挑戦!健康寿命 弘前大COIプロジェクト

 

2019/1/27 日曜日

 

  岩木健康増進プロジェクトを求心力に「短命県返上」を掲げ産官学民が連携する弘前大学COIは、3年ごとの国の中間評価で「S+」を獲得し2期連続最高評価となった。少子高齢化が急速に進む中「日本一の短命県」のフィールドを逆手に取った“弘前発”の挑戦は、国内外の注目を集める。地方大学の枠を超えて躍進する取り組みを5回にわたって紹介する。

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岩木健康プロジェクト=1

 

岩木文化センター「あそべーる」などを会場に長年にわたり続く岩木健康増進プロジェクトの健診。弘大COIの核となっている=2018年5月

 「いよいよ健康は自分で責任を持つ時代が来た」―。団塊の世代が75歳以上となる2025年が迫り、医療費60兆円時代の到来が危惧される中、弘前大学COI(センター・オブ・イノベーション)の中路重之拠点長は、健康づくりの必要性をこう強調し、一人ひとりの健康意識や知識の向上の必要性を訴える。
 「短命県返上」「健康長寿社会の実現」に取り組む弘前大学COI。その“核”となる「岩木健康増進プロジェクト」は05年に、旧岩木町の平均寿命アップを目標に掲げてスタートした。「平均寿命は医療だけの問題ではなく、さまざまな要素が影響する」とし、健康な住民約1000人の健診データを追跡したのが始まりだ。
 13年に文部科学省の「革新的イノベーション創造プログラム(COI)」に採択されると、プロジェクトは飛躍的に成長を遂げる。
 健診14年目となる18年度の検査項目は遺伝子や内臓脂肪、歩行分析睡眠食事、口腔(こうくう)、職業、家族構成など2000にも及ぶ。最近は参画企業の増加により、疾病予防などに力点を置いたユニークな検査項目も登場した。
 弘大COIの村下公一副拠点長は「分野の垣根を越えた超多項目ビッグデータは世界に類を見ない。2000項目という多因子的解析を可能にする、健康な人の遺伝子から生活習慣までのデータを網羅的に取っている」とその価値に自信をにじませ、「例えば1000人の腸内細菌データだけでは大きな意味を持たないが、2000項目との関連性を見つけると革新的な知見をもたらすかもしれない」と今後の可能性を強調する。
 これまでの健診受診者の延べ人数は2万人を超える。このビッグデータを基に、東京大学や京都大学などとの大学間連携が進み、日本のトップデータサイエンティストによる最強解析チームも本格稼働。
 まだ初期段階だが、糖尿病や認知症、動脈硬化など20もの特定疾患の新規発症(3年以内)を予測するモデルが構築されている。
 今年度は腸内細菌などの解析に基づいた“弘前発”の「腸環チェック」検査キットの販売も開始し、社会実装の芽が出始めた。
 健診に参加した70代女性は「時間はかかるが、隅々まで分かるので楽しみにしている」と生き生きとした表情を見せる。60代男性は「家族で健康について話すようになった。孫のために長生きしたい」と自ら結果を分析している。
 会場には医師、市民ボランティア、学生、COI参画企業、大学、自治体などから1日300人近くのスタッフが集結。おのおのが健康づくり、研究活性化、人材育成などさまざまな目的で支え合う場にもなっている。
 厚生労働省が17年に公表した都道府県別の結果で、15年の本県の平均寿命は男女ともに全国最下位だった。一方、各種データをみると、本県の平均寿命の延び幅は全国3位(男性)となるなど、平均寿命・健康寿命の延伸に向けた取り組みは着実に効果を表し始めている。
 中路拠点長は「産官学民のすべてがそろい、短命県返上という目標に向かう人たちのプラットフォームの役割がある。単なる健診ではなく、健診後の参加者たちと連携した健康づくり、まちづくりを目指している」とその意義を強調。「短命県返上は何としてでも達成したい。本気でやらなきゃ駄目なんだ」と力を込める。

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企業の参画=2

2019/1/28 月曜日

 

弘大COI参加企業が連携してヒロロで行った健康イベント=2018年11月

 2019年1月27日現在、ライオンや花王など12の企業が弘前大学大学院医学研究科との共同研究・寄付講座を開設している。18年は特にカゴメ、クラシエホールディングス、テクノスルガ・ラボ、アツギ、ハウス食品グループ、明治安田生命保険相互会社と、日本を代表する大企業が続々と講座開設を表明し、話題を集めた。
 講座は「QOL推進医学」「健康と美」「未病科学研究」など、いずれもヘルスケア分野での成長を視野に入れたもので、各企業は一様に岩木健康増進プロジェクトのビッグデータに関心を寄せる。
 弘大で行われた講座開設式では、企業のトップが「(岩木ビッグデータのようなものは)世界中どこを見てもない。弘大と一緒に解析する機会は一番の魅力」とその価値と研究成果に期待した。
 健康寿命延伸が国の重要な政策課題となっている中、ヘルスケア産業の市場規模は拡大が予想され、運動、栄養管理、食、生活支援など多くの分野でビジネスチャンスも広がる。弘大COIによると、ヘルスケア産業の規模は、2030年に国内だけで37兆円規模にまでに成長すると言われているという。
 日本の大手企業出身の和田啓二・弘大COI社会実装副統括は「(参画する企業の)目的は一つ。健康寿命延伸、健康増進、ヘルスケア。これは青森だけでなく日本、世界の課題だ」とし、弘大COIへの参画企業の増加について「社会の課題を解決し得るビッグデータが求心力になっている。産学官民の真ん中に『学』があるからこそオープンイノベーションとクローズイノベーションが共存できる。こういう場所はなかなかない」と解説する。
 弘大COIという大きな枠から、参画企業間の連携も生まれた。昨年11月、通信教育大手のベネッセコーポレーションと地元企業のウェバランス、ヒロロが連携し、スタンプを集めながら大型商業施設ヒロロ内をウオーキングする健康イベント「Dr・中路の健康道場」がスタートした。
 短命県返上、健康寿命延伸に向け、健康に関心のない人を健康づくりにどう巻き込むかという視点で、ヘルスケアと教育の分野をリンクさせてイベント化した。当日の健康講話やウオーキング講座に加え、継続のため館内のQRコードを読み込むとウオーキングした日時や距離を記録できる仕組みをつくり、健康知識向上を狙って減塩や歯の健康などについて学ぶことのできる“教材”も開発した。
 中路重之弘大COI拠点長は「ヘルスリテラシーの向上なくして、健康寿命の延伸はない」とし、「多くの人が集まり健康知識を付けてもらい、同時に商業施設を活性化させ街をにぎやかにしたい」と趣旨を語る。
 2月9日、「楽しく体験型」をコンセプトに、ヒロロで第2弾のイベントが行われる。料理研究家の浜内千波さんのクッキング講座や企業ブース、健康グッズの“福袋”プレゼントなどの新企画で幅広い年齢層にアプローチする予定だ。
 ベネッセコーポレーション事業戦略本部事業戦略部の吉田富美子プロデューサーは「(弘大COIでは)ヘルスリテラシーを上げるための、子どもから大人までが分かりやすく学ぶことのできる教育プログラム開発が期待できる」とし、「実証実験が成功すれば、一つのパッケージとして全国展開の可能性もある」と、未病や病気予防の分野での新ビジネスを見据える。

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