまでに地元企業や自治体の協力で試行してきた啓発型健診では、健診結果に基づいた健康教育の有用性検査項目(メタボ、ロコモ、歯科口腔、うつ・認知症)の有用性が確認できたという。
 現在は、全身の健康状態との因果関係が深いとされる口腔に力点を置いた「啓発型歯科健診プログラム」の開発も進む。弘大ヘルスケアマネジメント学講座の和田啓二助教は「唾液検査と口内写真撮影などにより歯科医師不在で行うことができ、新たな歯科スクリーニングとしての有用性や低コスト、短時間で行動変容を促すことのできる検査として期待できる」として、社会実装を目指す。
 短命県返上の打開策の一つとして開発が進む啓発型健診。平均寿命と健康寿命の延伸、病気予防など、長寿社会ならではの社会的課題解決に向けた新たなアプローチとして、国内のみならず、アジアで進展する少子高齢化対策の糸口としても注目を集める。
 今月下旬には啓発型健診の海外展開を見据えた関係者による市場調査がスタートした。
 弘大COI中路重之拠点長は「国内では既存の健診データ(血液検査や一部の聞き取りなど)を利用しながら組み合わせが可能だ。今後は海外での可能性も大いに探っていきたい」と力を込める。

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中路拠点長に聞く=5・完

2019/1/31 木曜日

 

プロジェクト終盤に向け「主役は市民。短命県返上にこだわっていく」とし、産学官民連携の重要性を語った中路拠点長

 「短命県返上」に向かって産学官民が連携し、健康づくり分野で多くの成果を生み出してきた弘前大学COI。国の中間評価は最高評価の「S+」。2期連続の最高評価獲得に国内外から熱い視線が注がれている。
 中路重之拠点長(67)は“前代未聞”の高評価に「非常にうれしい。われわれが起こそうとしている社会イノベーションを継続する上で、評価をいただくことは励みになる。さらに、周囲の注目を集めるきっかけにもなり前に進む活力となる」と率直に喜びを語る。
 弘大COIには多くの企業や団体などが参画し、民間投資額は年間約3億円にも上る。弘大COI全体の経済波及効果は約242億円、雇用創出は約1812人、医療費抑制効果額は約527億円と見込まれている。
 中路拠点長は、企業参画について「外部資金が入り、経済活動に影響を及ぼす。経済活性化を図りながら健康づくりを高めていくことで医療費も下がる。少子化対策、経済活性化は地方創生につながり、この真ん中に健康づくりがある」との見方を示し、歓迎する。
 ニーズが異なる産学官民が連携できる仕組みも大きな特徴だ。「簡単なことではないが、関心の異なる産学官民を動かさないと社会を動かす研究はできない」と4者の結び付けに力を注いできた。
 産学を引き付ける「岩木健康プロジェクト」と官民が関心を寄せる「短命県返上」への取り組みが“財産”といい「二つの財産がうまく融合してきた弘大COIがプラットホームの役割を果たしている」とさらなる根付きを目指す。
 これまでの6年で、「短命県返上」と「地域活性化」を同時に実現する戦略として、(1)地域(2)学校(3)職域(4)岩木健康増進プロジェクト(5)健やか力推進センター(県医師会付属)(6)啓発型健診―の6本柱の素地が出来上がってきた。
 「6本柱は初めからあったわけではない。たくさんの壁を乗り越えるために出来てきた。なんとか6本柱が倒れない状況を作りたい」とし、最終的な目標として「短命県返上。返上になった時、世界の注目は青森に注がれる。経済効果が生まれ、こうすれば人間は健康になるという答えを出したい」と力を込める。
 17年に厚労省から発表された都道府県別平均寿命ランキングでは、男女ともに最下位だったものの、男性の平均寿命の伸び率が全国3位。最下位脱出への兆しは見えてきた。
 中路拠点長が05年に旗揚げした岩木健康増進プロジェクトは、住民健診を基軸とし、蓄積された健康ビッグデータをオープンにするなど弘大COIの発展を支えてきた。15年以上が経過するが、健康調査や推進活動が現在も地域で続いている。
 「ここ10年で(一般市民と触れ合う場を)もらった。社会医学や公衆衛生の場に携わる者としてその意義は大きい地域活動を見に行き一生懸命やっている姿をみると感激する」と語り「連携によりいろんな場所に仲間ができたことが財産。やって良かったと心から思う」と振り返る。
 9年間の弘大COIプロジェクトは、いよいよ“完成期”に入る。今後は商品化や啓発型健診、社会実装のほか、学校、職域、地域での活動も今以上に盛り上げていく構えだ。
 「健やか力推進センターを中心に健康教育やリーダー育成に取り組み、特に死亡率に懸念が残る一次産業に携わる人たちに訴えていきたい」と強調する中路拠点長。「これからも短命県返上にこだわっていく。主役は市民。どれだけ浸透できるかだ。真剣に汗をかき、魅力あるプラットホームを作っていきたい」と前を見据える。

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